第七十四章 帰省早々 1.朝飯前
~Side ネモ~
その朝、聞き慣れた小鳥の囀りで目を覚ました俺は、実家に帰って来た事を改めて実感した。二段ベッドの上の段に寝ている弟妹たちを起こさないよう注意して着替えてから、そっと部屋を出る。……俺はさっさと寝ちまったが、弟妹たちは遅くまで夜更かししてたみたいだからな。
『ふたりとも まよなかちかくまで おきてたよー』
ヴィクがチク……教えてくれるが、ま、親の目を盗んでの夜更かしは、子供の特権みたいなもんだ。目くじら立てるには及ばんだろ。
そのまま台所へ入って行ったら、母さんとハンナ祖母ちゃんが朝飯の支度をしてた。今日は休漁日なんで、父さんも早朝出勤は無し。のんびりと朝寝を楽しんでいるらしい。
「おや、お早うさん」
「お早うネモ。ヴィクちゃんもお早う」
『おはよーございます』
あぁ、ヴィクのお披露目は夕べ無事に終わった。スライムだからって色眼鏡で見られる事も無く、ちゃんと受け容れてくれたのは嬉しかったな。
(「まぁ、そりゃねぇ……」)
(「あの子が、スライムとは言えペットを連れて来るなんて、思ってもみませんでしたものねぇ……」)
(「ネモと契約してくれる太っ腹な従魔なんて、ありがたいってしか無いからねぇ……」)
……母さんと祖母ちゃんが何か話してるみたいだが……ま、大した事じゃないだろう。
「お早う。ネロとネイラはまだ寝かせといた。夕べは夜更かししてたみたいだから」
俺がそう言うと、二人とも納得したように頷いた。
「あぁ……新しい玩具に夢中になってたからねぇ」
「ああいうのはこの辺りじゃ手に入らないから」
俺が弟妹たちに渡した土産は木琴だ。買ったんじゃなくて自作したやつな。
ガラクタ市でも新年祭でも弟妹たち向きの土産物が手に入らなかったんで、万一を考えて自作しといたんだ。丁度好い按排に、学園のガラクタ市で買った半端材の中に、使えそうなのがあったしな。
前世の讃岐岩みたいなのがありゃ石琴って手もあったんだが、地学科の先生とかに聞いても首を傾げてらしたからな。無難に木琴で手を打っといた。
まぁ木琴っつっても、コンサートに使われるシロフォンとかマリンバみたいに大それたもんじゃない。小学生や、何なら幼児の情操教育に使うような、卓上置きのちゃちなもんだ。前世の日本じゃ昔は音楽の授業に、リコーダーやハーモニカなんかと同じように使われてたってぇからな。
木琴の自作なんて前世現世を通じて初めてだったが、構造自体は知っていたから、後は自分の耳頼りだ。幸いにして音感には恵まれてたし。
加工の時、意外に役立ってくれたのが、【眼力】の【目分量】スキルだった。どこをどれだけ削ればいいのか、きっちりアシストしてくれたんだ。あと、仕上げはヴィクにも手伝ってもらった。サンドペーパーが無かったんで助かったぜ。
「夜遅くまで演奏会やってたみたいだけど……ネモはちゃんと眠れたの?」
「あぁ。ゆっくり眠らせてもらったよ」
ただ木琴だけ渡しても叩いて音を出して終わりだろうし、そんなんじゃ面白くも何ともないだろうと思ったから、楽譜擬きのもんも渡しといた。つっても、弟妹たちに楽譜なんか読めるわきゃ無いから、そこは一工夫しておいたが。
工夫っつっても大した事じゃない。木琴の鍵盤に番号を振って、指定した番号の鍵盤を叩けばちゃんと曲になるように、番号を書き連ねたものを渡しただけだ。まぁ、原始的な楽譜だな。
簡単そうな曲を幾つか渡しておいたら、夢中になって叩いてたから、まぁお気に召したんだろう。兄の沽券を守れたようで何よりだ。
弟妹たちは夢中で叩いてたが、それが睡眠の邪魔になったりはしなかった。前世じゃテレビやラジオを流しっ放しで眠ったりもしてたからな。子守唄に丁度好いってもんだ。
「「おはよ~……」」
お、折良く弟妹たちも――まだ眠そうじゃあるが――起きてきたし、そろそろ朝飯の時間だな。




