第七十三章 ウォルティナ 7.ウォルティナ市街
~Side ネモ~
祖父ちゃん祖母ちゃん家で一泊した翌朝、早いうちからウォルティナ名物の朝市を見て廻る事にした。前世の日本じゃ〝残り物に福あり〟なんて事を言ってたが、やっぱり出遅れるとめぼしいもんは売り切れちまうからな。〝早起きは三文の得〟ってのが正しいだろう。
ま、俺は特に何かを探してるわけじゃねぇが、良いもんがあったら弟妹どもに買ってってやりたいのと……ヤバいもんがあったら、早めに押さえとく必要もあるからな。何せ去年は「魔剣イルヴァラード」なんてジョーカーを引き当てちまったんだ。努々油断は禁物――って事だ。
……とは言え、そうヤバいもんがヒョイヒョイ店晒しになってるわけも無く、恙無く店巡りを楽しむ事ができた。
ギルド――冒険者ギルドじゃなくって、薬師・魔導・皮革の三ギルドな――との待ち合わせ時間も迫って来たし、そろそろ引き上げるかと考えてたところで、
「ん? ありゃあ……」
『マスター なーにー?』
ドライフルーツの棚に気になるもんがあったんで近寄ってみたら、前世で見憶えのあるナツメヤシじゃねぇか。【眼力】の鑑定結果でもそう出てるから間違い無い。こっちじゃ「デト」って言ってるんだっけな。
けど、俺の記憶してる限りじゃ、湖水地方じゃ栽培されてない筈だったが……?
ちょいと気になったんで店の親爺に訊いてみたら、最近になって入って来るようになったらしい。美容と健康に良いとか言われて、結構な人気商品になってるそうだ。マジかよ。
今を逃すと買えないかもしれんぞと言われたんで、ちょいとばかり多めに買っていく事にする。この手のもんは母さんが喜びそうだし、家族に受けなきゃ学園に戻った時に、エルにでも渡しときゃいいだろう。確かあいつの地元が産地だった筈だし、懐かしんでくれるんじゃないか。
……いや……〝美容と健康〟の件からすると、お嬢が絡んでくる可能性もあるか……。もう少し多めに買っておきたいところだが、買い占めると女性陣の怒りを買いそうだ。ウォルティナに売ってるくらいだから、多分お嬢の地元にも売ってるだろう。
――おっと、そうこうしてるうちに約束の時間だ。ギルドにスノーギガスを卸さなくっちゃな。
・・・・・・・・
スノーギガスは俺が思っていた以上に喜ばれた。
何でもスノーギガス丸ごとなんて豪儀なものは、南部にはほとんど入って来ないんだそうだ。まぁ、名前に「スノー」を冠しているくらいだし、基本的には北方の魔獣だからな。図体もそれなりにでっかいし、【収納】持ちでもなきゃ、丸ごと持ち込むなんて真似はできんか。
今後とも宜しくなんて言われたが、確実に狩れる保証は無いからな。ミュレルさんも〝今年は豊年だ〟――って言ってたし、来年も同じように狩れるっていう確証は無いんで、約束はできんとだけ言っておいた。
思いがけない臨時収入で懐が温かくなったんで、もう少し市を冷やかしていく事にする。帰省の土産に何か美味いもんでも買ってくか。
そう思って市場の方に向かったんだが、
『マスター あれ なにー?』
『ん?』
ヴィクが指し示した先にあったのは、魚介類を専門に扱う店で、丁度大物が運び込まれるとこだった。その〝大物〟ってのは――
『スプーンタートルか……』
『スプーン? それ なにー?』
スプーンタートルってのは池や沼に棲む亀の一種で、甲羅の表面に凸凹が無くツルッとしてるのが、伏せたスプーンに似てるとかで、そう呼ばれてる。まぁ、俺は前世の記憶もあって、つい「スッポンタートル」って呼んじまうんだが。
運び込まれてんのは甲長八十センチほど。【眼力】の目測だからそれなりに正確な筈だ。この種では平均よりちょい大きめってとこか。基本的に雑食だが、このサイズになると人を襲う事もある。が、それでも魔獣じゃなくて野生動物のカテゴリーになる。体内に魔石を持ってないからな。
前世地球の伝だと、この時期の爬虫類なんざ冬眠明けで味が落ちてそうに思えるんだが、こっちじゃ冬眠なんて温和しい真似をするのは、爬虫類の中でも寧ろ少数派だ。何ならスノーギガスなんてのもいるくらいだし。
……あれなら家族で鍋にして突いても、皆に充分行き亘るだろう。土産としても悪くないか。
……今思い出したんだが……スッポンの甲羅って、ゼリーか何かの原料じゃなかったか? コラーゲンが豊富だってんならお嬢と……ひょっとしてコンラートのやつも興味を示すかもしれん。
スッポンタートルぐらい、お嬢なら地元でも手に入るだろうが、コンラートにはちょっと難しいかもな。……肉は俺たちで美味しく戴いて、腹甲だけ持ち帰ってやりゃいいか。
・・・・・・・・
用事を済ませて戻ってみたら、人使いの荒い祖父ちゃんに扱き使われる羽目になった。俺が【収納】持ちなのをこれ幸いと、お得意様への届けものを、ここぞとばかりに押し付けてきたんだよな。お蔭で実家へ帰るのが遅くなった。
帰りが遅くなったのは祖父ちゃんのせいだと弟妹たちにチクってやると言ったら、少し顔色を悪くして解放してくれたが。
……この手は今後も使えそうだな。
そんな感じで予定より少し遅れたが、水路を移動する乗り合い舟で帰宅した。




