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島内の情勢が落ち着いたのは三年後のことだった。
騒ぎに応じて事を起こそうとする者が多く、警邏をまとめるゲーラは今でも病院を開くことはできず、公爵位でありながら家を建てる相談の時間もないが、毎日店へ帰ってくる。
「かあさま、これなんて読むの?」
「かあさま、お腹空いた。」
私の周りではひな鳥のように付いて回る二匹の子ザルがいる。
「お菓子の時間にはまだ早いわ。あなたはすぐに人に聞かないで、辞書を引きなさい。」
店の増築だけは先に行い、二階は私とゲーラ、そして三歳と二歳の子供がいるが、想像する、記憶にある子供より、ずいぶんと賢く、大人しい。
心配になり、王妃様に相談したところ、ゲーラも陛下も知識欲の強さからか物事を覚えるのが早かったという。
私の母の実家、ウィーンドミレの巫女も同じく自立心が高く、幼くとも一人で生活できるだけの知恵と知識を持っていなければいけなかったのだと巫女のおばばがカルミナに来た際に教えてもらったことがある。
多くのピスティアの血が混ざる巫女だが、その正体は陸上でも海中でも生き残れず、人に姿を変えたという鳥型のピスティアが起源といわれている。
そのため、遠くを見るとき、急に空へ上がったり、急降下する動きをするのだという。そういう時は鳥の眼と自分の目がつながっているのだといわれた。
では、なぜサンスの眼ともつながったのかと思っていると竜王は鳥のピスティアが産まれるよりも前から存在する種族の生き残り、同じ起源から産まれたこともあり、偶然つながったのではないかという話だった。
「ノクティスさん、ミルクラウンの卵分けてください。」
「いいわよ。」
店のドアを開け、入ってきたのは城の灰魔術師の制服を着たサンスだ。
婚約から三年、先にオリーブ様とギーが婚儀を上げた。
あとはアヌビス様とサンスの式を挙げるだけとなっているが多忙な二人は先延ばしにしてしまい、三年たってもあまり変わらない。
夫婦というより、友人のような関係に思えなくもない。
オリーブ様とギーだが、ゲーラ同様に公爵位をもらうことになった。
女公となるオリーブ様はそれまで装っていた派手な生活を一変させ、特務の存在を公表、騎士団として公爵家の管轄にすると発表した。
「ミルクラウンの卵で何作るの?」
「からの内側の膜でばんそうこうの変わりというか、少し効果は違うんですが、そんな感じの物を作っているところです。やけどとかに使う予定です。」
「ああ、ガーゼだと張り付いて痛い物ね。キイロ様のチマメにも使えそう。」
「剣の稽古で毎日血だらけですからね。」
「特務に入りたいなんて、オリーブ様も複雑な心境の様よ。」
「でしょうね。」
食事でも使った卵の殻と一緒に渡し、サンスは帰っていく。
お互い時間があるときに出向き、少し話をしてから戻るのはいつものことだ。
「サンス帰っちゃった!」
奥から遅れて出てきた長男が本を抱えている。
サンスが好き過ぎて城に入り浸ることが多く、アヌビス様に抱えられ、帰ってくることも多い。
このまま追いかけていきそうな子を捕まえ、
「お勉強終わってないでしょ!」
「あんなの三歳にやらせるなよ!」
三歳とは思えない言動をしていて何をいうのかと店の奥へ放り込む。
「元気ですね。」
「元気すぎて困るわ。」
モウスが見習いから灰魔術師となり、シルバは昇格と同時に特務へ、マーレは侍女の方が向いている自分で言っていたため館がたったらメイドに来てもらおうと思いつつまだ建てていない家では働けないため
「そろそろお昼寝しましょう。」
今は次男の面倒を見てもらっている。
「師匠は座っていなくて大丈夫ですか?」
「平気よ。さすがに重たいけど」
重たくなったお腹を擦る。
今までの妊娠より明らかにサイズの違うお腹に王妃様は双子だろうというためそうなのかとまだ二か月先の臨月とはいえ、気を引き締めて毎日を送る。
城の見習い灰魔術師たちは多くが昇格し、その後新たに雇い入れることはしなかったため店を手伝ってくれる者と城に残る者で分かれた。
今はサンスもいるため城の方が良く勉強できるだろうと言ったが民のために仕事がしたいということで店に来てもらった。
私はすっかり子育てに専念するようになり、私の店ではなくなりつつあるが学会への参加や新薬開発には携わっている。
「ただいま」
夕方、店のドアからそういって入ってきたのはゲーラでどこか嬉しそうな顔をしている。
「お帰りなさい。」
私がそう言っている間に子供たちが駆けていき
「とうさまお帰り!」
と、抱き着いた。
「ただいま二人とも、いい子にしてたか?」
「うん!」
調子のいい返事をする二人を連れ、店から奥の家へ移動する。
「チャクマの結婚が決まった。」
「あら、まだ若いのに早いわね。」
「俺たち上三人が遅かっただけで王族としては可もなく不可もない年齢だな。」
夕飯の支度をはじめながら話を聞く。
「お相手は?」
「一つ年上のケティーナのキョン王子だ。」
可愛らしい容姿の王子だったと思うが顔だけは強きなチャクマ様とうまく行くのだろうかと思っていると
「なんでも初めて会った歓迎会からずっと話は着ていたらしい。」
「あら、そうだったの?」
隣でマーレが手伝ってくれる。
「キイロももしかしたらリポネームの王女との婚約の話になるかもしてない。」
「国内から選ばないの?」
自分の時のように、と、思ったら
「あと十年ほどしたら検討しようということで本人の意思はそれまでに変わらんければ候補から婚約者へ変わる。幼い婚約は後々面倒になることも多い。」
「自身で体験しているのだから説得力あるわね。」
少しして出来上がたった夕食を机に並べ、モウス達を呼び、食事を始める。
これが日常、私の幸せ。
これにてノクティス編終了です。
最後だけやけに短くてすみません。
時間があり、話がまとまったり、希望があればオリーブとギーの話も書きたいなと思いつつ、またインペラートル令嬢が登場する予定だから面倒だなとも思っています。
頑張れたら次は、次こそ悪役令嬢書きたいです。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




