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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
番外編 ノクティス
34/60

2

以前、3・4として掲載していた物になります。

ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。






 学校生活にも慣れた入学から五か月後たった今、クリスタルは八方美人だという噂を聞くようになる。

私の目の届かない教室内で何をしているのかと聞き耳を立てていると口では奴隷は強制労働で可哀そうと言った一方、私のことを使えない奴隷だと言い、悪口のオンパレードというのだからそれは私の介入できることではない。

それで彼女の周りに人がいるのだからそれでいいのではないかと思う。


 長期休暇に入ると屋敷で度々お茶会やガーデンパーティーをするのだと言い出すクリスタルのために使用人たちは忙しく動き回る。

でも、招待客を見ていた私にクリスタルは


「わかっているわよね。」


と、聞いてくるため、招待客をもう一度見る。

どうやら彼女が親しくしている友人をグループ分けしたがために何度もパーティーを行う羽目になったようだ。


 明日来るのは奴隷は可哀そうと話していたグループで上流貴族が多い

奴隷を取らずとも一流の使用人を雇っているところだ。

メンバーには子爵令嬢リーリア様もいる。


「お茶会中、親しく話しかけます。皆にもそう伝えておきます。」

「そうして頂戴。奴隷が幸せな環境で仕事をしているようにちゃんと見せるのよ。」


ハイハイ、わかったから早く明日着るドレスと選んでほしい。


 茶菓子の好みは放課後に寄ることの多い喫茶から取り寄せて、紅茶の好みは解らないため数種類用意しておこう。

ミルクティーを好んでいた気がするから多めに用意しよう。






 翌日の昼過ぎに来た三名の令嬢たちは年齢に合った大人しめだが可愛らしい色のドレスだった。

それに比べたらクリスタルのドレスは目がいたい。

ビビットなピンクに黒のレース。

最近の彼女のお気に入りだ。

金に紫の宝石が埋め込まれた宝飾品は子供らしからぬデザインではあるが背伸びしたいお年頃というところかとため息が出る。


「クリスタル、今日の紅茶はどれにする?」

「クッキーに合わせて甘いミルクティーがいいわ。ほら、最近仕入れた東の茶葉、あれがいいわ。」

「また仕入れないとすぐになくなっちゃいそうね。」

「ノノがいれるお茶はおいしいからどんどん飲んじゃうのよね。」


ふふふ、何て音になる笑いが聞こえる。

令嬢たちの家には奴隷がいないことが解っているためこんなにも奴隷がニコニコと仕事をしていることが不思議なような顔をする。


 「わたくし、ウィーンドミレの大臣と婚約の話が一度出たことがあって顔合わせでウィーンドミレに行ったことがありますの。あそこはテリーが少ないから奴隷が多くて、皆、過重労働をさせられているように見えてお父様に婚約なんて嫌だと言って帰ってきたことがありますの。」


リーリア遠くを見るような眼で言う。


「そうね。他国の労働基準とカルミナの労働基準には差があるわ。皆が、民も奴隷も平等な世界になればいいのに」


なんてクリスタルが言うと令嬢たちは苦笑いだ。

奴隷と民が平等ならば奴隷は必要ない身分だ。


 そこから四日後のまたもお茶会がある。

呼ばれているのは奴隷を多く雇っている成金貴族。

一代で事業に成功し、国に貢献したことで爵位をもらった家の多くは商家で労働のほとんどを奴隷に任せている。


「ノノ、紅茶が渋いわ。入れなおして」

「申し訳ありませんでした。」


今回のお茶会は私以外の奴隷は表に出てこない。

私はクリスタル専属と表向きなっているためお茶会で給仕をしていないと事はおかしなことと思われる。


「やっぱり奴隷は使えないわ。なんでお父様はお金があるのにちゃんとした人間を雇わないのかしら。テリーも図体がでかいから邪魔で仕方ないのよね。力はあるようだけど小さな家では使えないわ。」

「この家が小さいなんて、クリスタル様ったら、でも本当にうちのお父様もお金を作ることが楽しいのは解るのですが使わないと意味がないじゃない。もっと贅沢できるはずなのに、もっと良い使用人が雇えるのに目先のお金を渋るのよ。あたしの将来への投資だというとエステやドレスは買ってくれるのだけどね。おほほほほ」


給仕を手伝ってくれているシーアさんが目を丸くする。

前回のお茶会とは真逆な話をしているのだから仕方ないだろう。


 お茶会が終わり、次のガーデンパーティーの話をして帰っていった。


 疲れたと言って部屋へ戻り、お風呂に入るというためメイドに任せ、私は後片付けだ。

だが、


「ノクティス、お嬢様は今日来られた令嬢たちと関係は切れないのかしら?」

「どうでしょうか。クリスタルが選んでお付き合いのある方々ですので、ちなみに、来週のガーデンパーティーに来られる学友の方々はお嬢様に好意のある方々なので私すら給仕に参加できません。その方たちにはお父様が情けで置いている可哀そうな奴隷は家の仕事は全くできず、自分の話し相手なのだと言っていたことがありますから」

「このままでは心配だわ。奥様に相談しようかしら?」

「おやめください。奥さまの心労に触ります。」


すっかりベッドから起き上がれなくなってしまった奥さまの最近の心労は度々私とシーアさんの交代だろう。

シーアさんも奥さまの面倒だけを見ているわけではないため忙しい。

その手伝いも私はしているため毎日の薬を持って行き、ベッドサイドの水を交換し、クリスタルの報告をするのだが、ここ二・三日は目を開けているところは見ていない。


「旦那様もナトラリベスへ行かれたきりお帰りが遅いし」


長期休暇に入る直前に国交財務の相談でナトラリベスへ向かって以来、時々手紙でまだしばらくかかりそうだと来るだけ、そのほかの情報はない。

同行している私の両親からも連絡はないため何か危険な目に合っているわけでもなさそうだからこちらも様子見だ。






 ガーデンパーティーが一つ終わってもまた、また、また、と何度も行われ、屋敷のホールも使い昼間の社交界、さらには本人が憧れるという仮面舞踏会を行ったが招待客は皆、クリスタルの選別、仮面の意味もない。


 旦那様が戻られたのは長期休暇が間もなく明けるというギリギリの時間。

その間にクリスタルはケティーナへ避暑へ行ったり、海辺の別荘へ行ったり、彼女はお茶会やガーデンパーティーに誘いの声をかけている割に、招待を受けたのはリーリア様からの半夜会のお誘いだけだったが断った。


 半夜会は三時から八時までの遅くない時間に行われる若者向けの社交界だが、親の同伴がないと参加できない。

一人で出席できるのは成人してからである。


 旦那様が外交でいないとして断るとお茶会の誘いがあったがクリスタルは面倒くさいと言って断った。

リーリア様とはそこまで親しくするつもりはないようだ。






 早々に一年がたち、表面的には人気者のクリスタルは自分の立ち位置に満足していた。

そんなある日、私が風邪をこじらせ学校へ同行できなくなった。

今日は仕方ないとシーアさんが付いて行くことになった。

でも、帰ってくるなり、


「ノクティス、さすがに旦那様へ報告しますよ!」


何のことかと、すっかり慣れてしまった私にはピンとこなかったためそのまま寝ることにした。


 目をつむって数分、

クリスタルの悪口が止まらないことだろうか、

それとも八方美人のことだろうか、

影でお気楽傲慢女といわれていることか、

実は軽いいじめがあることだろうか、

いろいろ考えやめた。


 結局、翌日も寝込んだ。

この日は母がついて言ったようで、帰ってくるなり、


「ノクティス、お嬢様はどうしちゃったの?」


と、言われたところであれが彼女なのだから仕方ない。


 熱が下がった夜に旦那様に呼ばれた。


「クリスタルにこの生徒とかかわりを切るようにと伝えてくれ。」

「かしこまりました。」


そう答えるとため息をつかれた。ため息なんて私は付いたこともない。






 風邪が治ったものの、


「うつさないでよ。今日は侯爵様のお家の半夜会へお父様と行くんだから!」

「把握しております。」


学校が休みのこの日、クリスタルを起こしに行くとそんなことを言われた。

「その旦那様からこちらの方々と今後のかかわりを減らすようにとのことです。」


リストを見せると険しい顔に代わっていく。

それもそうだろう。

奴隷なんて汚らわしいと笑い合っていた令嬢がほとんどなのだから、最近では放課後の同行も断られ、どこか怪しい店に出入りしているという噂もある。


「お父様と話してくるわ。」


着替えもせずに走っていってしまった。


 戻ってくるなり布団に潜りこんでしまったクリスタルに何があったのか聞くとしばらく学校以外の外出を禁止され、放課後もまっすぐ帰ってくるように言われたらしい。


「ノノ、お願い。明後日行く約束をしているところ予約取るのにすごく苦労したの。ユラと約束しているのよ。お願いだから見逃して」

「申し訳ありませんが私は旦那様の奴隷なので命令には逆らえないのです。」

「こんな時ばっかり奴隷に戻るなんて! 友達が困っているだから助けなさいよ!」


ユラ様、現在クリスタルが一番親しくしている商家の娘。

でも、現実は放課後に遊ぶ金がないからクリスタルにたかっているようなものだ。

シーアさんから見ればそんなことすぐにわかってしまったのだろう。







 学校へ登校する日、私とともに執事見習いも一緒に学校で待つことになった。


 そしてチャイムが鳴れば急いで教室に入り、ホームルームが終わるとすぐに馬車へ乗せて屋敷に帰る。


 決して珍しい光景でもない。

見合いを嫌がる令嬢や遊びに夢中の令息を連行するように連れていく使用人はよく見られる。

でも、それが連日となるとなにかあったのかと心配してきそうなものだが聞いてきたのはリーリア様だけだったという。

仕方ない。

そういう付き合いしかしてこなかったのだから

 急激に放課後忙しい人となったクリスタルは何をしているのか聞かれはじめは濁していたようだが何かしていないとおかしいと気が付いたようで習い事として花嫁修業を始めたということになっている。

そのため料理に掃除、生け花、きれいな字を書くことやエスコートされる女性としての立ち振る舞いなど、淑女教育で放棄してきたことばかりだったためかしばらくするとげっそりとした疲れた顔になり、噂では年ごろの第一王子の婚約者候補になったのではといわれるようになり、なんだかご満悦になってきた。


 王子の顔は見たことがない。

成人までは早々表舞台には出てこないようでクリスタルもうわさされるぐらいだから気になってはいるようだ。


 もしかしたらお父様が本当に婚約の話が来たから奴隷批判を直そうとしたのかとポジティブな考えになっていく。











 クリスタル・スペールディアが十五歳になるこの年、カルミナ第一王子が成人となる十八歳を祝うパーティーが行われることが決まった。


 幼いころは毎年あったのだが本人の希望で五歳以降は節目の十歳の時以外は行われていない。その前回のパーティーにはクリスタルが落馬事故を起こし、彼女は足首をねんざ、つい駆け寄ってしまった私は支えきれずに転倒、その時に着き方が悪く手首を骨折してしなった。


 上は三十から下は八歳の国民の女性には必ず招待状が届き、これは婚約者探しも兼ねているのだろうなと予想される。


 成人の祝いは国の行事といえるため多くの一般国民も城に入ることができる。

その分警護も護衛も増員され物々しいが楽しみにしている人は多い。


 例外に、なぜか私にも招待状が来た。これには両親含め、使用人も旦那様も首を傾げた。


 奴隷は国民ではない。

確かに国に出生届は提出しているのだが、どういうことかと思いつつ、皆の前で手紙を開ける。そこには、身分関係なく、パーティーを楽しんでほしいとあった。奴隷産まれも国民と、国で産まれたのなら国民だと書いてあり、両親は喜んでいたが釈然としない。


 クリスタルがドレスを作ることにウキウキしているため私も参加するなんて言えない。

だから、


「ねえ、クリスタル。」

「なあに? 今忙しいんだけど」


ドレスのデザイン画に夢中の横から声をかける。


「国から特別にクリスタルのメイドとして同行していいって手紙が届いているの。私も一緒に言っていい?」


別に行きたいわけではない。

行かないという選択肢もできるが招待状は国から、断ることはできなくはないが旦那様の顔をつぶしてしまいかねない。


「あたしだけ特別?」

「そうだと思う。じゃなかったらあなたの手紙に一緒に書くでしょう。私個人に送ってくる意味もないと思う。」


そう言って招待状を見せる。


「ふーん。まあ、いいわ。あなたのドレス、あたしが選んであげる。」

「お願い。私クリスタルみたいなセンスないから」


持ち上げると機嫌がいい。でも、きっと私のドレスは地味な、目立たない、ダサい物だろうなと思う。






 嫌味も甚だしい。

一緒にいる自分も同類と思われるとは考えなかったのだろうか。


 勝気な半分真っ赤で半分ピンクのドレスに白のレースやフリルがふんだんに使われたドレスは年齢的に、ぎりぎりアウトだろうか。

十五歳は準社交界への出席ができる年齢。社交界に置いてこの国ではピンクはタブーなのだ。

もちろん白一色も成人、婚姻の際に着る物のためタブー。

ピンクが着られるのは昼間のお茶会、さらには子供の選ぶ色といわれている。


 ビビットなピンクならば許されるだろうが、クリスタルが選んだのは可愛らしい薄めのピンク。

仕立屋も渋っていたが彼女の希望なのだから作らなくてはならない。

 仕立屋はもう一着、私のドレスはドレスとは言えないが豪華なメイド服だった。

いつもは黒に近いグレーのワンピースに白のエプロンなのだが、真っ黒なドレスは飾り気はなく、白いショールを羽織っている。


 まるで喪中の女主人の様だと笑ってしまう。

とはいえ、喪中の女主人でもこんなにシンプルなドレスは着ないだろう。

ドレスなんて何度かクリスタルの着せ替え人形で着たぐらいだがどれも動きにくい物だった。

それに比べ、このドレスはレースも飾りもないため動きやすく重たくもない。


 準社交界、半夜会のように早い時間のみ参加できるという意味なのだが、時間枠が広がる。

パーティー開始時から日付が変わるまで参加できるのだ。

同行する親の行動時間も長くなり、家同士のつながりを作る時間にもなるが旦那様は時間が増えればクリスタルがまた変なことをしないかという気宇をしていた。


 到城し、馬車を下りると出迎える警護の面々の顔が曇る。

第一王子の招待で来ておいてその服は何だという顔にクリスタルは誇らし気な顔をしているが違うと思うぞ、って言ってやりたい。


 旦那様が挨拶にクリスタルを連れていくため、私は離れる。

娘二人を紹介する理由もないし、私はメイドで、奴隷だ。

この場にいてはおかしい存在。

今日は奴隷印が隠れるストールをしているがやはり服が目立ってしまう。


「同行者はいないのか?」


急に話しかけられた。

仕立てのいいスーツを着た黒に黄色の混ざる髪の少年、いや、年は同じぐらいだろうから少年と言ってはいけないだろうか。


 スカートを持ち上げることなく、深く礼をする。


「ああ、お前が兄上の言っていた奴隷の娘か。ここではほかの令嬢に混ざれるようにカーテシーを取ることをお勧めする。」


どうやら私のことを知っており、兄がいる人なんて、話から推測するにこの人は


「大変失礼いたしましたアヌビス様。スペールディア家に務めます奴隷、ノクティスと申します。」


スカートを持ちあげる礼、カーテシーをすることは一生ないだろう。

再び頭を下げる。


「ああ、知っている。」


そういいながら片手をあげると近くの給仕が飲み物を持ってくる。

渡されたのはレモネードだった。

常温で甘ったるいがレモンの酸味がおいしかった。


 「兄上が間もなく挨拶に来るだろう。楽しんでいくといい。」


兄よりも先にパーティーに混ざっていていいのだろうかと思いながら王族の考えなんてわからない。

それに挨拶へはこちらから向かうのだ。

そっちに来られては困る。


 旦那様が挨拶を終わらせて戻ってきた。

そこで大きな音楽が流れ始めびっくりしてしまったら旦那様に笑われてしまった。

ちょっと恥ずかしい。


「ゲラダ様だよ二人とも、少ししたら挨拶に行こう……クリスタル聞いているか?」


旦那様は嫌な予感がするという顔をする。

私も、そんな予感がする。


「ゲラダ様……カッコいい…あの人の婚約者……」


いけない方向に妄想が進みそうになり、あなたはまだ、婚約者ではないのよ。周りが勝手に言っているだけなんだから


「先ほど聞きましたがゲラダ様はとても奴隷にお優しい方の様ですね。この国ではすっかり狒々のテリーの血は薄れてしまっていて、ここ近代の王妃は人間が多かった。それでもテリーやピスティアを同等、平等に接してくださる素晴らしい方の様ですね。差別には容赦しないらしいですよ。」


旦那様は


いきなりそんな当たり前のことを言い出して、どうしたの? 


と、言う顔をしているが


「そう……ノノ、今までごめんなさい。奴隷だからってなんでもいうことを聞いてくれる道具としか思っていなかったわ。あたし…私と今日から友達の関係をやり直してくれないかしら?」


これまたどうしたという顔の旦那様には後で説明しようと思いつつ、


「もちろんよ。私も意地を張って強い口調になっていたところもあるし、ごめんなさい。」

「ううん、いいの。ああ、どうしましょう。そんなドレス本当は着せるつもりなかったの。紺色にするつもりが、伝え方が悪かったのね。ほかのドレスも用意していればよかったのだけど」

「気にしないで、それにこれぐらいシンプルな方が私は動きやすくて楽よ。クリスタルの可愛らしさも引き立つし、ね、旦那様。」


ここまで来て旦那様はハッと、現実に戻ってきた。


そこに、


「スペールディア伯爵、こちらへ」


と、第一王子の側近だろう服装の人物に呼ばれる。


 「私も一緒でよろしいのですか?」


側近が私の背に降れるか触れないかに手を添えるため聞く。


「ノクティスも私の娘のようなものだ一緒に行こう。」


旦那様と側近がアイコンタクトをするためクリスタルのさらに後ろを付いて行く。


 陛下への挨拶を先に済ませている間、クリスタルが頭を上げるタイミングが早かったのをスカートを引っ張り止める。

いつもなら文句を言ってくるのだが今日はない。

陛下の前だなんて気にする子ではないのは知っていたが本当にゲラダ様にひとめぼれしてしまったのかと内心でため息をつく。


 陛下の後そのまま横に移動し第一王子ゲラダとその隣に座る第二王子アヌビスに挨拶をする。

前の者たちは挨拶の言葉のあとに何か話をしていた。

クリスタルが勝手に話しかけないように


「旦那様に合わせるんですよ。」


と、耳打ちする。

クリスタルは何度か小さくうなずいた。


 「本日は我がスペールディア家、使用人をお招きいただきありがとうございます。」

「ああ、学校で有名な令嬢のメイドが気になっただけだ。気にしなくていい。」


ああ、クリスタルがいろいろ勘違いしそうだからもう何もしゃべらないでほしい。


私は使用人である以上、親しんだ旦那様たちの前でもなく、ましてはクリスタルの友人でもない王族に頭を上げることができずにいると


「ノクティス、顔を見せてくれ」


そう言われてやっと頭を上げる。


 目の前に優雅に座っているのはこげ茶色の髪に尻尾を持っている。

テリーの血も薄まっている現在でピスティアの名残が毛色以外に出るのはめずらしい。

さらに喉元に赤い模様が見えた。

本当に珍しく、次期王のふさわしい人だろう。


 ボーっとゲラダ殿下と呼ぶべき相手を見ているとふと、知らない景色が目の前に広がった。








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