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七つの国に架かる橋《加筆修正作業中》  作者: くるねこ
番外編 ノクティス
33/60

1

番外編で最後の方に出てきたノクティスの婚約までの話になります。


20まで書いておいて、本編より長くなりそうな予感がしてきて、番外編なのに本編より長くするわけにもいかないかもと思い二話を一話分にまとめて掲載します。

もとから身近いかなって思っていたのでここまで来て編集です!

ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします!






 私の産まれたこの国には奴隷がいる。


 一つの島に七つの国を有するこの島は六つの国家と神域とされるティアリサムから成り立ち、国外から多くの奴隷を買い付けている。


 この奴隷を受け入れるようになったのは国内で三種に国民が分けられ、その人権をめぐって戦争が起きたことがあったからだといわれている。


 この島特融の人種ポプルスと知性をもった獣種ピスティア、そしてその間に産まれた半獣テリアントロペ、略してテリーがいる。


 ポプルスは移民により血は薄れ、今となっては直系で残るのは砂漠の王国ウィーンドミレの王家だけだといわれているが、私はそんなわけないと思う。

とっくに血は途絶え、私たちと同じだと思っている。


 この話は物心ついたころには皆が知っている常識。

この私ですら知っている。



 奴隷の子である私ですら知っている。



 この国の奴隷には収容期間がある。


 二十年奴隷として働けば国民としての権利を得ることができる。


 私の母は十歳になる前に、父も十五歳から奴隷として働いている。


 この島の民が奴隷になるにはそれ相応の理由がある。


 罪を犯した者、その家族、借金を抱えた者、借金のために親に売られた子供など、それなりの理由がある。


 母は家族に売られたと言っていたが真相は違うだろう。

父も親の借金で売られた元貴族の三男坊だった。

実家はもうつぶれ、不正を行ったことがばれ、刑に処されたのだと使用人たちの噂で聞いた。


「ノクティス、そんなところで何をしているの。早く来なさい。」

「はい、お嬢様。」


私の名前はノクティス、父譲りの紫の髪に、母譲りの金の瞳が夜空と付きの様だと奥さまが言ったことがきっかけでこの名前になった。


「お嬢様、お勉強はよろしいのですか?」

「あんなの面倒なだけよ。宿題が出てるの、やっておいて」

「……かしこまりました。」


お嬢様、クリスタル・スペールディア様六歳。


昨年から私がお話し相手として使えることになった二つ上のこの家の一人娘。



 私は産まれながらに奴隷だ。



 この国の法律として奴隷間に産まれた子供は両親どちらかが期間終了三か月前でない限り奴隷とされる。

運悪く、両親計画的な出産の予定が早産となり、父の収容期間終了の三か月と四日前に産まれた。


 奴隷として働く人はその境遇を嘆くが私はそうは思えない。

衣食住は良い主人であればあるほどいい者を与えられ、外で労働するよりもだいぶいい暮らしができる。


 問題はその主人の性格なのだが、旦那様、お嬢様のお父様はとてもいい人だ。

奥様もとてもやさしい。

でも、そんな二人の間で甘やかされて育った娘のお嬢様はお茶会で合う同世代の令嬢に比べたら高飛車で利己主義、自分中心でないことに度々癇癪を起す。


 お嬢様のことは嫌いではない。


でも、好きでもない。


普通だ。


 それに比べたらいいおもちゃ程度には可愛がってもらっている。

一人娘のお嬢様にとっては妹のような存在なのだと本人もいうし、自由奔放で私に今一番嫌いな宿題をやらせる方だけど、友達としては対等だと言っていた。

口にしていた。

 私には友人がどういうものなのか知らないため喜んでいいのかもよくわからないが、彼女が楽しそうならそれでいいと思う。






 「ノクティスって呼びにくいからノノって呼ぶわね。その方が友達っぽいし、そうだ! あなたもあたしのことは名前で呼びなさい。これは命令よ。」

「かしこまりましたクリスタル様。」

「堅苦しい、呼び捨てにしてみて、丁寧な言葉も長ったらしいから省略しなさい。」


つまりは砕けた口調で話せということだろうが、


「申し訳ございませんがそれは出来かねます。私の主人の娘様を呼び捨てにし、親しく話かけるなんて」


と、返すが、


「じゃあ、お父様に許可を取ってくればいいのね。行くわよ!」


そう言って部屋を飛び出すとまた宿題が終わっていない状態になってしまう。


 最近、家庭教師から宿題ではできていることが授業では全くできていない、宿題を替わりにやっていないかと釘を刺されたところなのだ。

きっと授業中にも言われているはずなのだがとため息が出草となるのを飲み込む。


 旦那様の執務室へ入ると収容期間を終えた父と仕事の話をしていた。

底に飛び込むように入ってきた娘たちにどうしたのか聞いてくる。


「お父様、ノクティスにあたしを名前で呼ぶことを許可して!」


旦那様はどういう経緯でこの話になったのか知らないためいきなりどうしたのかという顔ではあるが


「ノクティス、クリスタルを名前で呼んであげてくれ」

「かしこまりました。改めてクリスタルと呼ばせていただきます。」


そう言って頭を下げると

ああ、呼び捨てにする話

だったのかと父親二人は思っているようだった。


「あと、この硬い言葉も! 一言一言が長いのよ!」

「ああ、いいよ。ノクティスは奴隷として置いてはいるがソールも昔から友人として、側近としてよきパートナーとして近くにいてくれたから、ノクティスとクリスタルもそういう関係になれるといいなと私たちも思っている。」


多分父と旦那様の様にはなれないと断言できる。

お嬢様改めクリスタルの性格と私の性格は全く合わない。


 それでも主人に望まれるのならば私は友人で居られる努力はしようと思う。


 「ありがとうお父様、あたし頑張る!」


頑張るのはきっと私だと思ったが口にすることは抑えておく。


 部屋に戻った私は結局宿題を手伝った。


 メイド教育が始まったのはそれから数か月後のこと、屋敷の中のことやクリスタルのことなど覚えることは多いのだが、勉強がしたくないというクリスタルに付き合わされ授業に出なくてはならなくなった。


 クリスタルは習い事として馬のピスティアを使った乗馬に刺繍、ポエム、ピアノ、社交ダンス等、やってはいるのだがそれすべてに付き合う私は最近興味を持ち始めたのは灰魔術師である。


 屋敷お抱えの医者である白魔術師はいるが薬を作る灰魔術師は出入りがある程度、だが、体の弱い奥様のために一日分の薬を用意している間に自分でも作ることができるといわれ興味を持った。


 もちろん、むやみやたらに作ることはできないが、収容期間を終え、自立しようと思うなら灰魔術師になりたいと思っているがきっとクリスタルによって阻止されそうだと思う。


 最近の彼女は私をメイドと友人という枠からさらに便利な駒ぐらいにしか思っていないように思える。


「ノノ、この手紙を白金の館へ届けてきてくれない?」

「わかったわ。でも、今から出かけると授業に出られないから先生に申し訳ないと伝えてもらえるかしら?」

「いやよ。そんな面倒なことはメイドの仕事でしょ。あたしは友人のあなたにその大事な手紙を届けてもらわないといけないのだから、あたしのためにあなたはいるんだからちゃんと働きなさい。」


メイドで友人で駒なのだと一言で言えるあなたはすごいと思うわ。


 クリスタルに礼をして退室後、クリスタル付きの他のメイドに手紙を届けに出るというと授業はどうするのか聞かれる。

私の授業分は旦那様が持っているわけではなく、父ソールの給料から出ている。

父には申し訳ないと思っているが優先はこのラブレターなのだから仕方ないといい、家を出る。


 白金の館とは貴族の屋敷の俗称でスペールディア家も貴族のため同じような俗称がある。

クリスタルが産まれてからは水晶殿と呼ばれている。


 伯爵家は殿、子爵家は館など呼び方がある。

旦那様は財政関係の部署のトップであり、前任の不正を暴いたことで陞爵した。

でも、その後の忙しさで奥様が体調を崩していったのは確かだ。

やっと生まれた後継ぎを甘やかしてしまうのもわかるが甘やかしすぎているとはだれも言えない。


 手紙を届けた帰り道、足として屋敷にいるロバのピスティアが付かれていると声をかけてきた。

主に荷運びが仕事なのだが


「お前ぐらいの体重なら乗っても運べる。」

「でも、いいよ。今日の仕事時間はもうとっくに終わってるからすぐ寝るだけだし」


嘘だ。


きっと宿題が出ている。


クリスタルの分もあるだろう。


「はあー」


ロバにため息をつかれた。

付きたいのは私の方だ。












 それから数年。

淑女の教育を順調に受けたはずのクリスタルだが


「学校なんて行きたくない! なんで幼稚な子供と同じ場所で勉強しないといけないの⁉」

「そんなこと言ったって、貴族なんだから学校に行くのは義務でしょ。素敵な殿方にも出会えるでしょうし、まあ、私からすればあなたが授業をさぼれなくなることが助けよ。」

「ノノが冷たい。あたしのノノが冷たい!」


そういいながらベッドの上で暴れるクリスタルに制服にしわが付くと立ち上がらせ紅茶を用意させた机の方へ移動させ、ベッドを整える。


 学校へは馬車で向かうためゆっくりとした朝なのだが、いつまでもゆっくりとはいかない。


今日は入学式だ。


 「お嬢様、馬車の準備ができました。」


その声にクリスタルは嫌だと叫んだが荷物をメイドに渡し、クリスタルを立たせて引きずるように部屋を出るときにはほかのメイドがドアを開けて待っていてくれる。


 貴族学校は十三歳から十八歳の令息令嬢が通う、格式高い学校で、貴族制度を取らない隣国ケティーナやナトラリベスの金持ちの子も数名通っている。


 馬車に揺られること数分で学校に到着、屋敷からも歩いて通える距離にある。


 クリスタルに手を貸しおろし、荷物を持ってその後を歩く。


 貴族学校であるここはメイド従僕の同行が許される。

今年からクリスタルとともに私も学校へ通うのだ。


 もちろん、生徒ではないため別室で授業中は待機となる。

その間にやることは自由、私ははじめのころはクリスタルのハンカチに彼女の希望の図柄を刺繍したり、お茶会の招待状の代筆などで時間をつぶすがそんなこと早くに終わり、読書をしているとひそひそとした声が聞こえてくる。

何かと思えば私を見ているようだ。


 今年の入学者の中から成績、家柄が上位の者だけが集められた教室に通うクリスタルの同級生は一級だということは解っている。

その付き添いの使用人も年上、さらには年配の者が多く、親の期待が現れているのだろう。


 さらに言えば私の腕には見えるように奴隷印が押されている。

旦那様は渋ったらしいが奴隷と解る場所に押すことになっている。

さらにこの国カルミナはマグマの上の国、熱気が立ち込める。

それ相応の理由がない限りは皆半そでの服を着ている。

例外なく、私の使用人服も半そでだ。

明日からは長そでか手袋を用意してもらおうと終業時間のチャイムとともに立ち上がり、使用人たちは教室へ向かっていく。


 クリスタルは人前ではしっかりと淑女で居られる。


「ノノ、何か不便ない? 私心配よ。」

「問題ないわクリスタル。旦那様が今日は早く戻ってくるそうだけどまっすぐ帰る?」


呼び捨て、砕けた口調、使用人でさらに奴隷であるにもかかわらず、主人に対してあるまじき行為、それを目撃したという目に包まれるが、クリスタルは


「あら、どうかした?」


私が少し顔にしわを寄せたことにしか気づかず、周りがどんな眼をしているかなんて考えてもいないのだろう。


 帰宅後、あれだけ学校が嫌だと言っていた割には楽しかったと旦那様に報告していた。


 だが、翌日の終業後、クリスタルは


「学校で話しかけないで、大人しく私の後を歩いていればいいのよ。明日からは違うメイドを付き添ってもらうわ。」


と、

視線に気づいたのか、

それとも誰かに言われたのか、

そのあたりは知らないが屋敷付きになれるならあの視線の中待つのに比べたらだいぶいい。

屋敷に戻るなり、今日は旦那様が休みと解っているため奥さまの部屋で一日過ごす日だ。

居場所もわかっているため馬車から飛び降りると屋敷へ駈け込んでいった。


 「どうしたんだお嬢様?」


執事見習いに聞かれ、


「私が奴隷だということが貴族の集まる学校では許されないみたいよ。特に上流貴族の集まりでは」


と、言って荷物を持って部屋へ向かう。


「だから、ノノは奴隷だからあたしのステータスを保つためにはシーアじゃないとだめなの!」


あけ放たれた近くの部屋からそんな声が聞こえ、私も部屋へ向かう。


 シーアさんは奥さま付きのメイドの一人で母の上司でもある。

生まれは商家で貴族学校に幼馴染の貴族の口添えで入学し奥さまと同級生になった。

卒業後から奥さまの実家で勤め始め、輿入れにも同行した筋金入りの奥さま贔屓のメイドでクリスタルもとても可愛がられている。


「シーアがいないと母さんが困るだろう。」

「ノノの母親がいるでしょう。あたしは奴隷を連れている傲慢女って言われているのよ! 娘がそんな風に呼ばれてて何も思わないの⁉」

「ノクティスはもう家族も同然だろう、奴隷だなんてお前も思っていないはずだ。それでいいじゃないか。」

「お父様はあたしのことどうでもいいのね!」


そんなやり取りが終わり、私の肩にわざとぶつかり、部屋へ戻っていった。


 「申し訳ありません旦那様。」


そう言って頭を下げるが


「いや、朝手袋をしていたからおそらくそうだろうと思っていた。私もソールとともに通い、ソールに苦労を掛けた。」


父に目を向ければ苦笑いをされる。


 これが私の役割だ。

 翌朝、たくさんの子供のドレスに宝飾品、ぬいぐるみや可愛らしい文房具が届けられた。

娘にめっぽう弱い旦那様は夕食の席で一言も口を利かなかったクリスタルへのお詫びの仕方は変えた方がいいだろう。

結局交代はなく、私が今後も同行する。

クリスタルはその後も何度か駄々をこねたがそのたびに多くのプレゼントをもらい満足げだった。






 それから数日、影口には私はなれた。

クリスタルと昔から親交のある令嬢のメイドや令息についている従僕とは面識があり、彼らから奴隷でも強く当たられることはないのだが、運悪く、クリスタルと同じクラスにはいない。


 とはいえ、私の問題でクリスタルに何か起こってはならないため、当たり障りのない交流、クリスタルの周りに目を配り、次第に奴隷でも能力を駆られ、少し話をするようになったメイドが慕う令嬢リーリアが話しかけてきた。


「クリスタルがこちらを落とされたのですがわたくし話をしたことがなく、あなたから返しておいていただけませんか?」

「もちろんでございます。拾っていただきありがとうございます。」


頭を下げ、歩いて行くのを見送る。


 「何をしているの?」


教室から出てきたクリスタルに話しかけられた。

学校では話しかけるなといわれたがこの場にほかの生徒はいない。


「クリスタルのクラスメイトのリーリア様がハンカチを拾ってくださったということで届けてくださいました。」


誰が聞いているかわからないと思い、途中から丁寧な言葉に直した。


「リーリアって誰?」


クラスメイトもおぼえていないのかとため息をつきたいのを我慢し、


「リーリア・バリーバル子爵令嬢です。」

「子爵ならクラスにいるわけないでしょ。」


そういいながら荷物を預けられ、歩き出すのを付いて行く。


「リーリア様は特待生枠で、成績優秀者、学年でもトップの成績です。」

「ああ! わかった。あの地味な子ね。」


クリスタルからしたら周りの令嬢は皆地味だろう。

ちらほらとクリスタルに対抗して派手な服にアクセサリーと学生とは思えない服装の令嬢もいるがほとんどが大人しい淑女たちである。


 馬車に乗り込み、すぐに家に着くとクリスタルは着替えて出かけると言って私に付いてくるなといった。


「最近のお嬢様、ノクティスを避けてないか?」


執事見習いに言われる。


「彼女の周りのステータスに私は不必要なのよ。」


クリスタルの傲慢で奔放な性格がもう少し落ち着いたらいいのにと使用人たちは皆思っていることだろう。


「ノクティス、お嬢様は?」


母が聞いてくるため


「先ほど出かけたわ。」

「ああ……これから採寸があるっていうのに」


そういえば昨夜の食後にもクリスタルにそんなことを言っていた母を思い出す。


 私の担当は学校内でのことであり、屋敷内ではほかのクリスタル付きのメイドが予定監理をしているそれを朝食の席で伝えているのだが、逃げられたようだ。


「私も把握していなくて、ごめんなさい。」

「そうね。そろそろノクティスにも予定の管理をさせないといけないわね。」

「今から時間ある?」

「ええ、大丈夫よ。お父さんの執務室を借りましょう。」


手帳を広げ、予定の確認をするとここ数日の予定で放課後に遊びに行くと言っていた日に見合いや採寸が入っていた。


 習い事に関しては把握しているため逃れられないと解っているのだろう。


 私が予定を完全に把握するようになったことに気づいたクリスタルはいかに私を蒔いて帰るかと動き回るのを捕まえるのにも一苦労していれば周りの眼なんて気にならなくなっていた。







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