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耳を塞ぎたくても塞げない。
両手をライラとピアに捕まれ、周りは何かもめている。
私の耳には断片的な単語が入ってだけだが、私の事でもめているのは明らかだ。
そこに、
「お前らうるさいぞ、静かにできないのか!」
控室に勢いよく入ってくるなりそう、言い放った人物。
皆、急にだまり、立ち尽くす。
そこにはアヌビス様がいた。
そして、
「アヌビス様、サンクトゥスです。」
「サン⁉」
ホエ王子が声と共に姿を見せた。
なんだが、この国際会議が終わればこっそり抜け出すなどをしてカルミナに戻れると思ったが、事がどんどん大事になって行く。
ついに私は王子たちの話し合いの場へ招かれてしまった。
「やあ、我が妃よ。灰色の髪が美しいな。」
アンゴラ様がまたあのうさん臭い笑みで寄ってきた。
すると
「それ以上近づくな。」
アヌビス様が私とアンゴラ様の間に入ってくれた。
そして、
「サン、こっちへ」
ホエ王子に肩を抱かれ、導かれる先にはエゾ様やキョン様たちがいた。
「サンス!」
背丈の低い者に抱き着かれる感触に下を向く、ワピチ様を想像していたが、その声は
「エゾ、大丈夫だった?」
ボロボロと涙を流す姿を抱き寄せる。
「ああ、サンス。無事でよかった。どこも怪我はない?」
現れたニホン様にさらに私は抱きしめられた。
フロント以上に二人には心配をかけてしまった。
「私はもう、大丈夫です。ニホン様はお腹の子は?」
「問題ないわ。カルミナでとてもよくしてもらっているから、アヌビス様はとても良い方ね。逃げなくても大丈夫だったんじゃないかしら」
その言葉に苦笑いをする。
その時、強い視線を感じ、振り返る。
そこには、あの、アクアムの王子がいた。
「アクアムから王子が来るなんて珍しいんだ。サンは絶対に近づかないようにね。」
ホエ王子が強く、私の肩をつかむ。
「おい、そいつは俺が守る。お前らは自分の国の席に戻れ。」
と、アヌビス様が言った。
私はアヌビス様から差し出された手を掴もうと、手を伸ばす。
でも、
「こいつは今、私の物だ。会議が終わるまでは渡さん。」
体が急に浮いた。
スカーレット様の尾に持ち上げられ、ニシキ様の腕の中に落とされた。
「奴隷でもない国民を本人の意思とは関係なく拘束するのは犯罪だ。」
「サンスは今現在、ナトラリベスで保護をしている。各国から引き渡しの要請が多いからだ。本人は身の潔白や政略結婚の拒絶。保護に値する内容だ。」
急にホエ王子だけが顔色を悪くし、
「政略結婚だったのかな……」
と、つぶやいていた。
それをニホン様は慰めている様子が見える。
「離宮に入ったのだ。同意も同じだ。」
アンゴラ様がつぶやく。
その姿をバーバリ様が遠くから見ていた。
ニシキ様におろしてもらうと、今度はユウダ様がいつかのように私をその身に隠すように立った。
アヌビス様が近づいてきていたのだ。
「確かに、求婚したことに間違いはない。それにより、リポネームを目指し、旅をさせる羽目を負わせたのは俺だ。でも、今現在のサンスの気持ちが知りたい。俺が近づくと顔を赤くするその訳を知りたい。」
「え?」
顔に触れる。
確かに熱い。
熱があるようだ。
「へ? え? あれ?」
自分でも意味が解らない。
何でこんなことになっているのだろうか。
「答えは明日聞く。今日のところはナトラリベスで寝ろ。今日の話し合いは議長国であるカルミナの権限で終了とする。すぐに解散するように」
アヌビス様の言葉に一番にこの場を離れたのはアクアムだった。
アヌビス様は兄であるゲラダ様の元へ行ってしまう。
「待ってくださいアヌビス様!」
「よい返事を待っている。」
そう言って笑みを浮かべる顔はどこか勝ち誇ったように見えた。
その晩、ナトラリベス大使館にカルミナの人間が訪ねて着たとして、ニシキ様が応対した。いったい誰が来たのか、懐かしい味のお茶を飲みながら戻ってくるのを待っていると
「サンクトゥス、来客だ。」
「はい。」
「この国の灰魔術師のようで、城に務めているそうだ。」
城の灰魔術師で知り合いなんていないが、いったい誰だろうか。
私が国を離れている間に城へ上がったのだろうか。
それとも先生の知り合いかもしれない。
フロントの幼馴染の男性が城で灰魔術師の見習いをやっていると聞いたことがある。
ユウダ様がなぜか片時も離れることなく、それにサンゴ様やワモン様もついてくるようだ。
ぞろぞろと廊下を進み、応接室へ入った。
「サンス、久しぶり」
「ノクティスさん…… 何でここに?」
長くのばされた色素の薄い髪が彼女の動きと合わさり揺れる。
宝石のような大きな瞳をメガネで隠しているのがいつ見てももったいない。
「王子たちから様子を見て着てほしいって言われたの。」
「びっくりしました。今は城にいるのですか?」
「ええ、そうよ。よくわからないけど、ゲラダ様と結婚することになりそうなの。」
「はい?」
突然の話に首をかしげる。
「結婚するのですか?」
「そうなりそうよ。クリスタルと結婚するものだと思っていたのだけどいろいろあってね。」
アヌビス様のパーティーがあったさらに一か月前のゲラダ様の婚約者探しのパーティー。
カフカスの話では目ぼしが先についていたとかで自由参加だったあれで、彼女、同職の元奴隷ノクティスは奴隷の収容期間を二十歳で終えたものの、それまで勤めていたお屋敷で働き続け、屋敷の一人娘、クリスタルの世話役をしていた。
クリスタルが自立を目指し、花屋で働くようになり、それに伴い彼女も花屋横の薬屋で働くようになったと聞く。
二人で近くにアパートを借りて生活していると以前話していた。
クリスタルがゲラダ様に選ばれ、一人では寂しく、暇だろうと言う事で彼女も共に、城で生活するようになり、今は城の灰魔術師の一人だと簡単に説明された。
ノクティスと出会ったのは国内の灰魔術師が集まり、情報交換をする会で同世代と言う事で話をするようになった。
「サンスのところのお客さんはカルテを勝手に拝借しちゃったけど、私の前の職場の方で対応してもらったから」
「お手数おかけしました。手紙の件は?」
「それも大丈夫よ。あのおばあちゃんに声かけられてね。捨てておいたわ。」
「ありがとうございます。これでアヌビス様に怒られずに済みます。」
「だといいわね。」
その後、他愛もない話をし、ノクティスは帰って行った。
時計を見れば大分夜も更けてきた。
私専用の寝室が用意され、布団に入る。
ベッドサイドの棚の上で眠るドラドラはすっかり良くなったものの、まだ完治とはいかないのか動き回る事は少ない。
明日には元気になってくれるだろうか。
そっと抱き上げ、布団の中へ入れた。




