■060 緑竜討伐
次話でイベント終了です。
『ギャオオオオアアアアァァァッ!』
グリーンドラゴンの火炎攻撃。何人かが巻き込まれてダメージを食らってしまっている。
運悪くHPの最大値が低かったり、火属性に弱かったりした者は死に戻ってしまったようだ。
通常、グリーンゴブリンやグリーンウルフのように、『グリーン』と名前に付くモンスターは火属性に弱いというのがセオリーだが、このグリーンドラゴンはその火を操る。まったく理不尽だ。
炎のブレスも大楯持ちならばいくらかは防げる。もちろん、その後の回復役の補助が必要だが。
「でええええぇぇい!」
グリーンドラゴンの横腹を、槍を構えた一人のプレイヤーが貫く。その隙に、僕も【加速】を使ってドラゴンの眼前へと辿り着き、その右目に双焔剣『白焔』を突き立てた。
『グギャオアアアァァァ⁉︎』
急所を刺されたドラゴンが暴れ回る。それに巻き込まれないようにすでに僕はそこから離脱していた。
「右目が潰れたぞ! 死角から攻めるんだ!」
どこからかの声に従うように、プレイヤーたちがドラゴンの右側に回る。
ドラゴンを休ませないように魔法の集中砲火が降り注ぎ、それが終わったところで盾を持った者を先頭にしながら、槍や斧や大剣を持ったプレイヤーたちが一斉に襲いかかる。
ドラゴンのHPは三分の一を切っている。もう少しだ。
「っと⁉︎」
僕の耳元で風切り音がして、ドスッとした音とともに、頭に矢を受けたグリーンゴブリンが足下に倒れてくる。
危なかった。後ろから襲われかけてたのか。
矢の飛んできた方にレンがいた。どうやら助けられたようだ。あとでお礼を言おう。
戦場にいるのはドラゴンだけではない。もっと注意を広げなければ。こうも人が多いと、【気配察知】もあまり役立たない。気配だらけだからな。
「シロ兄ちゃん!」
「あ、ミウラ! お前さっき……!」
「説教はあとにして! ちょっと話を聞いてよ!」
突出した攻撃を繰り返していたウチの暴走娘に一言言ってやろうとした僕だったが、出鼻を挫かれた。
「────って、できる?」
話を聞いてみると、ミウラがとんでもない提案をしてきた。え、それやるの? 僕が?
「いや、できないことはないと思うけど……。できる、のか?」
確かに試してみても悪くはないけど、負担が大きいぞ。特に僕が。
「やってみようよ! ダメならダメでまたなんか考えればいいじゃん!」
「お前、その行き当たりばったりの考え方やめた方がいいぞ……」
決してアホの子ではないのだけれど、ミウラのとにかくやってみよう精神は、お嬢様ならではの土壌で培われたものなのだろうか。怖いもの知らずというか……。そういや、あの三人には同じような面があるよな。
まあいい。この局面を打開できるかもしれないし。
「わかったよ。ほら乗れ」
「うん!」
僕が向けた背中にミウラが飛び乗る。
ミウラの提案とはなんてことはない、僕を足に使おうというのだ。正確には僕の【加速】スキルを、だが。
「行くぞ」
「オッケー!」
ミウラをおんぶしたまま【加速】スキルを発動する。ドラゴンの死角となった右側から突き進み、距離を縮めていった。
大剣を持つミウラはそれなりに重いが、本体が軽いのでそれほどのマイナスにはならない。いつもより若干遅いかな、という感覚だ。
ドラゴンの頭の横まで辿り着いた僕の背から、勢いよくミウラが飛び上がる。
「【大切断】!」
僕の背中から高くジャンプしたミウラが戦技を放ち、大剣をドラゴンの頭部へと振り下ろす。
頭を動かしたドラゴンの角に剣先が当たり、右側の角が根本からボキリと折れた。
『ギャオアアアッ!』
落ちてくるミウラをキャッチし、再び【加速】を使って離脱する。ドラゴンが大きな爪を振り下ろして攻撃してくるが、すでに僕らは退避していた。
「いけるね! シロ兄ちゃん!」
「いやいや。MP消費が結構キツいって! そんなに何度もできないぞ!」
背中ではしゃぐミウラに釘を刺しながら、最後のマナポーションを飲む。よくてあと一回だ。MPを全部使い切るわけにはいかないからな。
ドラゴンのHPはすでにレッドゾーンに突入している。しかしこちらの陣営もかなりの数のプレイヤーが死に戻り、攻め手に欠けていた。
僕のようにヒットアンドアウェイの戦法で、ちびちびと削っていけば最後には勝てるだろう。しかし、それでは他の門が突破されてしまうかもしれない。
身の安全か、イベントクリアか……。いや、ここは攻めるべきだ。生き残ってもイベント失敗なんて冗談じゃない。このイベントは二度と起こらないタイプのイベントだろうしな。
「おい、あんた! ウサギマフラーの兄ちゃん!」
「なんですか?」
ミウラを背負っていた僕に声をかけてきたのは、魔法使い風の青年だった。僕と同じ【魔人族】だな。トンガリ帽子に黒ローブに杖と、ベタベタの格好をしている。
「悪りぃがこいつをあの野郎にぶつけちゃくれねえか。俺じゃ【投擲】スキルもねえし、近付けねぇんだよ」
そういって青年が差し出してきたのはガラス製のトゲトゲボールだった。右側と左側で別々のものが入っている。右は粉末状で左は液体っぽいけど……。なんだこれ?
「そいつはな、俺が【錬金術】スキルで作った『炸裂弾』だ。一個しかねぇけどな。貴重な素材で失敗の山を築きながら作ったとっておきさ。間違いなくあいつにトドメを刺せるはずだ」
「いいんですか、そんなものを使って?」
「ああ。早いとこあいつを倒さないと他の門がヤバイからな。西門がヤバそうだったから俺と相棒だけ来たけど、ギルドの奴らは東門にいるんだよ。ここを見捨てて行くのも嫌だしな」
目の前の青年魔法使いの後ろに、杖を持った【夢魔族】の女性がいる。あれ? この人、さっきグリーンバードに襲われた僕を助けてくれた人だよな。
と、二人の頭の上にネームプレートがポップした。
「ギルド【カクテル】の『キール』と『マティーニ』……! ああ、ギムレットさんのとこの!」
「ああ。ギルマスとカシスが世話になったみたいだな」
キールさんがニヤリと笑う。てっきり【カクテル】の人たちは別門にいるのかと思ってた。この二人だけこちらに来てたのか。
「ま、話はあとだ。とにかくこれであいつを仕留めてくれ」
トレードウィンドウが開く。『炸裂弾』だけで、向こうから金額などの指定はない。
「本当にいいんですか?」
「これはもともとあんたやギルマスが仕留めたキマイラの素材を使ってる。気にするな」
そうだったのか。トレードを完了させて、『炸裂弾』を手に取る。よし、じゃあやってみるか!
「ありがとうございます。とにかくやってみます」
「おう! 頼む!」
僕はキールさんに礼を言って、ミウラを背負ったまま駆け出した。
「もう一度さっきのやつをやるぞ。だけど今度は────」
「──いいね。それでいこう!」
放たれる弓矢と魔法の援護射撃を味方に、再びドラゴンへと向かっていく。【加速】を使い、フェイントを入れながら僕らはドラゴンの正面に立った。
残った左目でドラゴンが僕を睨みつける。それも束の間、ドラゴンが大きく口を開けて、ブレスを今まさに吐かんと息を大きく吸い込んだ。
「今だ!」
僕の声と同時にミウラが肩を踏み台にして空高くジャンプする。僕は手にした『炸裂弾』を大きく振りかぶり、【投擲】によってドラゴンの口の中へと放り込んだ。ブレイドウルフの時と同じ要領だから慣れたもんだ。
『ゴッ、ブガバッッ⁉︎』
喉に異物を投げられたドラゴンが思わず口を塞いだと思った瞬間、ドゴォンッ! という爆音とともにその口が盛大に爆発した。
折れ飛んだ牙があたりに散乱し、ドラゴンは白目を剥いて口から黒煙を上げている。
「やあああああぁぁぁっ! 【魔神突き】!」
そこへ落下してきたミウラが深々とドラゴンの背に大剣を突き刺した。
『グルギャオアアアァァァッ!』
白目を剥きながらもグリーンドラゴンはその巨体を暴れさせ、ミウラを振り落とそうとする。そこへ駆けつけた二つの影が、両サイドからドラゴンへ向けて必殺の戦技を放った。
「【スタースラッシュ】!」
「【三段突き】!」
ウェンディさんとシズカの攻撃を受けて、ドラゴンがよろめく。もはやその命は風前の灯火と言ったところか。
「今だ!」
誰がが叫ぶ。
それがきっかけとなり、プレイヤーたちが次々と押し寄せて、各々が全力の戦技を放った。
やがて緑の地竜はその巨体をよろめかせ、地響きを立てながら地面へと沈む。
パアッ、と、いつもより大きく綺麗な光の粒が辺りに弾け、ドラゴンが塵と化すように光に変わっていった。
しばし僕らはその光景に魅入っていたが、やがて爆発するかのように大歓声が西門前に轟き渡った。
「ありゃ。トドメ刺すのに参加できなんだ」
モンスターにトドメを刺すといいアイテムがドロップする、なんてのは、単なる迷信というか、不確かな噂でしかないってのはわかってるんだけど、やっぱりちょっと気になるよね。
まあ、この状態ではなにもドロップはしないし、確認しようもないんだけどさ。
ドラゴンがやられたからか、他のグリーンモンスターたちが逃走を始めた。弓持ちのプレイヤーがそれに対して掃討射撃を開始し、あっという間に西門前にはモンスターの姿は一匹も見えなくなった。
「よし! 余力のある奴は他の門へ救援急げ! 無理そうな奴はここで守りを固めるんだ! あいつらが戻って来るかもしれないからな!」
そんな声が聞こえてきて、やっとドラゴンを倒したというのに、慌ただしくみんなが動き始めた。忙しないねえ。
その光景を見ていた僕に、『炸裂弾』をくれたキールさんが片手を挙げて近寄ってきた。
「よう! やったな! お疲れさん!」
「あ、どうも。助かりました」
「いいってことよ。それでお前さんこの後どうする? 俺たちはこのままギルマスのいる東門へ向かうが……」
「ギルドのみんなと話して決めます。なるべく東門へ行くようにはするつもりですけど」
「そうか。じゃあ向こうで待ってるぜ。あとでな!」
キールさんはローブを翻し、マティーニさんと門の中へと消えて行った。マティーニさん、一言も喋らなかったな。
「シロさん! やりましたね!」
城壁の上にいたレンが、ウェンディさんとともにこちらへとやって来る。
「レンもお疲れ」
「私はあんまり活躍できませんでした。最近生産系ばかりに偏っていたので……。今回のことを教訓にして、少しスキル構成を考えようと思います」
真面目だなぁ。真面目過ぎる気もするけど。ミウラと足して二で割るといい感じなんじゃないかねえ。
「はー、さすがにイベント戦はしんどいね。どんだけMPがあっても足りないよ」
リゼルがボヤきながら合流する。リゼルはドラゴンに攻撃しつつも、それ以外のモンスターを僕らに寄せ付けないようにしていたらしい。
「さっき渡した『マナポーション』は?」
「一本使っちゃった。残り一本だよ。完全に準備不足だねえ」
まあそれは仕方がない。突発的なイベントだったんだし。そんなことをリゼルと話していると、ミウラとシズカもこちらにやって来た。
「あ、レン! 見た⁉︎ あたしとシロ兄ちゃんのコンビネーション攻撃! すごかったでしょ!」
「む〜。ミウラちゃんばっかりズルい」
「? なに怒ってんの?」
「あらあら」
なぜか拗ねるレンとキョトンとするミウラ。それを見ておかしそうに笑うシズカの視線がこちらを向いているような気がするが、なんでだ? ま、いいや。
「この後どうする? 実はフレンド交換した知り合いのギルドが東門で戦っているんだ。できれば救援に行きたいんだけど」
「あ、さっきの魔法使いのおっちゃんのギルド?」
僕と一緒にキールさんと会ったミウラが口を挟んでくる。おっちゃんって……。キールさん、二十歳過ぎくらいだったろ。いや、中身も二十歳過ぎかどうかはわからないけどさあ。喋りはオッサン臭かったかもしれんが。
「そういう事情があるなら私は構いませんよ」
「お嬢様がそうおっしゃるのでしたら、私もそれで」
「私も構いませんわ」
「ちょっとMPに不安があるけど、私もいいよ」
「あたしも。次はもっとうまく立ち回るよ!」
全員OKのようだ。
「よし、じゃあ町の中を通って反対側の東門へ向かおう」
「はい!」
僕らはギムレットさんやカシスさんのギルド【カクテル】が戦っている東門へ向けて走り出した。
【DWO ちょこっと解説】
■【錬金術】スキルについて
【錬金術】は特殊なアイテムを生み出すことができるスキルであるが、素材も特殊であったり、貴重な物が多いため、かなりの資金が必要なスキルでもある。また、特殊な薬品を調合し、付与術師のように、特殊効果を付与して、仲間をサポートしたり、敵を弱体化することもできる。




