■109 千匹斬り
「【風塵斬り】!」
『ギャウン!』
風を纏わせた左右の連撃がアイスウルフを切り刻む。その僕目掛けて左右から別のアイスウルフが襲いかかった。
「くっ、【加速】!」
一瞬だけ【加速】し、アイスウルフの牙から逃れる。
反転しざまに相手を斬りつけ、さらに離脱。
「【スラッシュ】!」
そこにアレンさんの剣が振り下ろされ、さっき斬りつけたアイスウルフが光と消えた。
少しみんなから離れてしまったのですぐさま戻る。くそっ、キリがないな。
「ごめん! スタミナ切れたから中に入れて!」
メイリンさんがそう言いながら円陣の内側に入り、インベントリからスタミナポーションを取り出して一気に呷る。その間、僕らは守りを固め、アイスウルフを一匹も通さない。
HPならセイルロットさんやレンの回復魔法でなんとかなるが、STやMPはそうはいかない。どうしても回復中に隙ができる。
「OK! よーし、行くぞー!」
スタミナを回復させたメイリンさんが、再び円陣の外へと出ていく。基本的に僕とメイリンさん、それとシズカは自分で動いて相手を倒す戦法を取っている。ミウラやガルガドさん、アレンさんにウェンディさんなどは待ち構えて敵を倒す戦法だ。自然と僕らが引っ掻き回し、相手を統率させない戦い方になっていた。
この場合一番怖いのは数の暴力だ。どんなザコ敵だって数で押し切られたら負けてしまう。相手に連携プレーなどさせない。なるべく一対一になるように動いて、数を減らしていかねば。
「【大回転斬り】!」
ガルガドさんが周囲のアイスウルフをまとめて斬りつける。大剣使いは多数相手の戦闘向けじゃないから、使う戦技も限られてくる。重い剣を振り回すとどうしても隙ができてしまうのだ。
なるべく守りに入り、相手の攻めが緩んだ時を狙って戦技を繰り出す。そんな攻撃を繰り返していた。
同じ大剣使いのミウラも似たようなもので、だいぶストレスが溜まっているみたいだな。
だけどここで一人突撃して死に戻ると、残されたみんながさらにキツくなる。それは勘弁してもらいたい。
「シロ兄ちゃん、【分身】で片付けてよ!」
「無理! 【分身】してHPが減ったところに集団で襲いかかられたら一発で死に戻る!」
これで相手がノロマなやつならやるんだけど。ウルフ系はAGIが高い。僕でも気を抜くとダメージを食らってしまう。今はそんなリスクは冒せない。
「「【サウザンドレイン】!!」」
レンとベルクレアさんの戦技により、空から無数の矢が降り注ぐ。
全滅させるとまでにはいかないが、範囲内のアイスウルフから半分以上のHPを削ってくれる。今がチャンスだ。
「【アクセルエッジ】!」
狼の間を駆け抜けながら左右四連撃を繰り出して、四匹のアイスウルフを斬り刻む。僕の双焔剣は火属性なのでダメージが高い。四匹の狼たちは光の粒となって消えた。
「あとどれくらいだ?」
「残り652です!」
嘘だろ、まだ半分もいってないのか。返ってきたシズカの言葉に愕然とする。くっそ、このトラップ考えたヤツ、絶対性格悪いだろ!
間違いなく長丁場になるな。僕は改めて狼と向き合い、気合いを入れ直した。
◇ ◇ ◇
「残り三匹!」
僕がどうにか斬り伏せたアイスウルフの横を、ベルクレアさんの放った矢が飛んでいく。
狙い違わずそれは弱っていた別のアイスウルフの眉間に突き刺さり、そいつを光の粒へと変えた。
「残り二匹よ!」
残された二匹のうち、一匹がウェンディさんに飛びかかる。もはやみんな戦技を放つスタミナもない。ウェンディさんが大盾でその攻撃を受けとめると、その横から振り抜かれたセイルロットさんのメイスがそいつの頭を吹き飛ばす。
「残り一匹です!」
「やあああああっ!」
ラスト一匹、千匹目のアイスウルフにメイリンさんが向かっていく。最後の一匹は怯えることなく、メイリンさんへと向かい、その牙を剥いた。
「これで……終わりっ!」
飛びかかる狼の横っ面にメイリンさんの回し蹴りが炸裂し、最後のアイスウルフが吹っ飛ばされていった。二、三度バウンドした狼は動かなくなり、光となって消える。終わった、か?
「はぁぁぁぁ……。つっかれたー……」
暴風剣スパイラルゲイルに寄りかかるように、ミウラがへなへなと腰を落とす。
「MPもSTも0です……」
「これ【スターライト】だけで来たら完全アウトだったわね……」
セイルロットさんとジェシカさんもその場に座り込んでしまった。僕も腰を落とし、その場で大の字になって呼吸を整える。いや、つっかれた……。
STが0だから、行動にマイナス補正がかかっている。身体がものすごく重い。鉛でも付いているみたいだ。
中央の魔法陣のカウントは『0000』になっている。やっと終わったな。
「お疲れさん」
「いやもう……。回復アイテムを使い切っちゃいましたよ……」
近くに腰を下ろしたアレンさんに思わずボヤいてしまう。またポーション類を作ってストックしとかないとなあ。
「全部倒したけど、なにも起こらないな……」
「さっきのは露払いでこれから本命が出現、とかは無しにして欲しいですね……」
さすがにそれは運営に文句を言いたくなる。そんな連戦、冗談じゃない。
「ねえ、そこの魔法陣光ってるけど、中に入るんじゃないの?」
リゼルの言葉に起き上がり、中央の魔法陣を見てみると、確かにぼんやりと燐光を放っている。ひょっとして転移陣か?
「どうします?」
「むむ……。進みたい気持ちもあるけど、この状態でもしボスなんかが出たら間違いなく全滅だね……」
アレンさんが考え込む。確かにその可能性もあるか。
「だからといって引き返したら、またここの狼どもと戦う羽目になるんじゃねえのか?」
「そうだよ。行ってみないとわからないよ」
ガルガドさんとミウラの大剣コンビは進むのに賛成のようだ。正直言って僕も進むことに賛成だ。もしボスがいて全滅したとしても、それは無駄じゃない。次に傾向と対策を練ることができる。まあ、アイスウルフ戦に使ったポーション類は無駄になってしまうが……。
確認をとったが、ほとんどのメンバーが進むことに賛成であった。
「よし、じゃあ進もう」
アレンさんが方針を決定し、僕らはできるだけHP、MP、STを回復させた。休憩したことにより、だいぶ自然回復はしているが、完全回復までここにいるわけにもいかない。
またいつカウントが『1000』に戻り、狼千匹斬りが始まるとも限らないのだ。
中央の魔法陣に一人、また一人と入るたびに、光が強くなっていく。
最後にアレンさんが魔法陣に入ると、輝きが一層増し、まばゆいばかりの光彩陸離の渦が僕らを包んでいった。
「……っ…………!?」
光が収まると、僕らは氷で囲まれた部屋にいた。部屋というか神殿のような造りで、なにやら祭壇のようなものまである。
その祭壇のさらに上、空中にぷかぷかとなにか棒のようなものがゆっくりと回っていた。
「……鍵?」
鍵。鍵だな、ありゃ。家とか車とかの鍵じゃなく、スケルトンキーと言われるアンティークな鍵だ。いや、ファンタジーっぽいけど、なんで鍵? どこかに扉でもあるか?
アレンさんが祭壇に近寄り、浮いていた大きな鍵を手にする。大きさがちょっとしたナイフくらいある。エメラルドのような緑色の光を放つ、透き通った綺麗な鍵だった。鍵の持ち手部分が『G』という形になっている
「『エメラルドの鍵』だそうだよ。『白の扉を開く三つの鍵のひとつ』……らしい」
白の扉を開く? 三本の鍵がないと開かない扉があるってことか?
「よくわからないが重要なキーアイテムなんだろう。二本取得できたから、一本は【月見兎】のだね」
「参加したギルドの数だけ出るんですかね?」
「多分そうだろう。でないとアレを何度もやることになるし」
確かに。だとするとソロには辛くないかね? いや、ソロ同士十人くらいでくれば十本の鍵がもらえるなら問題ないのか。
レンがアレンさんからでかい緑色の鍵を受け取る。狼軍団との戦いの報酬がこれだけってのは少し寂しいな。
「ねえ、ちょっと。ここに隠し扉があるよ?」
「えっ?」
メイリンさんが壁の一部に触れながらそんなことを言い出した。隠し扉?
「メイリンは【探知】スキルを持ってるんだよ。隠された物を見つけることができるんだ」
へえ。便利だな。売ってるのを見たことがないから、星付きのスキルかな。詳しく聞くと、メイリンさんはダンジョンなどで隠し扉や秘密の通路を見つけたりと斥候役を務めているらしい。
「えっと、これがスイッチかな? よっ、と」
ガコン、と壁の一部をメイリンさんが押し込むと、隣にあった壁がズズッ、とずれてぽっかりと穴が空いた。
「わ、すごい! 秘密の部屋だ!」
ミウラがはしゃいで空いた部屋の中を覗く。おいおい、罠があるかもしれないぞ。
そんな僕の心配は杞憂だったようで、部屋に入ったミウラから『やった!』という嬉しそうな声が聞こえてきた。
その声に引かれるように僕らも中を覗き込むと、そこには氷の部屋いっぱいに宝箱が置かれていた。
おおっ! これは確かに嬉しい。
「やった! あんなにアイスウルフを倒したんだから、これくらいは報酬がないとね!」
リゼルも嬉しそうに宝箱に駆け寄る。
「まさかこれ全部ミミックとかいうオチじゃないですよね?」
「いや、そこまで運営も意地が悪くはないだろう……」
セイルロットさんとアレンさんが物騒な話をしているが、さすがにそれはない……よね?
「大丈夫。ボク【罠察知】のスキルも持ってるから。ここにある宝箱は全部青色に光ってる。安全だよ」
すごいな、メイリンさん。頼りになります。
宝箱はちょうど十二個ある。一人で一個の計算だ。たぶんこれもあの狼を倒した人数分だけ用意されているんだろう。
そしてこの宝箱の形はランダムボックスと同じ、いわゆる運試し的な宝箱だ。あらゆる可能性を秘めたギャンブルボックス。しかし……。
「どうしたんですか、シロさん?」
「いや……。僕が開ける宝箱の中に、僕が欲しいものが入っている気がしないんだよね……」
この手の運の悪さはもう何回も確認済みだからな。小さくため息をつく僕の肩を、ポン、とジェシカさんが叩いた。そりゃもういい笑顔で。
「ねえ、シロ君、私の宝箱開けてみない?」
「え……。な、なんで?」
「その方がいいアイテムが出ると私の直感が告げているからよ!」
「あっ、ジェシカ、ズリぃぞ! シロ! 俺のも開けてくれ!」
「シロ君、シロ君! 私のも!」
ジェシカさんの言葉に反応して、ガルガドさんとリゼルからも手が上がる。それに続くように全員が僕に開けてほしいと挙手をした。
くっ! 僕の宝箱運の無さはこの人たちに吸われてるからじゃなかろうか。
だからといって断ることも出来ず、とりあえずジェシカさんの宝箱を開けてみる。
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【クリスタルパワーロッド】 AAランク
ATK(攻撃力)+88
INT(知力)+62
MND(精神力)+43
耐久性41/41
■水晶封の力が秘められた杖。
□装備アイテム/杖
□複数効果なし/
品質:F(最高品質)
■特殊効果:
対象一体に【水晶封】の効果。
魔力が続く限り、相手の動きを完全に封じる。
自分のレベルより高い相手は封じられない。
【鑑定済】
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「キタコレ! AAランク! さすが幸運の白ウサギ────っ!」
ジェシカさんが飛び上がって全身で喜びを表現する。喜んでもらえてなによりだが、僕の宝箱からいいものが出る可能性がガクンと下がった気がするのはなぜだろう?
「シロ! 次は俺のだ! 頼む!」
「へいへーい……」
もう半ばヤケになって、パカパカとみんなの宝箱を開けていく。
自分でも信じられないくらい、レアなアイテムや武器防具を引き当てていく。中にはその人が装備できるものではなかったりもしたが、レアアイテムには変わりはない。トレードや換金しても充分『当たり』と言えるものだった。
で、ラスト宝箱。当然これは僕の宝箱だ。他のみんなのはテキトーに開けていたが、これだけは神に祈るようにして開けていく。
「頼む……!」
開いた宝箱の中には輝くスキルオーブが。ノコギリとハンマーがクロスした見たことのないアイコンが浮かんでいる。
僕はとりあえずそれをインベントリへ収納し、アイテムウィンドウを開く。
あれ、メールが一通来てる。『エミーリア』……? 知らないプレイヤー名だけど、なんで僕のところに?
おっと、まあいい、それは後回しだ。手に入れたスキルはっと。
「【復元】……? 星三つのレアスキルだ」
「うおっ、スゲェじゃねぇか! これで十二回連続でレアアイテムだぞ! お前リアル【豪運】持ちかよ!」
なんてことをガルガドさんが言ってくるが、いや、コレ……僕、使えない……。
「えっ?」
「これさ、ジョブ制限ってのがあって……。生産職ジョブじゃないと装備できないっぽい……」
【復元】はアイテムを素材状態に戻すスキルらしい。つまり鉄鉱石を三つ使って作ったロングソードを元の鉄鉱石三つに戻すことができる。
手に入れた自分では使えないレアアイテムなんかも素材状態に戻したりできるわけだ。あるいは生産に失敗したアイテムを元に戻し、やり直すこともできる。
これってなにげにすごいことで、例えばランダムに属性がつく付与宝珠を、望む付与がつくまで何回でも作り直しができるってことだぞ。あ、一日の回数制限はあるみたいだけど。
「【月見兎】で生産ジョブっていうと……」
リンカさんの『鍛冶師』、レンの『裁縫師』。
以上。
使う頻度から考えるとリンカさんの方が必要だろう。なんでここにいないメンバーに役立つレアスキルを引くかな……。
トレードや換金するって手もあるけど……いや、ないな。星三つのスキルを手放すのはもったいない。ちゃんと【月見兎】で有効的に使うべきだ。
「ま、まあ、リンカさんにいいお土産ができたではありませんか」
「そだね……」
シズカが慰めてくれるが、もうなんか慣れてきた。きっと僕はこういったくじ引き的なものは総じてダメなんだ、きっと。
「というか、シロ君が宝箱開封業的な商売を始めたらすごいことになるんじゃないかな……」
「さすがに広まるのはマズいわ。運営が動き出すかもしれない」
「ああ、幸運の白ウサギは俺たちだけで……」
スターライトの面々がなんか怪しい相談をしているが、聞こえない。聞こえないぞー。
「よっし、これで全部片付いたな。それじゃあ打ち上げしようぜ!」
「さんせー! あたし久しぶりに『ミーティア』でケーキ食べたい!」
ガルガドさんの提案にいち早くミウラが乗っかる。メテオさんのところの喫茶『ミーティア』か。そういや最近行ってなかったな。
ガルガドさんやジェシカさんからはギルド【カクテル】が経営するバー『シェイカー』で、という提案もあったが、年齢制限のある子供もいるし、今回は『ミーティア』で、ということに決まった。物足りなければそのあと大人たちだけでどうぞ、ってことで。
僕らはポータルエリアから第二エリア、ブルーメンの町へとに跳び、通りから少し外れた喫茶店『ミーティア』へと向かった。
「こんちわー!」
ミウラが元気よく挨拶をしながらドアを開ける。
「おや、いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませー!」
店長である雪豹の獣人族メテオさんと、NPCの猫の獣人族であるシャノアさんが出迎えてくれた。
みんなが思い思いの席に座る中で、僕はシャノアさんへちらりと視線を向ける。
この人も本当はNPCなんかじゃなくて、宇宙人が宇宙の果てからログインしているんだよな……。未だに信じられないが。いったい何星人なんだろう……。
「どうかしましたか?」
「あ、いえ……えっと、クラブハウスサンドとダージリンティーを」
僕のそんな考えに気づいたわけではあるまいが、普通に話しかけてきたシャノアさんに慌てて注文をする。それをきっかけに他のみんなも注文を始めて、シャノアさんは僕の隣から離れていった。
「皆さん、ずいぶんとご機嫌ですね」
「おう! 第四エリアでレアなアイテムをかなり手に入れてな! いや、まったくシロ様々だぜ!」
「あまり嬉しくない……」
僕的には美味しくもなんともないし。次からは金取ってやろうか。
「第四エリアですか。そういえば先ほどまでレーヴェがここにいたんですが気になる話を聞きましたよ」
レーヴェさん? 着ぐるみのプレイヤー、レーヴェさんか。僕の中でレーヴェさんは仮面スーツの怪人……つまり宇宙人だと睨んでいるのだが、本当のところはどうなのだろう。実際に聞くわけにもな。
「気になる話って?」
「ええ、ギルド【エルドラド】が、第五エリアへ続く扉を発見したと」
「なんだって!?」
店長さんの話にアレンさんが声を上げる。第五エリアへの扉? するともう第四エリアのボスは倒されて……あれ? でも討伐アナウンスは無かったぞ?
「ああ、違いますよ。第五エリアの扉が見つかったってだけです。氷に閉ざされたその白い門には三つの鍵がかかっていて開かなかったそうです」
「白い門……に、三つの鍵?」
僕らは思わず顔を見合わせてしまう。鍵って、さっき手に入れたデカい鍵のことじゃないのか?
あの鍵が第五エリアへ行くために必要なアイテムだったのか。『白の扉を開く三つの鍵のひとつ』って鑑定にもあったしな。
するとどこかにまだあと二本、別の鍵があるのか……?
「えっと、気になる話ってのはそれではなくてですね。どうも【エルドラド】、その後に分裂したらしいんです」
「分裂? もしかしてギルマスとサブマスの確執がとうとう?」
「みたいです。かなり険悪な雰囲気だったらしいですよ。サブマスが三分の一ほどギルドメンバーを引き連れて脱退したようで」
ギルド【エルドラド】は【怠惰】の領域における最大規模のギルドだ。そのメンバーは二百人を超えると聞いた。その三分の一、七十人近くが抜けたのか。
たぶんその七十人ほどで新たなギルドを立ち上げるのだろう。それでもかなりの大所帯ギルドだが。
「ギルド分裂か……。大所帯には大所帯の苦労があるんだろうなあ……」
「でしょうね。みんなの意見をまとめなきゃいけませんし、場合によっては一個人の意見など無視することもありますからね」
多数決万歳ってか。無視される方は面白くないよな。そんなことを考える僕にマスターは話を続ける。
「【エルドラド】は一軍と二軍に分かれていて、基本的に攻略組と言われているのはギルマスのゴールディが率いる一軍なんだそうです。二軍は情報、資金、素材集めなんかをさせられているとか。そのランク付けのような体制をサブマスのエミーリアさんは嫌っていたようで……。いずれこうなるとは言われていましたけど……」
なるほど。起こるべくして起こった分裂ってことか。でもお互いのためにもそっちの方が……。
……あれ?
サブマスのエミーリア? 確かさっき来たメールの差出人もエミーリアだったよな? ギルドやプレイヤー名さえわかれば個人メールを送ることは可能だけれども、まさか……。
ウィンドウを開いてメールボックスからメッセージを取り出す。っと、これは……!
「どうしたんだい?」
「いや……。その【エルドラド】の元サブマス、エミーリアさんが僕に会いたいって……」
「……は? なんで?」
しばらくアレンさんはポカンとした顔でこちらを見ていた。なんでかなんて僕にもわからんよ。
【DWO ちょこっと解説】
■ダイレクトメッセージについて
送信相手のプレイヤー名、もしくは登録時のメールアドレス、電話番号などがわかればその相手に直接のメールを送ることができる。これはそれぞれに拒否設定もできるので、リアルな知り合いに身バレしたくないときはそのように設定も可能。ブロック機能もあるので特定の人物だけ着信拒否することもできる。