■110 【エルドラド】と【ザナドゥ】
■少し長くなりました。
ギルド【エルドラド】のサブマスター……いや、元サブマスターであった、エミーリアというプレイヤーからの招待に応じて、僕は第三エリアの湾岸都市フレデリカにやってきた。
ここには【エルドラド】のギルドホームがあるそうだが、僕が来るように指定された場所はそこではなかった。まあ、ギルドから離脱したのだから当たり前といえば当たり前なんだけど。
僕が指定された場所はフレデリカでも海沿いにある大きなレストランだった。
「レストラン『ベル・エキップ』……。ここか」
マップで確認してから門をくぐる。古びた洋館のような佇まいのそのレストランはなかなか洒落た雰囲気を醸し出している。これってプレイヤーの店なのかな?
カララン、とドアベルを鳴らしながら入口の扉を開く。中へ入ると給仕姿の【夢魔族】の青年が出迎えてくれた。NPCの人だな。
……ってことは宇宙人ってことか。ううむ、この認識がまだ慣れない……。
「いらっしゃいませ。『ベル・エキップ』へようこそ。お一人様でございますか?」
「あ、えと、ここで待ち合わせをしている者なんですけど……」
「ご予約の方ですね。お名前をお伺いしても?」
「あー、シロ、です」
【夢魔族】の青年は胸元から手帳を取り出してなにかを確認すると、深々と頭を下げた。
「ようこそ、シロ様。エミーリア様より承っております。こちらへどうぞ」
ギャルソンの青年についていくと、陽当たりのいい店の一角にいた二人の女性が席から立ち上がった。
一人はセミロングの金髪をウェーブにした眼鏡の女性で、白系統の皮鎧を装備している。アシンメトリーの装備からして弓使いかな?
もう一人は黒髪ショートの女性で、金属鎧を纏っているが重装備ではない。腰には剣。騎士タイプではなく剣士タイプのプレイヤーと見た。女性に対して失礼なのかもしれないが、凛々しいという言葉がぴったりな人だ。中性的な雰囲気がある。
「初めまして、シロさん。お招きに応じていただきありがとうございます。私がギルド【ザナドゥ】のギルマス、エミーリアです。こちらはサブマスのクローネ」
「【ザナドゥ】?」
「【エルドラド】から離脱したメンバーで設立した新ギルドですわ」
さっそく新ギルドを設立したのか。【エルドラド】に【ザナドゥ】ね。どっちも伝説の都とかだっけ? いや、ザナドゥは実在するんだっけか。ま、どうでもいいけど。
とりあえず二人と握手をし、席に座った。
「で、僕に話ってなんですか? 心当たりがないんですけど……」
二人に対し、僕からすぐに本題を切り出した。まず目的がわからないとどう対応したらいいかもわからないからな。
「……そうですね、では用件を言わせていただきます。シロさん。私達はあなたが『調達屋』ではないかと睨んでいます」
「っ……!」
ドキリとした表情を抑えられただろうか。早鐘のように鳴り続ける心臓を落ち着かせ、ゆっくりとコップの水を飲む。
「『調達屋』? いったいなんのことだか……」
「ギルド【六花】。『氷剣』のアイリスさんが所属するギルドですが、知っていますね?」
「……まあ、名前だけは」
もちろん嘘である。ギルド【六花】と言えば、ソロモンスキル【クロケルの氷刃】を持つアイリスがいるギルドだ。本人を知っているし、フレンド登録もしている。
彼女は僕が『調達屋』だと知っている。口止めしといたんだが、そこからバレたか?
「彼女が持つ細剣、『ブルーローズ』。これを製作依頼された鍛冶スキルを持つプレイヤーが、たまたまうちの……いえ、【エルドラド】のギルドメンバーと懇意にしてまして。聞いたところによると『ブルーローズ』にはAランク鉱石がかなりの数使われているそうです」
「……オークションとかで手に入れたんじゃないですか?」
武器製作サイドから漏れたのか。だけどAランク鉱石は全く手に入らないモノではない。ランダムボックスや、ガチャチケットで手に入れることだってできるのだ。実際、オークションに出されたこともあるらしいし。僕と直結させるには難しいと思うんだが。
「ええ。確かにアイリスさんはオークションでAランク鉱石を競り落としていました。ですが、その数を合わせても、とても『ブルーローズ』を作った数に足りない。しかも同じギルドメンバーのソニアさんの剣までAランク鉱石で作られたとか。間違いなくこの二人には『調達屋』が絡んでいると睨みました」
「…………」
やっべ。なんか嫌な汗が出てきたんですけど。VRなのに冷汗って出るの?
「問題はアイリスさんたちがどこで『調達屋』と接触したか。彼女たちの周囲に怪しい人物はいないか。調べたところ、とても怪しい場所を見つけました。それが雑貨屋『パラダイス』です」
おおう……。脂汗まで出てきた。僕がヤバげなアイテム下ろしている店まで突き止められてる。よく考えたらあんな怪しい店、真っ先に疑われるよな……。これはトーラスさんのセンスのなさが悪いんじゃ?
「雑貨屋『パラダイス』には珍しい品がたくさんある。大抵が一品物だったりするが、どこで手に入れたのかわからない素材でできていたりする。なによりも不思議なのは、まだ第三エリアまでしか解放されてない頃に、第四エリアに棲息するモンスターのドロップ品が使われていたことだ」
畳み掛けるように、エミーリアさんの隣にいたクローネさんが口を挟んできた。
ぬ、う。先々のエリアの物を先んじて手に入れている以上、いつかはそこに気付かれるとは思っていたが……。
「『パラダイス』は『調達屋』から素材を手に入れていると見て間違いないと思います。では『調達屋』は誰なのか?」
「……ランダムボックスとかガチャで手に入れた物では?」
「確かにその可能性もあります。しかし私達はこう考えています。『調達屋』はエリアや領国を越えて、移動できるスキルを持っているのではないか? と」
はい、当た〜り。なんでそこまでわかるかな!? なに? あなた、名探偵の孫かなんかなの!?
「そして確信を持ったのはこのSSを見てからです」
ピッ、とエミーリアさんがウィンドウを開くとそこに一枚のSSが開かれた。
男女四人のプレイヤーが町の中で馬鹿げたポーズをとっている写真だ。僕は知らない人たちだけど。
んん? エミーリアさんに似た女の子のプレイヤーがいるな。でも、これがなんだっていうのだろう?
「これは私の妹のSNSに上げられていたSSです。これ自体は普通の記念ショットでしかありませんが……。ここ。ここを見てください」
エミーリアさんが画面の一部を拡大する。町ゆく人々の中に、見慣れた人物がいた。
白い頭で白いマフラーをした僕が。
ありゃ、写り込んでたのか。
「シロさんですよね?」
「みたいですね。だけどこれがなにか?」
「妹は【傲慢】の領国のプレイヤーです。なぜ【傲慢】の領国の町に、【怠惰】のプレイヤーであるあなたがいたのかお聞きしても?」
……マズい。言い逃れできない証拠が出てきてしまった。こんなのがあったら、そら気付くわ! ど、どうすれば!?
「実は僕は双子で」
「このマフラーにあるギルドエンブレムは【月見兎】の物ですよね?」
「ドッペルゲンガーが」
「そのようなモンスターの出現報告はまだありませんが」
「…………僕です」
「ありがとうございます」
くそう、負けた……。エミーリアさんの目力がすごいんだよ! 獲物に狙いをつけたハンターみたいでさ!
「安心して下さい。これが載ったSNSは身内しか見ていませんし、妹に頼んでこのSSは消去済みです。他の方にバレることはないでしょう」
「そりゃどうも……」
それをどこまで信用していいものかわからないが、とりあえずそう答えるしかない。このSSが掲示板にでもアップされてみろ。僕は他の領国への扉が解放されるまで町を歩けなくなるぞ。
「で? 僕にどんな御用ですか?」
こうしてバレた以上、もはや取り繕っても仕方がない。僕になにをさせたいのか? ま、なんとなくわかるけど。
「私たち二人にもAランク素材をお譲りしてもらいたいのです。できれば一週間のうちに。もちろん相場の、いえ、それ以上のお金を払いますので」
返されたエミーリアさんの言葉は予想した範疇だったが、一週間以内ときたか。なにか急ぐ理由でもあるのだろうか。
「理由をお聞きしても?」
「一週間後に私たち二人は【PvP】で戦わなけれはなりません。万端の準備をしておきたいのです」
「【PvP】? プレイヤー戦をするってことですか?」
「私たちは【エルドラド】から離脱して作られたギルドだ。当然、ギルドではギルド所有のアイテムなどがあるんだが、これの分配で少し揉めていてね」
クローネさんが苦笑気味に答える。なんというかこの人、女性にしては男っぽい話し方するな……。
【DWO】では性別を偽れないから女性ではあるのだろうけど。歌劇団で男役とかしてそうだ。
「中には第四エリア攻略に必要じゃないかとされるアイテムもある。お互い譲れなくてね。結果、二対二のタッグマッチで【PvP】を行い、決着をつけることになったんだ」
ははあ、なるほど。大きなギルドだとそういったことで揉めることもあるのか。大変だな……。
「しかも負けたら【ザナドゥ】を解散して【エルドラド】に戻れって条件付きでね。まったく相変わらずワガママなお姫様だよ」
「お姫様? 【エルドラド】のギルマスは女性なんですか?」
「あれっ? うちの……あ、いや、【エルドラド】のギルマスを知らないの?」
知りませんが。知り合いでもないし。え、なに、有名な人?
きょとんとする僕にエミーリアさんが声をかけてきた。
「失礼ですが、シロさんはあまりテレビなどを観られないのでは?」
「え? ああ、まあ、そうですね。あまり観ないですね」
島にいた時はチャンネルが少なかったし、伯父さんとの稽古で疲れてすぐ寝ちゃってたからな。
こっちに来てからは、引っ越しや『DWO』に夢中になっててニュースくらいしか観てない。
でもなんでそんなことを?
「金城つきひ。今売り出し中のティーンアイドル。ご存知ありません? けっこうテレビにも出てますけど」
「えーっと、すみません、知りません……」
アイドルなんかわからんよ。あまり周りにそういう趣味の人もいなかったしさ。クラスの女子が、なにか男性アイドルのことで騒いでいたりしたのは見たことあるけど。
「で、そのアイドルがなにか?」
「その金城つきひが【エルドラド】のギルマス、ゴールディだよ」
「えっ!?」
アイドルがギルマス? えっ、身バレしてんの? それ大丈夫なのか?
「もともとゲーム好きってキャラで売り出してたからね。SNSとかでも自分のアバターを公開してたし、隠してるわけじゃないんだよ。どっちかというとそれを売りにしてる」
「でもそれって、変なのが押しかけてきたりするんじゃ……」
現実世界ならまだしも、VRでは様々なことができてしまう。嫌がらせとかされたりするんじゃなかろうか。
「押しかけてはくるけど、VRの方が登録に身分証明の認証が必要な分だけ、処理しやすいよ。迷惑なプレイヤーは運営に通報するし、直接的な接触は周りのギルドメンバーが排除するしね。実際何人か迷惑行為でアカウント剥奪された奴もいるよ」
『DWO』でのアカウント権利剥奪はかなりキツい。なぜなら副アカウントを取れないからだ。一度アカウントを剥奪されてしまうと二度とゲームで遊ぶことはできない。
それ故によほどのことでもなければ剥奪なんかされないのだが、悪質な嫌がらせ、迷惑行為、セクハラ、犯罪行為、規約違反などで一発アウトされることもある。
管理されているゲーム内での行為は、全ての証拠が残っていると見ていい。『誰々にこういうことをされた』と通報があれば、すぐさま運営は確認ができるのだ。それにより度を過ぎた迷惑行為だと判断されれば、アカウント剥奪となる。
「【エルドラド】のメンバーはほとんどゴールディ……金城つきひのファンで構成されています。言ってみれば彼女のファンクラブみたいなものですよ」
だから二百人以上もギルドメンバーがいるのか……。いや、アイドルのファンの数としては少ないのかな? よくわからないけど。
「ああ、【エルドラド】はギルドに入るのに選抜試験があるからね。誰でも入れるってわけじゃないんだ。以前はそうじゃなかったんだけど、入ったギルドメンバーでやらかした奴がいてね。それ以来、ギルドメンバーは選ぶようになったんだ。入ったとしても【エルドラド】にはランク分けがあって、入ったばかりのメンバーなんかはゴールディには近寄ることもできないけどね」
なるほど。しかし、変な奴を近づけさせないためってのはわかるけど、ちょっとやり過ぎな気もするな。
「もちろんメンバーには彼女のファンではなく、純粋にゲームを楽しみたいというプレイヤーもいました。主に私たちのような初期メンバーですね」
「私たちはゴールディが金城つきひとは知らずにギルドに入ったからね。最初の頃はみんなで楽しんでたんだけど……」
なんかしんみりしてしまった。話を切り替えよう。
「とにかくその【エルドラド】とタッグマッチの【PvP】をして勝つために装備強化が必要なんですね?」
「そういうことです。お願いできますか?」
「お二人の職業は?」
「私が【射手】、クローネが【剣士】です」
見た目通りか。すると弓と剣、木材と鉱石。防具としてはどちらも軽装らしいし、それほど素材はいらないだろう。まあ、なんとかなるかな。
僕はインベントリからAランク鉱石である【星鉱石】と、同じくAランクの木材である【マルグリッドの原木】をトレードウィンドウに表示させた。
「こ、これは……!」
「Aランクの木材まで……!」
目の前に表示された物に二人とも釘付けになっている。まあ、仕方ないか。
「これらがいくつ必要ですか? 足りなければ取りにいかないといけないので」
「え、あ、ああ、ええっと、こちらの原木は三本ほどで大丈夫だと思います。鉱石の方は剣と鎧、合わせて八個もあれば……」
ふむ。原木の方は間に合うな。鉱石の方は『硫黄の玉』の件でリンカさんにほとんど渡してしまったから、補充しないといけないか。まあ、一日もあれば集まるけどさ。
「じゃあ、原木の方はいま渡しておきます。鉱石の方は明日までに揃えるので……」
そこまで話した時に、カララン、とドアベルの音が鳴った。客か。
入口の方へ視線を向けると、何人かのプレイヤーがやってきたようだった。
「あっ……」
「む……」
入口の方をチラ見したエミーリアさんとクローネさんが小さく声を上げる。ん? 知り合いか?
もう一度入ってきたプレイヤーの方に視線を向けると、その中の一人がこちらへ向けてズンズンとやってくるのが見えた。
長い金髪ツインテールに、瞳は赤と青のヘテロクロミア。歳は十三から十四くらいで中学生か? 整った顔立ちは可愛らしいが、現在その目はムッと吊り上げられている。
杖を持っているところを見ると魔法使い系のジョブらしいが、フリルとリボンのついた衣装はまるでステージ衣装のようだ。あ。ひょっとして?
「久しぶりね。エミーリア、クローネ」
「ゴールディ……」
腰に手をやり、睨みつけるように少女が二人に話しかけた。やっぱり。
「こんなところで作戦会議? 今なら許してあげなくもないわよ?」
「許す? 許してもらう必要はないわ、ゴールディ。お互い考えが違うのだから、違うギルドにした方がいいでしょう? 今度の【PvP】はこれまでのケジメよ。私たちについて来てくれたみんなのためにも必ず勝つわ」
「ぐむう……」
ゴールディと呼ばれた少女がますます眉根を寄せる。
すると、ゴールディの横にいた黒い鎧を着込んだ金髪プレイヤーがエミーリアさんの前にずいっと出てきた。
「ずいぶんと自信があるようだが、俺たちに勝てるのかい? 今まで何回か【PvP】してきたけど、あんたたちに負けたことはほとんどないんだがなあ」
「くふふ。ボクらは『コロッセオ』でベスト32入りした腕前ですからねェ。無理もないですけど」
もう一人、一緒にいたメガネのオカッパプレイヤーが変な声で笑う。……ベスト32って微妙な気もするけど……。
いや、この【怠惰】内で上位32人ってことだから強いのか……? でも『コロッセオ』の戦いはギルドに所属してないと参加できなかったしなあ。他に強いソロプレイヤーもたくさんいそうだが。
というかその『コロッセオ』で準優勝したガルガドさんと僕らよく【PvP】してるんだけど……。勝ち負けでいったら負け越しているが、そこまで圧倒的な差はない気もするんだが。
「ところであんた誰? 見ない顔だけど」
「え、僕? あー……、単なる取引相手です。どうぞお気遣いなく」
あまり関わり合いになりたくなかった僕は、ゴールディにそう答えた。どうか構わないで下さい。空気だと思ってくれれば。
「あっ、こいつ『ウサギマフラー』っスよ! 『PK殺し』の! あのマフラー、間違いないっス!」
「『ウサギマフラー』?」
僕がせっかく空気になろうとしているのに、ゴールディの後ろにいた、いかにも下っ端みたいな喋りをするプレイヤーがこちらを指差してきた。おのれ、余計なことを。
というかなんだその『PK殺し』ってのは。たぶんPKであるドウメキを倒したことからなんだろうけど。確かに【PKK】って称号を持ってるけどさ。
「『PK殺し』……。ふうん、そういうこと。そいつに特訓を頼んだってわけね」
「いえ、そういうわけでは……」
「ふん、隠さなくったっていいわよ。でもそんなんで勝てると思わないことね!」
エミーリアさんの言葉を遮ってゴールディがビシッと指を突きつける。なんだろう、人の話を聞かない子だな。
「思い出した。こいつ【スターライト】の寄生ギルドのやつだろ。【スターライト】にくっついて、第三エリアボスの初討伐にちゃっかり乗っかったギルドの」
黒鎧のプレイヤーが発した言葉に僕は心の中でムッとする。
『寄生』とはその名の通り、強いプレイヤーと共に行動し、そのおこぼれをもらうだけの行為を指す。自分では努力せず、他人の力を当てにして、楽して利益を得ようとする嫌われる行為だ。
どうやらこいつは僕らをアレンさんたち【スターライト】にくっついて行っただけの、腰巾着ギルドだと思っているらしい。
「PKを倒したってのも胡散臭いぜ。弱ってた奴を狩ったか、なんかインチキをしたんじゃねぇのか? どうなんだ、おい」
あまりにも馬鹿馬鹿しい話に呆れ返る。なんだその短絡的な考え。調子に乗ってる中学生かな? そう思ったら思わず笑いが出てしまった。
「なにがおかしい!」
「いや? 二百人もギルドメンバーがいながら、まったくボスまで辿り着けなかった形ばかりの大手ギルドが囀るなあと思って」
「なんだと!?」
僕の言葉に【エルドラド】のメンバーが怒りの視線を向ける。言っとくけど最初に喧嘩を売ったのはそっちだからな?
「シロさん、それ私たちにも刺さります……」
エミーリアさんがなんともいえない顔でそんな言葉を漏らす。ありゃ。すみませんね。
一触即発の中、ゴールディが僕を睨みつける。
「いい度胸してるじゃない。私たち【エルドラド】に喧嘩を売るなんて」
「別に喧嘩を売るつもりはないけどね。こんな奴らばかりだと、エミーリアさんたちが辞めたくなる気持ちもわかるなって」
「ゴールディさん! こいつ俺らをナメてますぜ! ふざけやがって! おい! 表へ出ろ! 『PK殺し』を殺してやっからよ!」
黒鎧がそう叫び、【PvP】の決闘申請が送られてくる。ふん、デスマッチか。面白い。いいよ、やってやるよ。売られた喧嘩は買う主義だ。
僕は【YES】を押して参加を承認し、レストランの外へと出る。波止場近くなので通りは広い。
ゴールディら【エルドラド】の面々に加え、エミーリアさんとクローネさん、その他の野次馬も集まってきた。
【PvP】の審判である三頭身のデモ子さんが、ポンッと空中に現れる。
『【PvP】が成立しましたですの。カウントダウンを始めますの』
黒鎧が腰の剣を抜く。盾無しか。【剣士】だな。
「ウサギ野郎が……! ぶっ殺してやる!」
黒鎧が喚き散らす。面倒だ。初めから全力でいこう。僕のスキル構成は初見殺しだからな。その方がいい。とにかく手数と連続コンボだ。
『決闘開始!』
「【分身】」
「なっ!?」
HPが六十四分の一になる。いきなり七人に増えた僕に、金髪黒鎧が驚きの声を上げた。しかしその驚きを待ってやる気はさらさらない。
「【加速】」
「えっ……!?」
七人の僕が一瞬にして黒鎧との距離を詰める。
そこからの────。
「【双星斬】」
「がっ!?」
星形の軌跡を描く左右合わせての十連撃。合計七十もの斬撃が黒鎧に叩き込まれる。【分身】の効果でHP、【加速】の効果でMPは激減しているが、STはまだある。
まだいける。ここから……っ!
「【スパイラルエッジ】────からの」
七人が回転しながら上昇し、中心にいる黒鎧を切り刻む。手にした『白焔改』と『黒焔改』から追加効果が発現し、炎の竜巻が巻き起こった。
「【ダブルギロチン】」
そしてそのまま、上から手にした二刀をピヨってる黒鎧へ叩きつける。
七人分、十四の刀身を受けた黒鎧はその場にバッタリと倒れ、あっさりと光の粒になった。
『決着! 勝利プレイヤー【シロ】!』
デモ子さんが僕の勝利を宣言し、【PvP】が終了する。
あれ? もう終わり?
【DWO ちょこっと解説】
■アカウントの権利剥奪について
【DWO】において、アカウント取得は一人ひとつまでとなっている。そのため、アカウントの権利剥奪はこのゲームへの参加剥奪ということになり、二度と【DWO】にログインすることはできない。これは非常に厳しい処罰であるが、プレイヤーにおける違反行為、嫌がらせ、セクハラ、システムに干渉する犯罪行為などにおいて実行される。ちなみにゲーム内における嫌がらせやセクハラで、リアルに訴えられることもあるので注意。




