15話 市場調査①
ギルドに就職して三日目。今日は休みをもらっているので街を散策することにした。
不動産の相場確認や、今後のことも考えての下調べだ。
チュートリアルクリア特典の〈通販〉〈換金〉は素晴らしい恩恵だ。
しかし、コスパが悪い。なので、こちらの世界でまかなえる品々を調査することにした。
最優先すべきはコメである。
前世では物価高騰の煽りを受けて、コメの価格が三倍になった……。
島国ジャパンに生まれて、普通に食べていた米が高級品に様変わりした。実に嘆かわしいことである。
お国がどうの、政治家がどうのなんて、死んだからもう関係ないけど。コメだけは食いたい!
大和魂の原動力といえる尊き白い粒――コメ。長きに渡り連綿と受け継がれたコメ。その歴史は古く、古代日本の邪馬台国まで遡る。日本を語る上で、避けては通れぬ存在なのだ!
コメを用いた料理は多岐に渡る。
万民が知るおにぎりに始まり、スシ、ドンブリ、カレー、チャーハン、ミ●ノ風ドリア、中華お焦げに、きりたんぽ、煎餅……。
時にはラーメンのお供になり、時には溶き卵や納豆と手を組み、数多の男たちの胃袋を満たしてきた。
食欲の無い時でもコメさえあればいい。雑炊にお茶漬けと、痒いところに手が届く優れものだ。
そう、コメは日本人にとって必要不可欠な存在なのだ!
一部の不届き者はコメをソウルフードと言っているが、あれは軟弱者の言葉だ。ソウルフードなどチャラい言葉で片付けられては困る。コメは日本人の魂そのものである!
主食という大役を担ってきたコメが無いなどあっていいはずがない!
コメ無くして、引きこもり無しだッ!
そんなわけで、コメを調達すべく職場である商業ギルドに足を運んだ。
受付窓口に一直線。
一番美人の受付嬢がいる列に並んだ。
待つこと二〇分。俺の番がまわってくる。
「本日はどういったご用件で……ヤシロさん!」
受付窓口の女神、ミーナさんが俺の名前を覚えてくれているなんて。
感動しているさなか、彼女は続ける。
「今日は非番のはずでは?」
「ギルドに頼みたいことがあって客として来ました」
「えーっと、どういったご用件で」
コメについて力説すると引かれそうなので、コメがほしいとだけ伝えた。
「コメ……ですか」
「コメです」
「現物を見てみないことにはなんとも言えません」
ミーナさんの説明により、コメがこの世界では『ムチムチの実』と呼ばれていることを知った!
牛や鶏は同じ名称なのに、なぜコメだけ呼び方が違うんだ!
この際なので、尋ねてみる。
「じゃあ、八百屋で売っている、定番お野菜は!」
「キャベツとタマネギ」
「白くて太い長い奴は!」
「……ふ、太くて長い…………」
「あのゴツゴツした肌で、たまに卑猥な根っこがにょろんって生えているアレですよ!」
ミーナさんは頬を赤らめた。
身振り手振りでジェスチャーして、大根を伝えると、
「ダイコーンですね」
「そう、それ!」
こんな感じで前世とこちらの名称を確認した。
ちなみに、コメ以外はだいたい前世と同じ呼び方だ。
知りたいことを聞き尽くしたので、コメのお取り寄せ契約を交わした。
一〇キロで銅貨一枚と驚きのプライス!
転生する直前、日本では一〇キロ九千円もしていたコメが、こっちじゃたったの千円だと!
なんたる物価安! なんたる天国!
ああ、そういえば肉も安かったな。
コメのついでに小麦粉事情も尋ねる。
「ちなみに小麦粉のお値段は?」
「銅貨五枚です」
小麦粉も安いが、コメはもっと安い。破格だ。
破格な理由を聞くと、家畜の餌として流通しているだと教えてくれた。それも粗悪な餌として……。
コメの美味さを知らんとは! 無知もここまで来ると呆れてしまうな。
シノギの匂いがプンプンするぜッ!
「ヤシロさん、食用のコメが入荷するのは早くても三ヵ月先です。それよりも遅くなる可能性がありますが、よろしいですか?」
「お願いします。気に入ったら定期購入する予定なので、その際はまたこちらに寄らせてもらいます」
「分かりました。本日はコメのご契約ありがとうございました」
人気ナンバーワンに相応しい、美人受付嬢の微笑みをいただき契約完了。
これで三ヵ月後からコメが食える!
それまでにご飯のお供を探さねば!
引きこもり生活に向けて、大きな一歩を踏み出した!
ことわざに『衣食足りて礼節を知る』とある。
俺には分かる。住む家と食べ物があって初めてニートとしての礼儀作法を知るという意味だ。
食はなんとかなりそうだ。次は、将来引きこもる城の相場を調べよう。
再度、ミーナさんに尋ねる。
「家を買うにはどうしたらいいんですか?」
「今度は家ですか……」
「はい、家です……」
住宅購入には条件があると教えてもらった。
条件は三つ、一つ目は三年以上の定住、二つ目は納税の義務を果たしていること、三つ目は家屋取得権の購入となっている。
「あのう、条件の一つ目と二つ目は分かりましたが、三つ目の家屋取得権はおいくらなんでしょうか?」
「金貨十枚です」
一日で銀貨十枚=金貨一枚を稼げる。週四勤務で月の出勤日が約一八日、ということは月給は金貨約一八枚。なんだ楽勝じゃないか。
「ヤシロさんなら三ヵ月で貯められそうですね」
ん? 計算間違ってないか?
聞き直すと、税金は自分で払うシステムだと教えてくれた。
「日当は税金を差し引いた額じゃないんですね……」
「何を言ってるんですか。本人が、直接徴税官に支払うのが普通でしょう」
「…………」
税金について深掘りすると、三ヵ月に一度徴税官が取り立てにくるらしい。
ちなみに税率は驚きの六〇パーセント。
働いた半分以上が税金とか……泣きたくなるぜッ!
引きこもる前に一揆を起こそうか本気で悩んだ。
ともあれ物件の相場を調べないと。
家屋に関しては個人売買が主流らしく、空き家に張られている張り紙に大体の値段が書かれているらしい。
大体の値段というのは、持ち主の気分次第で値段が上下するからだ。
嫌な奴なら値段をつり上げ、気に入った相手なら値引きするって感じにな。まったくクソみたいなシステムだ。
「持ち主の気分次第で値段が変わるとか、悪徳不動産じゃないか」
売主の気紛れ価格は腹立たしいが、救済策として値引き交渉は可能。
長い間売れていない物件であれば交渉次第ではかなり下がるらしい。
いますぐ買うわけじゃないので、予行も兼ねて物件の下調べをすることにした。
不動産探しの旅に出る。
狙う物件は、職場であるギルドから徒歩十五分圏内。
社畜にとって、住む家は近さこそが正義だ!
エリート社畜を自称するなら、職場に住めよと言われそうだが、プライベートは別。
俺だって一人になってはっちゃけたい。
家に帰って全裸になって踊り狂うとか、大音量でゲームするとか、しこたま酒を飲んで叫ぶとか……。
前世ではチキンな性格でできなかった、ワイルドでデンジャラスなプライベートを過ごしたい!
そのためには是が非でも一軒家がほしい!
それが無理なら、せめてアパートだけでも……。




