14話 鶏肉といえば
勤務二日目。
暗算の勘を取り戻した俺は、昨日の倍近くの仕事をこなした。
手を抜こうと思っていたが、身体に染みついた社畜根性が邪魔して、つい目の前の仕事を片付けてしまう。
大量の仕事を捌いても給料は変わらないのに、この体質どうにかならんのか……。
そんなことを考えながら定時退社しようとしたら、昨日の倍の日当が支払われた!
「ランプートさん、これ間違ってませんか?」
銀貨十枚を上司であるランプートさんに見せたら、
「やはり少なすぎましたか……」
「えっ! いや、そうじゃなくてですね」
ランプートさんに理由を説明すると、
「賃金が多い? そういうことを言われるのは初めてですね。ヤシロ君はギルドで働くのが初めてなようですから説明しましょう。ギルドの発注する依頼や仕事は基本出来高制。難易度によっては価格が変動しますが、おおむね基本料金です。ですから、ヤシロ君に限らず、職員の賃金はこなした仕事量から算出しています。ヤシロ君の働きは銀貨十枚を越えます。ですが、ギルドとして出せる金額が決まっていまして……今日はこれで我慢してもらえないでしょうか?」
「そりゃあ構いませんけど」
「それと勤務日数も週に四日ほどに控えてもらえると助かるのですが……」
高賃金に週休三日の好待遇。断る馬鹿はいない!
「そのご提案、よろこんで承ります!」
ご機嫌で、夕食の材料を買いにいく。
今日も肉のおじちゃんの店によって、肉を購入した。
昨日は牛肉づくしだたので、今日は鳥づくしだ。
モモ、ムネ、手羽、砂肝、軟骨、せせり、ミンチと一通り揃えてみた。珍しいフワやボンジリもある。ここまできたら、もうアレしか無いだろう。
スキルの〈通販〉でヤキトリのタレと炭、焼き網を購入した。
串はおじちゃんのところで買ってある。七輪の代わりは寮のキッチンにある古いカマドを使う予定だ。
送料がかかるので、箱買いした。おかげで一万円も飛んでいったが悔いはない!
今回は肉だけでなく、別の店で野菜も購入した。
備え付けの気合の入っていない野菜ではない、やる気と希望に満ちたシャキッとした野菜たちだ!
ヤキトリの定番といえばネギ。オプションにシイタケ、シシトウ、それに炭火焼きの醍醐味トウモロコシ。ヤキトリに欠かせないピーマンも忘れていない! つくねと言えばピーマン! 渋い大人の苦みを味わい、最上のヤキトリを食らう。いいじゃないか。
本当はビールも買いたかったが我慢した。中身はおっさんだけど、この世界では一六歳の少年だしなッ!
飯マズ宿の時は飲酒したが、ここで人目がある。それに、まだ成人認定を受けていない。自重しよう。
それにしても自分の顔を見られないのは辛い。スマホだけじゃなく、桶に汲んだ水にすら顔が映らない。何かの制約か? もしかすると、クエスト達成報酬に〝自分の顔が見られる〟があるかもしれない。
でもまあ、ブサイクじゃないみたいだし、どうでもいいか。
クエスト達成の報酬よりも自由を選択した。
豪華なディナーに向けて、地味な作業をする。
肉を一口サイズに切って、ひたすら串に刺し続けた。
例によってツンツン女子が俺のことを見ている。
夕食をたかるつもりなのだろう。悪びれた風に、もみあげカールに指を絡めて手遊びしている。
フッ、こっちは先刻承知! ハイエナを恐れていては狩りなどできん! 賤しき厄介者、そのハイエナをも遣いこなさねば!
こちらをチラ見しているルディスに問う。
「今日も味見したいか?」
「ど、どうしてもと言うのなら……味見してやらんこともない」
強気な発言だったが、その貌には媚が浮かんでいた。
まったく素直じゃない。
まあいい、たかられるのは想定内だ。食い気を逆手に取ってやろう。
「味見なんてケチなことは言わん。手伝ってくれたらやるぞ」
「ほっ、本当か!」
まあまあ美人の碧眼がキラキラ輝いた。
「俺は嘘をつかない男だ。約束しよう。全種類食べさせてやる」
すでに、串に打った肉たちを見せる。
「全種類! いいのかッ!」
「ああ、その代わり火起こしを手伝ってもらうがな」
「やるやる、火起こしやる! 得意だ!」
かかったな!
炭火焼きにおける、もっとも嫌な作業は火起こしだ。
〈通販〉で着火剤を買っていれば楽だったろうが、逸る気持ちが先走って買い忘れてしまった。
送料千円とべらぼうな金を取られるので、注文を渋っていたのだが、使える手下がいるのなら話は別。
食べるのを条件に手伝わせよう!
「じゃあ頼んだぞ」
「うむ、頼まれたッ!」
火起こしをルディスに任せて、串打ちに専念する。
俺は地味な作業は好きなタイプだが、成果が見えないのは苦手だ。
あれはやる気が湧かん。
炭の火起こしなんかがそれで、たかが着火に手間取ってしまってイライラする。
キャンパーが趣味の同僚はそういうのもキャンプの醍醐味だと言っていたが、俺に言わせりゃ時間の無駄だ。
何事も効率よくこなさねば。
そんなわけで、ルディスに任せた。
ぼったくり価格の〈通販〉と違って、肉のおじちゃんは良心的だからな。
一人分くらい多めに買っても出費はしれている。
この際だ、ルディスを餌付けしよう。
ここで餌付けしておけば、ニートになった時パシリとして使えるだろう。
色々考えている間に、串を打ち終わった。
問題の火起こしだが……。
「こんな感じでいいか?」
カマドの中で炭が赤々と燃えている。
「ふ、ふつくしい……」
カマドの上に網を置いて、串に打った肉を並べた。
「火から離れているが、いいのか?」
「一向に構わん! むしろウェルカムだ!」
遠火の強火は、外こんがり、中ジューシーの仕上がりに必須とされる技。
幸いなことに、炭と網の間は絶妙な距離。
いいぞ、ルディス! それでこそ未来のパシリだ!
しばらくすると、鶏肉の脂が滴り、ジュワッと蒸発した。いい匂いが立ちこめる。
口内に唾が湧く。
「「…………ジュルリ」」
ほどよく火が通ったら、壺に移したヤキトリのタレにダイブさせた。
「もう食べるつもりか? まだ早いぞ」
「知っている。この料理はこうやって、何度もタレに潜らせて味を染みこませていく料理だ」
「なんでそんな手間のかかることをするのだ」
「決まってるだろう、美味くなるからだよ」
「…………」
ルディスの目が怪しく輝いた。俺の目も輝いているのだろう。パシリにステイさせたことだし、作業に戻る。
タレを潜らせた串を網に戻すと、さらに美味そうな香りが立ちこめた。
心の中に飼っている獣が騒ぎ出す。早く食わせろと……。
口から溢れそうな涎を我慢して焼いた。
空腹と葛藤しながら焼くこと五分。第一陣が完成した。
「食ってみな?」
「これも飛ぶのか?」
「間違いなく飛ぶ」
「…………ゴクリ。それではお言葉に甘えていただこう!」
言い終わると、串に刺さった肉を一口で食った!
まあまあ美人なだけに予想できないワイルド展開だ! だがいいぞ! プライドという鎖に繋がれていた野生、それを解き放った。俺が見ているのは嘘偽りのないルディスだ!
ここで大きな誤算が発生する。
許可していないのに、ルディスは二本目、三本目と食べ進めていった。
凄まじい速さで食っていく。
俺も負けじと食べた。
「このコリコリしたの美味いな」
「軟骨だな。塩だともっと美味いぞ」
「昨日食べたハンバーグみたいな串もコリコリしているが、そっちも塩なのか?」
「いや、つくねはタレだ!」
串を焼きながら、二人で食べる。
ヤキトリの合間に、口の中をサッパリさせるべく生ピーマンを囓った。
お口の中の脂をピーマンでリセットして、ヤキトリを貪るの繰り返し。
たまにネギマや焼いたシイタケ、シシトウで口の中を味変してヤキトリを食べ続けた。
締めに、焼きトウモロコシを用意している。こちらは焼きながらショウユを何度も塗って、味付けした。
ルディスも食べるだろうと勧めたのだが……。
「今度は馬の餌か……」
「勘違いするな食用のトウモロコシだ」
「本当か?」
「ちゃんと確認して買ったから間違いない。行くぞ!」
「むぅ、ヤシロを信じるとしよう」
一口食べる。
トウモロコシの甘さと、ショウユの塩気が絶妙に絡み合って、いくらでも食べられる!
二人して無言でトウモロコシを食べた。




