第7話 雨宮、動く
メッセージを送ったのは、翌朝だった。
「相談があります。面会の時間を作っていただけますか」
返信は4分で来た。
「今日16時。管理局外の喫茶店。場所を送ります」
直人は端末をポケットにしまった。
◇
場所は管理局から2つ先のビルにある、小さな喫茶店だった。
奥の2人席。雨宮はすでに座っていた。
「話して」
着席する前に言われた。
直人はカバンから封筒を取り出した。
木箱の底から剥がした調査報告書を、折り畳んで持ってきていた。
「倉庫の木箱の底に貼りついていました。7年前の日付です」
雨宮は無言で受け取り、広げた。
読む時間は短かった。
それでも視線は1行も飛ばしていない。そう分かった。
「第22層。封印。そして坂下」
3つの単語を確認するように言い、雨宮は紙を折り戻した。
「剣は今も倉庫にありますか」
「はい。動かしていません」
「動かさないでください。今日からしばらく」
直人は頷いた。
「登録期限の通達については、ご存知ですか」
「坂下が直轄で出したという件なら。三田村から伝わっています」
「坂下の目的をどう見ていますか」
雨宮は一度、コーヒーカップに目を落とした。
「スキルを管理下に置きたいのか——それとも、あなたを通じて剣を手元に引き寄せたいのか。今の段階では断言できません。ただ」
静かに、カップを置く。
「急かしてくる理由は、そちらにあります。登録させてしまえば、あなたの行動は全部、管理局の管理下に入る。倉庫にある装備の扱いも含めて」
直人は黙って聞いていた。
「登録期限は私が止めます」
「……可能ですか」
「個人依頼契約には、専用装備の優先管理条項を付けています。私の装備管理にあなたのスキルが必要という根拠で、外部干渉を排除できます。法的に争えば2〜3ヶ月は動かせない」
「2〜3ヶ月で、できることがありますか」
「あなたが剣を読めるようになれば。あるいは、坂下の関与が外に出れば」
雨宮の目は、相変わらず冷えていた。
だが今は、同じ方向を向いていた。
直人は一つだけ聞いた。
「その剣に、触れようとしていますか」
雨宮は少し間を置いた。
「……まだ、その段階ではありません。今は動かさないことが先です」
「分かりました」
席を立つ前に、雨宮が付け加えた。
「坂下には、まだ会わなくていいです。来たら普通に対応して、何も言わないでください」
「はい」
「焦らせてくる。それが向こうの手です」
直人は頷いて、喫茶店を出た。
◇
管理局の廊下に戻ったところで、小田切と鉢合わせた。
「あ、神谷さん。ちょうどよかった」
小走りで近づいてくる。
「なんか変な話、聞きます?」
「聞きます」
「昨日の夕方、資材記録室の係員と飯食ったんすよ。そこで聞いたんですけど——旧倉庫の棚卸し記録に、閲覧申請が入ってたって」
直人は表情を変えなかった。
「閲覧申請?」
「それ、普通あんまり起きない話らしいんですよ。廃棄倉庫の記録なんて誰も見ないから。でも1週間前に申請が通ってたって。申請者の名前は資材管理課の内部扱いで教えてもらえなかったけど」
直人は少し考えてから言った。
「教えてくれてありがとうございます」
「なんか怪しいっすよね」
「記録に残るということは、手続きを踏んでいるということです」
小田切は首をひねった。
「神谷さんって、たまに言い方が事務みたいですね」
「倉庫番なので」
「そっか」
笑って、小田切は廊下を去っていった。
直人はしばらくその場に立っていた。
1週間前の閲覧申請。
直人が報告書を発見したのは3日前だ。
向こうは、すでに動いていた。
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