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白い雨  作者: ぽんこつ


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23/23

収束

見渡す限りの暗闇の中。

「お兄ちゃん……」

聞き覚えのあるような。

ないような。

女性の声。

ああ。

誰かを呼んでいるのか。

あの……

声を発したつもりでも。

音が出ていない。

辺りを見回せど。

何も見えない。

そもそも。

ここはどこなんだ。

立っているのか?

寝ているのか?

それすらもわからない。

「お兄ちゃん……」

さっきより。

はっきりと大きく。

ふと見上げた宙空に。

小さな白い点が見えた。 

僕はそこへ手を伸ばした。

全く届かない。

「起きて、お兄ちゃん……」

声はその一点から漏れている。

僕は飛び上がるようにして。

目一杯、腕を伸ばした。

指先が――

触れた瞬間。

点が弾けて。

筋となって四散する。

そして。

雨のように降り注ぐ。

それを。

浴びながら。

「白い雨か……」

目を閉じたら。

ぼんやりと辺りが白くなる。

「あっ。看護師さん!」

女性が叫んだ。

僕の顔を覗き込む大きな瞳。

「おはよう。お兄ちゃん」

高らかな声。

僕がお兄ちゃん?

ということは。

この病衣を着た子は妹?

「ここは?」

「病院だよ。車で事故にあったんだよ」

「事故?」

「そう、あの日。チェックアウトした日だよ」

僕は首をかしげた。

「ん? 覚えてないの?」

「はい」

女性は両手で口を覆う。

「私が誰だか分かる?」

「あ、僕の妹?」

女性は首を振る。

「お兄ちゃんが……ううん。芹沢さんが、寝言で、お兄ちゃんのこと許してくれって……」

「僕が?」

全くもって。

意味が分からない。

目の前の女性は両手を胸に添えて。

ゆっくりと息を吐く。

くるりと背を向けて。

病室を出て行った。


それから医者や看護師らしき人が来て。

質問やら検査やらして。

ただ、何かを思い出そうとすると。

激しい頭痛に苛まされた。

分かったことは。

僕の名前が芹沢優志だということ。

名前以外。

何も分からない。

コン、コン。

扉がノックされる。

「あ、はい」

扉が少し開いて。

先ほどの女性が顔をのぞかせた。

「入ってもいいですか?」

「あ、どうぞ」

開け広げられた扉。

ん?

さっきまで病衣姿だった彼女の出で立ちが。

クリームイエローのワンピースに着飾っていた。

彼女は後ろ手に組んで。

ぴょんぴょんとスリッパを鳴らしながら。

跳ねるように近づいてきた。

僕はゆっくりと体を起こす。

「ああ、寝てていいですよ」

彼女はそっと僕の肩に手を添えて。

横になるように促した。

「すいません。ありがとう」

彼女は布団までかけてくれた。

そして、髪を耳にかけてはにかむ。

「はじめまして。神林心音です」

軽やかな澄んだ声だった。

「ああ、はじめまして、芹沢優志です」

「うん。ねえ、芹沢さん。この服どうですか?」

「えーと。とてもよく似合ってますね」

くしゃっとした彼女の笑顔はとても美しかった。

お読み下さりありがとうございます。

感謝しています。

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