別れの始まり
目の前には陽光を浴びて、白と灰色のふわりとした雲たちが、縁を金色に染めながら流れている。
わずかに覗く青い空から降り注ぐ光の筋が、色気を失った山肌や遥か眼下の町や凪いだ海を、これもまた黄金に輝かせている。
澄んだ鋭い風が頬を切って、ひゅるると葉の落ちた木々をしならせ騒がせる。
しみた目にわいた、想いの欠片も吹き飛ばすほど。
風の喚き声が止んで、ゆっくりと瞼を開ける。
ん?
宙に舞う、白く薄っぺらいもの。
蝶?
頬に冷たい刺激が走る。
雫となって伝う。
雪……
見上げた空には、鈍色の絨毯から、数えきれない埃のように舞い落ちてくる雪。
わずかに浴びる光に、その身を瞬かせている。
ぴたりとやんだ風。
雪が音を吸い込んでしまったかのように。
しーんと無が張りつめた空間。
地球上で、自分だけになったような錯覚に陥る。
地面に落ちたその欠片は溶けることなく。
仲間を増やしていく。
右も左も、上も下も。
大きな結晶になって白い斑点だらけの視界。
同じだ……
旅立ちには丁度いい。
天啓かもしれない。
一歩踏み出し掛けたその時。
「わあ、きれい」
背後で聞こえた声。
そっと、地面に足を着けて振り返る。
ベージュのコートを纏った女性が微笑んで近づいてきた。
「こんにちは」
舞う雪の合間で、小さくはにかみながら、首を傾げて隣に並んだ。
「私、この展望台からの眺め好きなんです。でも、雪が降ったのは初めて」
少し高揚しているのか、声が上ずっている。
漆黒の長い髪。
コートの肩に雪が積もって。
景色を眺めている瞳は、真っ直ぐだった。
女性にならって同じように見つめる。
広大な風景の奥の奥まで敷き詰めながら、白くぬりつぶしていく。
遠く、遠く対岸の四国には、わずかに太陽の名残りが見えた。
「観光ですか?」
女性は、両手を顔の前でこすり合わせ息を吹きかけている。
束の間、白い吐息は空気に馴染んで消える。
「ええ、まあ」
「一人旅ですか?」
「ええ、まあ……」
「そっか、何かを探す旅なんですね?」
「そう……かな」
「羨ましいな」
「え?」
「私は島から出たことがなくて。まだ高校生だから」
「そうなんだ、でもこれからいくらでも旅したらいいと思う」
「うん。そうですね……」
女性は、少しうつむいて白い息を吐き出した。
「あっ、いけない!」
両手を頬に添えた女性。
「どう……したの?」
「ロープウェイ止まっちゃった。どうしよう……バス停まで降りられない」
「え?」
「あの、お車ですか?」
僕を覗き込む、あどけない瞳。
ん?
散る雪が目に入って、冷たさが溶け込んだ瞼をこする。
「え? ああ、そうだけど……」
「初めてお会いした方にお願いするのは、図々しいですけど、家まで送ってくれませんか?」
「え?」
唇を噛んで上目遣いに見つめてくる。
あっ……
思わず脳裏によみがえる顔……
視線を逸らし目を閉じて。
息を吸う。
「そうですよね、ごめんなさい」
女性は両手を合わせて頭を下げる。
「……いや、いいですよ。僕でよければ」
「本当!?」
声と共にぴょんとはね、合わせた両手を頬に添えた。
「ええ、じゃあ、行きますか?」
「はい。ありがとう」
小首をかしげて微笑む女性。
そう。
その顔が、亡くなった妹に、瓜二つだったんだ。
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