【24話】独占欲? ※グラディオ視点
グラディオにはある変化が起きていた。
近頃ずっと、フェリシアのことばかり考えてしまう。
食事中も、修練のときも、書類仕事もしているときも……もうずっとだ。
目を閉じればすぐに、フェリシアの笑顔が浮かんでくる。
そしてそう、今もだ。
修練の昼休憩中。
修練場にいるグラディオは、フェリシアの笑顔を思い浮かべていた。
口元はにやりと上がっている。
「なんだよその顔は……顔芸の練習中か?」
隣にいるキーシェが、辛辣なツッコミをかましてきた。
フェリシアのことで頭がいっぱいになっていたあまり、キーシェがいることをすっかり忘れていた。
その結果、だらしない顔を晒すという事態となってしまった。
(なんという失態だろうか)
自らの軽率さに、グラディオは呆れた。
「なーんてな。考えごとをしてたんだろ? なに考えてたんだ?」
「べ、別になんだっていいだろうが。お前には関係ない」
フェリシアのことを考えていた、なんて恥ずかしくて言えるものか。
切り抜けようとするが、キーシェはニヤニヤと笑っている。
諦めてくれなかった。
「当ててやろう。フェリシアちゃんのことを考えてたんだろう?」
「そ……それは」
まごついてしまう。
ここは否定しなければならない場面なのに、うまく言葉が出てこなかった。
「お前ってわかりやすいよな――っと、ちょうど噂をしてたらきたぜ」
フェリシアが修練場にやってきた。
グラディオのランチが入ったバスケットが、手に握られている。
湖に出かけた日から、今日で二週間。
あのとき約束してくれた通り、フェリシアは毎日ランチを作り、この修練場まで持ってきてくれている。
「いらっしゃいフェリシアちゃん。今日もランチを持ってきてくれたの?」
「はい!」
「健気だね。本当にできた妻だよ」
「ありがとうございます!」
朗らかに笑ったフェリシアは、バスケットをグラディオへ差し出した。
「修練お疲れ様です!」
ついさっきまで話をしていたらか、グラディオの視線は下方向。
フェリシアの顔をまともに見れない。
そっけなく片手を伸ばして、バスケットを受け取った。
「私はこれで戻りますね。午後も頑張ってください」
「……あぁ。ありがとう」
「じゃあねフェリシアちゃん! また明日な!」
つまらない礼をひとつしただけで、フェリシアとの時間は終わってしまった。
むしろ隣にいるキーシェの方が、グラディオより長く言葉を喋っていたほどだ。
(……なんという失態だ)
去っていくフェリシアの背中を見つめる。
フェリシアがここへ来てくれるのは嬉しい。
こうして昼にも彼女の顔を見れるだけで、元気を貰えている。
しかし、問題があった。
騎士団の団員たちが、フェリシアを好意的な目で見ているのだ。
美しくて気立てのいい彼女に、男どもはみんな惚れていた。
しかも最近では、話しかけるヤツまで出てきている始末だ。
「ご苦労様です! フェリシアさん!」「今日も美しいですね!」「フェリシアさんのご趣味はなんですか?」
団員たちは今日も、フェリシアを引き止めて話しかけている。
その光景は、見ていて気持ちのいいものではない。
(俺の妻に気軽に話しかけるとは……!)
そんなことを思って、胸がムカムカしてきてしまう。
いわゆる、独占欲、のようなものを抱いていた。
その日の夕方。
屋敷に帰ってきたグラディオは、真顔でスタスタと足を進めていく。
足の向かう先は、フェリシアの部屋だ。
「話がある」
「なんでしょうか?」
「俺のランチの件だ。明日からはもう持ってこなくていい。以前のやり方に戻す」
「……どうしてでしょうか?」
フェリシアは悲しい顔をした。
瞳はうるっとしていて、今にも泣き出してしまいそうだ。
(なんてことをしてしまったんだ俺は!)
フェリシアにそんな顔をさせてしまったという大きな後悔が、グラディオの体を襲った。
「私の作る昼食がお口に合わなかったのでしょうか」
「それは違う! 断じて違う!!」
強い言葉で否定したグラディオは、ぐいっと身を乗り出した。
「君の作ってくれる昼食はおいしい。これは本当だ。それに日中にも君に会えることが俺は嬉しくて――あ!」
感情が溢れるあまり、つい本音がだだもれとなってしまった。
本人を目の前にして、なんて恥ずかしいことを口走ってしまったのだろうか。
グラディオの顔が真っ赤になる。
「と、ともかくそういうことだ!」
グラディオは逃げるようにして、フェリシアの部屋を出ていった。




