【25話】災害級の巨竜 ※グラディオ視点
逃げるようにしてフェリシアのもとを去ったグラディオは、私室へ戻ってきた。
顔が真っ赤になっている。
呼吸がうまくできず、なんとも息苦しい。
(なにをやっているんだ俺は……)
フェリシアにロクな説明もせずに、部屋を飛び出してきてしまった。
きっと彼女は今頃、不審がっているに違いない。
怒涛の後悔が押し寄せる。
今日は失態ばかりだ。
頭を抱えていると、部屋にメイドが入ってきた。
「キーシェ様がお見えになりました。グラディオ様に面会を希望しております。それも、大至急とのことです」
(……大至急。なにか大きな問題が起きたのか?)
弱っていたグラディオの表情は、一瞬でいつもの鋭さを取り戻した。
「わかった。ここへ案内してくれ」
「かしこまりました」
メイドが出ていって、すぐ。
「よう。突然悪いな」
キーシェがやってきた。
表情にはいつもの余裕がない。
真剣な顔でグラディオを見てきた。
「国境沿いのゼスト大平原に、クリムゾンドラゴンが現れた」
「――!?」
グラディオは赤色の瞳を大きく見開いた。
真紅の体を持つ巨大な竜――クリムゾンドラゴン。
国ひとつを滅ぼしてしまうほどの強烈な力を持っていて、すべての魔物の頂点ともいわれている存在だ。
危険度は最高レベル。
この国では災害級の魔物として指定されている。
「国王から討伐指令が出た」
「わかった。すぐに準備をすませる」
災害級の魔物を倒せるとしたら、国内最大戦力である王国騎士団より他にない。
すぐにゼスト大平原へ向かい、討伐しなければならない。
「外で待ってる。……と、そうだ」
引き締まっていたキーシェの表情が、少しだけ柔らいだ。
「ここを出る前に、フェリシアちゃんとリリアンちゃんにはちゃんと言っておけよ」
「大丈夫だ。二人にはしっかり言っておく」
クリムゾンドラゴンとの戦いは熾烈なものとなる。
しばらくの間、ここへは帰ってこれないだろう。
心配させないためにも、出る前に説明しておかなければならない。
準備を終えたグラディオは、フェリシアとリリアンをゲストルームへ呼んだ。
「これから俺は騎士団の仕事に出かける。ここへはしばらく戻ってこれなくなるだろう」
「それは危険なお仕事なのですか?」
心配そうに声を上げたフェリシアに、グラディオは静かに頷いた。
「そうだ。かなり危険な仕事だ。これまでで一番困難なものとなるだろう」
正直いって、災害級の魔物の力は計り知れない。
これまで数多くの魔物と戦ってきたグラディオだが、それらとは比べ物にならないだろう。
クリムゾンドラゴンを倒せる保証はどこにもない。
力及ばず討伐に失敗してしまうことも、十分に考えられる。
フェリシアとリリアンの顔が曇ってしまう。
上目遣いの二人の瞳は、いかないで、と言わんばかり。
心配してくれている気持ちが、痛いほどに伝わってきた。
(二人とも、ありがとう)
こんなにも心配してくれる人がいる。
ひとりじゃない。
グラディオはそれが、たまらなく嬉しかった。
「大丈夫だ。必ずここへ帰ってくる。安心して待っていてくれ」
小さく笑う。
最後に二人の頭を優しく撫でて、グラディオはゲストルームを出た。




