第94話 報酬金に目がくらむ
星暦2032年、冬の41日、無の日、早朝
現在私たち“笑い合う砂漠人 (ラフィル・デイザー)”は、ギルド支部長からの依頼により盗賊団に夜襲を受けている『ツウギの街』への援軍として向かっていた。しかし私たちは他の援軍たちとは違う行動をしている。整備されてある道ではなく、道中に見つけた僅かに出来てあった獣道に沿って、森の中を走っている。鳥人族であるクアルくんも『スキル:飛翔』を発動せず、私たちと一緒に『スキル:俊敏化』を長時間発動して駆け抜けている。
何故私たちがこんな所、しかも全員が隠れるように地上で走っているのかというと、それが支部長が考案した依頼、もとい作戦を遂行させるためであった。
◇
先日、私の指摘に対して支部長であるオウダさんは、もう1枚の『王都サンリク』から『ツウギの街』までの道筋の地図を指しながら答えた。
『ツウギの街』までの道筋はいくつかあり、その中で1つの街を経由してから一直線で到着できる“最短ルート”を使う。ハーラさんの計算だと馬車で2日後に着けるそうだ。しかし相手は盗賊とは言え、今回の騒動は計画的に行われている。当然、増援が来る事も計算しているかもしれない。
そこで冒険者ギルドの幹部たちは、最少人数の1パーティーを道中で離脱させて森に入ってもらい、森の中をぐるっと大回りさせる。その目的は、襲撃を受ける前に先に盗賊たちに奇襲を仕掛けて、夜襲を仕掛けてくる戦力を減らすという事。
当然失敗すれば人質として盗賊に拘束されてしまい、最悪命を奪われるかもしれない。幹部たちは慎重にこの1パーティーの適任者たちを見解した。盗賊たちに見つからず尚且つ素早く動ける隠密性と俊敏性、的確な目標の位置把握できる優れた索敵能力、1パーティー全員が生き残れるようにお互いがカバーし合える団結力、そして個々がそれなりに戦える戦闘能力。それら全てが備わっており、しかもここ近年“色々な意味”で激しく活躍を見せる私たち“笑い合う砂漠人 (ラフィル・デイザー)”の名が上がったという訳であった。
「これほどの難しい条件がそろっているのは君たちだけなんだ。頼む、この作戦がいかに危険なのかは重々承知だが受けてくれ!」
「私からもどうか、お願いします!」
作戦の全貌を伝え終わったオウダさんは席から立ち上がって、深々と頭を下げた。それに続いてハーラさんも頭を下げる。これに対して私は顔には出さなかったけど、当時はかなり困惑していた。
いくら実力がついた私たちでもこの作戦はあまりに危険すぎる。失敗するつもりは毛頭ないけど、万が一という事もある。それにそんな危険を冒してまで裏から盗賊を攻撃する必要は正直に言ってない。
頭を下げてもらって申し訳ないけど、丁重にお断りをしよう。そう決断をして声に出そうとした瞬間、オウダさんの一言で気持ちが揺らいだ。
「当然、報酬はかなり弾む。今までの報酬金とは比べられない程の額を約束しよう。」
私は固まった。“比べられない程の額”という言葉を聞いて目を見開く。様子が明らかにおかしく感じたのか、後ろにいるパーティーメンバーはそれぞれ何かを思いながら視線を私の背中に移す。
(えっ、嘘でしょ!?またッ?!)
(あぁ~、また出ちゃったよ。カナタちゃんの金銭欲が・・・。)
(このおっさん、カナタちゃんの性格分かってて、最後に金の話ししただろ!)
(アハハハ、カナタちゃんかわいい~。)
だけど私は彼女たちのことは気にせず支部長との会話を続けた。
「因みに・・・大体おいくらまで出せますか?」
「1人200万・・・いや、300万は出そう。急な依頼で尚且つ命に関わるんだ。この額なら文句はないだろ。」
「是非その依頼受けさせてくださいッ!」
他の誰かがいるわけでもないのに、私はこの依頼を奪うかのように即答して承諾した。その際に私の眼は夢見る少女の様にキラキラと輝いていたそうだ。それもそうなるだろう。1人300万、つまり1500万ストンが手に入るのだから、心の底から分かってしまうのも仕方がない。
承諾した後、何やら後ろでキーちゃん以外のパーティーメンバーが片手を額に押し当てていた。きっと彼らなりの喜びの表現なのだろう。10年以上の付き合いでそんな仕草は見たことがないけど、そういうことにしよう。
◇
こうしてオウダさんの作戦を依頼として快く引き受けた私たちは、馬車で1日かけて道中の街で一晩過ごした後、救援に向かう他の冒険者たちとは別行動で森の中で走っているという訳だ。この依頼を承諾した後、パーティーメンバー、主にコルルちゃんからお説教を受けてしまったのは余談である。
依頼達成の報告については、『ツウギの街』に他の『王都サンリク』のギルドの幹部たちが向かってくれているため、その人に報告するように伝えられている。オウダさんはもしもの時のために王都に残るそうだ。
何故まだ太陽が顔を出しきっていない早朝から街を出たのかというと、夜襲を仕掛けている盗賊たちの休息時間は、早朝から昼頃にかけたこの時間帯だと私は予想した。つまり奇襲を仕掛けるのに適した時間帯と判断したから。
森に入ってある程度走った私たちは一旦『俊敏化』を解除してその場に停止する。姿勢を低くして、近くの茂みで身を隠した。大雑把でしか盗賊の位置を知らされていない以上、ここからは慎重に行動に移すことにする。それを伝えると後方でコルルちゃんとクアルくんが何やら会話を始める。
「この慎重さ、この前に話し合いで働いてくれればなぁ・・・。お金で依頼を勝手に受けたの、これで何件目だっけ?」
「もう10件は超えたぜ。まあその分、仕事では一層真剣に考えて動いてくれているから良いんじゃねぇの。」
「もう、全く・・・。私たちの身の安全のためなのか、それともお金のためなのか最近分からなくなってきたよ。」
「流石にお金のためではないだろ!?・・・多分・・・。」
何やら会話の内容がとても不快に感じるものだった。全くもって失礼な。確かに今回の様に私の独断で依頼を承諾した事は多々あった。しかしそれはパーティーの資金の確保、そして全員の私生活を充実させるためであって、決して私欲“だけ”で行動してきたわけではない。
先ほどコルルちゃんは、私が“パーティーメンバーの安全”と“お金”のどちらかを大切にしているのか話していたけど、実に馬鹿馬鹿しい。論外にも程がある。
仮にそれを問われたら私は真っ先にこう答えるだろう。“両方取るに決まっているでしょッ!!”と。なんと現実的で効率的な返答だろう。もし本当に聞かれたらすぐに答えなければ。
ふざけるのもここまでにして、私はケマくんを傍に呼んで次の命令をする。
「ケマくん、盗賊たちの場所を調べて。それぞれの場所の人数、距離、出来れば装備してある武器とかも。」
「そこまで細かく調べるなら少し時間が掛かるけど、いい?」
「まだ朝日が昇り切っていないから問題はない。資料によれば、その盗賊団の団員のほとんどが獣人族だから、逆に見つからないようにして。」
「僕の魔法を普通の獣人族には聞き取れないよ!」
【音魔法:反響捜査】
ケマくんは自信あり気にそう言うと、得意の『音魔法』で盗賊たちの捜索を始めた。この7年間成長した彼の『反響捜査』の最大範囲が、半径約5~6キロまで伸びていた。一応念押ししておいたけど、確かにこれほど精度が上がった魔法なら逆探知は去れないだろう。
ケマくんが盗賊たちの捜索をしている間、私は他のパーティーメンバーの方へ振り返り、今後の奇襲手段や撤退手段の等について、軽く作戦会議を始める。
「ケマくんが見つけ次第、全員『俊敏化』で一気に攻め込んで叩く。攻撃手段は中遠距離の攻撃魔法。人数は相手の方が多いから絶対に接近戦で行かないで。“ある程度負傷させれた”、“そろそろ退き際”って感じたら『小花火』で合図を出すから、それを確認次第すぐに『ツウギの街』に向かって全力で逃げる。これでどう思う?」
「ちと強引過ぎやしないか?わざわざ『俊敏化』を使わなくても、静かに歩いて近付いたら・・・。」
「いや、カナタちゃんの判断は正しいと思う。相手はほとんどが獣人族、つまり索敵能力が高い。静かに近づいたとしてもどっちにしても索敵系のスキルで気付かれると思うよ。」
「確かにね~。私の魔法を使うにしても、この樹木が邪魔で上手く当てられないし~、どっちみち見つかるなら速戦即決でいいと思う~。」
コルルちゃんとキーちゃんが私の立てた作戦の賛同してくれるけど、確かにクアルくんの言う通り、少し強引的な要素がある。盗賊集団の人数等の詳細が把握できていない以上、イレギュラーを想定して新たに作戦を立て直した方がいい。
そう思いながら片手を口に運んで思案を巡らせた時、ケマくんがから声を掛けられる。
「・・・んっ?!カナタちゃん、見つけた、見つけたよ!?」
どうやら盗賊たちの居場所が見つけたようだ。全員がケマくんの方へ振り向くと、彼は南南東へ指をさしていた。思っていたより早く見つかってよかった、実に順調だ。
しかし何故か、見つけ出した本人であるケマくんが心なしか焦っているように見える。それを真っ先に気付いたクアルくんが、その様子について問う。
「おいケマ、どうしたんだよ一体・・・。何か不味いモノでも見つけたのか?」
「いやまあ、盗賊団らしき集団は見つけたんだよ。ただ・・・その人達、全員バリバリに起きているんだ。」
「はぁっ、マジで!?」
えっ、嘘ッ!?こんな早朝に起きているの!?ヤバい・・・ヤバいヤバいヤバいヤバいッ!!寝込みを襲って楽に作戦完了したかったのに、まさかこんな事態になるなんて・・・!
ってか何で盗賊に癖に健気に早朝に起きているの!?寝てろよ!普段の私でもこの時間はまだ眠てるよッ!!
根本的に想定外な事態が起きた現状に私は思わず青ざめてしまった。寝ている仲間を守る等の理由で、数名の見張り役がいるかもしれないと予想はしていたけど、まさか全員が起床していたとは。これは奇襲が失敗する可能性が出てき始めた。
いや、諦めているのはまだ早い。ケマくんから、現在の盗賊たちの行動についても確認して、そこから新たに策を講じればいい。最悪、このまま撤退して作戦放棄すればいい。ギルドからの信頼を失られるけど、パーティーメンバーの身の安全の方が重要だ。大金が手に入らないのは名残惜しいけど。
「それで、盗賊たちは今何をしているの・・・?」
若干弱々しくケマくんに盗賊たちの様子について問いた。出来れば装備を外して食事をしている最中なら、今からすぐに向かって奇襲を仕掛けられる。もしくはこれから就寝するところなら尚のことよしだ。
「えっと・・・戦ってる。」
「はっ?えっ、今・・・戦っているの?」
再度問い直すとケマくんは静かに頷く。まさか返答に私は思わず硬直した。早朝という事もあり、もう脳を働かすのも疲れ始めてきた。しかしこのまま呆けているわけにもいかない。すぐにこの現状について確認しなおす。
「一体誰と戦っているの!?まさか私たちの知らない所で、『ツウギの街』の冒険者たちが先に奇襲を仕掛けていたの!?」
「いやこれは、誰って言うより・・・魔獣だね。」
「魔獣!?」
思いがけない展開になってきた。“超自由快楽殺芸団”はこの付近に潜伏、つまりこの山郭地帯で暮らしていると聞いている。盗賊でも人だ、身の安全のために周辺のモンスターを間引きしていると思っていた。
現に私たちがここまでくる道中、モンスターどころか獣一匹たりとも発見していない。もうこの周辺に他の生物は去ってしまったのだと考えていたけど、まさかまだモンスターが存在していたとは。
続いてコルルちゃんが質問する。
「その魔獣の姿形は分かる?後、数も。」
「・・・狐っぽかった、大きさは普通より大きめかな。数は結構いたなぁ・・・30以上いた。」
「狐の魔獣で、かなり統率力がある・・・。間違いない、多分それはレッド・フォックスだと思う。」
コルルちゃん曰く、イースト大陸に生息する魔獣の一種で、文字通り火を使える狐の魔獣だそうだ。普段は山奥に生息していて物静かな魔獣だが、たちまち危害を加えると集団で襲って来るという表裏一体な生き物でもあった。
コルルちゃんの推理で、恐らくその知識を知らない盗賊がむやみにレッド・フォックスに刺激を与えて、それが魔獣たちの怒りを買ったかもしれないと。だから盗賊たちは魔獣たちによる騒動で起床してしまい、現在の混戦状態に至ったと解明する。
この7年間、冒険者としても実力だけではなく、ギルドの図書館で知識を身に着けたコルルちゃんの説明に誰も反論することなく納得してしまう。
「えっ、じゃあ俺たちの代わりにその魔獣たちが戦ってくれているってことか!?な~ん~だ~よ~。早起きした俺らが損した気分じゃねぇか。」
「レッド・フォックスは低級モンスターだけど、その素早しっこさと戦闘力は冒険者の間でも驚異的。討伐されたとしても盗賊たちの負傷者が多数出るのは確定的ね。山奥にいる魔獣が何でこのタイミングで出て来たのかは気になるけど、私たちにとってはありがたい限りね。」
「これもう僕たち、帰った方がよくない?無理にちょっかい出しに行って、その魔獣たちの矛先が僕らに向けられたくないし。それに僕、まだ眠いよ~。」
「アハハハ、確かにねぇ~。これはもう実質、作戦遂行って事でいいじゃないかな~。」
レッド・フォックスのおかげで盗賊集団の戦力を減少させている現状を把握出来た途端、パーティーメンバーは先まであった緊張感を解いて談笑を始める。遠く離れた場所で勝手に討伐対象が魔獣に喧嘩を売って争い合っているから、気が抜けても仕方がないと思う。実際私も、都合のいい展開に肩で息を吐いて気が抜けてしまっている。
しかしこれはこれで少し困った事になった。確かに盗賊たちの戦力は減少したけど、これをどう『ツウギの街』にいる幹部の人に報告すればいいのか。
“魔獣たちがやってくれた”って言ったら、私たちが作戦通り動いた訳でもないから報酬金が貰えないかもしれない・・・。かと言って“私たちがやりました”って虚偽報告をして、もしもバレたら私たちの信頼が確実になくなる・・・。でもこのまま奇襲を仕掛けたら、間違いなく私たち対盗賊集団対魔獣たちの三つ巴戦闘が勃発してしまう・・・。
あぁッーーー!!ヤバい、マジでどうすればいいの!?行くべきか引くべきか・・・。でも奇襲を仕掛けるなら魔獣たちがいる今が絶対的な好機ッ!ヤバいヤバいヤバいヤバい・・・マジでどうすればッ!!
「ね、ねえ・・・カナタちゃん?1人で頭を抱えてどうした、大丈夫?」
「便所が?丁度ここは俺達しかいないからそこの茂みでして来たら?」
「アハハハ、クアルくん・・・その羽むしり取るよ?」
「相変わらず容赦ないなぁ、キーちゃんは。僕にも羽が生えてなくてよかった。」
パーティーメンバーから心配の声が聞こえてくる。その際に彼女たちの方へ顔を向けた時、私はとある策を思いついてしまった。それは冒険者登録試験ぶりの苦肉の策だ。だけどこれならパーティーメンバーの身が安全で尚且つしっかりと報酬金が頂ける。
だけどこの策を遂行させるためには、まだ情報が足りない。盗賊たちと戦っているというレッド・フォックスについて性質についてコルルちゃんに質問をする。
「ねえ、“レッド”ってことはその魔獣たち、火には強いって事よね?」
「・・・?うん、そうだよ。大抵の“レッド”って名のついたモンスターはみんな火の耐性が強い。火魔法で攻撃しても熱は感じるけど、大したダメージにはならない。」
唐突な質問に少し困惑した表情を見せながらもコルルちゃんは答えてくれた。彼女に念のために確認しておいてよかった。これで魔獣についてはこれで一安心。しかしまだ聞かなければならないことがある。
次にケマくんの方へ振り向いて別の質問をする。
「ケマくん、盗賊たちは南南東だったよね?距離はどれくらいあるの?」
「ん?え~と・・・2キロちょいは離れているかな。それが?」
「その盗賊たちの地形ってどうなっているの?ここみたいに草木が生えわたっているとか、足元がデコボコとか。」
「う~んっと・・・雑草が少しある程度で、特に周辺には木とかはなかったかな。その代わりに切り株っぽいのはがあるから沢山あったから、多分伐採でもしたんじゃないかな?んで地形は、一ヶ所だけ盛り上がった所があって、そこ以外は平地って感じ。ほんでその盛り上がった所は斜め掘りの空洞になってて・・・多分洞窟かな?かなり奥があって広いかった。その洞窟にもたくさん盗賊っぽい人たちがいたから、たぶん寝床にしているだと思う。」
ケマくんは『反響捜査』によって脳に伝達された、盗賊たちがいた周辺の地形についての情報を細かく教えてくれた。盗賊周辺の地形や状況が彼の言葉通りなら、この苦肉の策は失敗する確率が大幅にダウンした。まだ危険な要素が多くあるが、後は私に気力と体力、そして根性で解決できるはず。
「・・・よし!」
出そろった情報で私なりの脳内シミュレーションを始めて、考案した苦肉の策が上手くいく結果を思い浮かべてしまい、思わずに笑顔が出てしまう。もうここまで来たら迷う必要はない。
この策を思いついた瞬間に芽生えた不安と疑念を、気合と勇気に変えて私はその場に立ち上がり、装備している武器と防具を外し始める。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




