第87話 総合適性の試験 終了
諸事情により編集しました。
星暦2025年、夏の16日、木の日、真夜中
『メラルフ高山』の真夜中の森の中、2人の子供が全速力で移動していた。私を抱えたまま樹木を避けながら進むケマくん。彼の背中で振り落とされないように彼が装備している防具のふちに掴んでしがみ付く私。もし状況をキーちゃんが見ていたとしたら、再び嫉妬の瞳で睨みを利かせていただろう。しかし現状がそう思われる程ほのぼのとしていなかった。
大勢の盗賊たちに追われている事を知った私たちは、更に森の奥へと進んで行った。追いつかれでもしたら必然的に戦闘が始まってしまう。体力が限界に向かえて私は戦闘に参加できずに、もしそうなればケマくんVS12人盗賊という、一方的な暴力が始まってしまう。勝てるわけがない、逃げ切らなければならない。
そう理解した私たちは、お互いに口を開くことを許さず、ただ懸命に森の中を右へ左へと移動した。そしてある程度距離を稼いだ思ったところですかさずケマくんに、この周辺を索敵してもらった。
【筋力強化:解除】
【音魔法:反響捜査】
「・・・ん?!」
発動後、ケマくんの表情が大きく変わった。驚愕と言うより愕然に近い。すぐに問いただした。
「何か見つけた?もしかしてモンスター?」
「いや、モンスターはいなかったけど・・・盗賊たちの動きが少し変なんだよ。」
「変?・・・どういった動きをしているの?」
「さっきまで僕たちを追いかけてきた盗賊たちもそうだし、近くにいる他の盗賊たちみんな、同じ方向へ移動しているんだよ。」
「みんな同じ方向・・・どこ?」
「あっち。」
ケマくんはすぐさま南南東へ指をさす。その方向には何かあっただろうか。私は手を顎に沿えて思案を巡らす。しかし考えがまとまらない。寝不足もそうだけど、情報が少なすぎる。もう一度彼に索敵してもらおう。
「ケマくん、確認のためにもう1回お願い。」
「合点ッ!あ~、あ~・・・よし!」
【音魔法:反響捜査】
口を大きく開いて顔を天に向けてケマくんは再び魔法を発動する。しかし何で見てもこの魔法を発動する際の彼の表情が面白い。阿呆丸出し感があって笑いが込み上がってくる。
「・・・うん。みんな動きが遅いけど、同じ方向へ歩き続けているよ。」
「そう、ありがとう。一体どうしてなんだろう・・・。」
笑いを抑えてながら、以前と変わらない報告を聞いて後、私は再度頭を悩まされる。私たちを見つけるために12人から4人1組に分かれているわけでもなく、ただ真っ直ぐへと南南東へ歩き続けている。一体何を考えているのか理解できない。
そんな時、私たちの真上から突如として光が差し込んだ。それは樹木と葉っぱの間から通ってきた、満月の光だった。
「おお~、きれぇ~!夏と言ったらやっぱり月を見ながらドカ食いだよね~。」
「それは秋の風物詩でしょ?全く、呑気に事を・・・ん?そうか、思い出した!」
満月の光を見て、私はとある事を思い出した。突如として大声にケマくんも流石に驚く。
「びっくりしたぁ・・・どうしたの急に?」
「この盗賊襲撃が終わったんだよ!」
「・・・何でそんなこと分かるの?」
「時間が来たんだよ!ほら、あの顔が怖いギルド職員が説明していたじゃん!」
昨日の昼頃、ギルドから『メラルフ高山』へ移動する前に強面ギルド職員が総合適性試験の詳細について説明してくれた。断言する私の言葉に疑念を抱くケマくんに、この“盗賊の襲来”について強面ギルド職員が説明してくれていた内容を話す。
この“盗賊の襲来”での冒険者たちの主な仕事は、私たち参加者が採取した依頼品の強奪。もし参加者が戦闘態勢に入っていれば反撃してくるが、基本は依頼品を盗むだけとされている。先ほど私の前に現れたニーナさんの様な行動だ。
当然、そんな盗賊たちが一晩中、この森の中を徘徊しつつ妨害をされ続けられたら、とてもじゃないけど依頼品を採取して納品することは出来ない。
そこでギルド側の配慮で、盗賊たちの行動に制限時間を設けた。強面ギルド職員曰く、襲来開始からある程度時間が経った後、とある合図ですぐに撤退するようにしてあるそうだ。私は最初なんらかの音や光だと思っていたけど、そのような合図は目視しなかった。
だけど今、推察できた。恐らく月の光だ。街灯のような光の無い森の中で、唯一強くて美しく輝く月の光が真上に差し込んでくるのが合図だったのだろう。頭がやや朦朧としている中、急に浮かんだ推察であるけど十分に可能性は高い。
「・・・ごめん。全然聞いていなかった。」
ある程度説明し終わるとケマくんはそう呟いた。仕方がない、当時の彼は寝不足による睡魔に襲われながらも、目が半開きになりながらも必死に起きていた。説明を1から全てを頭の中に入れられるわけがない。
「まあとにかく、盗賊たちはみんな帰ったってわけ。」
「ん?それって・・・つまり・・・!?」
「そう、私たち・・・逃げ切れた・・・!」
ケマくんが大きく目を見開いて徐々に笑みを見せる。彼の考えを理解した私も眼を大きく開いて口角を上げる。
盗賊たちは恐らく強面ギルド職員の元へと帰った。そして私たちは依頼品を守り抜き、尚且つ大きな怪我をすることもなく無事に逃げ切ってみせた。傍から見ればどう評価されるのか分からないけど、これだけ言えることがある。作戦成功、私たちの勝利だ。
「「やったああああ!!」」
そう理解した瞬間、私たちは歓喜の声を上げる。とても盛大に声を上げた。静寂な森の中で出すほどの声量ではないけど構いはしない。
拳を強く握りしめてガッツポーズをとる私。その場で元気に跳ねるケマくん。今はただ勝利の喜びを体現したかった。目的を果たしてこの達成感を喜び合いたかった。
「よっしゃぁぁぁぁ!!逃げ切ったぞぉぉぉぉ!参ったか、僕のこの逞しい脚にッ!!」
「あはははは!本来の作戦とかなり違うけど・・・まあ、結果オーライだね!」
先ほどまであった疲労感を消し飛ばす程の達成感が身を震わせる。初めてモンスターを討伐した時よりも、初めてエキストラスキルやオリジナル魔法を完成させた時よりも、今この瞬間が人生で一番胸が高鳴る。しまいには涙腺が緩んで涙が流れそうにもなった。
あはは、何でだろう?まだ冒険者になれていないのに、涙が出ちゃいそうになった・・・まだ子供だからかなぁ?・・・ううん、多分この2度目の人生で、最初の困難な目標を達成できたから、そうに違いない!
・・・うふふ、やっぱりこうやって誰かと何かを成し遂げるって、一番楽しくてうれしいな!
「ケマくん!」
「ん?へへ、おう!」
右手を上げてケマくんを呼ぶ。振り向いて私の様子をすぐに気付き、彼も右手を上げてハイタッチをする。達成の合図、パーティーでの喜びの分かち合いである。
「さ~て、盗賊たちも帰ったことだし、まだ採っていない依頼品を探しに行くよ!」
「えっ、まだ依頼品残っていたの!?」
もう少しこの高揚感に浸っていたいけど、残念ながらまだ仕事が残っている。それは今ようやく活動し始めたケマくんの依頼品である、『イエロー・メラルフフィッシュ』の採取。キーちゃんの活躍のおかげで15匹は回収したけど、目的数量は25匹だからあと10匹足りていない。その残りを調達するために再び川まで行かなければならない。
「もぉ~なんだよ~。みんなが集めてくれるんじゃなかったの?」
「だからごめんって。魚だからなかなか見つけられなかったの。本当やケマくんが起きた時に伝えて、見張り役した後に採って来ねって言おうと思ったんだけど・・・。」
ケマくんはややご機嫌が斜めである。それもそのはず、彼には夜の間私たちが寝ている間の見張り役をしてもらう代わりに、私たちが彼の依頼品を採っておくという約束をしていたのだから。これに関しては本当に申し訳がないと思っている。素直に謝罪をしなければ。
「あ~あ~、採って来てくれるって約束したのに~。」
「もう、本当にごめんって。男がねちねち言わないの。だから私も手伝って上げるんだからこれでいいでしょ?」
頬を膨らまして明らかに不貞腐れるケマくん。何度も謝罪をしているのに一向に許してくれない。ここまで融通が利かないと逆ギレしてしまいそうだけど、流石にそれは大人気ないと思い堪える。一応同い年だけど。
「ほら、とっとと行こう。夜だから魚たちも寝ているかもしれないし、捕まえるなら今が絶好のチャンスだよ。」
「はいはい、はいはい。早く捕まえて早くみんなの所に戻ろうか。・・・ってまた僕の背中に乗る気、カナタちゃん?」
もう一度ケマくんに運んでもらおうと彼の背中に回る。それを不服と感じたのか私の方へ顔を向けて、彼はそう尋ねてきた。
「あのね・・・私の方が頑張ったんだよ?とても眠いんだよ?別にいいじゃんあと1回や2回ぐらい。それに女の子をおんぶするなんて滅多にないんだからむしろ感謝してほしいんだけど。」
「こんなふてぶてしい女の子、こっちから願い下げなんだけど・・・。まあ、別にいいけどさあ。」
ケマくんは渋々承諾して私を背負う。一体どうしてだろうか。本来少女を背負うことは男性にとって最も嬉しい事のはずなのに。何故こんな扱いをされてしまうのだろうか。不眠で頭が朦朧とする今の私では思いつかない。
「それじゃあ、お魚捕まえに行くぞ~!」
「頼んだよ、ケマくん。」
「了解。・・・ん?カナタちゃん、ちょっと重くなった?」
一瞬にして怒りの炎が点火した。表情には出さなかったけど、心から燃え滾った。恐らくケマくんは先程まで『筋力強化』を発動している状態で私を抱えていたから、私が軽く感じたのだろう。筋力が上がったのだからそう感じるのも当然。
しかし今は、盗賊から逃げる必要がないため『筋力強化』を解除している。つまり私が重くなってのではなく、ケマくんがスキルを解除したのが原因である。
私はそれを説明して優しく弁解しようと思ったけど、果たしてその必要があるのだろうか。見た目はまだ幼気な少女に向かって今の発言は論外。禁忌、愚図、愚答としか言いようがない。これは再び勉強を教えなければならない。
今回は試験中ということもあり、拳骨で“軽く”頭を叩くだけで許してあげよう。
◇
星暦2025年、夏の16日、木の日、早朝
あれから数時間が経ち、満月はいつの間にか無くなり、空は暗闇から光を取り戻すように徐々に青くなっていく。空が青から水色へと変わったのと同時に東側から太陽が昇り、『メラルフ高山』の森の中にまばゆい光を辺り一帯に差し込む。それが目に入り続々と参加者たちが目を覚まし始める。当然、私のパーティーメンバーも例外ではない。
ケマくんが出て行った後、再度キーちゃんによって寝床の出入り口に生やしてくれた枝や草の間から光が入り込む。
「んっ、朝かぁ・・・。はぁ~・・・。」
最初に目覚めたのはコルルちゃん。意外にも大きな欠伸を出す。よほど先日の試験で疲労していたのだろう。そんなコルルちゃんの声で目覚めたのか、続いてキーちゃんとクアルくんも起き上がる。
「はぁぁぁぁ~!よく寝た・・・おはよう、コルルちゃん。」
「おはよう、クアルくん。依頼品は無事みたいだし、ケマくんが上手く凌いでくれたと思うよ。」
「おっ、さっすがケマ。期待通りに働いてくれたんだな。」
コルルちゃんとは比較にならない程の欠伸をした後、クアルくんは彼女と談笑もとい現状把握を始める。起きて真っ先に依頼品を確認するあたり流石の一言。キーちゃんも2人に混ざろうと話しかけようとするけど、その前に何かを探し始める。寝床の中を何度も首を回して探して見るも、見つからない様子だった。
「ね、ねえ、2人とも・・・。」
「おっ、おはよう、キーちゃん。依頼品は無事だ。どうやらケマが上手くやってくれたようだ。・・・ん、どうした?」
「おはよう、キーちゃん。・・・どうしたの、さっきから様子がおかしいけど。」
キーちゃんの問いかけに2人はとりあえず挨拶を交わす。しかしその後、彼女の様子が明らかにおかしい事に気付き、2人とも眉間にしわを寄せる。そんな2人に対して彼女は静かに答える。
「カナタちゃんが・・・帰って来ていない・・・。」
「「えっ・・・!?」」
キーちゃんの言葉に2人は私の存在を思い出した。その後、先ほどのキーちゃんの様に狭い寝床の中を見渡し始めるが、当然私の姿はない。
3人はこの現状はおかしいと疑念を抱く。彼女たちにはケマくんがやって来た後、私も寝床に入って就寝するという作戦だったはずなのに、朝になっても私が戻ってきた跡がない。徐々に脳が覚醒していき、現状について深く考え始める。
「まさか・・・何かあったのか!?」
「何かってそんな大げさな・・・って、キーちゃん!?」
クアルくんとコルルちゃんがそう会話する中、キーちゃんはすぐに武器と防具を手に取って、出入り口を塞いである枝や草に体当たりをする。コルルちゃんが制止させようと声を掛けるがキーちゃんは聞く耳を持たなかった。
寝床から飛び出したキーちゃんは、太陽の光が降り注ぐ森の中で深く深呼吸をした後、大声で呼び掛ける。
「カナタちゃん、どこにいるなのぉぉぉぉ!!」
キーちゃんは危機とした表情で私の名を叫んだ。親友が一晩経っても帰って来ない、心配するのは当然だ。返事が返って来るのは期待していない。それ理解しても彼女は大声で呼んだ。
しかし返答はすぐに返ってきた。しかもすぐ後ろから。
「・・・ここにいるけど?」
「・・・ッ!?カ、カナタちゃん!?」
私はケマくんと共に、パーティーメンバーが就寝している寝床である樹木にもたれ掛かって休息をとっていた。
何故ここでいるのかと言うと、先ほど彼女たちと話した通り私も樹木の地下にある寝床に入ろうと考えていた。しかしここで問題があった。キーちゃんが再び寝床の出入り口が塞がっているため、見事に中に入れなかった。もうカモフラージュの必要がないため枝や草を取り払おうとも考えたけど、その際に大きな音が出てしまうと分かったため中に入るのを諦めた。だから仕方がなくここで休息をとっていたわけだ。
いや、最初はびっくりしたんだよ?まさか、締め出されるなんて思いもしなかったんだから。キーちゃんのことだから悪ふざけでやっているのかと思っていたんだけど、これまたしっかりと枝が生やされていたんだよねぇ・・・。もう、いじめられているのかと思って泣きそうになったよ、私。まあ、キーちゃんのこの反応から見るに、悪意を持ってやったわけじゃあ・・・。
「カナタちゃんー!!」
寝床から飛び出して唐突に私の名を叫んだキーちゃんに返答した後、彼女は座り込んでいる私に目掛けて飛んで抱きついてきた。いつもの様に角が刺さる様に。
「痛い痛い痛い痛いッ!!キーちゃん、痛いッ!角が刺さっているから!」
「本当に心配だったんだからー!!何でこんなとこにいるの!?」
「だってそれは・・・って痛い痛いッ!痛いってッ!!」
「うわああああぁぁぁぁ!!」
「泣きたいのはこっち!?早く離れて!」
泣きながら私から離れようとしないキーちゃん。鬼人族自慢の筋力を発揮して角を刺してくる彼女を対抗する私。全く話が進まない。進んで行くのは角による痛みだけ。
そんな私たちの様子を、続いて寝床から出てきたクアルくんとコルルちゃんは呆然と立ち尽くし、横にいるケマくんは腹を抱えながら爆笑している。状況が理解できない2人は許そう。しかし大体察することが出来るのに助けようとしないケマくん、君は後でお仕置きだ。
しばらくしてとりあえず現状を把握しようコルルちゃんが、私に抱きついているキーちゃんを引き剥がしてくれた。一応腹部を確認してみると、出血はしていないけどしっかりと角の後がついてしまった。いい加減彼女のこの抱きつき癖を何とかしてほしいものだ。
とりあえず、先ほどケマくんと共に捕獲した残りの『イエロー・メラルフフィッシュ』を、彼の麻袋に入れる。起床してから色々とバタバタとしてしまったけど、ようやく話し合いを始められる。
しかしその瞬間、再び妨害が入った。突如として『メラルフ高山』の森中に、男性の声が響き渡る。声の主は、あの強面ギルド職員だった。
「試験終了ー!!繰り返す、試験終了ー!!参加者たちが採取を止め、直ちにスタート地点に戻ってくるように!!遅れた場合は減点とする!!繰り返す、試験終了ー!!直ちに戻ってくるように!!」
“合図を出す”ってこういう事!?まさか大声・・・やり方が原始的にも程があるでしょ。っていうかよくここまで届いたな、10キロはあるんだよ?ケマくんみたいに何らかの魔法を使ったの?・・・まあ、別にいいか。考えても疲れるだけだし。
「・・・さて、試験も終わってみたいだね。みんな聞きたいこと言いたいこと沢山あると思うけど、とりあえずそれに後にして。今は荷物をまとめて早く戻ろうか!」
「「「「了解。」」」」
こうして冒険者登録試験が終了した。1日しか経っていないはずなのに、とても長く、とても酷、そして更にパーティーメンバーとも友情が深まった1日だった。再び武器と防具を装備した私たちは、『俊敏化』と『飛翔』を発動して真っ直ぐに声の発生源、スタート時点へと戻って行った。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




