第76話 クアルVSチョト
諸事情により編集しました。
クアルくんの試合が始まるまでその場に座って談笑をすること15分近くの時間が経った。緑グループの参加者も赤グループと同様に懸命に試合に挑んでいることもあって10分ギリギリまで抗って闘っている。情熱的で第3者から見てとても気持ちが熱くなるのだけど、そのせいで彼の試合が遅くなると思うと考え物だ。
「・・・よし。次、12番の者。」
「ハイ。」
11番目の試合が終わるとギルド職員は次の参加者を呼び、その返答しながら鳥人族の男の子が立った。茶色い翼を持つその男の子はクアルくんだった。待ちに待った彼の試合がようやく始まるようだ。
「あっ、カナタちゃん。クアルくんの試合が始まるよ。」
「やっと?もうなにグズグズしているのよ。待ちくたびれたよ。」
「いやそれはクアルくん何も悪くないでしょ。」
私がついこぼしてしまった愚痴にコルルちゃんがやや呆れ気味で答える。確かに少し八つ当たり気味な言い方だったかも。私たちはもう一度壁際に立ち、クアルくんの試合を見守る。
「種族と名前を。」
「鳥人族のクアル!」
ギルド職員に確認されるとクアルくんは枠の中へと入り、装備している両手槍で軽く手首を鳴らし始める。彼の得意武器は両手槍。鳥人族の空を舞うという利点を考えて、彼は全訓練槍一本だけを重点的に頑張ってきた。そんなクアルくんに対して先まで試合をしてきた冒険者は、連戦と言うこともありやや疲労感を感じて他の人と交代をする。
「すぅ~・・・よしッ!」
「気合入っているね~、少年!」
「ん?・・・あっ、さっきの。」
交替して枠の中に入って来た冒険者は、先ほど私たちに色々と教えてくれたチョトさんだった。彼も緑グループの人だったようだ。一瞬忘れかけたけどチョトさんの事を思い出したクアルくんは軽く会釈する。
「まさかこうしてまた会うなんて思いもしなかったですよ。試合、よろしくお願いします!」
「ああよろしく。にしても君、タイミングがわりぃなぁ~。」
「・・・?どういう事ですか?」
チョトさんの言葉にクアルくんは首を傾ける。ちなみに私たちからその会話内容が聞き取れない。2人の表情や仕草で何となく理解するしかない。
「いやなに、簡単な事だ。どうせ闘うなら相手が疲れている方がいいよなって事。その方が闘いは自分の楽な方へと進められるしな。だけどところがどっこい、まさかの君から相手が元気満タンな俺と交代したっけわけ。普通に運がないな~と思って。」
「そうですか?」
「まあ俺も仕事だから真摯になって君と戦わせてもらうよ。お互い悔いが残らむように頑張ろうや。」
チョトさんはそう言うとクアルくんに手を差し出す。試合前の紳士的な挨拶だろう。それに対してクアルくんは何故か少し笑みを見せてその手を丁重に握り返す。
「はい、もちろん頑張ります!・・・ひひっ。」
「ん?」
「頑張って、勝たせていただきます・・・!」
「いいね、少年・・・!」
2人はほんの一瞬不敵な笑みを見せ合い、互いに距離を置く。クアルくんは槍の矛先をやや下へと下げながらしっかりと中心を対戦相手に向ける。いつでも羽ばたけるように背中の翼をすこし展開して構えた。チョトさんは短剣を装備している右手を前に出して左手を背中に隠すという、短剣使いの基本の構えを取る。短剣では明らかに槍と相性が悪いように思えるが、戦闘では何が起きるのか分からない。私たちは瞬きを惜しむ覚悟でこの試合を静観することにする。
「・・・あの2人、さっき何の話していたんだろう?」
「さあ。適当にクアルくんが“少しは手心を加えてくださいっすよ~”とか言ったんじゃないの?」
「それは適当に考えすぎでしょ・・・。」
コルルちゃんと少しふざけていると2人の間にギルド職員が立ち、試合の合図を出そうとする。2人は静かに呼吸し、始まる瞬間まで全身に気配をただよらせる。
「では双方ともに、尋常・・・始めッ!」
「いくぜッ!!」
ギルド職員の合図を出してすぐさまクアルくんは行動に入った。翼を大きく展開してから風の魔力を纏わせて、両手でしっかりと握った槍を見一杯後ろに引く。彼は開始早々で私たちのパーティー中で一番速い必殺技を発動した。
【槍技:クイック・スピアー】
上空から獲物を狙う鳥の様に、クアルくんは槍を前に突き出すと同時に、一直線にチョトさんの胸部へと狙う。魔力を纏わせて翼を一扇ぎすることで出来るその急加速は、緑グループの誰もが目が追い付けないほどだ。まさか14歳の子供がエクストラスキルを発動させるとは思いもしなかっただろう。普段見慣れている私たちならともかく初見の者なら絶対に強い一撃を入れられる。彼はそう考えたからエクストラスキルを躊躇なく発動したのだろう。だけど現実はそんなに甘くはなかった。
(速いッ!避けるかッ?だがそれはカッコ悪いッ!なら、受ける!!)
今起きている現状をすぐさま理解して、尚且つ次の最適な行動を思い浮かべたチョトさんは右手の短剣を上にあげながら対抗する術を発動する。
【スキル:重量化】
一直線に正面から狙うクアルくんの槍、重い足踏みと同時に叩き付けられるように上から来るチョトさんの短剣。2人の武器が接触した瞬間、今まで聞いたことがないような鈍い音が響く。音は緑グループ内だけではなく地下訓練所にいる全員に聞える程であった。
バッキーンッ
その音の正体は、2人の木製の武器が折れた瞬間のものだった。速さによる勢いの強さ、上からの重い強さ、純粋な力のぶつかり合いにより2つの武器は折れてしまったのだ。
「あっ!!」
「げっ!!」
武器が折れたことに最初に気付いたのは当然使用者である2人だった。2人は思わず変な声を上げる。まさか武器が破損してしまうとは。そのままお互いに目と目が合い、少し気まずい空気になる。
何やっているのクアル!?相手が呆けている隙に早く仕掛けて!
「・・・はっ!?」
私の念が通じたのかクアルくんは止まった時計が動き始めたかのように、破損した武器を放してチョトさんに攻撃をする。大ぶりな足蹴り。不意を突いたつもりだったんだが、チョトさんはそれを容易に見切り難なくガードする。そこからチョトさんも武器を手放しクアルくんとの体術による闘いが始まった。
「おぅらぁー!!」
「あははは!いいぞ!もっと来い!」
翼を展開して空中浮遊を維持しながら蹴りによる攻撃を繰り返すクアルくん。それに対して笑いながら彼の攻撃をガードしたり避けたりを繰り返して一向に仕掛けて来ないチョトさん。余裕な笑み、クアルくんは完全に遊ばれていた。
「まずいね・・・クアルくんの攻撃全部流されている。」
「まあ純粋な体術だけでの勝負は熟練度のレベルの差で勝敗が決まるってものだから。飛んで時間を稼ぐのも1つの手だけど・・・。」
「でもそれをしたらあんまり良い評価はもらえないよね?」
そうこれは武術の試験、近接戦闘においてどれほど戦えるのかを評価されるものだろう。もしクアルくんが飛翔のスキルを使用して空中へ逃げて時間を稼ごうとしたら、審査的にかなり減点されるだろう。恐らく彼もそうなることは概ね理解しているのだろう。だから翼を展開し続けていても、低空飛行で肉弾戦を仕掛けている。
「それにしても・・・ぷぷっ!さっきの槍が壊れた時のクアルくんの顔ッ!めっちゃ面白くなかった?」
「今それ言っている場合!?クアルくん負けちゃうかもしれないんだよ!?」
だって、本当に面白かったんだもん。良いリアクションだったなぁ~。クアルくん、地球人ならそこそこ売れる芸人になっていたと思う。そう思わせるぐらいいい顔芸だった!・・・ヤバい、思い出すとまた笑いが込み上がってきた!
クアルくんが必死に交戦している遠目で、私は先の一瞬による光景を思い出してしまう。とても友人を応援しに来た者とは思えない考え方の名は理解しているけど、笑ってしまうことは仕方がない。だけど隣にいるコルルちゃんに怒られてしまいすぐに、にやけ顔を止める。
「はぁ・・・このままじゃクアルくん、本当に負けちゃう・・・。」
「相変わらずコルルちゃんは心配性だね。最悪、武術の試験で負けても残りの実技試験で挽回すれば大丈夫だよ。」
ギルド職員の説明では、次が魔術の試験で最後に総合適正試験がある。例えコルルちゃんの様にクアルくんがこの試合で負けても、この2つで良い成績を残せば問題はないと思う。不安があるとすれば試験の合格ラインが知らされていない事だけ。これだけはいくらギルド職員に質問しても答えてくれなかった。企業秘密というやつなのだろう。
「ねえ、クアルくんって確かもう1つエクストラスキルを開発していなかったっけ?」
「えっ?・・・ああ!そう言えばあったね!でもあれって確か、風魔法を纏わせたただの衝撃波だったよね?」
「うん。本人は“現段階では弱すぎるから試験には使わない”って言っていたけどね。でもこんな劣勢だったら、もしかしたら使うかもしれないけどね。」
コルルちゃんと話している間に、試合に変化が起きた。激しい蹴りでの攻撃を繰り返したクアルくんが片手息をし始めている。無理もない、いくら訓練してきたとはいえ彼はまだ子供。あれだけ動けばそうなるのは必然。段々と攻撃のテンポが遅くなっていくクアルくんに対して、ずっと防戦一方だったチョトさんは彼の体力の消耗を目視し続けながら機会をうかがい続けている。
(あと少し、あと少し、あと少しぃ・・・ここだ!)
「なッ!?」
クアルくんの今日一で遅い蹴りを出した瞬間、まるでそれを待っていたかのようにチョトさんはそれを腕で強く弾き、一気に身を寄せてクアルくんの胸ぐらを力強くつかむ。
「捕まえた・・・ふんッ!」
「がはッ!?」
チョトさんはそのまま力任せにクアルくんを地面に叩き付ける。鳥人族にとって翼が地面に押し付けられることはかなり苦しいらしい。恐らくチョトさんはそれを知っていてそうしているのだろう。チョトさんは仰向けに倒れたクアルくんのお腹に跨り、両腕を両足で動かないように固定して、顔と顔を近づけさせる。
「勝負ありだな、少年。」
「まだ・・・降参しない・・・。」
「退き際を考えるのも冒険者には必要な素質だ。安心しろ、その歳であれだけ闘えりゃギルド職員のおっさんたちも良い点を付けるはず。それに試験はまだ・・・。」
「ここまで来たらもう、男の意地みたいなもの・・・!まだ戦える!」
「・・・じゃあ俺は今から少年が“降参”っていうまで顔をボコボコに殴るぞ?いいのか?」
「・・・ひひっ。」
クアルくんはまるで誘うように嘲笑った。この状況で逆転はありえないはずなのに、彼は頑なに降参を言おうとしない。それに少し疑念を抱いたチョトさんだが、むしろこの状況からどう繰り出すのか、楽しみに期待している。チョトさんは顔が動かぬように胸ぐらを掴む左手を強く地面に押し当てて、固く握りしめた右手ゆっくりと上にあげる。何をされるのか察して口元を両手で覆うコルルちゃん。その隣で息をするのを忘れて見つめる私。緑グループの試合を見る者全員に緊張感が走った。彼はこの空気を、状況を、瞬間を持っていた。
(・・・今だ!)
チョトさんがクアルくんの顔面を殴ろうとする瞬間、固定されていない足を折り曲げ魔力を注ぐ。彼はもう1つのエクストラスキルをこのタイミングで発動した。
【武技:ウィンド・キック】
クアルくんが天井に向かって大きく足を振った瞬間、その衝撃を纏った衝撃波が真上に放たれた。風の魔力を纏った衝撃波は昇るように飛んで行き、その場にいる全員の注目の的になった。それは当然、クアルくんに跨るチョトさんも例外ではなかった。
「・・・ッ!!何をした・・・!?」
異変に気付き少し体制を変えて後方を振り返るチョトさん。背面には何も起きてなく、少し上を見上げるとそれはクアルくんのエクストラスキルだとすぐに気付く。クアルくんのエクストラスキルは攻撃的な面では全く役に立たなかった。だけど彼の本当の目的はここからであった。後方を振り向く際、チョトさんはクアルくんの腕を固定するために押し付けていた足を離した。
(狙いならアソコだッ!!食らえッ!!)
チョトさんが眼を放したのを見計らい、固定するものがなくなったクアルくんの腕、もとい手は次の一手に移る。クアルくんはチョトさんに気付かれる前にすぐさま、チョトさんの股間を掴み、そして力強く握る。俗にいう金的であった。
「ァアッーーーー!!」
その瞬間、誰よりも早く攻撃されたことに頭から理解したチョトさんは、枯らしそうなぐらいの声を出しながら、飛び跳ねる様にしてクアルくんのから離れた。涙目になりながら両手で大事そうに股間を抑えるチョトさんは、猫のように背中を丸めてピクピクと震わせる。緑グループの他の冒険者たちはお腹を抱えるほど笑い、ギルド職員たちの必死に笑いを堪える様に口元に手を置き、他の参加者たちは“そんなのありなのか?”と思っていそうな顔で呆然としている。ちなみに私たちはその一部始終を対して呆れた表情になっていた。
「「うっわ~・・・サイッテ~・・・。」」
まあ確かに良い発想ではあるけど・・・よく行動に移せたね?同じ男子なんでしょ?同性だからその痛みが理解できるんでしょ?いや、分かっていたからアソコを狙ったんだ・・・。
「・・・あれでいい評価なんて貰えるかな・・・。」
「騎士だったら間違いなくアウトだけど・・・冒険者だからありじゃない?・・・私の訓練のせいじゃないよね?」
そんな私たちの会話をよそにクアルくんはゆっくりと立ち上がりまた次の行動へと移った。先ほどのスキル同士のぶつかり合いで破損してしまい槍だった木の棒を手に取り、いまだに動けないチョトさんに近付いてその矛先を向ける。向けた矛先は折れた木材の断面、ギザギザと鋭利になっており人に刺したら間違いなく大事になる。チョトさんはしばらく静止した後、その体勢ままゆっくりと顔を上げて居間自身の立場に遅れて理解した。
「さ~てぇ、これでさっきのエクストラスキルを使ったらどうなるんすかね~?」
「・・・流石にそれは笑えないぞ、少年・・・。」
「“退き際を考えるのも冒険者には必要な素質”・・・でしたっけ?まさに今じゃないんですかぁ~?」
「ッ~~~!!」
2人は小さな声で会話を始め、話に区切りがつくと心なしか何故かチョトさんは悔しそうな顔を見せる。近くで見ても遠くから見ても明らかにクアルくんが脅しているようにしか見えなかった。そんな緊迫した状況が少し続くと、チョトさんは大きくため息を吐いて宣言した。
「・・・あ~もう、参った!降参だ!」
チョトさんが降参を進言した。あの表情から見てかなり悔しいのだろう。それを聞いたギルド職員が傍により、試験を進行する。
「そこまで。勝負あり。」
「お疲れ様でした、ひひっ。」
「・・・少年・・・かなり憎たらしいな。」
クアルくんは武器を下ろし、チョトさんは股間をまさぐりながらゆっくりと起き上がり、2人で談笑してから枠の外へと出た。かなり冷汗をかいたけど、クアルくんの勝利だ。そのやり方はかなりの外道だったけど。
「何とか勝てたね・・・クアルくん。」
「うん・・・でもあれは冒険者と言うより、盗賊のやり口と言うか・・・。」
クアルくんの試合を静観し終えた私たちは、彼の勝利を素直に喜べず少し複雑な感情になっていた。結果としては勝てて良かったのだけど、あの勝ち方で本当に良かったのか少し心配になる。
「まあ、何はともあれ勝ったんだからいいじゃん。醜く負けるよりよっぽどいいしね。」
「・・・それもそうだね。ああいう往生際の悪さは私も見習らなくちゃね。」
「何を見習うって?」
そう私とコルルちゃんが話していると突如背後から女の子の声が聞こえてきた。驚いて勢いよく振り向くと、声の主はこれから試合をするはずのキーちゃんだった。
「キ、キーちゃん!?びっくりしたぁ・・・何でここにいるの?試合はどうしたの?」
「・・・もう終わったよ。」
「あっ、そうだったんだ。おつかれ。」
どうやらクアルくんと同時進行で、赤グループにて試合をしてきたそうだ。結果を聞くと開始から2分弱で相手を枠の外に出して勝利したそうだ。流石の一言。でも何故かキーちゃんの表情は、現役冒険者に勝ったわりには元気がないように見える。せっかく3人集まったからこのまま談笑をしようと思ったけど、コルルちゃんは先のクアルくんの試合を見て気持ちが高ぶったのか、青グループに戻って精神集中したいと言い出した。次は魔術の試験、恐らく魔法を使う試験だろうから気持ちを練りたいのだろう。もちろんコルルちゃんを引き留める理由なく、そのまま彼女を見送った。
「2人とも、この次も頑張ってね~!」
「うん!コルルちゃんも気張ってね!」
「頑張ってね~・・・さてと。」
青グループに向かうコルルちゃんを見送った後、キーちゃんは私の背後に立って急に抱きついてきた。もちろんいつもの如く角が刺さるように。
「痛い痛い痛い痛いッ!?な、何をするのキーちゃん!」
「何でクアルくんは応援して・・・私のは応援してくれなかったの?」
何とか無理矢理引き離してキーちゃんを問い詰めると、頬を膨らませて逆に彼女の方から問い詰められた。キーちゃんが先から元気なさそうにしている原因が分かった。恐らく焼いていたのだろう。クアルくんばかり静観して自分の試合を見てくれなかったことに。そう気づいた瞬間、私は第一声の言葉を迷った。少し意識すれば、一瞬でも赤グループの方へ振り向けば気付けたこと。変な言い訳は通用しない。
「あぁ・・・ごめんね?」
取り敢えず誤ったけど、キーちゃんは頬を膨らましたまま。なかなか許してもらえない。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。
投稿が遅くなり誠に申し訳ございませんでした。




