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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第2章 カナタ・タユーリ
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第74話 カナタの成果

諸事情により編集しました。

 ポールの試合が終わると4人のギルド職員たちは手元の紙に何かを書き始めた。恐らく先に試合での彼の評価を書いているのだろう。正直に言って哀れな試合の顛末だったから、それほど言い評価ではないと思うけど。


「次の人。」


 紙に評価を書き終わった担当のギルド職員は参加者たちの方へ振り返り、次に試合する者を呼ぶ。2番のカードを持っている者、つまり私だ。


「私です。」


「カナタちゃん、頑張ってね!」


「ありがとう、行って来る。」


 呼ばれた私は枠の中へと入り、ベルトに引っ掛けてある片手剣を抜いた。キーちゃんの応援もあって調子が高ぶってきた。


「おっ、次は女の子かぁ・・・おい、誰か変わってくれ。」


「OK~、じゃあ私が行くよ~。」


 次が私だと知ると先の冒険者の男性は、対戦相手を女性の冒険者と交代した。女の子への配慮なのか、それとも遥かに格下だと思われたのか、どっちにしても少し苛立ちが起きる。


 ・・・なんか舐められた気分で腹が立つ。まあそりゃあ、女の子として対応してくれるのは嬉しいけど・・・やっぱり腹が立つ。まあいい、この試合で絶対に驚かしてやる!


「種族と名前を。」


「人族のカナタ・タユーリです。」


「・・・分かりました。それじゃあここに。」


 そう言われて私は交代した冒険者の前へと直面させる。対戦相手だけど一応挨拶をしておこう。


「よろしくお願いします。」


「よろしく。手加減はしないから覚悟はいい?」


「はい、こちらこそ・・・!」


 彼女も先の冒険者同様に強者感をただよらせる雰囲気がある。ポールの様に私も速攻で負けないように気を引き締めよう。相手は右手に片手剣、左手に少し大きめの盾と言う標準的な装備だ。この装備なら“あれ”を発動しても問題ないだろう。私と対戦相手の冒険者はお互いに武器を握り、その開始の合図を待った。担当のギルド職員が私たちの様子を確認すると合図を出した。


「両者ともに構え。・・・始めッ!」


ぴょん~、ぴょん~、ぴょん~、ぴょん~


「・・・何をしているの?」


「あははは、少し緊張しちゃって・・・こうやって体をほぐしているんです。」


 私はそう笑いながらリズムを刻むようにその場でステップを踏み始めた。脚を上手くばねの様に衝撃を吸収してから跳ね返して、体を上下に跳ねさせている。それを数秒繰り返し、私から攻撃しない意思を相手に見せる。


「・・・時間稼ぎのつもり?先手を上げようと思っていたけど、そっちが来ないならこっちか・・・。」


 しびれを切らして完全に油断した冒険者。私のその一瞬の隙を見切り、最後に跳ねた後、ひざを曲げて体を深くして行動に移した。


【スキル:俊敏化】


 私は『俊敏化』を発動して冒険者との距離を一気に縮ませ、空いてある下半身目掛けて突きという先制攻撃をする。赤グループにいる冒険者、ギルド職員、他の参加者のみんなが私の度肝を抜かれた。この攻撃は完璧に入ったと私の中で自信があったけど、そこまで都合良く事は進まなかった。


キーンッ


 鳴り響いたのは私の木刀と冒険者の盾だ。俊敏化による加速、そして低姿勢からの奇襲で一瞬、愕然とした表情を見せた冒険者だったが、現場で鍛えられた応用力で上手く盾でガードされた。奇襲を防がれて私も愕然としてしまう。


 防がれた!?でも、まだ!


「あっぶなッ・・・やってくれるね!でももう油断は・・・。」


 冒険者はそう言いながらカウンターを仕掛けようとしたけど、もう彼女の前に私はいなかった。私はスキルを発動したまま素早く彼女の背後をとり、すぐに第2の攻撃へと移っていた。だが当然、先の奇襲にも対応できた彼女にはこれも上手くガード出来た。


キーンッ


 くっ、これも防ぐか!?・・・まだまだ!!


 私は再び冒険者とも距離を取り、すぐに第3第4の攻撃へと移る。もちろん攻撃だけではない。時には攻撃と見せかけたフェイントをしたり、前後左右に動いて撹乱させたり、場合によっては勢いを乗せた蹴りもいれた。冒険者は私の変則的で飛び突く様な攻撃を幾度もガードし続けるけど、1回も自身の攻撃が出来ていない事により、次第に焦りの表情と汗を浮かび上がらせる。


(何この子!?この歳でこれほど動けるなんて!?俊敏化を使っているようだけど、それでもこれ異常!!一体どれだけ走り続けたの・・・。いいわ、だったらこっちも使わせてもらうわよ!)


 冒険者は何かを思い着いたのか一瞬にやける顔が見えた。それを見た私は頭より先に身体が反応して、咄嗟に彼女から距離をとった。


【スキル:俊敏化】


 冒険者の体の表面上の空気の流れが変わった。明らかに何らかのスキルを発動した。更に数歩後退して、すぐに動けるように足のスタンスを少し広くとった。


「・・・ねえ君、何らかの訓練とかしてきたでしょ?しかもかなりに。」


 冒険者が先までの焦った表情が嘘の様になくなり、気軽な感じで話しかけてきた。何が目的化はよく分からないけど、派手に動き過ぎて体力が消耗した私には丁度いい機会だと思い、会話に対応して時間を稼ごうと考えた


「はい、同い年の友達と一緒に。分かりますか?」


「そりゃぁねぇ、あんな動きされたらこの仕事している奴なら誰でも分かるよ。さっきの先制攻撃、正直に言ってかなり驚いたよ。真正面じゃなかったら多分反応はできなかった。」


「そう言ってもらえると嬉しいです。ちなみに現段階の私の実力でも冒険者の仕事って出来ますか?」


「う~ん、どうだろう。難しいんじゃないかな?君、右手のその傷・・・気付いている?」


「えっ、右手の・・・。」


 そう言われて私は無意識に自分の右手を見た。右手は何ともない、綺麗な手だ。だけど私はこれが冒険者による視線誘導だとは気付かなかった。彼女は私が右手を見ようとした一瞬の隙に距離を縮ませて、先の私の奇襲の様に低姿勢で私に突きで攻撃してきた。


 しまっ・・・!?


 ここまで迫られてはもう攻撃受けるしかない。そう頭の中で理解した。だけど私の身体はこの状況でも無意識に対応できた。


【俊敏化:解除】

【スキル:軽量化】


 発動中のスキルを切り替えて自身を軽くして、真正面に低姿勢で飛んできた冒険者に向かって片手を突き出す。即座に体を上へ跳ねさせて片手で冒険者に頭を掴み、その攻撃から上へと逃げた。中学校でやった跳び箱のような感覚で回避できた。

 冒険者は上から押し付けられる力により地面に倒れながら転がり、そしてすぐに起き上がって戦闘態勢に入る。彼女は自信のある一撃をかわされたことに動揺を隠せず、眼を見開いて私を凝視する。


「・・・嘘でしょ!?あれに反応するなんて!?」


 ヤバい、本当に危なかったぁ・・・!?咄嗟にかわせたからよかったけど、今の食らっていたら絶対に大怪我だったじゃん!心臓バクンバクン鳴っているよこれ!


「・・・あはは、君、やっぱり相当強いね。今のをかわすなんて、絶対に決まると思ったから正直ショックだったよ。」


「あはは・・・自分でも驚いています。」


 冒険者は盾を前にかまえ少しずつ私の方へ歩み寄って来る。先の様に彼女は気軽に私に語りかけているけど、その体勢は闘う気が満ち溢れている。もう次は油断しないように私は彼女の全体を意識する。あの回避は本当に運が良かっただけ、次はないと覚悟をする。


「全力ではないとはいえよく避けた・・・本当に大したもんだよ。さっき友達と訓練していたって言っていたわよね?どれくらいに期間でやっていたの?」


「・・・5年位かな?」


「あっはっはっは、結構長くやって来たんだね!そりゃあ強いわけか!」


 冒険者は最後にそう大きく笑うと歩くのを止めてその場に立ち止まった。何かする気だろうか。私は警戒して身構える。


「ねえ、あなた・・・まだ力を隠しているでしょ?」


 冒険者は何かを悟っているかの様な表情で私に問う。一応奥の手という秘策はあるが、恐らく今までの攻防だけでそれが何かは明確にバレてはいないはず。少しハッタリ気味な態度で対応してみよう。


「分かりますぅ?」


「ふっ・・・面白い子。さしずめ何らかのスキルだろうけど・・・まあいいわ。こっちはこっちで遠慮なく行かせて貰いわね!」


 そう言いながら冒険者は一気に私との距離を詰めてきた。それは先の様に特攻攻撃ではなく、すぐに第2第3の攻撃に移れる体を起こした体勢での攻撃だ。この速さに対抗するため私はすぐさまスキルを切り替えた。


【軽量化:解除】

【スキル:俊敏化】


 しかしこれは悪手だった。同じスキルを発動した者同士、脚を素早くしても結局その距離は引き離すことはできない。しかし同じ条件化でも勝負の決め手がある。それはどれだけの経験の差があるか。即ちこの『俊敏化』による闘い、仕事により命がけで走り続けた冒険者にかなり有利だった。

 冒険者は私を剣の間合いに入れると、鋭い一撃を私に入れようとする。紙一重でかわせたが、その後も第2第3の攻撃に襲われる。反撃の余地なんてない、私は避けるのに精いっぱいだ。彼女の剣がブンブンという風切り音を鳴り、私の心境は焦り始める。攻撃が当たるのは時間の問題だ。


 ひぃぃぃぃ!!ヤバい、これ当たったらめちゃくちゃ痛い奴だ!?素人相手にバカじゃないの?!バッカじゃないの!?あーもう、ハッタリなんかかますんじゃなかった!


 素早く動けるように盾を装備しなかったのが裏目に出た。盾があれば何とか受け止めてから反撃できるがそれは出来ない。仮に剣で受け止めたとしても、反動で手元が痺れてしまい次に攻撃で力が入れられないだろう。しかも素早い攻防のせいで体力も徐々に削られていく。冒険者の連撃を避け、頭に酸素を送りながら必死に打開策に練る。


 何とか、何とかこの人との距離を離さないとッ!!今の私じゃそれはできない・・・何とか向こうから離れてもらわないと。どうすれば離れてくれる?どうすれば警戒する?どうすればこの攻撃が止む?


 自分らしくなく私は思案を巡らす。計画性もなく、将来性もなく、考えればすぐに気付くような事にも気付かない私でも、1つだけ自分でもすごいと思えることがある。それは前世から、こう言った身体を激しく動かしている時に限り、私の頭は妙にさえてしまう事。そんな前世の知恵と力がある私だからこそ、この状況下でも打開策が見つけられた。


【俊敏化:解除】

【剣技:黄火快花きひかいか


「・・・ッ!?」


 冒険者の一撃を避けた後、私は装備してある木刀に両手で握り、黄色い火を纏わせた。突然、熱気と共に火に包まれた私の木刀を見て再び冒険者、ギルド職員、他の参加者のみんなが愕然する。そう、これが先ほどから私が思っていた秘策。つまりエクストラスキルである。

 冒険者は攻撃を止めてすぐさま私はから距離を取った。予想通り、彼女は予期せぬ現象が起きて自ら後退してくれた。


「これは本当に驚いた・・・まさかその歳でエクストラスキルを使えるなんて!?君・・・一体いくつなの?」


「まだぴちぴちの12歳ですよ。なかなか派手でしょ?私の剣技。」


「えぇ、なかなかにね。思わず全力で逃げちゃった。」


 冒険者はそう笑って話すが、その眼は心なしか動揺している様にも見えた。まさかこんな女の子が早くもエクストラスキルを取得しているとは思わなかったのだろう。ギルド職員たちが何やら手元の紙をせっせと書き始めているけど、あまり気にしないでおこう。


「これ、意外と熱いんです。だから・・・次で決めさせて頂きます!」


「大きく出たわね。いいわよ、かかって来なさい!」


 そう宣言した私は黄色く燃える木刀を大きく構えながら冒険者に真っ直ぐ特攻する。彼女の意識は完全に私の武器に、次に私がこれを使って何をするのか彼女は予想し対処するだろう。本来ならこれは非常に不味いけ事だろうけど私にはこれが一番、都合がよかった。

 私が冒険者にある程度近付くと、彼女は身構えて返り撃つ体勢に入る。その瞬間、私は武器を高く上へ投げ捨てた。


「「「「「・・・ッ!?」」」」」


 冒険者、ギルド職員、他の参加者の全員が予想しなかった事に驚愕する。いまだに火を纏った剣は私により地下訓練所の天井に届きそうなほど高く上がった。当然これは何らかの攻撃だと思い全員が剣を凝視する。


(これから何が起きるの!?あの剣はどうなるの!?あそこから何が起きるの!?)


 しかしいくら見ていようとこの先は何も起こらない。何故なら、本当に投げ捨てただけだから。


「・・・力入れて。」


「えっ・・・。」


 視線誘導に成功。冒険者が剣に意識を向けている間に、私は何とか無事に彼女の懐へとたどり着いた。右手を手刀の形にして、前に構えてある彼女の盾にそっと小指を当てる。あの剣技は彼女の気を逸らさせるための囮、これからするのが本命である。彼女がそう悟った時、もう手遅れだった。


「しまっ・・・ッ!!」


【武技:空摩熱拳くうまねっけん


 力を目一杯で右腕を引き、冒険者の盾を切るようにして手刀の手を擦らす。それにより発生した微量な摩擦熱を、手刀に纏わせた火の魔力で更に熱を増大させて、衝撃波として冒険者を盾ごと後方へ吹き飛ばした。私の忠告通りに彼女は盾に力を入れたけど、衝撃が私の想像よりも強く派手に飛んでいく。恐らく纏わせた魔力の量が多かったのだろう。武技により発生された火花と焦げ臭い煙、そして衝撃により吹き飛ばされた彼女は枠の外へ出た。条件は達成できた、この試合、私の勝ちだ


「・・・。」


 審判をしていた担当のギルド職員が呆然として立ち尽くす。想定外な出来事が起きたことにより少し混乱しているようだ。よほど私の歳でエクストラスキルの2つ取得済みなのが珍しいのだろう。


「あの~、相手を外に出したのですが・・・。」


「はっ・・・!す、すまない。試合、そこまでッ!!」


「「「「「うおおおおぉぉぉぉ!!」」」」」


パチパチパチパチ


 担当のギルド職員がそう試合終了の合図を出すと、他の冒険者や参加者たちが大きく騒ぎ出し始める。それだけではなく数名による拍手も聞こえる。周りからの称賛の声にたちまち気持ちが高揚して、思わず右手を大きく掲げるように上げた。その顔は無意識な笑顔、満面な笑みだった。5年間の訓練の成果が報われた。


「カナタさん、試合お疲れ様でした。見事な闘いぶりでしたよ。」


「あっ、はい!ありがとうございます!」


「うん。では次の試験まで・・・。」


「あっ!」


 担当のギルド職員の話しを遮るように私はとある事を思い出して声を上げる。称賛の声ですっかり忘れていた。


「どうしたのですか?」


「えっ、いや、あの人は・・・。」


 それは対戦相手だった冒険者の女性ひとの事だ。いくら冒険者とは言え至近距離でエクストラスキルを食らわせてしまった。あの冒険者の安否が気になる。


「ああ、彼女なら大丈夫ですよ。ほら。」


「いや~負けちゃった!あっはっはっは!」


「ねっ?心配しても損なだけですよ。」


 自力で立ち上がって平然と歩いてきた・・・。えっ、あれ食らって無事だったの!?いや、私の武技が大したことがなかったのかな?今まで比べる対象がなかったけど・・・そう考えるとショックだなぁ・・・。


「え~と、カナタちゃんだっけ?試合お疲れ様。さっきはありがとうね。」


「・・・?」


「“力入れて”・・・あれを聞いていなかったら多分大怪我していたかもね!まあそれでも手はヒリヒリ痛いけどね!あっはっはっは!まだこんなに小さいのに、本当に大したもんだよ!」


 冒険者はそう笑いながらもう片方の手で私の頭を撫でる。どうやら直前による私からの忠告により大事にはならなかったようだ。心底ほっとした。


「今回はありがとうございました!」


「ああ、次も頑張れよ!」


「はい!」


 こうして私の武術の試験が終わった。悔いの残らない良い試合が出来たと思う。次の魔術の試験のためにゆっくりと休もう。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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