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英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第2章 カナタ・タユーリ
55/96

プロローグ2

諸事情により編集しました。

 私の名前は神那樹愛二(かなきあいじ)。今年で23歳の社会人。

 親の元から離れて格安のアパートに引っ越して1人暮らしをしている。高卒で大手企業の就職しようとしたけど、成績があまり良くないという事で見事に失敗した。何とか中小企業にパートとして雇ってもらえて、そこで5年間働いていた。最初は少し不安に思った1人暮らしだったけど、意外にも上手くやりくりしている。何かの時のためにとコツコツと貯めてきた貯金も大分貯まり、私の生活はまさに順調そのものだった。だけど先日、会社の上司の一言でそんな私の生活は一変した。


「君・・・明日から来なくていいよ。」


 唐突な解雇宣言だった。簡単に言うと整理解雇(リストラ)だ。

 私が勤めていたのは下請け会社だったけど、実のところ経営はそこまでよくはなかった。それが今年に入ると会社の経営が著しく傾き、そしてここ数日で大勢の社員を養えなくなる程になった。そこで上司たちは独断と偏見で、最小限で社員を減らすことにした。そして不運にもパートという肩書のせいで私の名が出てきて解雇された。

 つまり今の私は無職。5年間社畜として貢献してきたというのに、まさかこんな仕打ちを受けるとは。会社に告訴しようとも考えたけど、労働法等については疎くて本当にしても大丈夫なのか迷う。弁護士に相談したいけど、相談料だけでかなりの金額が必要だから無理。収入がないの今、無駄な浪費をしたくはない。

 全く笑えない、心境はまさに人生のどん底。煙草は吸わない、パチンコもしない(敗戦が続いたからやめた)、お酒は嗜む程度、この理不尽によるストレスを解消させる方法が見つからない。唯一あるとすれば、明日平日だけどお昼まで寝られること。私は一時的な現実逃避するかのように、そのまま布団を敷いて眠りについた。


 ・・・うん、ここまではちゃんと覚えているんだよねぇ・・・。でも、何処ここ?私の部屋ではないよね?


 目が覚めた時、というより意識が戻った時には、私は何故か白一色の世界に立っていた。しかも寝間着のままだ。四方八方見渡して見えるのは彼方先まで見える白色。何故か私はそんな場所で1人立っていた。


「・・・。すぅ~・・・いやあああああぁぁぁぁぁ!!」


 本当に周りに誰もいないか確認した後、私は最大出力で発声した。山彦のように声は返って来なかったけど、そこはあまり気にしなかった。


「ふぅ~、1回でもいいから大声で叫んでみたかったんだ!」


 多分これは夢でしょ!意識があるってことはこれがいわゆる明晰夢ってやつかな?こんな殺風景な世界を望んだ覚えはないけど・・・まあいっか!・・・もう一回やろっと。


「ぃやっほおおおおおぉぉぉぉぉ!!・・・おいこらッ!声、戻って来いッ!?」


 あれ、意外に楽しくなってきたぞ!そう言えば私の知識が正しければ、確か明晰夢って自分の思い通りの夢を見られるんじゃなかったっけ?じゃあ何で声が戻ってこないんだろう。・・・まあいっか!

 それにしても本当に殺風景な場所だね・・・そうだ!私の夢なんだから何か出せばいいんだ!


「なんか出ろ、パチン!」


 そう思った私は大きく指を鳴らしたけど、白一色の世界は何も変化は起きなかった。帰って来たのがあるとすれば静寂だけだ。


 ・・・って、何も考えていなかったらそりゃあ何も出ないわね。う~ん、そうだな、何を出そうか・・・。


 両手を腰に置き、地平線の彼方まで見える白一色の世界を眺めながら何を創造しようか思案を巡らす。昨晩の心境は最悪だったけど、今の私はこの非現実的な世界を楽しんでいる。


 ・・・そうだ!何か物を出す前に久々に走ってみよう。念入りに準備体操・・・はいらないか。ここは夢なんだし、ケガとかしないよね?


 運動が好きな私はこの世界を見て、突如疾走感を求めたくなった。軽く手足をぶらぶらと揺らしてから、クラウチングスタートの体勢に入る。


 これするの何時振りだろう・・・なんか子供になったみたい。それじゃあ位置について、よ~い・・・。


「どん!!」


 自身の掛け声と同時に私は全力で走り出した。まずは20メートル位まで走り、両手両足をフルで動かす。そして20メートル走ると次は軽く跳ねて、体勢を後ろへ方向変換してバック走行をして、徐々に減速する。ある程度減速すると今後は来た道を戻るように前方へ軽く走り出して、体操競技の技を繰り出した。側転ひねり、2回連続後転飛び、最後に猫宙。そしてピクリとも揺るがない着地を決めた後、私は思わず両手を上にあげて胸を張った。


「タッタララ~ン!ヤバい、綺麗に決まったッ・・・!」


パチパチパチパチ


 そんな満足した私の背後から突如何者かによる拍手が聞こえてきた。誰もいなかったはずの場所からにより、不気味に感じた私は恐る恐る振り向く。するといつの間にか後方に中学生くらいの男の子が立っていた。


「いや~すごいね。あんな動きをしたのもそうだけど、ここであんな激しい運動をしたのも驚いたよ。」


 顔は美形で可愛らしく、服装は灰色のジャージで、髪の色も何故か灰色。全くもって見たことのない男の子が私を見ながら笑いながら拍手を送り続ける。本当に初対面だ、こんな子は知らない。


「えっと・・・君は誰かな?ここはお姉ちゃんの夢の世界のはずだけど?」


「・・・そっか、少し待たせたせいでそう解釈したんだ。ううん違うよ、神那樹愛二さん。ここは君の世界じゃないんだ。」


「えっ、どういうこと?だってここは私の明晰夢・・・ちょっと待って!?今私の名前を言った?どうして知っているの!?」


 私の返答に男の子は微笑んだ。そしてその後、ここはどういった世界なのか、どうして私がここにいるのかごく細やかに説明してくれた。



 男の子からある程度話を聞いた現在、私は懸命に脳を働かせて話を整理し始めている。まず最初に私は今朝、とある事故のせいで死んでしまったらしい。当然真に受けてはいなかったけど、淡々と真剣な表情で説明する男の子を見て、私は徐々に自分が死者だと認め始めた。次にこの世界はと言うと、いわゆる死後の世界らしい。死者の魂が落ち着けられるようにあえて白一色の世界にしているらしい。確かに白色のおかげかここにいる私は平然を保てているけど、この無駄な広さは改善すればいいと思う。最後にこの男の子の正体は、いわゆる神様らしい。私のイメージしていた神様とはだいぶ神々しさはなく、普通の人間の様な格好をしているけど、不思議と疑問に思わずに納得ができてしまった。きっと神様だからなのだろう。


「落ち着いたかな?」


「ええ、待っていてくれてありがとう。少しずつだけど、段々自分が死んだんだなって理解してきた。」


 神様が長々と説明をしてくれた後、私に整理する時間をくれて少しの間待っていてくれた。


 そういえばこの子、神様なんだよね?普通にため口で話しているけど、やっぱり敬語で話した方がいいかしら?でも死んじゃったんだし今さら媚を売っても仕方が・・・。


「僕はそんな口調ぐらいで気にしたりしないよ。普通に話していてくれても大丈夫。まあ、確かに敬語を使われて悪い気はしないけど。」


「えっ、今私、喋っていた?あれでも口はずっと閉じていたはず・・・ああ!もしかして、私の心を読めるの!?」


「正解。さっきの子もそうだけど、本当に今時の人は本当にすごいな。」


 マジか、ヤバいな神様。いやでもたまたまかもしれないし・・・ちょっと遊んでみようかな?でも口に出したら普通に答えられそうから、心の中で質問してみよっと!神様~、準備はいい?


 心からの呼びかけに神様は親指を立てて応答してくれた。凄くノリが良い神様だ。もうこの時点で心が読めることは確定したけど、私はそのまま遊び始めた。


 私が高1の中間テストの結果は?


「国語30点、数学12点、化学24点、社会26点、英語8点。・・・合計で100点かぁ。確かに覚えやすいっちゃぁ覚えやすいな。」


 正解。どうだ、しかも全部偶数だから尚覚えやすいでしょ!

 続いて、私の座右の銘は?


「“盗る人は悪くない、盗られる人が悪い”。・・・これ盗賊が吐く台詞じゃないの?」


 正解!確かに盗賊っぽいけど、別に実物を盗んだことはないからね?技術的な面での話だからね?

 最後に、私の黒歴史と言えば?


「“高校最後の夏、部活の大会の決勝戦、自分のミスで試合に負けた事”。・・・そのミスした原因も言おうか?」


「・・・いいえ結構、正解。参った。」


「イェイ!これで僕の力を信じてもらえたかな?」


 全問正解なのだから疑う余地はない。というかそれ以外の理由ではこんな状況を納得できない。


「おっと、こんなことをしている場合じゃなかった!」


 神様は何かを思い出したかのように表情を変える。


「君と遊んでいるせいですっかり本題を忘れかけたよ。簡単に説明すると、君はこれから地球とは別の世界で生まれ変わって、第2の人生をプレゼントするよ!しかも特別に前世の記憶を残したままでね!」


「えっ・・・えええええぇぇぇぇぇ!!それ本当!?地球とは別の世界って異世界の事よね!?よくアニメとかにある!!」


 思いがけない展開に私は大興奮だ。子供の頃に夢を見ていた、テレビ等で映っていた魔法戦士のようなことができるかもしれないのだから。


「まあまあ落ち着いて!その辺については転生後に分かりやすく君の脳に説明してあげるから!」


「ヤバいヤバい、どうしよう!!早く生まれ変わりたい!!」


「・・・さっきの子はまた別の意味で落ち着きがない人だな。流石は・・・。」


「えっ、何か言った?」


「別に何も。まだ続きがあるから落ち着いて。」


 とりあえず私は軽く深呼吸をして、この昂った気持ちを落ち着かせる。自制は出来たけど、笑みは止まらない。


「ごめん、落ち着いた。」


「すごい笑顔だね・・・どんだけ楽しみなんだか。まあいい、それでね、君が転生した後、神々のルールで生きている魂と干渉できないんだ。つまり僕と君が話せるのはこれで最後ってわけ。」


「それは・・・なんか悲しいなぁ。」


 この神様とは今さっき会って会話した程度の関係だけど、私個人とても気があった気がした。これでサヨナラとは少し寂しく感じる。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど仕方がないんだ。それで、君には異世界や転生以外にも聞きたいことがあるよね?だからあと少しで転生する前にその質問に答えようと思って・・・何かある?」


 私のためにそんな配慮してくれるなんて・・・やっぱり良い子だなぁ。あっ、正しくは良い神様か。そうだねぇ、聞きたいこと・・・お父さんについては・・・まあ、あの人なら私が死んでもすぐに立ち直れるかな。後は特に聞きたいことは~・・・あっ!!


「・・・2つ聞いてもいいかな?」


「うん、いいよ。」


「それじゃあまず1つ目は、私の死因って何だったの?」


「えっと、気分が悪くなると思うけど・・・それでも聞きたい?」


 神様は少し遠慮しがちな言葉で尋ね返して来た。逆にそれが私の興味を扇いだ。


「是非。」


「・・・分かった。その代わりに落ち着いて話を聞いてよ。・・・と、その前に。」


パチンッ


 神様は唐突に指を鳴らした。今まで聞いた指パッチンの中で一番耳当たりの良い音が響く。


「なに、今の?」


「まあまあ気にせず。それじゃあ話すよ。」


 神様は私の死因について語ってくれた。9月の中旬、休日の早朝、私は解雇されたストレスと日頃の疲れを癒そうと現時点ではまだ熟睡していた。快晴の朝だったらしいけど私には関係なかった。そんな私の隣の部屋の住民がタバコの火の消し忘れで、毛羽の敷物に引火して部屋中に一気に火が回る。当然それに気付いたその部屋の住民が大騒ぎをして、他の住民たちに知らせて避難をした。もちろん私の部屋にも他の住民が呼びかけに来てくれたのだが、私が応答しなかったせいで留守だと思いそのまま立ち去ったそうだ。


「えっ、私全く気付かなかったの!?」


「うん。」


「いやいや、普通気付くでしょ!そんなのありえないって!?」


「だって君、耳栓して寝ていたじゃん。」


 ・・・あ~、そういえばしていた気がする。うん、静かに寝たかったから確かにしていたなぁ。


「えっ、それじゃあ私の死因って耳栓なの?!」


「落ち着いて。まだ話には続きがあるから最後まで聞いて。」


 渋々首を縦に振って神様の話の続きを聞き始める。その後、火はアパート全体を覆い、やがて私の部屋にも火が侵入してきた。そして私が包まっていた蒲団にも火が燃え移った。当然蒲団から高熱を感じ始めた私は目覚めかけようとした。だけどその瞬間、ただへさえ年季が入ったアパートの支柱は火事により燃やされて脆くなり、部屋の屋根裏が崩れ落ち、私のその落下物によって死亡した。


「いやいや、そこまで来たら気付くよ!自分で言うのもあれだけど私身体能力高い方だよ!目覚めかけたんなら多分反応できたと思うけど。」


「うん、本調子の君だったら出来ていたかもね。でも君、アイマスクして寝ていたじゃん。」


 ・・・あ~、そういえばそれもしていた気がする。うん、日光に邪魔されたくなかったから確かにしていたなぁ。


「えっ、それじゃあ私の死因ってアイマスクなの?!」


「物は何も悪くないと思うけど。」


「御もっとも・・・。」


 神様の正論にこれ以上言葉が出ない。しかしこれはあまりに不運すぎる。解雇された翌日に死亡なんて、全くの不運としか言いようがない。私はショックのあまり手を頭に置いて、思わずため息をついた。前世がこんな死に方なら来世ではどうなるのか先行きが不安だ。


「まあそう落ち込まないで。生き物の死に方なんてそんなものだからさぁ。君より酷い死に方をした人だっているんだよ。」


「ふぅ~ん、例えば?」


「う~ん、他人の死因を例え話に出すのはちょっとあれだけど・・・聞く?」


「是非。」


 何とも言えないこの気持ちを何とかしたい。それで少しでも慰めれるのならと思い、私は軽い気持ちで聞いてしまった。


「え~と・・・実は君の死の少し前にね、君と同じ地域でもう1人死んだ人がいるんだ。その人ともこんな風に対談していたから君との話にも遅れたわけだけど。それでその人の死因だけど・・・君の地域で古い建築物が多くある場所あるよね?」


「・・・あ~、あるね。それが?」


 確かに平成元年に建てられた高所の建物が密集している所がある。正直に言うとどの建物も古くなっているせいか、近年通る人はかなり少なくなっている。


「その人は散歩気分でその辺りを歩いていたわけ。それでね、よく建物の上に置かれてある大量の水を貯蔵できるタンクがあるよね。」


「・・・あるね。」


「だいぶ年代物だったからねぇ、色々と錆付いていたんだよ。そのせいで根元のボルトが壊れてしまって・・・落ちちゃったの、その人の頭の上に。」


「何が?」


「タンクが。」


「その人の上に?」


「その人の上に。」


「それでその人は?」


「ペチャンッ・・・タンクの下敷きになって君と同じ即死。」


 うわっ、ヤバい、聞かなきゃよかった!?一瞬グロイ想像をしてしまった・・・。確かに公の場でそんな死に方をするよりかは私の方がマシだと思えて来た。いや、死に方にマシとかはないと思うけど。


「骨の8割以上が粉砕骨折、内臓はタンクにより圧迫されて外に飛び出して、ほとんどの血はタンクから漏れ出た水で満遍なく流され・・・。」


「いいッ!いいッ!その先は言わなくていいッ!!」


「少しは気が楽になったかな?」


「ならないよ気持ちが悪い・・・これ転生した後でも思い出しちゃうよ。」


 しかし一体どんな人なんだ?私以上に不運な死に方をして・・・余程日頃の行いが悪かったんかな?少しその人のことが気になってきた。まあいい、次の質問をしよう。


「あっとごめん・・・もう時間なんだ。」


 また心を読んだのか、神様は私が問いかける前に止めてきた。


「時間って何が?」


 そう問い返すと神様は私の少し下に向けて指をさす。それに誘導されて私の視線は下に移る。すると視界に映ったのは、光の粒子のように消えていく私の体だった。すでに下半身と上半身、そして腕まで消えており、光の粒子の境界は首のまで致している。今の私は空飛び生首になっていた。


「えっ、えっ、えっ!!私の体が消えているんだけど!?えぇー、ヤバいッ!!」


「やっぱり思った通りの反応をしたね!・・・教えるのを後にしてよかった。」


 神様は確信犯だった。先の指を鳴らしたのは、これ現象の開始の合図だったようだ。あえて言わなかったようだ。でも神様の判断は正しかったと思う。もし自分の体が消えていることを先に知っていたら、確実にまともな質問は出来ずに錯乱していたと思うから。現に今そうなっている。こうしている間にも光の粒子の境界はもう口元まで来た。


 どうしよう・・・今思うと最初の質問より後の質問の方が聞きたかったのに、これじゃあ聞けない!ああもう、死因なんてどうでもよかったのに!!


「・・・じゃあ心の中で質問してよ。転生した後に脳に文面として送っておくから。」


 私の心を読んでくれたんだ・・・神様、本当にありがとう!それじゃあお願いします・・・“〇〇〇〇〇、〇〇〇〇〇〇〇〇?”


 それを聞いた神様は小さく頷く、消えていく私を見送った。視界が徐々に白くなっていくと、私は眠るように意識が薄れていった。そしてまた熟睡するかのように意識が無くなる。


 すごく気分が、良くなってきた・・・。そうか・・・私、本当に・・・転生しちゃうんだ・・・。・・・さようなら、〇〇〇・・・。


 こうして1人の淑女の魂は、異世界へ旅立った。彼女にとってそれが最良なのか、はたまた最悪なのか、誰も知る和がない。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

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