第52話 ナエナ・マーシェナの学校生活 後編
諸事情により編集しました。
体育館1階中央にて、私とデビッドはお互い武器を標的に向けて、いつ合図がきてもいいように戦闘態勢に入った。本来この講義に参加するはずだった50人以上の生徒がいる観客席、1階の端で私たちを見守る先生たち、そして中央にいる私とデビッドは一瞬の静寂を作る。その静寂もまた先生の合図とともに一瞬で無くなる。
「始め!!」
先生の“め”という言葉が出たのと同時に、私とデビッドはお互い正面から攻撃を仕掛ける。2人の剣は真正面から力一杯にぶつかり合い、布で覆われているとは思えない低音が体育館中に響き渡った。衝撃と共に耳に入る音に2階の生徒たちは大いに盛り上がり始める。
「「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」」」
「なに今の!?スゲェー音がしたぞ!?」
「2人の太刀筋が全く読めねぇ!?何だこの試合は!?」
「デビッドさんの一方的な展開になると思っていたけど、これはどうなるか分からないぞ!?」
重々しくぶつかり合った私たちは一旦間合いを取り、お互い剣先を向けたまま体育館を広々として使い闘う。初手と同様に強いひと振りで何度も攻撃してくるデビッド、昨日とは打って変わって真剣な表情で敵に猛攻する。それに対してフットワークの軽さを生かしながら攻撃を受け流す私、力勝負では男子に勝てないとみて好機を見計らっている。戦況はまさに防戦一方。
「ナエナてめぇ逃げてんじゃあねえよ!やる気あんのか!?」
「とっとと負けちまえ!この田舎者がッ!」
デビッドの取り巻き2人の罵声が鬱陶しくて仕方がない。この決闘が終わった後日にぶっ飛ばそう。そんな一瞬の思案を巡らしながらもデビッドの猛攻を何度も捌き続ける。
「ふふ、どうした?かかって来ないのかい?」
攻撃の合間に何やらデビッドが煽ってきた。勝負中に何を考えているのだ、この人は。しかもまともな攻撃が一撃も与えられていないのに、何故にそんな余裕が出てくるのだろうか。
「・・・これが私の戦法なのでお気になさらずに。」
「あぁ~、本当は君の美しい体を傷つけるのは心苦しいが・・・勝負なのだから仕方がない!後で慰めてあげるから、悔いなく負けてくれたまえッ!!」
本当にイライラとさせてくるなぁこの人は。“慰めてあげる”?気色が悪いからやめてほしい!想像しただけで気分が悪い!
デビッドがそう啖呵を切りながら猛攻を続ける。流石は貴族だけあってその太刀筋は鋭く、受け流すのは想像よりも容易ではなかった。そんな私たちの激しい攻防を繰り広げると、2階の観衆の熱気はますます上がって行った。しかしその熱気はこれ以上上がることなく、僅か数分後で徐々に下がって行った。
◇
「・・・おい、何で体育館中走り回っているナエナよりも攻撃しているデビッドさんの方が弱り始めているんだ?」
「疲れた・・・にしては早すぎるよね。一体どうしたのかしら?」
「魔法もスキルも使用禁止なんでしょ?だったらただ単にデビッドさんの体力が少なかっただけじゃないの?」
「でもあいつ、じゃなかったあの人、体力測定とかは男子生徒の中では平均以上だったはずけど・・・。」
観衆内で幾つかの疑問が浮かび上がる。生徒たちの言う通り開始から僅か数分が経った今、デビッドの様子が2階から見ても分かるくらい変化が起きていた。先まで激しい猛攻を続けた剣が徐々にそのペースが落ちて、呼吸は体育館を駆ける2人の足音位荒く大きくなっていた。
やがてデビッドは肩で呼吸を始めるのと同時に、動きがピタッと止まる。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・!!」
「・・・大丈夫ですかデビッドさん?少し顔色がよろしくないようですが・・・降参しますか?それとも大勢の人ではあれでしたら・・・私に一撃入れられて負けたふりでもします?その方がデビッドさんの沽券のためですし。」
疲れ果てたデビッドとは対象に体力が有り余っている私は煽るように語りかける。己の誇りに傷つけられて逆上したデビッドは険しい表情を浮かべて、回復しきっていない体力のままもう一度猛攻を開始する。それに対して私は先と同様にその攻撃を走りながら何度も受け流し続ける。
デビッド、確かにあなたは男子の中では強い方かもしれない。でも決闘や勝負ってのはただ単に力をぶつければ勝てるものじゃない、肉体的にも精神的にも強くなくちゃ勝てないもの!体力がなくなって冷静な判断が出来なくなった時点で、あなたの負けは確定していたのよ!
初手の全力攻撃を受けて私は悟った。デビッドはこの機会をつかい、自身の圧倒的な力量を私や他の生徒たちに知らしめようとしている事に。傲慢なデビッドなら考えてそうな事だと私は悟った。とても浅はかな考えだけど、私はそれを逆に利用させてもらった。
私はあえてこの防戦一方の状況をつくり、デビッドの心境を“あと一押しで勝てる”と思わせて、とどめの全力攻撃を何度も打たせ続けた。例え男子の中で体力がある方とは言え、最初から全力で動き続ければ疲労するに決まっている。デビッドは既に精神的な決闘で私に負けている。
「・・・何故、何故君は・・・顔色一つ変っていないのだ!?」
デビッドはまた攻撃の手を止めて、観客と同様の疑問を私に問う。この隙に攻撃してもいいのだけど、せっかくだからもっと精神的な方を攻撃しよう。
「すみませんが、言っている意味が分かりません。」
「はぁ・・・はぁ・・・君だって、君だって私と同等に動き回っているじゃないか!なのになぜ君は私のように息切れや、汗や、疲労を全く見せないんだ!?スキルや魔法を使っているわけではないのに・・・答えろッ!!」
現実に起きていることを受け入れられないデビッドは珍しく私に怒鳴る。私は淡々と答えた。
「本当に言っている意味が全く理解できません。」
「だから・・・。」
「私たちは冒険者なるためにこの学校に通い、講義により心身ともに日々精進してきました。ですがどれだけ努力を重ねても冒険者という職は依頼、つまりは仕事を受けた時点で死と隣り合わせ。例えこの学校の講義が優れているとはいえ、仮に冒険者試験に無事合格していざ現場へ向かうとしても安心なんてできません。だから私は人目に隠れて毎日早朝で10キロ以上走ることを日課にしています。・・・まあ、冒険者志望の者ならこのくらいの努力はしているのは当然のことなのであまり大きな声で言いたくなかったのですが。改めて言わせていただきます・・・デビッドさんの言う“何故あれくらいの活動で疲労しない”という意味が全く理解できません。」
冷たい視線を送りながら私は論破する。昔から走ることが好きだった私は『王都バリエンス』に引っ越してからずっと、人が少ない早朝で走り続けた。体力測定で男子の方では知られていないようだけど、私は毎回一位を取っている。先生曰く男子の記録を含めても一位だそうだ。体力に関してデビッドに負けることなど考えてもいない。
「うっ・・・うああああぁぁぁぁぁ!!」
大勢の生徒の前でプライドを完全に崩壊されたデビッドは錯乱したかのような大声を出しながら、私に渾身のひと振りをする。だけど疲労と共に握力がなくなったその剣は女子である私でも真正面から押し返せられた。初手とは少し違った低音がもう一度体育館中に響くと同時に、デビッドの手元から剣が弾き飛ばされる。丸腰となってデビッドはよほどこの状況を受け入れられないのか決闘中にもかかわらず呆然となる。
「そんなッ・・・そんなッ・・・!!」
これくらいでショックを受けるなんて、本当に冒険者志望なの?なんか本当に色々と残念な人・・・このままだと降参とか言わないよね。これ以上は時間の無駄だし、適当に一撃入れて気絶させて早く終わらそう。
「ひぃッ!ま、待て、マーシェナくん!もう一勝負しないか?」
武器を両手持ちに変えて近付くと、デビッドはそれに反応してまた何か提案を言い出した。呆れた私は冷たい視線のまま話を聞いた。
「ま、まさか君がここまで対人戦意強かったなんて知らなかったよ!うん、君は強い!しかしあれだ、冒険者というのは魔法の質も必要だろ?そう思わないかい?だからこうしよう、この勝負を3本試合の形式にするというのは!本日はこの武器試合、明日は魔法試合、そして2日後は総合試合というのはどうだろう!!」
何言っているの、この人?今この状況でそれ言いだせるなんてどんな神経しているの?
デビッドの提案は2階の生徒たちまで声が届いて、生徒たちは皆、私と同じ心境になる。その反応にデビッドは全く気付かずただ私を見つめて返答を待っている。周りの反応を見られないデビッドに心底哀れだと思った。当然私の返答は決まっている。
「嫌です。」
「ま、まあそこをなんとか!今思い出した、私は本来魔法を軸にした戦法なんだ!つまりは実力の半分以下も出していなかったわけだよ!君だって全力の私に勝利しても嬉しくはないだろう?!」
この人は性格的に私の天敵か何かなの?今ものすごくイラってきた。人に恨みを売るのがご上手ですね?
私は剣術だけではなく当然、魔法も鍛錬は怠らず励んでいた。だから魔法にも自信があり、デビッドの自分は私より魔法の技量が高いという遠回しな台詞を聞いて苛立ちがたった。湧きあがった怒りを抑えてながら呆れた意味でのため息をこぼし、デビッドの要求を無視しつつゆっくりと武器を持ち上げて近付く。
「ま、待て!私に重傷を与えるつもりなのか!?」
「決闘なのでケガをするのは仕方がない事かと。それにあちらを見てください、医療系の魔法が使える先生方が大勢控えております。これでどんなに苦痛が身に起きたとしても安心して熟睡できると思います。」
私は武器を大きく横に振りかぶり、両手を握りしめて、一撃で決めるため焦らすようにじっくりと狙いを定める。幸運にも疲労困憊で動けなくなっているから狙いが定まりやすい。狙い場所は顔面の側頭。顎を狙って気絶させるのが最も紳士的だけど、彼に対してその様な容赦は必要ない。ここは私のストレス発散も込めて気持ち良く受けてもらおう。流石にフルスイングしたら死んでしまうからある程度力加減はする。
「ひぃッ!?」
「報酬の件につきましては、また後日連絡させていただきます。その時にご対応を・・・それではッ!!」
最後の言葉を周りに聞こえないように小声で話すのと同時に、最後の一撃を入れようとした。だけど運と言うのは長く続かないものだ。
「参った!!参りました!!私の負けです!!」
武器を振り始めた直後、デビッドは体育館にいる全員に聞こえるように大きな声で降参を宣言した。この試合のルール上、降参の後の追撃は反則負けになるから、私は咄嗟に反応した。前もって力加減していたおかげで剣の軌道をずらすことが出来て、間一髪剣はデビッドの頭上を通り過ぎる。普通の人ならここで危なかったと安堵するけど、今の私の心境は全くの真逆だ。
ああもうッ!あと少し、あと少しなのに!ようやくその顔に一撃入れられるところだったのに!!・・・この人絶対、私を反則負けにして決闘に勝とうとしていたよね!?だからあのタイミングで・・・本当に最低!
汚い手で勝とうとしたことに私は今からでも怒鳴りたかった。だけどこれは確証の無い私の推測、むやみに口には出せない。デビッドに対しての怒りを深呼吸しながらもう一度沈めつつ、振り切った武器をゆっくりとデビッドの顔に近付けて確認をとる。
「“降参の宣言”・・・つまりはこの決闘、私の勝ちで良いのですね?」
「ああ、もうそれでいい・・・。」
視線を逸らしながらもデビッドは首を縦に振り、敗北を認めた。傍に駆け寄った先生もそれを確認して、みんなに聞こえるように進言する。
「うむ・・・それではこの勝負“デビッド・F・プルルヌバの降参”により、勝者はナエナ・マーシェナ!!」
先生の試合の終了の合図とともに私はデビッドの顔から武器は離した。私の勝利、だけど全然達成感もなければ爽快感もない。体力が有り余っているのもそうだし、デビッドがもう少し心身ともに強かったら味わえたかもしれない。今言えるのはただ1つ、本当に時間の無駄だった。これなら普通に講義をしていた方が有意義だった。
観衆はあれ程熱中して観ていた開始の合図とは違い、終了の合図が出た後の反応はかなり冷めていた。全員が床に座り込んでいるデビッドに冷たい視線を送る。しまいにはいろんな個所でため息が聞こえ始めた。
「ナエナが勝った・・・よな?」
「一応そうなるわよね・・・なんか嫌な終わり方よね。」
「そうだよね・・・デビッドさんがあんな事言いださなければなぁ~。カッコよかったの最初だけかよ。」
「もう“さん”付けするのやめない?」
終始試合を見続けていた観衆たちからデビッドに対する批判の声が止まらない。これには取り巻き2人も肩身を狭くしていた。当然の醜態をさらしたデビッド本人はようやく観衆に目を通せるようになったのか、今になって恥ずかしそうに顔を赤らめる。これでデビッドの名誉は地の底だ。だけど同情なんてしない、これは自分が蒔いた種だ。何より私の大切なしおりを壊したのだからこの程度では満足なんかしない。
「先生、審判という大役を引き受けて下さりありがとうございました。少しデビッドさんと内密な会話をしたいのですが、いいですか?」
「・・・そうだな、2人とも特にケガとかなさそうだし・・・分かった。他の先生には俺の方で止めておく。・・・あんまりいじめるなよ?」
先生は最後に小声でそう言って私たちから離れた。人払いは出来た。これでデビッドとの報酬の件について話せる。
「それではデビッドさん、報酬の件についてですが・・・。」
「・・・はぁ、分かりましたよ。何でも好きな物を言ってください。直ぐに執事に用意させます。」
渋々な表情でデビッドは対応する。どうやらデビッドは私が何か物を要求すると思っているらしい。
「いいえ。私は物が欲しいわけではありません。」
「・・・?じゃあ一体何を望むのだ?」
「私が望むのはただ1つ、デビッドさんにある約束・・・いや、盟約と言った方が正しいでしょうか?とにかくそれを交わしていただきたいのです。」
「・・・その盟約とは?」
「そう不安そうな顔をしなくとも大丈夫です、簡単な事ですので。“金輪際私及び私の親族、交友関係者全員に関わらないでください。この学園にいる間も、卒業後もずっと。期限は一生。それ以上それ以下の交渉の余地はなし”・・・以上です。了承してくれますよね?」
武器を床に突き立てて冷たい視線のまま私は盟約内容を言った。その内容に、私の意図に気付いたデビッドはたちまち絶句する。
「そ、それはつまり・・・“2度と話しかけるな”ということなのか?」
「はい。」
「それは君の本心なのかい!?」
「当然です。」
「なっ・・・そ、そんなの、認められるか!!」
再び発狂しだしたデビッドは立ち上がり、私の盟約を拒否した。自分からこの報酬の件を私に持ちかけたのにそれを受け入れられないとは、とことん哀れな人だ。まあ予想はしていたけど。デビッドの唐突な怒鳴り声に、試合が終わって立ち去ろうとした2階の生徒たちと1階の先生たちが視線を私たちに向ける。
「“期限は一生”だと・・・ふざけているのかね、君は!?」
「私は真剣です。あと、あまり大きな声で言わないでください・・・先生方や他の生徒に聞かれてしまいます。」
「くっ、何故だ、何故なんだマーシェナくん!?なぜなんだ分かってくれない!?私と結ばれることは君にだって幸せな事なのだ!私なら君を貧しい思いをさせたりしない!だから頼む、考え直してくれないか!?」
私の人生を勝手に決めないでほしい。何でデビッドと結婚することが私にとって一番の幸せなの?逆に不幸せとしか思えないんだけど。もう相手にするだけで疲れてきた・・・これは精神攻撃か何か?早く会話を終わらせて帰りたい・・・。
「・・・そういえば先ほど、武器試合以外に魔法試合や総合試合も行いたいと仰いましたよね?」
「ああ、君に自信がないから断られたけどね。」
「・・・それはつまり武器以外なら私に勝つ自信があるということですよね?」
「当然とも!今回は魔法スキル禁止で披露できなかったが、無魔法さえ使えれば私の本来の戦いというものを見せることで来たさ!」
デビッドはそう言いながらなぜか急に元気になった。弁解が出来て自己満足しているのだろう。しかしその元気づいた心は、次の私の行動によって一瞬で無くなった。
【火魔法:フル・ファイア】
私は武器を上に掲げて最大火力の魔法を発動した。火は体育館の屋上まで届くぐらい強く燃え上がり、木刀を覆っていた布を灰に帰る。魔法を解除した頃には私の武器は木刀へと変化していた。
「これでも私より魔法の技量が上なのだと自信があるのですか?」
「えっ、あっ・・・。」
いきなりとんでもない火魔法を見せられた生徒たちと先生たちは驚いて何事かと騒ぎ始めた。それとは真逆にデビッドは、目の前で発動されたせいか金魚にように口はパクパクと動かして硬直している。これで魔法の自信はなくしたようだ。デビッドの心はもうボロボロだけど私は止めない。もう1つ、スキルを目の前で披露した。
「デビッドさん、そこから一歩も・・・いえ、少しも動かないでください。」
「へっ・・・?」
阿呆になったデビッドに忠告を言って、私は武器を構えた。
【剣技:ファイア・ファイブ・ブレード】
現時点で使える最高連撃、エクストラスキルを発動した。火を纏った剣はデビッドに危害を与えないように体のギリギリを通らせて、彼に火と剣による剣技を披露した。素早い5連撃であってその披露時間は短いけど、デビッドに見せつけるだけには十分だった。最後の5連撃目には魔力少し加えて、剣を下から上に振り切るのと同時に無数の火の粉を散らばした。火の粉にはそれほどの熱がこもってなく、私たちの頭に降りかかっても特に痛くも痒くもない。
「ふぅー・・・それでデビッドさん、これでも私より総合的に上なのだと自身があるのですか?もし本当におありでしたら、是非とも3本とも試合をしましょう。冒険者志望者にとって強者と戦える機会など、願ってもいませんから。」
「ッ・・・!?」
一体何が起こったのか理解できないデビッドはとうとう声を発生する事すらできなくなった。この様子だと私の話もちゃんと聞き取れているのか怪しいものだ。私が突如として魔法やスキルを発動したせいか、様子を気になった先生が駆け寄ってきた。
「おいナエナ、お前一体何をやっているんだ!?デビッドに紙一重で魔法や剣技を発動させたりして!?」
ここ先生が少し怒鳴り気味で私に迫り問い始める。今思うと確かにやり過ぎたと思う。
「えっ、あの・・・今のはちょっとした・・・反省会?みたいなものです・・・はい。もし魔法やスキルも使用可だった場合、私はこんな手も使いますよって言っていたんです。」
「だからってあんなギリギリで見せなくても・・・まあいい。お前らも早く帰れる今日の講義はもう終わりだ。」
「分かりました。でもあとちょっとデビッドさんと話してから・・・。」
「・・・はぁ~、もうあんなことすんなよ?それにしてもナエナ、お前って意外とデビッドと仲がいいんだな。」
あの酷い言い訳が通用できたのか先生は少し呆れ気味で再び私たちから離れて行った。先生は何か勘違いをしているのか、とても不愉快な捨て台詞を言って行った。今度は会った時に誤認を解いてもらおう。
「私は・・・私は強い、強いはずなのに・・・!?こんな試合、認められない・・・!!」
再びデビッドの方へ振り向くと、いつの間にか座り込んで震えながら独り言をつぶやいていた。受け入れられない現実のあまり自己暗示をし始めた。惨敗した後なのにその自信はどこから湧いてくるのか逆に気になってきた。座り込んだデビッドの顔に私の顔を近づけて、最後の言葉を言う。
「お戯れを言わないでください・・・“デビッド・F・プルルヌバに二言はない!”んですよね?男たるもの腕っぷしはともかく、一度言ったことは律儀に守って下さらないと・・・もう、いろいろと取り返しがつかなくなりますよ?」
己のプライド、今後の人間関係、貴族としての立場などをすべて含めて、これ以上の愚行は自身の身を亡ぼすという意味での忠告だ。そして同時に最後の慈悲でもある。最初は大切なしおりを壊されて怒りを覚えたけど、今の情けないデビッドの姿を見て、その内心は先の観衆同様に冷めていた。
確かにこの人のことは嫌いだけど・・・別にこれ以上追い詰める必要ないよね?それに“アスタくんから貰った花が壊された”から追い込んだってもしアスタくんが知ったら、たぶんこの人に同情して悲しんじゃうよね?私と違ってアスタくんは優しいから、きっとそう感じると思う。私もちょっとやり過ぎたかな・・・。
最後の私の言葉を聞いたデビッドは、その意味をどう受け止めたのかは知らないけど、思考が止まったかのように静かになった。その先は何も返答や合図はなく、私は了承したととらえて座り込んだデビッドに一礼してその場を去った。私が体育館から出て行くまでデビッドは固まったままだった。
◇
星暦2029、夏の44日、水の日、夕暮れ
武器を先生に返してそのまま体育館を出ると空はもう赤色になっていた。周辺にはもう他の生徒はもういない、みんな先の決闘を見て白けてしまってそうそうと帰ったのだろう。私は1人両腕を上にあげて背筋を伸ばし始めた。
「う~~~ん!やっと、これで終わった・・・。」
自分から望んだ報酬に、今になってようやく実感がわいてきた。流石のデビッドでもあんな状態から復活した後に、私との契約を破ろうという気は起こさないだろう。これでようやく講義や自主鍛錬に集中できる。
「お~い、ナエナちゃん~。一緒に帰ろう~。」
少し離れた先にいる友人が大きく手を振って私を呼ぶ。どうやら1人で待っていてくれた様だ。友人の下に向かおうと走り出そうとした瞬間、私の背後から急な追い風が吹いてきた。風は私の背中を一瞬押したかのような感触を与えるとたちまち止んでしまう。
「・・・何、今の?」
冷たく不気味な風、火魔法により少し体温が上がった私の身体を程よく冷やしてくれた。少し違和感を覚えるけど、ただの気のせいだろう。これ以上友人を待たせるのはまずいと思い、私はもう一度友人の下へ走り出した。
しかしあれはただの風ではなかった。あれはウエスト大陸の最端にある村、ペレーハ村から来た風。当然の私は気付かない。その風がペレーハ村でゴブリンの集団との戦闘によって、アスタくんが重傷を負っていると言う知らせという事に、私は気付かなかった。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




