第51話 ナエナ・マーシェナの学校生活 前編
諸事情により編集しました。
旧タイトル“ナエナ・マーシェナの学校生活 中編”
<ナエナ視点>
星暦2029、夏の43日、火の日、昼
王都バリエンス、ウエスト大陸の5つの王都の中で最も冒険者育成に力を入れている王都である。そしてここは王都バリエンスが有する冒険者育成学校、バリエンス学園。冒険者志望の12歳から18歳の子供たちを育てる施設で、私はここの生徒として通っている。入学してから月日はあっという間に経って現在5年生、あと2年で卒業できるところまでになれた。
2限目の講義が終わり今は昼食の時間。私は学校の庭にあるベンチに1人で本を読みながら、一緒に昼食を食べる約束をした友人が来るのを待っている。
本のタイトルは『ウエスト大陸 英雄詩』。昔ウエスト大陸中のモンスター以外の生物を絶滅させようとしていたという“魔王ゼブルル”と、それに立ち向かおうとウエスト大陸を転々と旅をしながら苦しみ民たちを救う“星盾の勇者エコロ”の物語を記した小説本だ。この本を出版した人は実際に数十年前の勇者の活躍を間近で目視しただけあって、その内容はとても現実味がある。ただ勇者や魔王による戦闘シーンを目視していないせいか、所有していたスキルや魔法、どのようにして戦ったのか全く載っていない。少し残念だけど、それでも私はこの本が好きだった。
飲食に苦しむ人々、劣化した環境に苦しむ人々、身体的不自由な人々全員を、己の善意で助けて救ってきた。まさに私が目標にするべき冒険者像でもあった。何より私がこの本に釘付けになった理由は、勇者エコロが女性だからだ。同じ女性として、ここまで己の意思を貫いて歩き続けていることに、私は心から尊敬している。
・・・カッコいい!もう10回は呼んでいるけど何回呼んでも飽きないな・・・想像するとなんてカッコいい人なんだろう。内容もそこまでオーバーに書かれていないから脚色とかされていないよね?本当にカッコいいな~。私もこんな冒険者になってみたい!
・・・そういえば、ペレーハ村から出てもう5年が経ったのか。アスタくん元気にしているのかな・・・。まだペレーハ村にいるのかな?まだ花とか育でているのかな?早く・・・お互い成長した格好を見せ合いたいなぁ。
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ナエナ・マーシェナ
種族:人族
性別:女
年齢:17
状態:健康
『称号一覧』
・冒険者の娘
・火の戦士
・軽快な武闘家
・見習い盾使い
・見習い投擲者
・火魔法使い
・見習い木魔法使い
・広原を駆ける者
・冒険者育成学校生徒
・希望の若手
『適性魔法一覧』
・火 ・木 ・雷 ・無
『エクストラスキル一覧』
・【剣技:ファイア・ファイブ・ブレード】
『スキル一覧』
・【俊敏化】 ・【筋力強化】
『熟練度一覧』
・剣術 21
・盾術 19
・杖術 15
・体術 24
・歩行術 27
・射撃術 15
・火魔法 23
・木魔法 18
・雷魔法 16
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私はステータスウィンドを開いて、自信の成長を再確認をする。この5年間私は確かに強くなった。そんな私を早くアスタくんに見せて自慢がしたい。そして昔の様に楽しく話しがしたい。
「ナエナちゃん~ごめんね~、売店が思っていたより混んでいて~。」
「遅いよ~、早く一緒に食べよう。」
読書は初めて10分後、学校でできた友達がようやく来た。ステータスウィンドを閉じて、読み進めたページにしおりを挟み、私は友人を隣に座わらせて一緒に昼食を食べ始める。
「3限目の講義何だっけ?」
「え~と確か魔法探求だから・・・オリジナル魔法の創造だったと思うよ。」
「あ~あれかぁ・・・私の嫌いな講義だぁ~。完成形が思いつかないし試行錯誤で魔法浪費して魔力欠乏状態になって酔い倒れるし・・・はぁ~嫌だな~。」
「私は結構好きだよ?自分だけのオリジナル魔法を創造するなんて楽しいじゃん。早くしたくて待ち遠しいよ。」
「ナエナちゃんって本当に戦闘系の講義好きだよね~。そのおかげで男子よりも強いもんね~。もしかして冒険者志望じゃなくて狂戦士志望だったり?」
「へへへ、どうもありがとう。」
「褒めていないけどね~。」
そんな感じで友達と談笑しながら昼食を食べ続ける。そんな中、横からが取り巻きを連れた男子が話しかけてきた。
「やあマーシェナくん。ご機嫌麗しゅう。」
声のする方へ振り向くと、そこにはいつも私を嫁にしようと求婚を迫ってくるデビッド・F・プルルヌバという妖精族の男子生徒だった。今日もかと思いつつ不機嫌な顔を隠しつつ、自分には似合わない敬語を使って対応する。
「どうもデビッドさん、こんにちは。いつも言っていると思うけど苗字で呼ぶのはやめてもらっていいですか?機嫌をうかがわれているみたいであまりいい気分になれないので。」
「別にいいじゃないか、その名で呼ばれるのも今のうちなのだからな。君は私と婚約を交わしてナエナ・F・プルルヌバになるのだ!名前など妻になった後いくらでも呼んであげるさ。」
デビッドはまるで私と結婚することが決まっているかのように話を進める。彼のこういう自分勝手な性格に私は毎回困らされている。性格だけならまだいい、もっと面倒くさいのはデビッドがこの王都での貴族の息子というところ。下手に刺激を与えると貴族の権限で後々面倒が起きるかもしれないと思い今まで極力聞き流していた。
だけど最近のデビッドの求婚は鬱陶しく感じ始めてきている。講義中での一方的な手紙、下校中での待ち伏せ、休校日に至っては一日中付きまとって来る。丁度いいからこの機会にはっきりと断っておこう。私はベンチから立ち上がってデビッドと同じ視線で会話する。
「デビッドさん、はっきり言わせて貰います!私の夢は冒険者になること、だからこの学校に通っているのです!私を養ってくれそうな殿方を探しに来たわけではございません!だから私はあなたとは結婚しません!」
「・・・おいおい聞き間違いかな?今なんて言ったのかもう1回言ってくれないか?」
デビッドは拍子抜けな表情で尋ねる。そんなに聞きたいのならもう一度言ってやろう。次は特別に大きく強く言ってやる。
「もう一度言います、あなたとは結婚したくありません!!」
「ふがッ!!」
「ナエナちゃんッ!?」
しまったッ!?つい本音まで言っちゃった!?・・・まあいいや、もう言っちゃったし。それにデビッドにも現実を受け入れられる良い薬にもなったでしょ。
再度私に返答を聞いたデビッドは固まった。まるで氷魔法を食らったかのようにピタリと動かなくなった。因みに私の適正魔法は火と木と雷と無だから私のせいではない。
デビッドが固まった隙に私は一礼をして、友人の手を掴んでそそくさとその場から退散した。よほどショックだったのかデビッド全く動かない。取り巻きの2人が何度も声をかけるけど返答しない。相当堪えたのだろう。
因みに何故デビッドがここまで私にこだわるのかと言うと、何でも入学式の当時、たまたま見かけた私に好意を抱いたそうだ。デビッド曰く“運命の出会いだ”とか“私に見合う女性が現れた”とか言っている。そして1年生の時から私への婚約を迫り始めた。全く迷惑な話だ。今振り返ってみると私もよく5年間も我慢してきた方だと思う。
「ナエナちゃん大丈夫、あんな言い方して・・・ひどい仕打ちされるんじゃない?」
「デビッドももう子供じゃないんだから、そんな小さな理由でいやがらせとかしてこないでしょ?・・・たぶん。」
「たぶんって・・・相手は貴族だよ、社会的に追い詰めてくるかもよ?」
「何でそんな不安になるようなことを言うの・・・まあ、言っちゃったもんは仕方がないし、もしも何かあったら何とかなるでしょ。それにこのままだらだらと長引いたらきっと取り返しのつかないことになっていたと思うし、今日言っていてよかったと思うよ。」
「そうかなぁ~。私は不安だよ。」
友人は親身になって話しかけて聞くれた。確かにあの言い方はまずかったと思う。放課後、お互いに落ち着いた時にもう一度会って謝罪しよう。もちろんその時も婚約してきたら断るつもりだ。
「それにしてもデビッドさん、何であそこまでナエナちゃんに固執するんだろうね?確かにナエナちゃんは可愛いし、恋愛感情が芽生えるのは分かるけど・・・あれはねぇ~。恋は人を変えるっというけど、みんなあんなふうになっちゃうのかな?・・・恋愛ってあんまり分からないね~。」
「あははは、そうだね~。」
友人の発言に対して私は同意の意味での笑いをするけど、同情はできない。少なくとも何故デビッドが私に対してあそこまで固執するのか、私は何となくわかるから。
私は先ほど読んで本からしおりを取り出して、じっと見つめる。これはペレーハ村から引っ越す時にアスタくんから貰ったポインセチアの花びらで使った押し花しおり。王都バリエンスに引っ越した後、ママに花は”いつか枯れてしまうもの”と聞いた時に急いで作ってもらったから綺麗な赤色もあの時のまま。
デビッドが私を思うように、私もきっとアスタくんに好意を抱いているのかもしれない。ハッキリとは分からないが、少なくても私はアスタくんが好き。これは友人としてなのかそれとも男性として分からないけど、だけどアスタくんと一緒に居たいって言うのは確か。そんな彼を忘れないために私はこの押し花しおりを大事に持ち歩き続けている。
『光魔法:リ・ポイント・レイ』
後方から光の光線が射出された。光線は私と友人のほんの僅かな隙間を通り、私の手にあるしおりを貫いた。何が起きたのか理解した時にはすでに命中したしおりは丸い焦げ跡が着いていた。アスタくんに貰った花が壊されてしまった。
「えっ・・・?」
「ふっ、マーシェナくん、まさか君がそこまで冒険者になることに強く望んでいるとは知らなかった。このデビッド、ここに深く謝罪しよう・・・だが、これで少しは理解してくれたかな?私は十二分にパワフル、スマート、そしてクールだと!もちろん君よりもね。だからこういうのはどうだ。君は私と結婚して後、共にパーティーを組んで一緒に冒険するというのは!うん、実に良い!想像しただけでもこの胸が高鳴ってしまう!先の発言はなかったことにしよう・・・どうだい、これで婚約の件は考え直してくれたかな?」
長々と自身の実力をアピールするけど、私は大切にしてきたしおりを壊されたショックで対応する気にもなれなかった。
「ナ、ナエナちゃん・・・大丈夫!?ケガしていない?」
「貴様、デビッドさんの魔法を見ていなかったのか!デビッドさんは誤射させることなく、マーシェナの手元だけを狙ったんだぞ!侮辱しているのか!?」
「そうだそうだ!・・・マーシェナ、お前も早く返答しないか!いつまでも人を待たせるんじゃない!」
友人とデビッドの取り巻き立ちの声が聞こえるが、私の心境はそれどことではなかった。犯人はデビッドのようだ。しおりを攻撃したのは魔法の精度を見せつけるためにやったのだろう。そんなことを見せるつけるために、アスタくんが私に贈ってくれた花を壊した。
「2人とも落ち着け、品がない。マーシェナくんも今想像しているのだろう?私と共に冒険する未来を。確かに君の言う通りだ、私たちは冒険者になるためにこの学校に来た。このデビッド実に愚かだった。」
もはや耳に入るデビッドの声は怒りを通り過ぎて不快感しかない。アスタくんから貰った花を壊されことが許せない。だけど相手は貴族、暴力沙汰を起こしたらそれこそ間違いなく権力を使って追い詰めてくるだろう。ゆっくりと後ろを振り向いて、彼らを睨んだ。
「おい、何だその眼は。俺は前々からデビッドさんに対するお前のそういうところが気に食わなかったんだよ!」
私の対応に逆ギレしてきた取り巻き1号が近付いて胸ぐらをつかもうと腕を伸ばす。すかさず私はその腕を手に取り、取り巻き1号の重心を崩してから膝をつかせて、関節技で身動き取れないようにした。完全に後ろを取った。これでもう動けない。
「いでででででぇぇぇぇ!!は、放せせせせぇぇぇぇぇ!!」
取り巻き1号は痛がっているように叫ぶけど、構わずそのまま腕を固定する。これは正当防衛だから私に非はない。
「おいナエナ、お前何をする!?」
今度は取り巻き2号が近付いてきた。膝立ちの取り巻き1号を腕の力で無理矢理立たせて、技を決めたまま向かって来る2号の方へ方向転換。取り巻き1号への関節技を止めるのと同時に少し前に突き放して、その背中に渾身の一蹴りを入れる。突き飛ばされる取り巻き1号は2号と勢い良く正面衝突する。
「「はぶッ!?」」
取り巻き1号と2号は奇妙な叫び声をあげて同時に地面に倒れる。お互い頭をぶつけ合ってのびてしまった。同じ冒険者志望のはずなのにこれくらいの程度で情けない。私の一連の行動に先まで隣に居ていつの間にか少し離れている友人は“あわわ”と焦った表情を見せる。その一方で自分の取り巻きが倒されたというのに全く動じずにただ立っているデビッドと目が合う。
「素晴らしい・・・流石マーシェナくんッ!やっぱり君は美しいだけではなく知性的で、逞しくて、そして強い!やはり君は私の花嫁にふさわしい!!」
自分の取り巻きが始めたことをまるでなかったかのように清々しい顔でデビッドは私を褒め始める。罪悪感がないならまだしも謝罪の一言もないとは、もはや人として大問題だ。まあ、例え謝ったとしても微塵も許す気はない。それほどデビッドが壊した物は、私にとって大切なものだったのだから。
「マーシェナくん・・・もしや君は、私が君より冒険者としても実力が劣っていると思っているから今までの誘いを断り続けて来たのかな?そうなのだな!」
ここでデビッドは求婚を断り続けた理由をさぞ見抜いたかのように私に指をさす。全くの見当違いだ。先も言ったように私は冒険者になりたいから結婚したくないというのに、何故そこに到ったのか理解できない。呆れて返答す気がしない。
「ふふふ、図星のようだな!ならばこういうのはどうだろう。明日の4限目の講義で対人訓練があるだろう?そこで前もって先生に申告して、君と私で1対1の勝負・・・いや、決闘でもしないか!」
この学校の規則で生徒同士の勝手な刃傷沙汰は禁止にされている。その代わり最低2名以上の先生の監視の下であればいくらでも暴れてもいい事になっている。
「ナ、ナエナちゃん、まさか受けるの・・・?」
「受けないわよそんなの。早くあっちに行こう。」
話を聞いていた友人がそっと私に近付く。利益もないし楽しそうでもない、何よりばかばかしく思った私は小声で友人と話してこの場から離れようとした。そんな私たちを見てデビッドの口はまだ述べ続ける。
「まあ待ちたまえ。せっかくだから勝者には何か報酬を与えるってのはどうだろうか?そうした方が面白いだろう?勝者への報酬、そうだな・・・敗者に何でも命令を下すってのはどうだろうか?なかなか魅力的だとは思わないかい?おっと安心したまえ!私が勝ったとしても、マーシェナくんに命令することはただ一つ!私との結婚を承諾するだけでいいのさ!!」
それを聞いた瞬間、私は足を止めてゆっくりとデビッドの方へ振り向く。デビッドは私が予想通りの反応を見てニヤッと笑う。とても苛立つ表情だ、貴族でなければ一発殴るところだ。
人を目先の報酬で釣ろうなんて・・・本当に最低。・・・いや、逆にこれは使えるかも。
「・・・もちろんそれは私が勝った時の報酬でもあるんですよね、デビッドさん?」
「えっ、ちょっと、ナエナちゃん!?まさか受けちゃうの!?」
戸惑いを見せる友人をよそに私はデビッドを睨みながら問う。
「当然。もしもマーシェナくんが勝てば望むものをすぐに用意しよう。貴族の権限全てを使ってね。」
「本当ですか?」
「デビッド・F・プルルヌバに二言はない!」
デビッドから言質をとった。私は予想通りの台詞に思わず笑みをこぼしながら、首を縦に振って決闘に承諾した。
◇
星暦2029、夏の44日、水の日、昼
4限目、対人訓練の講義が始まった。今朝、デビッドと共に職員室に行ってこの時間を利用して1対1の真剣勝負をすることを予め先生に伝えている。そのおかげで、講義で使われるはずの体育館は私たち以外の生徒は全員2階の観客席に座り、第3体育館1階は私とデビッドの貸し切り状態になっている。観衆は“まだかまだか”と決闘が始めるのを心待ちにしている。友達もその観衆の中におり、私に勝利を1人必死に天に拝むように願っていた。
そして対戦相手が貴族の息子であって、広い空間の片隅に多くの医療系魔法が使える先生5人が控えていた。普通の生徒同士ではせいぜい多くて2人くらいなのに、さすがは貴族だけはある。
「これよりデビッド・F・プルルヌバ対ナエナ・マーシェナによる模擬試合を始める。試合形式は魔法とスキル、武器以外の道具に使用の禁止。勝利条件は相手の気絶、降参という宣言、そして我々教員が“これ以上の戦闘は不可能”と判断した時の3つ。尚、勝負が決まった後、明らかな追撃は反則行為としてその者を失格負けとする。これは学校側が決めたルールだ、2人ともこれでいいね?」
試合という名の決闘の進行をしてくれる先生が私たちに確認をとる。今回使う武器は学校側が安全面を考慮して、木刀に布を何十も巻かれた特製の武器。普段使っている剣より先端がやや重いけど、素振りをして特に支障は出ないと確認している。私とデビッドは事前に知っていたので、そのルールに対して特に意義はなくその場で頷く。
因みに先生たちにはこの決闘には“勝者は敗者に何でも命令できる”という報酬があることは内密にしてある。もしそんなこと話したら面倒なことが起きることは明白だったからあえて伏せた。今更だけど自分でもとんでもない契約を交わしたものだ。
「よし。お互い悔いが残らぬよう真剣に取り組むように。それでは・・・構えッ!」
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。




