表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄たちが求めるエンディング  作者: 岩ノ川
第1章 アスタ・サーネス
50/96

第49話 ヨスナ・サーネスの過去

諸事情により編集しました。

<ヨスナ視点>

 私と主人の出会いは正直普通とは言えなかった。今でも覚えている、あれは私が22歳の時、古い友人に会うのと、歴史書を集めるためにサロッジュの街に行った時だった。2つの街を馬車で移動して夕方時に着いて友人の住所を探している時、筋肉丸出しのタンクトップ男に声を掛けられた。それが主人だ。


「ねえねえ、君何処から来たの?すごくかわいいね~この街の人じゃないよね?もし良かったらこの後一緒にご飯でも食べに行かない?俺この街で育ったから色々と知っているんだぜ!ねえねえねえ、どうどうどう!?」


 当時の私は馬車による長旅のせいで非常に苛立っていた。そのせいもあってタンクトップ男の問いかけが非常に癇に障ってくる。受け身だった私は我慢しながら話を聞き続けたけど、限界は思いのほか早かった。ぷつんと一本の糸が切れたかのような音がした瞬間、その頬にスラッシュビンタを決めた。当然突然の攻撃にタンクトップ男は大きな音と共に派手に倒れた。顔色は変えなかったけど内心は相当動揺した。罪悪感で私は男から離れるように走って逃げた。これが私たちの最初の出会いであった。


 次の日の夜、私たちはまた再開した。サロッジュの街は学校もあって冒険者ギルドもあるけど、街と言うわりにはそれほど大きくない。それに相まって人口もそこまで多くないから簡単にお互い黙認できた。

 本来ここは私から謝るべきだろうけど、“私は悪くない、しつこかった向こうが悪い”、何故かそう思った私は自分にそう言い聞かせて、向かい側から来るタンクトップ男を睨む。そんな私の顔を見て向こうもバツが悪そうな表情を浮かべる。いきなりスラッシュビンタを食らったのだから当然だろう。お互い昨日とは打って変わって1つの会話を交わさずにただにらみ合いながら、そのまますれ違う。そしてしばらく歩き続けると街の暗闇が私たち2人を隠した。


「何やっているんだろう、私は・・・。」


 そう小さく呟くと、私の中に再び罪悪感が湧き出てきた。ただ友人に会いに来ただけなのに何でこんなことになってしまったのだろう。明日もし次出会ったらちゃんと謝ろう。そう心の中で強く誓った。


 そして翌日の昼頃、いざタンクトップ男探しに街中歩き回った。あれ程印象的な姿なのだからすぐに見つかるだろう。そう安易な考えのもとに探索を続けると、最初に見つけたのは東門付近で固まっている人だかりだった。少し気になり近づいて見てみると、何とその人だかりの注目の的になっていたのは私が探していたタンクトップ男と街に侵入していた鹿の魔獣だった。

 私が人だかりに混じった時には彼は魔獣の背中に乗ってその首を絞め付けようとしている。当然対抗しようと魔獣は暴れ続けるけど、彼は振り落とされないように必死に首を絞め続けた。必死さがにじみ出たかのような彼のその表情は、心なしか楽しそうにも見える。

 彼と魔獣の奮闘は1分という短いようで長い時間まで続いた。本当に長く感じた。手に汗握るこの状況で私は声に出ない心からの声援を送り続けて彼を応援した。そして1分後、長く感じた戦いは終わった。勝者はタンクトップ男、彼だ。


「「「「「うおおおおお―――――!!」」」」」


 彼と魔獣が倒れた後、囲っていた人だかりは大いに喝采した。あまりに大きな喝采だった故に私もつい乗っかってしまった。それもそうだ、魔獣を1人で、しかも素手で倒したのだから。その場にいた全員が彼を称賛した。

 私の前いた青髪の男の子は魔獣と一緒に倒れた彼のもとに近付いた。どうやら安否を確かめに行ったのだろう。外傷はなさそうけど少し心配になり、そっと後からその後ろを私も近付いた。


 あっ、起き上がった!良かった、無事みたいで・・・あれ、何故か男の子の胸ぐら掴まれているけどどうしたの!?あの子何か悪い事でもしたの?そういえば雰囲気が少し似ているけど弟さんかしら?何か話し始めた・・・あっ、胸ぐら放した!ここからじゃあよく聞こえない・・・もうちょっと近づいてみよう。


「あぁ~身体がだるいぃ・・・美女のマッサージが必要だぁ。クミル、頼む絶景の美女をここに連れてきてくれぇ・・・。」


 魔獣と倒した彼はそう男の子につぶらいてからまた仰向けになり、そして眠るかのようにゆっくりとまぶたを閉じた。魔獣と戦って疲労しきっているせいで言い間違えたのか、心配してくれている男の子に対しての軽い冗談なのか、それともこれが彼の正体なのか、どれにしても先まであった私の中にあった心配は一気になくなった。だけどその代わり笑った。心の底から面白かった。


 うふふ・・・まさかその状態からそんなこと言うなんて思わなかった。この人・・・一体何している人なんだろう?パッと見は冒険者ではなさそうだけど・・・たくましくて、ユーモアがあって、女癖は悪そうだけど・・・カッコいいて良い人。


 彼のことは全然知らない。第一印象は正直に言って良いとは言えないけど、結果的に今はいい人であると分かった。どういう経緯で魔獣と対峙していたのかは分からない。だけどきっとその青髪の男の子や周りの人たちのために戦ったのであろう。彼の態度、行動、発言の全てに、私はいつの間にか惹かれていた。


 あの騒動から2年後、サロッジュの街から離れて自分の町に戻りごく平凡に暮らしていた私の前に再び彼が現れた。意外にも今後はタンクトップ姿ではなかった。旅人のような姿で街の中を徘徊していた彼は私と目が合うと、あの時のように私に声をかけてきた。


「ねえねえ、君この町の人かな?俺この町のことよく分からないから是非教えてもらってもいいかな?すごくかわいいね~もし良かったらこの後一緒にご飯でも食べに行かない?ねえねえねえ、どうどうどう!?」


 まるであの日の出来事を丸々再現しているようで思わずに笑みをこぼしてしまった。全開はあんなにいらいらしていたのに今回は彼の話を聞いても怒りがこみあげて来ない。むしろ楽しかった。


「おっと、いい笑顔を見せるねぇ~!・・・あれ?君どっかで会ったことある?」


「さあ、気のせいじゃあないの?」


「いや本当にどこかで・・・ああッ!?あの時の格闘家!!」


 格闘家?一体何のこと?私格闘なんてしたことないけど・・・ああ、あの時のスラッシュビンタで私のことそう覚えていたのね!何か嬉しいようで全然うれしくない・・・そんなに痛かったのかしら。それにしても格闘家って・・・失礼ね!


 彼は2年前に出会った私だと気付くと両手を顔の前に出して身構えた。本当に失礼な人だ、いらいらとは関係なくもう一度叩きたくなった。だけど私はそう思うだけ、実際には彼の対して怒りなんてない。むしろあの時のように明るくてユーモアがある今の彼と出会えて、心から歓喜していた。異性に対してこんな感情を抱くのは初めてだ。人としてもっと彼のことが知りたい。


「・・・すぐそこにお店でどうですか?コーヒーがすごく美味しいですけど・・・どうです?」


「マジっすか!?俺コーヒーがこの世で一番好きな飲み物で・・・って、良いの?俺なんかと?」


「ぜひ・・・!」


 喜びの笑みを浮かび上がらせて私は返答した。彼の手を握って引っ張るようにして歩き始める。この瞬間、彼にとって不意をつかれたのか少しほおを紅潮させる。彼の新たな一面を見つけた私は、そんな彼の顔を見ながら微笑んだ。


 そしてあの騒動から3年後、私たちに結婚して子供が出来た。子供は主人と同じ青髪の男の子、とても小さくて愛らしくて笑顔で素敵で、ずっと愛で続けていたかった。主人の子だからきっと普通の子にはならないかもしれない。だけど主人の子だからきっと、優しい子になってくれるでしょう。



星暦2024年、冬の81日、光の日、朝


 結婚、そして子供が生まれてから12年の月日が経った。現在私は主人と子供と一緒にウエスト大陸最端の村、ペレーハ村という小さな村で花屋を経営しながら暮らしている。何故この村に暮らしているのかと言うと、主人曰く今まで旅してきた村や町の中でここ土は特別に栄養と硬さが丁度よくて、何より高い建築物がなくて花を育てる環境としては最高物件だからだそうだ。結婚前にこの村に引っ越したいと主人から言われた時は正直とも戸惑いがあったけど、主人と生まれたばかりの子供とならどんな環境でも乗り越えられると思い、主人の提案に心から賛同できた。

 最初は知らない土地、知らない環境での生活は不安が多かったけど、今になってみると前に住んでいた街と比べてとても暮らしやすい。住民のみんなはよそ者の私たちを快く受け入れて親切にしてくれて、お裾分けくれる出来立ての野菜は美味しくて、人口は少ないから深夜に騒ぐ人いなくて、何よりそんな環境のおかげなのか子供も花のようにすくすく元気に育ってくれた。この村に引っ越して本当によかって思っている。


「父さん母さん、今からナエナちゃんと一緒に草原に行ってきてもいいですか?」


 丁度その私たちの子供、アスタ・サーネスがやって来た。アスタは現在12歳の男の子で、主人がとは違って礼儀正しくて本当にいい子に育ってくれた。少し雰囲気が大人びていて子供らしさがないけど、至って普通の子供。


「おう、行ってこい。でもナエナちゃんは明後日引っ越しだからケガとかさせるなよ?」


「分かっています。それじゃあ行ってきます。」


 テーブルでグラスを片手に主人が承諾すると、アスタは軽く一礼して家を出た。窓からアスタとその幼馴染であるナエナちゃんが家から離れて行く姿を確認すると、洗い物を済ませて主人と話せるようにテーブルの反対側に座る。


「ねえ貴方・・・少し話があるのだけど。」


「どうした藪から棒に、・・・2人目が欲しいのか?」


 アスタがいない時、主人はいつもふざけ始める。この人は昔からあまり変わっていない。いちいち対応がめんどくさいけど変わらないその性格が私の毎日を楽しませてくれる。


「ふざけないで聞いて。確か貴方ってアスタを学校に行かせるため何年も前からずっとコツコツと資金をため込んでいるんだったわよね?」


「おう、入学金と6年間の学費だけで言うなら十分に用意してある!俺が家の都合で行けなかった時の思いをアスタにもさせたくないと思って貯め続けてきた!・・・でもあいつ、冒険者になりたくないんだろ?もう一度聞くけど本当なのか?」


 主人の問いかけに対して私は静かに頷く。それは2年前の春、10歳になったアスタと一緒にここから一番近い王都ウルンストに行った時の事であった。アスタは王都で出会ったクミルに“冒険者になりたいのか?”と聞かれたことがあった。当時のアスタはその場で“なりたくない”とはっきり断った。あの時のアスタは曖昧な返答が多かったのにその時だけ断言したので、今でも印象的に覚えている。そして王都から帰宅後、私たちは店で留守番してくれた主人に土産話としてその事についても話していた。


「正直信じられないなあ。いや別にこの花屋を継いでくれることはすごく嬉しいけど、俺の代で初めて家業だからそんな重々しく感じなくてもなあ・・・。」


「確か貴方も昔、冒険者に憧れていたのよね?やっぱり男の子ならみんな憧れる職なの?」


「そりゃあそうだろ。強くて、カッコよく、何よりモテる!命の危険が伴いうけど一攫千金があり得る職だぞ!男だけじゃあなく女も1度は憧れるものだぞ。」


 そんなものだろうか・・・少なくとも私は微塵もそんな風には思わなかったけど。お金のためにたった一度の人生を無駄死にしたくない。っていうかこの主人ひとの動機が不純すぎる・・・。やっぱり子供の頃からこんな感じだったんだ。


「じゃあ貴方はアスタを応援する、それとも否定する?」


 少し意地悪な質問をした。先も言ったけどアスタは本当に良い子に育ってくれた。見た目の若さとは反面にその心遣いは私たち両親だけではなく村の住民たちにも優しく接する紳士的な立ちうる舞をも見せる。そんなアスタがこの村で花屋をすることが、あの子にとって本当に幸せなのか純粋な疑問が浮かんでいた。うまく具体的な例が思いつかないけど、きっとあの子が幸せになれる職はもっとあるはずだ。

私はアスタがいないこの場で主人に問いた。主人はコップの握りからそっと手を放して返答する。


「当然応援。あいつの本心が花屋ここをやりたいって言うなら否定なんかしないさ。それにずっと家に居てくれるなら、毎日3人で笑って暮らせるんだから良いじゃんか。」


 主人の真っ直ぐな返答に私の疑問はなくなった。


「ありがとう・・・そうだよね。たまには良い事も言えるのね。」


「俺はいつも善良な事しか言わねえよ。ってかそういうお前はどうなんだよ?」


「当然・・・応援よ。あの子がやりたいことを親である私たちが否定してどうするのよ?」


「んだよ、聞いてきたのはそっちじゃんかよ!変な事を聞いてくるなあ・・・アスタになんかあったのか?」


「ううん、別に何も。でも・・・聞いてよかったわ。」


 アスタがやりたいことを否定する、それこそアスタを幸せから遠ざけることだと今になってようやく理解した。確かに主人の言う通りだ、本当にアスタの事を思うならその言葉を信じてあげて支え続けるこそが、親としてアスタにしてあげられることだ。例えこの先アスタの身に何かが起きても私たちが毎日いつものように接し続ければいい。私たちがアスタを思い続ける限り、アスタは笑ってくれるのだから。

不自然な点があれば、是非ご指摘してください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ