第48話 ポスロ・サーネスの過去
諸事情により編集しました。
<ポスロ視点>
俺の名前はポスロ・サーネス、19歳。ウエスト大陸にあるサロッジュの街生まれのサロッジュの街育ちのサーネス家の長男坊。親父は木こりでお袋は8年前病気で他界した。現在弟も含めて男3人で暮らしている。趣味は勇気をもって女性に話しかけられる(ナンパ)、学歴なし、勉学は算数のみ、普段は木こりの親父の手伝いをしている、彼女いない歴オール年齢の絶賛彼女募集中で未来栄光ある若者だ。
いやぁ~、何で彼女できないだろうね~。自分で言うのもあれだけど顔には自信があるんだよな。やっぱり勉強が出来ないのはまずいかな?でも普段仕事で丸太を掛け算とかで数えて計算はできる方だよ。まあ逆に漢字とか読めないけど・・・あと朗読もできない・・・追加で簡単な文字も書けない・・・やっぱり最低限の勉強はした方がいいのかな?・・・まあいいや、さっきかわいい子見つけたから今日も今日とて楽しんでいくか!
◇
星暦2009、夏の74日、水の日、朝
昨日声を掛けたかわいい子のスラッシュビンタが今でも左頬にしみる。そのおかげか今日は清々しい朝を迎えられた。食らって分かった、絶対あの子は格闘家だ。その証拠に攻撃を食らうまで手が全く見えなかった。何故ビンタを食らったのか心当たりはある。恐らくほんの少ししつこすぎたのだろう。頑張って食いついたつもりだけど、あの子にとってそれが迷惑だったのだろう。まあ今後の反省点としてこの身と共にしっかりと覚えておこう。
部屋から出ると朝食の臭いに連れられて食卓へと向かう。着くと俺よりも早く起きたクミルが調理をしている。
「お~っす、クミル。」
「おはよう、兄さん。・・・昨日の敗戦の後がよく似合うね。」
「うるせぇッ!」
クミルは俺の6歳下の血のつながった兄弟。男だらけのこの家で唯一料理できる。多分俺と親父だけではとっくに飢え死にしていたと思う。それぐらいクミルの料理は俺たちに木こりという仕事ができるくらいの力をくれる。そんなクミルの夢は冒険者になること。男なら一度は憧れる職業だ。そんな冒険者になるために今はこの街にある学校へ通っている。つまりは学生だ。俺とは違って毎日勉学に明け暮れている。
「親父は?」
「もうとっくに仕事場に向かったよ。今日は東門付近でやっている建築現場まで丸太運びだって。父さんが出て1時間以内に来ないと木こりの練習台にするって言ってたよ。」
「お~う、こえぇ~。それじゃ、いただきま~す。・・・そういえばお前学校は?今日はバリバリの平日だぞ。」
「ああ、今日は学校休みなんだ。先生が女子生徒の下着を盗んでね、それについて今学校側がどう対処しようか会議するんだって。あと2日は休みだよ。」
そういえば昨日ビンタを食らった後、家に帰る途中そんな話聞いたぞ。やっぱり街の学校じゃ教師のレベルが低いな。クミルには王都とかの学校に行かせたかったけど、うちにはそんな金がないうえに今の生活で精一杯だ。クミルには本当に申し訳ないと思う。
「・・・ねえ兄さん、食事中にちょっといい?」
「ん、どうした藪から棒に?まさか・・・お前彼女できたのか!?」
久々に真剣な表情のクミルを見てそう解釈した。お兄ちゃんは絶対に許しませんよ。13歳の子供で、何より俺よりも先に彼女を持つことは許しませんよ。
「・・・本当はさあ、兄さんも学校に行きたかったんじゃないの?弟の俺なんかよりも、兄さんの方が冒険者になりたかったんだよね?」
「・・・またその話しか。何回も言っているだろ?俺はお前とは違って12歳の時、字の読み書きできなかったんだぞ?そんな俺よりもお前が行った方がいいに決まっている。そうだろ?」
返答を聞いてクミルは固まった。クミルは入学前から自分が通うよりも俺を入学した方がいいのではないのかと何回も思い聞いてくる。もっと言うのであれば、俺と一緒に学校に通いたかったのだろう。だけどうちは名の知られていない木こり、衣食住には困っていないけど貧乏な方だ。そんなうちで男2人が一緒に学校に通うことはできない。だから俺は12歳の時、学校に入学するのを止めて、小さい頃から冒険者に憧れている6歳のクミルに譲ることにした。
「・・・じゃあ、何で冒険者にならないの?別に学校に行かなくても冒険者の試験は受けられるんだよ?」
「剣や魔法が使えないうえに知識もない。そんな奴が冒険者試験に合格できると思うか?それに例え合格できて冒険者になったとしても、その日のうちにモンスターに殺されるわ。お前は俺を殺したいのか?」
「別にそう言うわけじゃ・・・。」
「はいはい、この話は終わり。ごちそうさま。んじゃ俺は仕事場に向かうわ。親父に胴体真っ二つにされたくないし。」
皿を洗い場に置き、部屋にある仕事道具を取って、そのまま家を出ようとした。
「いってらっしゃい。・・・学校に行ったら彼女できるのに。」
「行って来る。・・・学歴なしでも作ってみせてやるよ!」
そんな捨て台詞を吐いて家を出た。東門はここから走って5分弱は掛かる。親父に切り裂かれる前に俺は走って向かう。
走っている中、俺の頭はクミルが言っていたことが少し過っていた。確かにクミルの言うとおり俺も小さい頃は冒険者に憧れていた。少なくても8年前までは冒険者になろうという意思はクミルより強かったと思う。そんな時、お袋は亡くなった。誰よりも愛していて家族の中心的な存在の人だった。残された男3人はお袋の墓標の前で泣いた。男というプライドなど捨ててただひたすらに泣いた。
そんな中ふと俺は冷静になった。本当に唐突だった。周りの光景や変化に視界が入られるようになり、うちの経済について目を通すことが出来た。そして知ってしまった、うちの経済では2人同時には強い冒険者になるための学校には行けないと。仮に先に俺が入学したとして、クミルが12歳になるまでに同等の入学金と学費を用意して払えるのは、現実的に無理だ。だから俺は夢を諦めて、クミルに夢を託した。お袋が亡くなった現実と比べれば意外に平気だった。
19歳になった今でも少し心残りはある。だけどもういい、俺よりもクミルの方が優秀なのは確かなのだから。そんなクミルが強い冒険者になってくれるのなら俺はそれでいい。俺は俺なりに新しい夢を見つけるために、今日も仕事帰りに女性に話しかける。そう考えると仕事前から精が出てき始めた。早く行って早く終わらせよう。
◇
星暦2009、夏の74日、水の日、夜
時間は21時、日は完全に沈み、暗くなった道に街路灯が灯り、その光に当たりながら重たい身体で懸命に家に帰っている。朝にはあった女性に話しかける気力はすっかり無くなり、飢えた動物のように歩く。因みに親父は仕事が終わった後、今回の依頼主と明日の仕事について話し合うため残り、俺だけ家に帰らせた。
やっと仕事が終わった・・・まさか日が沈むまで働かされるとは思わなかった。確かにに過ごした俺が悪いけど、普段の倍の重労働に昼食なしって・・・ひどい、ひどすぎる!親父には心底怒りを覚えたぞ!寝ている間、鼻の穴に水をぶっかけて夢の中で溺れさせてやろうか!?・・・いや、今回は俺が悪いか。
木こりは商人とかとは違った部類の仕事だが、当然ながらその仕事の質で信用は成り立っている。良い仕事ができるからこそまた次も依頼される。うちは仕事の質はそこまで悪くないけど知名度が低い。ただでさえ仕事の依頼量が少ないのにこれ以上顧客を減らすわけにはいかないのだ。もし今日俺の遅刻で相手の機嫌を損ねたらうちの収入はまた減ってしまうところだった。今回は本当に悪かったと自重しよう。
そう思いながら暗い街を歩く中、反対側から1人の女性が歩いてきた。僅かない街路灯で見えるその茶色の髪の毛は綺麗に小さくなびいていた。容姿は小さく小顔で可愛らしく、まさに俺の好みだった。
普段の俺ならすぐに声をかけるところだけど、今日はやめようと思う。理由は3つある。1つ、俺自身が心身ともに疲れ切っているから。こんな状態じゃ上手く話せる人がないし、何より話し続ける元気が持たない。それに多少汗のにおいが目立つ。これは女性相手に失礼だ、論外としか言いようがない。
2つ、時間的に問題だから。こんな太陽が沈み切った夜にもし声を掛けたとしたら、相手が俺のこと夜に蔓延る不埒者と勘違いして憲兵に通告するかもしれない。それに“何故か”俺はこの街の女性の間であまり良くない噂が流れているらしい。本当に“何故”だろう、心当たりがない。
そして3つ、俺はあの子を知っているから。近付いてはっきりと思い出した、あの子は昨日俺にスラッシュビンタをくらわした人だ。現に相手も俺のこと思い出したのか、顔を確認した途端に明らかに不機嫌な表情で睨み始めた。それを見て少し苛立ったのか、俺もやられた左頬に手を添えて睨み返した。別にこの子にもう一度声をかけてもいいのだが、またあのビンタを食らうと考えるとぞっとする。正直に言ってもう勘弁してほしい。
俺たちはお互い睨んだまま少し距離を取って、そしてお互い無視するかのように通り過ぎた。少し背後の警戒をしながらお互い目的地まで歩き続けて、そしてようやく街の暗さがお互いを隠した。
今日は本当に散々だな・・・夜まで仕事はさせられて、美女には睨まれて、もしかして今日は厄日か?はぁ~・・・とっとと家に帰って飯食おう。
小さくため息をこぼしながら、クミルが1人で待っている家に真っ直ぐに帰った。
◇
星暦2009、夏の75日、土の日、昼
昨日と引き続き同じ現場に切り倒した木を運んでいた。街の外で倒した木を直径2メートルと3メートルの2種類の丸太にして、複数同時に運ぶためリアカーに詰めるだけ詰めて、後は今ある力を全て振り絞ってリアカーを動かしていた。因みに今日も暇を持て余していたクミルも連れてきた。そのおかげで作業ペースは昨日より少し早く進んでいた。
街の外から指定の場所まで3往復した時には、いつの間にか太陽は真上まで上っており昼になっていた。夏の暑さもあって全身から労働の汗が流れる。俺とクミルは丸太21本運び終わった事を親父に伝えて、2人日陰の中で休憩を取る。
「暑ぃ・・・兄さん、何でこんな炎天下の中で仕事しなきゃいけないの?」
「はぁ~・・・何でも依頼主が晴れているうちに早く仕事を終わらせたいんだと。多分あれだろ?木造建築だから雨とかで材料の木とかが腐る前にやりたんだろう?ったく、レンガで外装を作ってから、木で内装作ればいいのに。」
「兄さん、おもちゃの家じゃないんだよ?家を建てるってのはそんなに簡単なものじゃないと思うけど。」
流石は学生だけあって説得力がある。適当な愚痴を言っただけなのにその内容を根本から否定されてしまった。だけど楽しい。クミルは普段学校に、俺は早くて夕方まで遅くて夜まで仕事で、2人一緒に居られる時間はそう長くない。こうして兄弟で何の特別でもない会話をしながら、一緒に働いた体を休めるこの時間が俺にとって楽しかった。だけどそんな楽しい時間は時間とともに唐突に流れ去った。
「な、何だ何だ!?」
「危ない避けろ避けろ!」
「おい誰か止めろよ!?」
東門で何やら騒がしくなってきた。何か異変が起きたと気付いた俺たちは休憩を止めて立ち上がり、確かめに東門に少し近付いた。
「どうしたどうした?絶景の美女でも来たのか?」
「いや明らかに違うと思うけど・・・何あれ?何か動物が暴れているみたいけど・・・鹿かな?」
目を凝らして見てみるとクミルの言うとおり東門で大きな鹿が暴れていた。鹿はその角で次々と大人たちを上に吹き飛ばし、暴行を抑えようとしなかった。
「おうおう、人が吹っ飛んで行くね~!」
「言っている場合じゃないと思うよ兄さん。多分あれブラウン・デアだよ。」
ブラウン・デアはサロッジュの街の周辺の森に生息する魔獣。普段は森を縄張りにしてそこから出ずに、群れで行動している。しかし何故か森から離れたこの街の東門に、しかも1匹で来ていた。恐らく群れからはぐれた個体が料理などの匂いにつられて、村に入って来たのだろう。
「どうしよう・・・流石に魔獣が街に入って来ちゃまずいよね?」
「別に?あんなに大人数で対応しているんだから、すぐに止められるだろう。それにいざとなったら冒険者が来てくれるだろう。」
ブラウン・デアは下級モンスターの中でも最弱と言われるほどその戦闘能力は低い。その唯一の攻撃手段はその大きな体と角で外敵を弾き飛ばす程度、つまりそれしかできない。魔獣と言ってもそこまで恐れる必要はない。群れならともかく単体なら武器を持った一般人でも討伐ができる。あと数分したらあのブラウン・デアを制止させられるだろう。そう思いながらしばらく魔獣と住民たちの格闘を見続けた。
「・・・ねえ兄さん。」
「・・・分かっている。お前の言うとおり・・・本当にまずいかもな。」
街に入って来たブラウン・デアを抑えようと向かって行った大の大人たちが次々とその大きな角によって吹き飛ばされ続ける。中には地面や建築物にぶつかってケガを負った者が出始めている。よく見るとそのブラウン・デアは普通の個体と比べて一回り大きかった。恐らく長く生き続けて普通のブラウン・デアのより戦闘能力が高い個体なのだろう。
うわ~、めんどくさくなってきた・・・これは逃げた方がいいな。あんな風に吹き飛ばされたら流石の俺でも大怪我しちゃうな。・・・よし、全力で逃げるか!
そう思って隣にいるクミルに伝えようとすると、ある程度自分を止めようとしてきた住民たちを倒したブラウン・デアが、俺たちの方に顔を向ける。俺とクミルは魔獣と目が合うと、次の何をしてくるのか察してしまい固まる。そして予想通り魔獣は東門から離れて、俺たちの方へかけ走って来た。真っ直ぐに向かって来る魔獣に俺たちはどう対処すればいいのか一瞬困惑した。
落ち着け落ち着け・・・所詮はブラウン・デア、下級モンスターだ、避けるなんて簡単だ!直線的な動きしかできないからギリギリで避ければ大丈夫だ!俺もクミルもそれくらいならできる・・・問題はない!
「クミル!奴がギリギリまで来たら避け、・・・ッ!?」
クミルにそう伝えようとした瞬間、少し離れた後方に女子供などの一般人が沢山いた。時間的にもそうだが、先の騒動もあってみんな集まって来たのだろう。俺は察した、このまま俺たちが避けるとブラウン・デアは真っ直ぐに住民たちの方へ突っ込み、ケガでは済まない人たちが出てくるのではないのかだと。そう考えた俺は避けるという選択を外した。
俺は迷った、自分はどうすれば良いのかと。普段使わない脳を使って、迫ってくるブラウン・デアの前に思案を巡らせた。だけどその必要はなかった。俺の体は脳で答えを見つける前に行動をした。近くにあったまだ丸太を積んでいたリアカーに近付いて、1本の丸太を掴んで上に持ち上げた。
「に、兄さん!?」
「すぅ・・・おらぁぁぁぁぁ!!」
持ち上げた丸太をブラウン・デアの進路上を道封じするように力一杯して地面に振り下ろした。丸太と地面がぶつかり合う音、進路上に出て来た障害物、俺のフルパワーによる迫力により、走って来たブラウン・デアは急ブレーキをする。魔獣は足を止めると俺を睨むように見つけてきた。この状況を見てまずいと感じたクミルが援護しようと近付いて来ようとするけど、俺は拒んだ。
「クミル、他の人たちを近付けさせるな!こいつは俺が何とかする!」
「何とかって・・・どうするの!?」
「分からんッ!!」
自分でこんな状況を作っといて言うのもおかしいけど、本当にどうすればいいのか分からない。生まれてからこの19年間、俺は魔獣を対峙したことも、戦闘経験も皆無だ。せめて武器が欲しいけど、生憎近くにあるのは1回振るのがやっとの丸太だけ、到底武器とは言えない。だけどこうなった以上、やるしかない。
「・・・こいよ、この鹿ッ!うちの晩餐と資金してやる!」
両手で煽りながらもブラウン・デアとの距離を保ちつつ、攻撃のチャンスを見計らう。筋力には自信はあるけど魔獣を相手に正面で倒せるほどではない。だから相手が攻撃してきた直後に反撃する。その方法は、今のところ思いつかない。
お互いがしばらくにらみ合うと、ブラウン・デアの方から動き出した。ブラウン・デアはその大きな角を前に向けながら俺の方へ突進してきた。距離を取っていたこともあり、それほど早くない相手の飛び出しに目が追い付き、ギリギリのところで回避することが出来た。ブラウン・デアの横に避けた瞬間、俺は咄嗟にその背中に食らいつくように乗って、魔獣の首を両腕で絞め始めた。
よっしゃ捕えた!放さないぞ!
反撃に驚いたブラウン・デアは突進から前後で飛び跳ねて、俺を振り払おうとしてきた。必死に抵抗するけど俺も抗い、両足で魔獣の体にしがみ付いて離れないようする。
おうおうおう、俺をなめてもらっちゃ困る!これでもしつこさで言うならこの街でピカ1だ!本当なら美女に抱きつきたいけどここまで来たらもう成り行きだ!そんな簡単には放さないぞ!
残りある体力と気力を全て振り絞ってブラウン・デアの首を絞め続けた。危機感を感じ始めたのかブラウン・デア自身は更に激しく暴れ始めた。自分の体ごと建築物にぶつかり俺を振り払おうとする。この様子から察するにあと少しだろう。そう思うとブラウン・デアは疲労してきたのか、それとも首を絞められて苦しんできたのか、その動きは弱まるように徐々に収まっていった。
ここまでおとなしくなったらあとは俺の反撃だけだ。この隙に両腕の力のすべてを振り絞り、ブラウン・デアの首を折ろうとした。ブラウン・デアの必死に支え続けている4本の足が生まれたての小鹿のように震え始める。死の前兆だ。
ゴキッ
炎天下で行われた素手の人族対魔獣の奮闘は、その生々しい音と共に閉幕となった。ブラウン・デア、首の複数同時骨折により絶命、俺の勝ちだ。未だにブラウン・デアに抱きついたままの俺は、その魔獣の遺体とともに地面に倒れた。流石は魔獣、弱気を見せるけど小動物や家畜と違って息の根を止めるのにかなり手間取った。いや逆に、無傷で討伐できた事に奇跡だと思うべきだろう。倒れた俺は数秒間そのまま硬直して、そして徐々に冷静に考えられるようになる。
・・・最悪、生きは荒くなって、体力と気力は無くなって、ブラウン・デアの獣臭が全身に染み付いて、勝利の後なのに俺の状態は本当に最悪だ。でも、魔獣を討伐した後から湧き出るこの達成感と高揚感・・・最高だ。
「「「「「うおおおおお―――――!!」」」」」
仰向けになっている俺の周りで大勢の人による喝采が起きた。それに反応して疲れ切った身体を少し起して周りを見渡すと、戦いに夢中で気付かなかったけど何故か俺とブラウン・デアを囲うように住民たちが集まっていた。てっきりクミルが避難してくれて周りは誰もいないと思っていたのに、何故か大勢の人がいた。俺がクミルに指示して住民たちは避難されているはずなのに全く理解できなかった。そんな中、見覚えのある青髪の少年が1人俺の方に近寄ってきた。
「兄さん、大丈夫!」
「・・・この状態を見りゃあ分かるだろう。クミル、これはどういうことだ!?俺は避難させろって言ったよな!?何で逆に人が集まっているんだ、おう!!」
「ちょちょちょ・・ちょっと待って兄さん!?」
駆け寄ってきたクミルの胸ぐらを掴んで何故こうなっているのか聞いた。どうやらクミルは間近に迫ってきた魔獣に怖気づいて、戦いの終始身体を動かすことが出来なかったらしい。だから集まってきた住民たちを避難どころか離れさせることすらできなかったらしい。
こいつ本当に冒険者志望か?あんなにビビって大丈夫か?次またブラウン・デアが入ってきたらクミルと戦わせよう、うんそうしよう。
大体の内容を聞き終わると俺はクミルの胸ぐらを放してもう一度仰向けになった。日差しが眩しい空に眉間にしわを寄せて疲れた身体を少しでも休ませた。
「兄さん・・・本当に大丈夫?」
「あぁ~身体がだるいぃ・・・美女のマッサージが必要だぁ。クミル、頼む絶景の美女をここに連れてきてくれぇ・・・。」
「割と平気みたいだね。・・・お疲れ様、兄さん。」
◇
サロッジュの街に侵入してきたブラウン・デアを素手で討伐した男ポスロ・サーネス、この話題は一夜にして街の外まで広がった。そのおかげで俺はこの街で少し有名になった。悪意のある噂から良い方に変わってとても気分が良い。
この機会に親父と一緒に木こりとして少し仕事の事を宣伝すると、嘘のように依頼が殺到してきた。ほんの少しだけ収入が増えると思っていたけど、その依頼量は今までの5倍以上。しかも驚くごとにその依頼の半分は街の外からのものだった。どうやら俺の名は思っていた以上に有名になっていたらしい。
次々にやってくる依頼に俺も親父も休む間もなく働き続けた。前のように女の子に話しかける時間が無くなったのは辛いけど、クミルの学費のためにも時間を惜しんで働いた。そしてあの騒動からしばらく経つとうちの経済は驚くほど跳ね上がっていた。今ではクミルの6年間の学費を確保しただけではなく、専属の従業員を雇えるようにもなった。これで更に仕事量をこなせれるようになった。
金銭的に余裕が出てきた頃、俺は親父に頼んでサロッジュの街を出ることにした。冒険者の夢を諦めて何か新しい夢を見つけるために一人旅がしたかったから。少しは反対されることを覚悟していたけど、意外に簡単に了承してくれた。すんなりと首を縦に振った親父に少し動揺したけど、こうして俺は自分の夢探しに転々と色々な町や村を歩んだ。
まさかあれ程貧乏だったうちがこれ程まで成り上がれるとは思いもしなかった。あの騒動を起こしたあのブラウン・デアは、ある意味うちにとっての救いの女神ならぬ救いの魔獣だったかもしれない。だけどこの救いもいつまで続くのか分からない。だからもう一度何かを得るために俺は、いろいろと見て歩き続けた。
そしてあの騒動から3年後、俺に2つの変化が起きた。1つは夢を見つけることが出来たこと、それは花屋だ。旅の道中に昔死んだお袋がよく花をいじっているところを思い出した。その時のお袋の顔はいつも微笑んでいた。そんなお袋があの世でもう一度笑顔になってもらえるように俺は思い切って花屋をすることにした。土いじりや専門用語など大変事はもちろんたくさんあったけど意外に楽しかった。
そしてもう1つは、俺は妻子を持つことができた。
不自然な点があれば、是非ご指摘してください。
投稿が遅くなり誠に申し訳ございませんでした。




