第九十七話 次のお尻に「~ラー」の着くファッションリーダーは君だ!
・おさらいミニスカ侍
こしのり:青色のミニスカ
丑光:ピンク色のミニスカ
根岸:黄色のミニスカ
堂島:オレンジ色のミニスカ
室:紫色のミニスカ
田代:緑色のミニスカ
スミレ:赤色と黒色のチェックのミニスカ
・今回登場する主なキャラクターの情報
・内田実衣愛:売れっ子女性アナウンサー、女子アナなのでそれなりに顔は整っている。
・安田:通称やっさん。人気カメラマン。たまにセクハラっぽいことを言うが、人が良いので皆に好かれている。
「おはようございます。こちら現場の内田です。今日は話題のティーンのニューファッションについて、リポートしていきたいと想います。ティーンのことは、やはりティーンに聞くのが一番早い!ということで、私はこれから、市立毒蝮高校の生徒さん達にインタビューしたいと想います。私もちょっと前までJKをしていたのですが、この業界に入って仕事が忙しくなるにつれ、時間的にはちょっと前でも、どうゆう訳か遠い過去のように思えてきますね~。高校生に話かけるのも少々緊張するところですが、アタックして行こうと想います」
今日は「テレビ毒蝮」の皆さんが、何かの情報番組で流すティーンのファッションについてのVTR制作のため、取材を行っていた。彼らはその辺のことならやはり高校生が詳しいだろうと想い、学校帰りの高校生を捕まえてインタビューしようと想っていた。
そして捕まった第一号がコイツである。
「あの~ちょっとお時間よろしいでしょうか」内田は一匹目のカモにマイクを向けた。
「はぁはぁ…えっ!何コレ!ああっ!内田アナだ!握手して下さい」
「あっ、私のことをご存知なんですね。ありがとうございます。随分急いでいらっしゃるようですが……」
「えっ、ああ、ドラマ『ジョバンニ』の再放送の録画を忘れていたもので、ダッシュで帰って見ようと想って……ふぅ」
「ああ、それではインタビューは……」
「いえいえ!内田アナのインタビューだ!どうぞ何なりと!最悪見逃した回はビデオを借りますから」
「そうですか、今日は若者の流行ファッションについての取材をしているのです」
「ああ、ファッションですね。詳しくないので、あまり良い話は出来ないかもしれませんが、お答えできる範囲のことなら何でも答えますよ。あっ、僕は丑光って言います」
流行ファッションについて有益な話は出来ないと言うこの少年だが、その下半身のファッションがなかなかインパクトのあるものだったので、内田はそこに目が釘付けになっていた。
「ああ、お名前は出さないので……」
内田はインタビューの一発目からとんでもないのが引っかかったので困惑していた。丑光がこちらに走って来ている時から彼の下半身がピンク一色なのは見えていたが、何かの見間違いだと想っていたのだ。こうして近くで見ると完全にピンクのスカートを男子生徒が、しかも黒い学生ズボンの上から穿いている。果たしてコレが今の若者のファッションなのか、それとも目の前のコイツはイカれているのか、どちらにせよやばいと内田は想った。
しかし彼女もプロである。予想出来ないおかしな流れであっても、取り乱さずに職務を全うするまでである。生番組だろうが収録だろうが、カメラの前にいる以上、それは同じことであった。
「え~と、では今の高校生に流行のファッションとかって何かご存知ですか?」
「そうですね~。なんでしょうね~。僕は服への拘りが強くないのではっきりしたことは言えませんが、とりあえずいつの時代も男はジーンズに並々ならぬ憧れを持っているのではないでしょうかね~」丑光は適当にソレっぽいことを言った。
「うん……ジーンズですか……ジーンズもいいですけど、他に今男子の間で流行っているものとかってないですか?」内田はそのピンクのミニスカはどうした?なぜそれに触れない?と心の中で想っていた。
「どうでしょうねぇ……あとはバンダナを~、巻く、とかですかね」バンダナを巻いた同級生など見たこともなかったが、丑光は内田の期待に答えるため、考え考え適当をこいた。
丑光と内田が話していると、二人の耳に「コラ~丑光~掃除をサボるな~」という元気な女子の声が聞こえた。その声を発した人物は今は遠くに見えるが、見る見る内に近づいて来る。
「は!もう来たの!?」丑光は、自分の名前を呼びながら迫るその人物を見て驚いた。そして、すぐに内田の手を握り「内田アナ、お話出来て良かったです。僕はアレから逃げる途中なもので急がなくては、それではまた明日の朝に会いましょう。無論テレビ越しにね」キモい一言を残して丑光は出来る限りのダッシュでその場を後にした。
それから5秒後に、上は学校の制服を着ているが、下は赤と黒のチェックのミニスカートを穿いた少女が内田の前を通過した。逃げる者、追う者の足の速さを比べると明らかに追う者の方が速いので、内田は「これはすぐに捕まるな」と想った。次いで「そう言えば、いつかの放火犯を捕まえた高校生カップルも男子の方はミニスカを穿いていたという、もしかしたら今の彼がそうなのでは?そして後を追った方はその彼女か……」とも想った。
それから間もなく、次はなんと黄色のミニスカを穿いた男子生徒が通った。しかもその後ろには可愛いメイドさんが控えていた。メイドは男子生徒の鞄を持って、彼の後ろを着いて歩いていた。
「わっ!黄色!それからメイド!」普段ならありえない光景に内田の口から大きめの独り言が飛び出た。
「あっ、あのちょっとよろしいですか?」内田は気を取り直して黄色いミニスカの少年、いや、もう面倒だから根岸と表記しよう。内田は根岸にマイクを向けた。
根岸は、指先をそろえて内田の前に右手をかざし、インタビューはダメの合図を出した。そして「悪いが先を急ぐ、今日は図書館の閉館時間がいつもより早いんだ」と言った。それに続きメイドの土上も「そういう訳で坊ちゃんは忙しいので、これで失礼します」と言って一礼した。二人は去っていった。
内田はメイドを見て「ああっ、可愛い。それからすごくいい匂いがした」と想った。
内田がその場を動くまでもなく、もう次の一行が迫って来ていた。そいつは10メートルくらい向こうから、砂煙を上げてすごいスピードでこっちに迫っていた。
「アレは、何でしょう」マイクを口に当てて内田が言った。
内田の前を通った何かは、旋風を巻き起こし、今朝セットした内田の髪を乱した。その時内田は確かに見た。目の前を通ったのは、熊であった。そしてその背中には、青いミニスカを穿いた少年が跨っていた。熊と少年はもう遠くに見えるのみだった。
「へっ?熊に乗ったミニスカ少年がいるとは……」そして髪に手を当ててヘアーセットが崩れたことに気づいた内田は「あっヤダ、髪型崩れちゃった」と言った。それを見たカメラのやっさん(安田さん)は「オッケーだよ、うっちゃん。そのちょっと乱れた感じがまた色っぽくてアリだよ」と言った。やっさんのことはは温和な良い人と想っていた内田だが「それってちょっとセクハラっぽくない?」と心の中で想ったのもまた事実であった。
次はすごい大人数の集団が迫っていた。先頭の少年はオレンジ色のミニスカを穿いていた。そして後ろに続く有象無象の皆さんもまた、好き勝手な色や柄をしたミニスカを穿いていた。いずれもズボンの上からミニスカを穿いていた。この集団は堂島と彼の馴染みの不良グループ『子子子子子子子子子子子子』の面々である。
「おい、お前らまで穿かなくても、それにその格好でゾロゾロとついてくるなよ」と堂島は言った。それに対して彼の元部下の内は「ボスだけにこんな格好をさせられないぜ」と言った。
グループの料理担当の山口も、唯一の黒人メンバーのマードックもミニスカを穿いていた。
「ドゥージマ、オレたちもドゥージマと一緒ね~」とマードックは怪しい日本語で言った。
謎のミニスカ集団は、内田達取材班の前をズカズカと通りすぎて言った。内田は彼らの迫力と数の多さに圧倒されて声をかけることが出来なかった。
それから一分程すると、随分みすぼらしい格好の中年男がこちらに向かって歩いて来た。男は背中に大きな竹の籠を背負い、その中は空き缶で一杯だった。そして、男は緑のミニスカを穿いていた。男はそのまま静かに去って行った。それは空き缶を金に替えに良く途中の田代であった。
内田はこれではっきりと今回の調べに対しての結論付けを行った。
「わかった。今は男女問わずの若者と、おまけして中年にもミニスカが流行っているんだわ」内田は満足そうな顔で、時期尚早とも言えよう結論を出した。
カメラのやっさんは「うんうん、うっちゃん、今日も良い顔してるよ」と言った。
こうして彼らの、ティーンの流行ファションを調べるという取材は無事に終わったのである。
内田アナ、カメラのやっさん、そしてその他のスタッフの皆さん、お疲れ様。今晩のビールはきっと美味いぜ。