第四十六話 代返がバレた時のリスクを考えると最初から真面目に出席していた方が良いと想う
すっかり昼飯を食い終わったこしのりが言う「で、スミレが何だって」
「だからね、スミレと連絡がつかなくて、つまりは行方不明なのよ」こしのりのマイペースを知っている水野さんは、友人の失踪の件を早く相談したい焦る気持ちを抑えてこしのりの完食を待っていた。良く出来た娘である。
「全く君って奴は……それで水野さん、スミレちゃんの家にも連絡が行ってるのかい」弁当のスパゲティのミートソースを頬につけて喋るのは丑光である。
「スミレの家は今日は留守で家の人とはまだ連絡がとれていないの。でもクラスの何人かが今朝の通学路でスミレを見ているのよ。あっ、丑光君ホッペにソースついているよ」
「ふむふむ、いつも通り家を出たが学校には来ていないと……」腕組をして根岸が言う。そして続ける「うむ、じゃあわかった。これは誘拐だ」
「何だって!」こしのりと丑光が声を合わせて言った。
その時、教室の扉が勢い良く開いた。
「おい、こしのり!」教室に入って来た少年が言った。
「あっ、君は遡ること何話か前に登場した、情報提供キャラのクラスメイトA君じゃないか」丑光がしっかり説明してくれた。
「いやいや、Aって……それよりも校門でお前らを探している変な奴がいる」
「なんだって、誰だそいつは」こしのりが言った。
「何だかわからないけどそいつボロボロでさ、とにかくスカートを穿いた男子生徒を出せって言うんだよ。それってお前ら三人しかいないだろ」
「確かに」ミニスカを穿く男子三人が同時に答えた。
「よし皆、とりあえずそいつの所へ行こうぜ」こしのりが言った。
そして三人は校門へ出向いた。
「あっ、お前はいつしか俺に説教を垂れたチーマー五人組の一人だな」
「おお、やっと来たか……」こしのり達を呼び出したのは、以前毒蝮港で対峙したチーマーの一人で、喧嘩に角材を用いたこしのりに対してその危険性を説いた例のあいつであった。彼はどうゆうわけかボロボロで今にも倒れそうである。
「いいか……ここだ。ここへ来い。兄貴が呼んでいる」そう言って彼は汚い字が書かれた汚い紙をこしのりに渡した。汚い紙には汚い字と一緒にこれまた汚く描かれた地図が載っていた。こしのりに紙を渡した彼は、役目を果たして安心したのかその場に倒れた。
「おい、どうしたお前。兄貴って誰だ。お前は何人兄弟だー!」倒れた彼を揺すりながらこしのりが言った。
「はぁはぁ……俺は一人っ子だ……」
「は?じゃあ何で兄貴がいるんだ。新しい親の連れ子か?複雑な家庭のあれこれのせいでお前は傷ついて倒れたのか」
こしのりの肩に手を置いた丑光が「止しなよこしのり、彼は怪我人だ。体を揺するのは良くない。それに人様の家庭事情をあれこれと聞き出すのはもっと良くないよ」と言った。
「おい……お前ら、いい加減にしろ……これはあのスミレって女の仕業だ」
「何だってスミレちゃんが、君はスミレちゃんの居場所を知っているのか」
「だから……その地図の示す場所に行けば会える」
「おい、どうゆうことだ。お前はスミレにやられたのか」
「ああ……なんて女だ……五人がかりで押さえ込むのがやっとだった……あの女、すごい暴れて……捕まえるのに二人やられた。そして俺ももうだめだ」
「スミレちゃんなら暴れて二、三人倒しちゃうなんてこともありえるね」
「女を返してほしけりゃそこへ行きな……へへっ」彼は最後に謎の笑みを浮かべて意識を失ってしまった。
「俺達の知らないところで激しい闘いがあったようだな。丑光、ここへ行くぞ」
「えっ、今からかい。昼の授業はどうするんだよ」
「へへっ、それなら俺に任しときな」校門近くの桜の木の陰から現れた謎の少年がそう言った。
「お前は松島!」こしのりは知っているようだ。
「ふふ、話は聞かせてもらった。この俺、代返の松島が上手いことやってお前らの欠席ををごまかしてやる」
彼は教員が出欠確認を取る際、七色の声を使い分けて欠席者の声を真似、授業欠席者があたかも出席しているかのように元気に「ハイ!」と答える特技を持つ稀有な少年である。普通にズルなので決して彼の行為を真似てはいけない。
「松島君に任せれば昼の授業は大丈夫だね」
「ああ、松島に任せれば大丈夫だ」
「その通り、俺に任せれば大丈夫さ」
こしのり、丑光、松島は全てが上手く行くと納得して頷きあっていた。
校門近くの柳の木の下に座ってデザートのバナナを食いながら一連のやり取りを眺めていた根岸は、謎の「大丈夫」連発に対してこう言った。
「何が?」