第四十二話 素敵にシスターコンプレックス
「何だと、メイドにやられた?」
「そうなんですよアニキ」
「本当ですよ。信じられないくらい強かったすよ」
「それとゴミ捨てマナーにも厳しかったすよ。ウチのアパートの大家のババアよりも恐ろしかったですぜ」
「あと、おかしな話なんですけどね、その場にはズボンの上からミニスカートを穿いた男子高校生が三人も居合わせたんですよ」
「ああ、メイドのバカ強さに気がいってそこのところを忘れかけていたが、あれは確かに妙な出で立ちだったな。ひょっとすると、今は『アモラー』とか『シモラー』とか『ハモダー』とかに続くニューファッションとして男もスカートを穿くのが流行なんですかね?」
「いや、それは知らんが、強いメイドにおかしなミニスカ男にお前達の話はちょっと真実味にかけるな」
「いやいやアニキ、二十一世紀は何が起こっても不思議じゃないっていう不思議に満ちた年代なんですから、確かにおかしいと思える話でもよく考えてみてください」
「お前の言うことは最もだ。その上で考えてもやっぱりおかしい話だな」
「ですよね。実は俺も夢を見ていたのかと思う時があるんですよ」
「とにかく由々しき事態だぜ、ポイズンマムシシティを占める俺たち『子子子子子子子子子子子子』が女子供にやられたってんだからさ」
毒蝮港の廃倉庫内で行われたこの会話は先の話で登場した五人のチーマーと、彼らがアニキと呼んで慕うチームボス堂島によるものである。堂島は手下共が負かされて帰ってきたと言うので詳しい説明を受けていた。その説明内容が普通では考えられないものなので、彼は少々混乱しながらも、このうらぶれた街にまだそんな面白い奴がいたのかと楽しみにもなった。
「よし、報告はわかった。お前らはもう帰って傷を癒しな。それからゴミ捨てのマナーは確かにきをつけた方が良い。世間の目は厳しいからな」
それから『子子子子子子子子子子子子』の本日の集会は解散した。
その後、堂島は船がズラリと並ぶ港の一本道を一人とぼとぼ歩いて行く。その道で堂島は、丁度今船着場に帰ってきた船に気づいた。船から降りて来た男は、釣竿を船から降ろし、次に銛を降ろした。そして次には大量に獲れた魚を入れたボックスを降ろした。随分重そうであった。ただいま海から丘に舞い戻ったこの男は、ポイズンマムシティ在住のカリスマホームレス田代さんであった。どうやら彼の今日の晩飯は楽しいものになりそうである。
昼の内には空の高い所に出て、人々の頭髪を焼き焦がすかのように照りつける夏の太陽も少々その勢いを弱めた夕時に堂島の足は人通りの多い道へと向かっていく。彼が進む先には、ダジャレでなく正真正銘の彼の生家である製菓店『スイーツ堂島』がある。
彼は、あることがきっかけとなって我が家にしばらく帰っていない。彼はキャップを深く被り、店の前をゆっくり通る。家出している訳だが、家のことが気にかかるのが人情だ。彼は歩きながら店の窓を覗き込んだ。中にはミニスカートを穿いた男が二人、それに加えて女が一人の計三人が仲良くテーブルでケーキを食っているのが見える。客はそれだけしかいない。そしてその三人の横には、彼の可愛い可愛い妹がニコニコと実に楽しそうに笑って接客をしていた。
この光景に反応して彼は足を止めた。そして立ち止まったままじっと窓の中を見た。妹とミニスカを穿いた変態男二人が楽しく話している。しかもその片割れはかなりデレデレした態度だ。
コレにはお兄様、プンプンなわけである。
「何だあのミニスカ男は、あんなにデレデレしてマイプリティエンジェル留美たんとお話しているなんて……殴り飛ばしてぇ……・」
ポイズンマムシシティのチーマー200名からなるチーム『子子子子子子子子子子子子』リーダー堂島は、なんと今流行りの要素でありジャンルであるシスコン男であった。