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巨神兵と7人のミニスカ侍  作者: 紅頭マムシ
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第四十話 お目当ての品のおまけのドリンクになるべく金を使いたくないのが人情ってもの

  三人が入った『スイーツ堂島』は日当たりの良い店であった。店内には甘い香りが漂っている。

 スミレはお目当てのプリンの持ち帰りの用意をしてもらい、せっかくなので店の奥の喫茶スペースでケーキを頂くことにした。

 スミレはチョコレートケーキと紅茶のセットを頼んだ。

 丑光はウエイトレスの少女に「お飲みものはいかがなさいますか?」と尋ねられ「ではタダの水で」と答えた。それに続きこしのりも「じゃあ、俺もそれで」と言った。ケーキは食いたいが飲み物まで頼むとなると金の都合がアレなので二人は無料のおいしい水を頼んだのである。私もハンバーガー屋ではバーガーとセットで無料の水を頼むことがある。喉が渇く食べ物だから飲み物が欲しいのだが、ドリンクに高い金を払うのもなんかアレなのでこのような答えに行き着くことがしばしばある。

 こしのりはチーズケーキを頼み、丑光はモンブランを頼んだ。


「いや~楽しみだね。僕はモンブラン、というか栗自体に目がないんだよね。秋にはあれの殻を剥いでる時から涎がでるくらいだよ」

 丑光は秋になればわざわざ近所に落ちているのを拾ってくる程に栗が好きであった。

「でも、あんたケーキに水って……・」スミレが言う。

「仕方ないじゃないか、来月には新作ゲームとアニメのBD-BOXの予約をしているんだ。なるべく出費は減らしたいところさ。それに水だって美味しいよ」


 程なくして注文の品が運ばれてくる。


「おまたせしました」

 注文を取ったのと同じ少女が運んできた。


「あれ、僕とこしのりにも紅茶が……僕達はお水にしたんだけど……」


 すると丑光の耳元でウエイトレスの少女はこう囁いた。

「こちらはサービスですからお気になさらずどうぞ」

 

 店の奥に去っていくウエイトレスを見て丑光が言う。

「いや~感じの良い子だね。彼女も僕らと同じ歳くらいかな。お家の手伝いでもしてるんだろうね」

「ちょっと丑光デレデレして見ないの」


「今日は煎餅をゲットして、次は紅茶とはラッキーだぜ」

 こしのりはそう言うと満足げに紅茶を啜った。


「うんうん、コレはおいしいね。それにしても二人のも美味そうだね。ちょっと分けてよ」

「あんたソレ本当に止めたほうがいいわよ。……仕方ないわね、ちょっとだけよ」

「ほら、端っこの方を持っていけよ」

 隣の花が赤く見え、芝が青く見えるがごとく隣の奴が食っているケーキもまた美味そうに見えるものである。丑光の提案は食事のマナーとしてはいかがなものかと思うが、丑光のことを良く知る友人二人は素っ気無い態度をとりながらもあくまで優しい気持ちで丑光にケーキを分けてあげるのだった。次男で末っ子の丑光にはこんな感じの少々の甘え癖が見られるのだが、こしのりもスミレもなんだかんだ言っていつも丑光には甘かった。彼は甘え上手の愛され上手であったのだ。


「わぁ~二人ともありがとう。コレはうまいね」


 第三者から見て十分に仲睦まじい三人の画を前にしたウエイトレスの少女は、ついニコニコしてしまう。レジ横からこちらを見ている少女と目を合わせたスミレは、なんだか恥ずかしくなってくるのだった。


 少女が近づいて来て言う。

「よろしかったら紅茶のおかわりはいかがですか」

「もちろんもらおう」こしのりが答えた。

「あ、僕も」丑光も続いた。

「あんたらサービスしてもらった上におかわりとかちょっとは遠慮しなよ」


「いえいえ、お気になさらず」少女は慣れた手つきで紅茶を注ぐ。


「ウエイトレスさんはここの娘さんですか」丑光が気安く声をかけた。

「はい。私はここの店長の娘です」


 少女はニコニコして続ける。

「私からもちょっと気になることが、どっちがお姉さんの彼氏さんなんですか」


「なっ!」いきなりのこれにはスミレは驚く。


「ふふっ君、良くぞ聞いてくれたね。そう、僕らは楽しい三角関係さ。大人の嗜みって奴だね」

 調子よく丑光が答えた。

「まぁ、そんなとこさ」 

 紅茶のおかわりに砂糖をいれまくって激甘ティーを作りながらこしのりが悪ノリで話を合わせてきた。

「まぁ何を言うのかしら、三角なんてとんでもない。私達は角の一つもないクリアな関係よね」

 男二人の足を踏みながらあくまで笑顔でスミレが答える。


「えっ、角の一つもない!ああ……三人それぞれが愛し合うことを容認した上で三つの角が落ちたもはやまるい関係になった。そういうことですね。すばらしいわ。なんて建設的でクリアな三人の関係なのかしら。破滅で終わりがちの三角関係の向こう側に新たな光を見たわ」

 少女はかなり変化球な曲解をしている。


「え、この……イマジネーションを豊かに膨らませすぎてこっちの悪ノリの更に上を行く返しをして来てるんだけど……」

 悪ノリを仕掛けておきながら丑光は少女の返しに圧倒されてしまった。


「なぁ~んて冗談はさておきなんですけど」少女は無邪気に会話を回す。

「皆さんは毒蝮高校の生徒さんですよね。私は今、中学三年生で来年は皆さんの後輩になる予定なんです」

「へぇ、中三でもう店の手伝いなんかしてるのか。すごいな。俺達なんて中三の時なんて虫を獲ってたよな」

「それはこしのりだけだろ。僕は虫は好きじゃないよ」

「てか、あんたは今年の夏も山で蝉獲ってたでしょ。て、確かに私達は毒蝮高校の一年生だけどそれがどうかしたの」


 少女はそれまでの無邪気な様子から真剣な表情になり「ええ、実は私の兄なんですけど、皆さんと同じ学年の生徒なんです」と言った。

「へぇ、君の兄さんと僕達が同級生なのか。兄さんの名前は何て言うんだい」


 ここでスミレがあることに気づいて言う。

「ちょっと待って、店の名前が同じだからまさかとは思ったけどあなたのお兄さんって例のチーマーのボスをやっているとか言う堂島……?」


「はい……恐らくそれが私の兄です」

「ええ!深町君が言ってたずっと学校に来ていない例の彼か!」

「ちょっと待て、じゃあ深町を襲ったアイツらの親分がお前の兄貴ってわけか」

 こしのりは紅茶を置き目つきを変えて少女に聞いた。


「そこまでのことはわかりません。ただ兄は最近家に帰ってこないので、どこで何をやっているのかわからないんです。それで今あなた達が言った通り悪い人達とつるんでいると噂で聞きまして……同じ学校の人なら何か知らないかなと思って声をかけたんです」


「知るも何もあるもんかよ、会ったこともないんだからな!」

 こしのりは怒りをこめて言った。


「ちょっとこしのり止めなさいよ。この子が悪いわけじゃないんだから」

「わかってるさ、紅茶をありがとう」

 こしのりは再び紅茶を啜った。砂糖の入れすぎでとても甘い。


「いや~コレは意外なことだね。行方がわかっていない我がクラスメイトの堂島という男がここの息子だったとはね」

「ごめんね。私達はお兄さんのことは何も知らないわ」

「そうですか学校にも来ていないのですね」


 ここで何かを考えついた丑光がゆっくりと口を開く。

「う~ん、どうだろうかこしのり。彼女の兄を探すと言うのは」

「う~ん、それは面倒なことを提案してくれたね~丑光君」こしのりは妙なテンションで返した。

「え、あんた達本気なの?」


「まぁでもその堂島ってのがチーマーのボスなら深町を襲ったアイツらの躾をちゃんとしろと言ってやりたいところだな」

「それもそうだね。でも手荒いことはゴメンだね。なんせ僕は頭脳労働担当だからね」


 こしのりは心を決めた。

「じゃあ一つ協力しよう。でもあまり期待するなよ。兄貴が見つかれば何とか連れ帰るようにしよう」

「ちょっとあんた、そんな安請け合いしていいの」


「はぁ安請け合いだと?俺が安く依頼をうけるわけないだろうが、喧嘩の時と一緒で諸々のお願いも高価買取に決まってるだろうが。俺は紅茶二杯分を飲んだわけだから、え~とメニューで見ると一杯300円だから600円分の報酬で動いてんだよ。わかったか」

「あ、よろしかったら三杯目もどうぞ」

「もらおう、これで900円だな。ドラ息子なんぞを探すのに900円なら良い値だろう。900円あればウチの父さんの独身時代には一週間は飯が食えたって話だぜ」

 今では一家の大黒柱となったこしのりの父の生活も独身時代は大変厳しいものであった。

「じゃあ、僕も三杯目をもらおう。これで二人合わせて1800円分の報酬だね」丑光がご機嫌に言う。 


「あんた達ねぇ……・」ため息をついてそう言ったスミレの顔は少し笑っていた。


「いい人達ですね。私は留美って言います。堂島留美です」

 少女はそう名乗った。

「ところでなんですけど、男性のお二人はなぜスカートを穿いているのですか」


 こしのりと丑光は同時に「はぁ?」と言った。

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