第二十話 節約~金を浮かすための努力を私は笑いはしない~
9月になってもこしのりと丑光の二人は夏休みの宿題にまだ苦しめられていた。担任はどうあっても宿題を全てやらす気でいる。この担任の名は羽島と言い、見た目は五十歳くらいに見える男性で、実年齢は知らないし興味もない。彼の特徴と言えばアルファベットのDをDと発音することであった。私の周りにもちらほらDと発音する者の存在が確認できる。
スミレに宿題を手伝って欲しいと懇願して一度は振られたが、その後こしのりの交渉によってとりあえずスミレから助けてもらえることになった。彼女は勉強を教えるのがとても上手い。
こしのり達が夏休みの宿題を片付けたら、その次には学期明けの実力テストが待っていた。計るまでもまくこしのり&丑光の勉学における実力はゴミレベルなのだが、そうとわかっていても机に座って挑まなければならない闘いもある。
今の彼らは学生としての務めを果たすのに忙しいために、巨神兵討伐の件は一旦お預けにしていた。というかそもそもの話をすると今までもこれといって何もやっていない。残りのスカート三枚は今もこしのりの家の蔵の中に保管されたままであった。
9月2日の夕方のことである。この日も相変わらず暑い。こしのりは白いタンクトップにミニスカというかなり奇抜な出で立ちで庭に出て、後輪のパンクした自転車をいじっていた。このパンクした自転車はお隣のスミレの愛車である。こしのりはこのクソ暑い中パンク修理を行っていた。彼の隠れた特技がまさにコレで、クラスで唯一パンク修理の技術を持っているのが我らがこしのりであった。
こしのりは決して手先が器用とは言えない少年である。家庭科の授業でエプロンを着る時は目で見えない腰の部分でエプロンの紐を結ぶことができない、運動会のハチマチがこれまた目に見えない後頭部で結べない、何でこんなに上にあるんだって程にはめると首がきつい学ランのホックがはめられないなど手先で行う細かい作業にはだいたい躓いていた。そんな彼だが、ただただ親からもらった自転車修理費を浮かしてマイポケットマネーを増やしたいという理由から、地元の自転車屋のパンク修理技術を見よう見真似で盗んだのである。そういう訳で彼の親は、彼が自転車屋に行かずに神社の裏で隠れて自分で自転車を修理をしてお金を着服していたということを最初の内は知らなかった。しかし、狭い街なのでたまたま通りかかってこしのりを見た者から噂が広まり、ある日とうとうこしのりの親にも息子が自転車を修理する技術を持っているとバレてしまった。彼の母親はパンク修理が出来るなんて偉いとも思ったが、なんであろうが親を欺いたことは罪なので複雑な思いで息子を叱責したのだ。
こういった体験によって自転車のパンク修理はお手の物のこしのりは、丁度パンクしたばかりのスミレの自転車を修理してやる代わりに宿題の件を頼むと等価交換の法則の下に交渉を持ちかけたのだ。ついでに何のアシストもしていないが丑光もセットで頼むと友人想いの彼は付け加えておいた。
今日、彼は慣れた手つきでパンク修理をしている際ににとんでもないことに気づくことになる。
「ああ、暑い。汗が垂れまくってるぜ」
こしのりは自転車後輪のチューブを引っ張り出し、少しだけ空気を入れてチューブを盥の中の水に浸けた。輪になったチューブを引っ張って回転させては盥の水に潜らせて行く。チューブの破損箇所を探すなら水に浸ければらそこからブクブクと泡が発生するので一目瞭然である。こしのりは泡が発生するポイントをすぐに発見したのでチューブを水から引き上げ、そのわずかに開いたチューブの穴を修理用パッチで塞いだ。修理用キットが最近では100円ショップでも売られている。つまり修理用のアイテムは100円で揃う。後は修理の腕さえ持っていれば各家庭でも100円で修理が完了するのだ。店に持ち込めば1000円くらい取られるからかなりお得である。
「ふう、これで穴は塞がったな。あとは空気を入れて終わりだ」
そこでこしのりはあることに気づいた。
「あれ、このチューブこんなに空気あったっけ」
パンク修理をする過程でとりあえず今入ってる後輪の空気は全て抜き、それから中のチューブを引っ張り出す。こしのりは引っ張り出した後に水につけて空気が漏れている箇所を確認するために少しだけチューブにまた空気を入れたのだ。しかし、先程ちょっとしか空気を入れていないのにチューブがかなり膨らんでいる。これではチューブを元通りにタイヤの中にしまえない。こしのりが完全に空気を抜こうとした時に空気穴に指先が触れた。すると、こしのりの指を通じて空気が送り込まれたようにチューブが膨らんだ。
「え……何コレ、空気入れも使ってないのに何で今空気入ったの?」
こしのりは考える。そして試しにもう一度空気穴を人差し指で塞いで見た。するとやっぱりチューブが膨らむではないか。
「こ、これは……風使い、俺、風使いになったのか……」
こしのりは密かに憧れていた風を操りし風使いになったことへの感動を露にしていた。
丁度そこへ自転車の持ち主のスミレがやって来た。
「こしのり~修理やってる? これ家の母さんから」
そう言ってスミレが手に持っていたのはオレンジ味の弾ける炭酸飲料であった。
「どうしたの? おかしな顔して」
こしのりは自分の手を見つめてまだビックリしていた。
自転車の前で屈んでいるこしのりの後ろに立つスミレは学校の制服を纏っていた。
こしのりはもしやと思い、振り返ってスミレの膝あたりに手のひらを上に向けたまま近づけた。するとこしのりの手から爽やかな風が吹き、スミレのスカートがふわっと捲れた。スカートの下、そこにはもちろん例の素敵な布が見える。スミレが身に着けていそれがどういった物かと言うと、それは個人のプライバシーと健全思考を重んじる筆者の判断ゆえここでは明らかに出来ない。それを目前にしたこしのりのみぞ知る乙女の秘密である。
「わ~お!」
こしのり歓喜の一声が漏れた。
「何すんのよバカ!」
スミレが投げた500mlペットボトルの底がこしのりの頬に刺さった。
「痛い……痛いぃ……」
こしのりはどうゆうわけか痛めつけらた頬でなく片目を押さえてそう言った。大方何かの真似でもしているのであろう。