1/37
プロローグ 終わりの始まり
魔王は、笑っていた。
いや、笑っているように見えた。
俺の剣は、確かにその胸を貫いている。
黒い鎧は砕け、玉座の間を包んでいた禍々しい魔力も、静かに霧のように薄れていく。
……終わった。
長かった旅も、世界を脅かした魔王との戦いも。
ようやく終わったんだ。
仲間たちが安堵の息を漏らす。
誰かが泣いていた。
誰かが笑っていた。
誰もが勝利を噛みしめている。
ただ俺だけが、その場から動けなかった。
魔王が、俺を見ていたからだ。
憎しみも怒りもない。
どこか懐かしいような、優しい目だった。
そして、その口がゆっくりと動く。
「……すまない。」
その一言だけを残し、魔王の身体は淡い光となって崩れていく。
光の粒は静かに宙を漂い、やがて何もなかったように消えた。
俺は剣を握ったまま立ち尽くす。
「……何を謝ったんだ。」
返事はない。
ただ胸の奥に、小さな棘だけが残った。




