【64】砂漠に森を
――――反逆者たちを捕らえて帝都に護送してもらい、全てが片付いたのは昼間である。屋内で涼みながら今はみんな一休みである。
「こうして直接話すのは初めてね、アリーシャ」
「は、はい、キアーラ皇女」
メリッサ姉さまに互いを紹介してもらいつつ、初めてのキアーラ皇女との会話だ。
「メリッサ姉さまは姉さまなんだから、私もそれでいいわ」
「き、キアーラ姉さま」
「そう、それでいいわ」
サバサバしていてカッコいい姉さまだ。
「それにしても8歳で魔王と婚姻ね」
キアーラが訝しげにラシャを見る。
「その、私も皇女だしカエルムを任されたから!」
「アンタ、イイコね。でもやっぱり心配にはなるものよ。その……幼女趣味とか」
ううっ。
「俺にそのような趣味はない」
ラシャがこちらに来て否定する。
「どうかしら」
「うーん、私もそれは気になっていた」
「おい……」
ラシャが訝しげに2人を見る。
「アリーシャ、成人するまではうちの国にいても……」
「ジル兄さま。でも私の国はカエルムですから」
「そう言うことだ、諦めろシスコン」
ラシャったら何を言ってんの!?
「し……シスコンで何が悪い」
「コイツ……シスコンを認めやがった」
ラシャが驚愕している。うーん……シスコン。ジル兄さまならいいかな……?
「……」
その時、アズールが何かに気が付いたようにシャムスの前に立つ。
「違う。シルワとぼくは」
「……?」
「だからそっちも違う」
何の会話をしているのだろうか?けれどアズールはどこか楽しそうに微笑んでいる。
「それで……アンタはもう決めたの?」
キアーラ姉さまがジル兄さまに問う。
「そうだな。俺もアリーシャたちの案に賛成するよ。そして南部の民が豊かになるのなら」
「なら決まりね。出発は明日の夜明け前。太陽が昇りきる前に中央砂漠に行くんでしょう?」
「そうなる」
キアーラ姉さまの言葉にジル兄さまが頷く。夜は砂漠の生き物たちが活発だが昼間の移動は気温が高すぎるから。
「お前たちは一度メリディエスに帰るのだろう?」
「あら、泊まってくわよ。明日朝早いし」
「……え」
「もちろん豪華な食事なんていらないわ。クスクスでいいから」
「それくらいは出すが……」
「だから今日はアリーシャとメリッサ姉さまと寝るわ」
「ちょ……っ、久々の兄妹の再会の日くらい……っ」
「その前に夫は俺だぞっ!」
な……何故喧嘩を始めたんだ、このひとたちは!
「ま、微笑ましいじゃないか」
「若いわねぇ」
メリッサ姉さまとクレアはジェシーに現地のお茶を入れてもらっていた。
私もジェシーからもらい口に含めれば。
「んん、美味しい」
しかし昼間は全く寝てないせいか少し眠い。
イェンナが来ておとなしく座るように促されれば、隣にラシャと逆隣にジル兄さま。
うーん……ちょっと、うとうと。
久々に懐かしい匂いに促され、自然とジル兄さまに身体を預ければ優しく髪を撫でる感触と微笑ましそうな声が聴こえてきた。
――――昼間にお昼寝をし、起きれば兄さまやクレアたちが難しそうな話をしている。
私が暇していると気付いたのかラシャがいくつか本を貸してくれた。
「さっきここの側仕えたちに頼んでおいた」
「わぁっ!嬉しい!」
難しい本はまだまだだけど、子ども向けで絵も多い。本を読みつつもみんなは難しい話をしておりよそ見をしていたラシャをクレアが話に引き戻していた。外交のお話……私も早くできるようになりたいな。
そして夜は念願のクスクスをいただいた。お肉と野菜が入っていてとっても美味しい!その夜はどうしてかジル兄さまはキアーラ姉さまたちに主権を譲っていた。
その日は帝都ではきっとできなかったであろう姉妹の話や砂漠の話を聞いたりした。因みにキアーラ姉さまは獣人族の王子と結婚したが王位は王子に任せるそうだ。自分は身体を動かせる立場の方がいいそうだが……王子妃ってそう言うものだったっけ……?
とにもかくにも本番は明日の夜明け前である。




