【63】砂漠の国の夜明け
――――砂漠の夜は冷え込む。私もローブを借りて準備万端だ。
「俺は前線で魔法で援護してくる」
「私もイェンナと行く」
ラシャとジェシーは前線に加わるようだ。できるだけみんなをサポートできるように頑張らなきゃ!
「ならアリーシャはこっちに任せて。アズールとシャムスもいるし」
「まあアズールがいれば黎明の地でのあれも使えると……思う」
シャムスが告げればアズールがこくんと頷く。
「それじゃぁ私も頑張るからね」
「ああ、アリーシャ」
ラシャに頭をなでなでしてもらっていればジル兄さまがやって来た。
「……」
そしてラシャをじっと見る。
「羨ましいのか?今さら返さんぞ」
ちょ……ラシャったらどういう意味!?
「……」
ジル兄さまはラシャの手を掴むと押し避け、私をぎゅっと抱き締める。
「行ってくるよ」
「うん。私も治癒魔法で援護するね」
「いつの間にか逞しくなったな」
ジル兄さまがなでなでと頭をなでてくれる。何だか懐かしいな。しかし不意にジル兄さまの手が頭から外れる。
「いつまでやってる気だ、総大将」
「……魔王、お前」
何かバチバチしてない?これから共闘するのに……大丈夫かな?
しかしながらイェンナが呼びに来て、ラシャやジル兄さまたちが前線に向かっていく。
「それじゃぁアズール、手伝ってくれる?」
「……」
アズールがこくんと頷くと私の手と重ねる。するとあの時と同じように聖女の力が溢れるように広がる。
遠くが騒がしくなる。始まったのか。ラシャやジル兄さまたち味方のHPMPを回復。
「アリーシャの魔力が上がってる……いいえ、アズールかしら」
「……」
どうやら是らしい。世界樹チート、すごくないか。
そして現場が騒がしくなる中、不意に回復が飽和し聖女の力を納める。
「まあこちらは常に回復するからチートすぎるのよね」
「ほう?さすがだな、アリーシャ」
クレアに続いた声に驚く。
「メリッサ姉さま?」
どうしてここに。
「援軍だ。もちろん皇太子に許可は取った。キアーラとメリディエスの軍勢が加勢に加わってしょっぴいてるぞ」
この騒がしさは捕物帖のようだ。
そして辺りは白み出す。砂漠の夜明けだ。
「魔王めっ!」
「魔王がソレイユ王を誑かした!」
「何でこいつら傷がすぐに回復するんだぁっ!」
叫びながらも連行されていくものたち。
「ラシャの悪口なんてっ」
ラシャはジル兄さまたちに協力してくれたのに!
『ギャアァッ!!?』
何故か朝陽がピカッと光り縛られているものたちだけが悲鳴を上げた。
「……シャムス?」
「ふん」
やっぱりシャムスってラシャのこと好きだよね?
すっかり鎮静化した王都では、グレッグや妙に着飾った令嬢も捕らえられている。
「く……っ、やはり魔王に与したお前がっ」
ラシャたちに呼ばれ私たちも合流するとグレッグが睨んでくる。
「いい加減にしろよ。どんだけアリーシャのせいにする気だ」
「魔王めっ!くそう……こんな忌々しい太陽の国など、やはり行かせるべきではっ、ジルさまにはもっと相応しい土地がっ」
「そんな言い方っ」
シャムスの前で言うなんて。
「……」
するとシャムスがすたすたとグレッグの前に歩いていく。
「お前が太陽を憎むのなら勝手にしろ。けど主とアリーシャを悪く言うなら許さない」
「ひっ」
その表情は見えなかったが、あのグレッグが怯むとは。
「神に睨まれたら造作もないなぁ」
「ふん」
クスクスと苦笑するラシャ。
「さて、次はこっちか」
「ま……まぞく……っ」
彼女はラシャに脅えている。
「た、助けて……ジルさまっ、私はあなたの妃なのよ!?」
……ってことはあれがサンドラ!?
「え、アンタ本当に妃にしたの?」
キアーラ皇女が冷たい目を向ける。
「まさか。彼女が勝手に言っているだけ。さらにもうただの反逆者。旧ソレイユ王家もだ」
「そんな……っ、そんな、私はっあなたに相応しいっ」
「アンタみたいな義妹はいらないわね」
「……うーん、私も」
「はははははっ、嫌われまくってるな。私もいらん!」
皇女総出で拒否されたサンドラはカアァッと顔を赤くする。
「何なのよ何なのよ何なのよ!」
「……うるさいな。最後はいいぞ、ジェシー」
「ありがとう、イェンナ」
ジェシーがサンドラの前に立つ。
「何よアンタ!汚い獣人め!」
彼女はジェシーの顔すら覚えていなかった。そして砂漠の夜明けに清々しい拳の音が響き渡ったのだった。




