【62】砂漠の国の反乱
本国に通信を繋ぎ、ソレイユで起こった反乱について私たちの協力はすんなり通ってしまった。
『本国の貴族への配慮などいらないよ。ソレイユは帝国の属国ではあるが帝国貴族のものではない』
アレックス兄さまの言葉は何よりも正しいものだった。
「けれど皇太子殿下、『彼女』はどうする」
かのじょ……?
『ああ、ソレイユ王家が君の妃にと本国から養女に迎えた令嬢か?』
えっ、それってありなの?現地の王族に姫がいないのなら王族の血を引く貴族とかでは。
「そうだ。グレッグは彼女やソレイユ王家を巻き込んでいる。やっとのことで離宮に追いやったのに」
それでソレイユ王家の他のものたちやその令嬢に会わずに済んだのか。
「だからこそあちらにつく貴族も多い」
『だが帝国が派遣したのは君だろう?ジル。当時は皇女の継承位を認めていなかったから皇子を派遣するのなら【王】として派遣した。ソレイユ王国は君に与えられたものだ。もう元々のソレイユ王家や令嬢のものではない』
本来ならばそれでは現地の反発を生むが彼らこそが反発を生んでいる。
『ならば帝国に反旗を翻したのは彼らの方。第3妃の側近貴族のグレッグか……それも反乱に荷担したのなら家ごと帝国に歯向かったとして処断される。そこは君の国だ。ジル・ソレイユ。好きにやりなさい』
「……承知いたしました」
ジル兄さまは覚悟を決めた面持ちでアレックス兄さまに答えた。
通信を終えれば慌ただしく戦闘の準備が始まる。こちらは獣人族が多めだが、正しい王に続く人間たちの姿も見える。
「イェシア……いいえ、ジェシー。あなたに言っておかないとならないことがある」
ふとこちらにやって来たのはイェンナだ。
「……何だ?」
「旧王家が養女に迎えた令嬢だ。養女に入る前の名をサンドラ・マリポーサ」
「……そいつはっ」
「ジェシー、知ってるの?」
「……私が髪飾りを盗んだと冤罪を吹っ掛けた令嬢だ」
ジェシーが暗闇大陸に送られる切っ掛けになった令嬢!?
「その通り。だから彼女が王の妃としてソレイユ王家に迎え入れられたことで国中が大反発。王が彼らを離宮に追いやったことでようやく鎮静化した」
だからこそ彼らを離宮に追いやられたのだ。
「ジェシー。あなたが国を去った後、責められたのはあなたの家族に逆恨みをした獣人族の方。あなたの家族は民にとって正しいことをした。今では獣人族も王に従う人間の貴族もみんな知っている」
「……それはっ」
その事実にジェシーは驚きつつも安堵の表情を浮かべる。
「知らぬはこの国の王が誰かも分からぬ反逆者たちのみ。あの帝国貴族……グレッグも王の母親の側近を盾に王の意見にいつも反発した。だから王もなかなか動けなかった。けれどこれで清々した。やっとこの国は変われる。王のお陰で。あなたたちのお陰で」
イェンナは私に優しく微笑んだ。グレッグたちは決して私のことを認めなかったが、彼女たちが今度はジル兄さまの隣にいてくれるのなら。それほど心強いものはない。




