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【40】ダークエルフの森



――――ここは、森の中だ。


「姫さま、こちらに」

「ええ。今日も森は平穏ね」

青年の声に答えたのは聞き覚えのある声だった。


「クレア……?」

そこにいたのはクレア……に似た女性だ。しかし私が呼んでも彼女は気が付く様子はない。

私の声は聞こえていないようだ。


クレアに似た女性はダークエルフたちに囲まれて上品に笑っている。しかしその表情は突如として変貌する。森が……焼けている。ダークエルフたちは逃げ惑う。ええと……私もどこかへっ。


「急くな、アリーシャよ」

その声の主に驚いて振り返る。


「アビス?」

「然り。しかしこれは現実ではないとそなたも気付いているだろう?」

「やっぱり……そうなの?」

クレアに似た女性は森でダークエルフたちと暮らしている。暗闇大陸に来る数百年前……それにしてはどこか違う気がする。


「ここは南部?」

「然り。南部の神の力と共に引っ張られたのだ」

「やっぱりさっき助けてくれたのはシャムス……」

「そう。そしてそなたはこれを見るためにここへ来た」

アビスと私の前には透明な壁がある。その向こうでは森が焼かれダークエルフたちの悲鳴が聞こえる。彼女は……今生きているようだから無事だろうが、ほかのみなさんは……。


「あの娘は難儀なものだ」

「……クレアのこと?」


「いいや、あのダークエルフの姫はクレアの元となったもの」

つまりは母親とか、祖母?

「我はひとの魂を読むことができる。我が信徒ならばなおのこと。あの娘が危険を犯してまで暗闇大陸に送られることに納得したのは何故だと思う」

「逃げられなかったから?」

「否。世界樹を通してさまざまな場所へ渡れるあの娘は森に愛される。森に助けを求めればいくらでも守られる」

「それじゃぁ……クレアは」


「あの姫が命がけで産み落とし繋いだ王家の直系。どのような道に身を落としても生きるしかなかった。だが外のダークエルフたちが全て滅んだことを知った」

そんな……どうして。


「過酷な環境だ。鉱山に送られたダークエルフたちは森の恵みを受けられずに死に絶え、奴隷として売られたダークエルフたちも劣悪な環境や搾取によって死に絶えた。我はダークエルフたちの魂を冥界に送る。外の信徒たちが彼女以外死に絶えたことを知った」

「ならクレアが暗闇大陸に来たのは……」

「正真正銘、ダークエルフの生き残りを探しに来たのだ。地底種たちも数百年前に絶滅した種を現代まで繋いでいる。決してあり得ぬ話ではない」

そっか……そうだったのだ。クレアは何もかも失い外の大陸でひとりぼっちになった。もうここしか残されていなかった。


そして話が終わる頃、森は拓かれて前方には焼けて炭のようになった大樹の成の果てがある。


そこに群がるのは耳の長いエルフたち。しかしながら彼女たちに襲い掛かるのはどろどろに溶けたひと……いや、魔神によく似た黒い影、それから多くのヒト型の成の果て。

耳が長いのはダークエルフだろうか。獣人の特徴を頭に残したものたちまでいる。


「あれらの罪を許すことはないが、しかしかつてはこの土地で我を崇めたものたちや、この土地を、大樹を愛したものたち。導くのは我の役目だ」

そう言ってアビスが掌を向ければ、優しい月光がかつてひとであったものたちをあるべき場所へ導いていく。


一瞬魔神によく似た顔がこちらを向いた気がした。


――――また、甲高い音が響く。

次は……何だか見覚えのあるビルの群れ……見覚えのある空や車、お店……。


「まさか……日本?」

しかし文字が読めない。よく見ると車も私が知っているものとは違う。


「縁とは不思議なものだ」

私の目の前に現れたのはアミナスだ。


「アミナス!」

「……アミナスか。なかなか良き名である」

えっと……アミナスはまだアミナスじゃないってこと?

「えっと……ここは?」

「そうだな……アリーシャ。そなたにとっては過去の世界」

「過去?地球じゃないの?」

日本ではなくとも外国……と考えたのだが。


「地球……聞いたことがある。異界の名前。世界樹はそれを教えてくれる。そなたのことも世界樹が教えてくれたのだ」

そっか……過去の世界ってことは魔王と出会う前のアミナスなのだ。


「けど……世界樹?暗闇大陸……魔族の国にある世界樹?」

「違うな。ここに魔族はおらぬ。この世界にはまだおらぬ」

『まだ』……?


「ここは恐らくそなたの言う暗闇大陸ではない。世界の中心」

うーん……現代で言うと帝都なのだが。


「ご覧」

アミナスが見上げる方角を見やれば、ビルが崩れ都市が崩壊していく。あたりに紫色の粒子が舞い、地面は割れる。すると不気味な緑の大樹がそこら中に根を伸ばしていく。


「だ、大丈夫なの!?」

「そなたに影響はない。そなたは本来ここにはおらぬのだ。しかし……我は」

「アミナス……?」

アミナスが踏み出した先には2~3メートルはあろう巨大な魔神が現れる。

しかし魔神は……女性の姿をしていた。うーん、彼女たちも魔神なのか、関り合いのある存在なのかどちらなのだろう。


「人類の近代化に大地は穢れ、大気は汚染された。世界樹は邪を纏い……もう止まらぬ」

世界樹……?魔神ではなく世界樹なの?


「ありがとう、幼き少女。我はまた、未来で彼女と会えるのだな……」

こちらを振り返ったアミナスは赤い三つの目を……開いていた。それが何を意味するのか……私は知っているじゃないか。


「アミナス――――ッ!」

手を伸ばせども、名を呼ぼうとも。もう届かない。届かない。


また……カンと甲高い音が響く。



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