【38】本当の色の六神
キアヴェのことはレキたちに任せ、ラシャと私はシャムスの元を訪れた。
まるで憑き物が落ちたかのようなシャムスは爽やかな赤髪をしている。目の反転は戻っておりレモン色の瞳に変わっていた。そしてその肌にはもう棘模様はない。
「シャムス、今日は少し最上層のことを聞きに来たんだ」
「……行くつもりか」
「もちろん。俺たちの国のためにな。だからシャムスの知っていることを知りたい」
「……お兄さまは……」
シャムスは兄神に固執していた。しかし今は淡々とその名を口にする。
「昔ぼくの纏う太陽の力を褒めてくれた。散々地上の民に嫌われ悪者にされていたぼくを。ほかの神々はぼくを笑陰口を叩くのに」
「みな、羨ましかったんじゃないか。太陽を司り天界の女神のシンボルであるお前を羨んだ」
「だから地上で悪く言われたシャムスをみんな……」
虐めたのだ。
「キアヴェも昔そんなことがあったそうでな、煩わしいからと冥界の長に頼んで世界最強の捕食者の姿に変わったらしい」
「……ぼくはそんな風にはなれなかった」
「でもそれって人間の姿だよね。シャムスはどうして人間の姿を取ったの?」
「天界の女神に言われた。人間は世界で最も弱いが、しかし大いなる進化の可能性を秘めている。彼らを導く太陽になってくれと。……結果ぼくを追いやったのは南部の人間の開拓者だ」
人間の希望になるはずが、人間たちはダークエルフを追い出して森を枯らした。それで砂漠化が進んだと言うのに、酷い話だ。
「冥界の長はもしお前が姿を変えたいのなら天界の女神にお膳立てしてやってもいいと言っている」
「……」
シャムスは少し考えた末、ちらりと私を見る。
「……このままでいい」
「ふぅん?お前は魔族が嫌いだけど魔神と同じ姿は憧れると思ったんだが」
「……お兄さまはぼくに何も与えてくれなかった。あんなに、追いかけて、お兄さまのために尽くしたのに。お兄さまはお前しか見ていない」
シャムスは寂しそうにラシャを見る。
「どうしてなんだ?」
「……そうだな。アイツはお前によく似てるから」
「はは……そうか。それは気が付かなかったな。それではもう……ぼくはこの姿がいい」
シャムスは力が抜けたように笑うが、その姿についてはどこか満足したように微笑んだ。
「それと……最上層のことだが」
その姿と兄神に対する執念に決着をつけたシャムスは少しずつ話してくれる。
「あそこには領主がいる」
え……そんなの初耳だが、帝国領なら領主はいるはずか。
「だがアリーシャが領主になったのなら、領主の座を明け渡してもらわないとならないな。彼らと話はできそうか?どんなやつらだ」
「話は……お兄さま次第だな。種族はエルフ。夕暮れの地のエルフとは違い耳が長い純血のエルフ。自らをハイエルフと称するがそんな種族は聞いたことがない。あれは罪深いとしてお兄さまが最上層で飼い続けている」
「罪深い?どう言うことだ」
夕暮れの地の彼女たちみたいなエルフをハーフエルフだと迫害したとか?それともハイエルフを名乗っているからだろうか。
「先代魔王を討ち取った勇者を覚えているか」
「……ああ」
それって帝国皇族のご先祖さま?
「そのパーティーにいたエルフだ」
「……それはそれは……罪深いな」
「ラシャ、どう言うこと?」
「そのエルフは、エルフの欲しがっていた世界樹を魔族から奪うために勇者を利用した。かつての純血のエルフたちは魔王は悪い、魔王は悪、討ち滅ぼさなければ人類は滅びると世界に浸透させ遂に勇者を利用して人類合同軍を結成し魔王領を蹂躙し、魔族を殺し、魔王城へ乗り込んだ。魔王は悪ではないと見抜いた聖女は魔族側についたが、エルフは聖女を人質にし勇者に魔王を討伐させた」
「……それじゃ、どっちが悪者か分からない!」
「そうだ。魔王を倒し六神たちが怒り狂った。勇者は聖女の懇願で聖女と共に魔王領から帰還したが……エルフだけは魔神に捕まり700年囚われたままか」
「そうだ。あそこにはクレアと言う女が探していたダークエルフの同胞もいる。ダークエルたちはエルフよりもいい暮らしを許され、エルフは酷い屈辱を味わわされている」
「エルフは昔からダークエルフを目の敵にする。肌の色とか、崇める神を理由に」
地球でもそうなように、こちらの世界でもそう言うのがある。
「夕暮れの地のエルフたちはクレアを慕ってるがな」
「本当にお前たちは不思議だ。誰に影響されたのか」
え……?誰か?
「囚われのエルフをどうするかはお兄さまとお前次第だ。ぼくは止めはしない」
「分かった。だがもうひとつ……魔王城は?」
「700年、お兄さまがそのままの状態で保存している。お前との思い入れのある城なんだろう」
「……そうか。アイツらしいと言うか……しかしやはり行ってやらにゃあなあ」
「うん、私も行く」
「お前は本当に行くのだな」
シャムスは意外そうに私を見る。
「だって私、領主だよ?ちゃんと領主交代しないと」
話ができないかもしれない。かのエルフの罪をどうするかはまだ会ってみないと何とも。しかしながら行かないと何も始まらないから。




