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魔法世界の奴隷と主人  作者: 小山 優
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場外乱闘⑥ 竜と愛の演舞

 崖、正面。竜のカップルと対峙するのは、五騎の緑竜兵。

 ファフナーは、まず己の変身魔法を解いた。

「ウオオオォォォォ!!!」

 瞬間、草原の真ん中に出現する黒竜。

 それを見た盗賊団の竜兵たちは、竜人が黒竜に騎乗し、ドラゴンライダーとして戦闘を仕掛けるものだと考えた。それであれば、自分達の緑竜よりスペックの遥かに高い黒竜に、自分達より遥かに多い魔力量の竜人の組み合わせだ。戦力には雲泥の差がある。

 だが、それでも戦おう、と。ほんの少しでも自分達の生存確率をあげようと恐怖に歯を食いしばり、竜の手綱を握った。

 しかし、その予想はあらぬ方へと裏切られた。

「『竜化(ドラゴライズ)』ッ!!」

 リスティナが、盗賊達の知らぬ魔法の名を叫ぶ。

 すると、『末裔』であるリスティナの体から、金色の魔法光が放出され始め、ファフナーの黒い甲殻へと吸い込まれていく。

――何が起こっている!?

 竜兵の誰もが思った。

 その疑問に答えを与えるべく、変化はすぐ起こった。

 四足歩行で鎮座していたファフナーが、後ろ足で立ち上がり、それに伴って黒竜としての骨格が変化する。獣のような見た目から、人間のものへと。

 顔はゆっくりと正面を向き、竜と人が混じったようなものへと変わる。翼と体、どちらもが少し大きく成長し、筋骨隆々とした男のような姿へとファフナーが変化――

「『融合(ユ・ニ・ゾ・ォ・ン)』!!」

――まだ、魔法は終わっていない。

 リスティナが、巨大な人型へと変化する最中のファフナーの足元で、不敵に笑いつつ呪文を叫んだ。

 途端、それまでリスティナの表面から発せられるだけだった金色の光が、リスティナそのものからの発光へと変わっていく。

 そして、リスティナ自身が光へと分解され、光となり、ファフナーへと吸収されていく。

 あとに残ったのは、さらにさらに大きさを増した、巨大な黒竜――否、黒き翼を生やし、角と牙と甲殻を持った巨人が一人。

 その姿は、古に聞く悪魔王(シャイターン)の降臨か、あるいは悪魔に取りつかれた落天の巨人(ネフェリム)の再来か。

――なんだこれは、なんだこれはッ!!

 ドラゴンライダーたちはそれぞれに驚愕の感情を抱き、顔を歪ませた。

 どうする、どこになにで攻撃する。

 竜兵達が、空中で顔を見合わせ、すぐそこに迫った巨人の竜への対処を示し合わせようとして――

「『遅ぇな、畜生ども』」

 ごう、という吠え声とともに発せられた巨人の言葉に全ての意識を持っていかれた。

「『落ちろよ』」

 上方で手を結んだ巨人が、目の前に飛んでいた|竜(羽虫)目掛けて振り下ろす。いわゆるスレッジハンマーパンチだ。

 背骨に直撃を喰らった竜は、その口から大量の血を吐いて墜落する。乗り手は初撃でグチャグチャになった。

 続いて、巨人の攻撃圏内から逃げようとしていた一騎の首根っこを掴み、離れていたもう一騎に投げぶつける。

 全くの予想していなかった攻撃に、その二騎は成すすべもなく落下した。

「グギャァァア!!?」

 地上で共にのたうち回った二頭は、その乗り手をなんとか落とさないように体勢を立て直し、再び飛び立とうとして、

「『うるせぇ』」

 巨人がまとめて踏みつぶした。

 グリグリとゴミを潰すように、地に落ちた竜と人を巨人は磨り潰す。

「『残り、二匹』」

 自暴自棄になったか、一騎が真正面から突っ込んでくる。

「『その意気や、良し』」

 それを右手で鷲掴む。大した速度ではない。

「『止めは刺さないでやろう』」

 そのまま右手を大きく後ろに振りかぶり、逆に左手は遠く空の方を指さした。

「『せいぜい神に祈れ』」

 投げた。綺麗な遠投のフォーム。空中でグルグルと回転しつつ、一組の竜と人は地平線の彼方へと消えていった。

「『…』」

 最後に、右手に魔力を貯める。

 数秒のあと、右の手の先には細長い魔力の塊が生まれた。魔力エネルギーの塊であり、近接では魔力の刀として、遠距離ではエネルギー弾となる。今回の場合は――

 ジ、と正面、崖の上の方を見た。

 そこには、こちらの姿に恐れをなしたのだろう、融合と同時に一目散に戦場から逃げ出した竜兵が一騎。

「『臆病者には死を』」

 右手をその方向に向け、光の弾丸は真っ直ぐ緑竜を狙う。

「『穿て』」

 音もなく発射された光弾が、一瞬のうちに竜兵へと追い付き、その体の半分以上を焼き削いで撃墜した。

「『…戦闘、終了だ』」



 この魔法の名を、「竜・人・合・一(ドラグユニオン)」と呼ぶ。

――大丈夫か? ファフィ。

――うん、私は大丈夫。足がちょっと気持ち悪いかな。

 厳密には、古代文明の技術であり、現在の魔法の技術体系とは違うが、まあ些細なことだ。

 効果は、「竜と竜人を合体させ、より強力な存在へと進化させる」だ。制約として、両者が強い愛と信頼で結ばれていなければならないとか、ドラゴンの体を竜人が操作することでやや扱いづらいとかがある。

――この姿では試運転だが、どうだ?

――排熱がちょっと面倒くさいかな。無駄が多いから、「竜化(ドラゴライズ)」にもっと改良が必要だと思う。

 合体した二人の意思疎通は、一種のテレパシーに似た思念会話で行われる。思ったことがそのまま言葉になるため、自分の心の内を曝け出すことになるが、

――お前に俺の愛を余すことなく伝えられてうれしいな。

――もう…仮にも戦闘中にそんな口説き文句言うのやめてよねっ!

 我慢できなくなりそうじゃない、とファフナーは笑った。

 もともと、「竜・人・合・一(ドラグユニオン)」は竜人王族に伝わる秘術の一つだ。秘術と言っても、継承者がいないために半ば机上の空論となっていた。

 それを、知的好奇心から試してみたいと考えたリスティナが、ファフナーとともに発動させた。

 驚いたことに、魔法の発動自体は初回で成功した。リスティナの体は光に分解させ、ファフナーの精神へと溶け合った。

 だが、だ。

――動きづらい。

 融合により、肉体の指揮権はリスティナに移った。代わりに、ドラゴン側のファフナーが担当するのは回復や肉体強化といったサポート的な役割だ。

 ファフナーの方は良かった。慣れないとはいっても、学習によりどうにかなる部分だ。

 しかし、リスティナにしてみれば、二足歩行の状態からいきなり四足で歩けと言われたようなものだ。その上、ドラゴンの主な攻撃方法であるファイアブレスのやり方もわからない。飛行にしても姿勢が違い過ぎてやりづらい。

 これはどうにかしないと使い物にならないぞ、と二人で話し合っていたのが、魔法学院の昨年度末。

 何ともなしに次年度の授業要綱を見ていると、「魔法応用学――新しい魔法の作成――」などという授業があるではないか! 二人は壱も弐もなくその授業に参加した。

 新しい魔法作りのノウハウもなかった二人だが、魔法使いからのアドバイスもあり、無事に問題を解決する魔法を生み出すことに成功する。「竜化(ドラゴライズ)」がそれだ。

 ファフナーの竜としての体を二足歩行へと変え、そこに「竜・人・合・一(ドラグユニオン)」で合体すれば、リスティナでも問題なく黒竜の体を動かせることになる。

 授業の初期はどうしても上手くいかなかったが、魔法の根幹部分を魔法使いのアドバイスで補強することにより大幅に改善された。その点で二人は彼に頭が上がらない。

――お礼に、あのカップルのハネムーンはウチの実家に招待してやるかな! スペシャルコースでもてなしてやろう!

――…リスの家の、あの(・・)お風呂使う気…? アレ、フワッフワになるぐらい気持ちいいんだけど、疲れるのがなぁ…。

 呆れたように言うファフナーが可愛くてたまらない。そうか今度二人でじっくりあの風呂入ろうな!!

 ひとしきり恋人の痴態を想像したところで、リスティナは竜の巨人の口から排熱処理の上手くいっていない熱い息を吐いた。

――ファフィ。

――何? リス。

 不自然に竜の巨人(リスティナ)は一歩後ろに下がった。

――まだ、一騎いる。

 その、リスティナの首が一瞬前までいたところを高速で何かが下から通り過ぎた。

 顔をあげた拍子に天上方向、その"何か"が向かった先を見た。

――縁竜、しかし線が細い。

 竜兵が、かわされるとは思ってもいなかった、と悔しさを隠しもしないで飛んでいた。

 体長は成竜以上。先ほどまで相手にしていた養殖ものの小型竜よりは確実に大きい。体長だけで見れば黒竜に匹敵する。

 ただ、その細さがおかしい。通常の半分程度だ。

 無論、異常個体では有り得る体格だし、健康上の問題はない。となると、

――…育てたか。

 幼い頃から、竜が卵から孵化したときからともに過ごし、食べ物と生活を完全に調整して乗り手に合った体躯へと成長させる。自然の中で過ごさせるため、飼育下で起こる生育不順もない。

 ドイツの一部地域で行われている、竜兵の育て方だ。

――…十何年か前に、そこの騎士団が物量で押し切られて消滅したと聞いたな。

 いや、今においてそんなことを考えるのは無粋だ。

――…地下から来たか、予想外だ。

 洞窟から地下に向けて脱出抗が掘ってあったのかはわからないが、足元には土を勢いよく下から掘り起こしたようなあとが生まれていた。

――竜は空から、という常識をついた良い奇襲だ。

 念の為、と魔力探知の魔法を張っていなければ洒落にならない傷をもらっていただろう。

――手強いな。

 盗賊達の、最上位幹部級だろう。それが、わざわざ戦局の決まりきったこの場面に出てくるということは…

――仲間の時間を稼ぎに来たな。

 そして、それをもう少し直接的に表すなら、

――死にに来やがったな。

 手強い、と評したが、それはあくまで比べた上での話だ。

 戦闘どころか動作の経験値すら積めていない『竜・人・合・一(ドラグユニオン)』だが、それでも幹部クラスの竜兵を叩きのめすことは容易い。消耗さえ気にしなければ、さきほどの大出力魔力光弾を無制限に放ち、いつかあたって死ぬ。

――だがしかし!

 それは侮辱だ。知略を巡らし、命を捨てに来た騎士への侮蔑だ。

――戦おうぞ!

『良き! 誠、死にたがりの武士(もののふ)ぞ!』

 叫びを上げ、リスティナは巨人の体で構えた。

『俺の名はリスティナ=スェズ=エートループ=キャップ!! 回教徒同盟が一翼、竜人連合(ダート)の次期当主!! チェーザレ=ボルジアの盟友!! 『救世の末裔』にして覇竜王と征服王の血を継ぐ者!!』

 興奮のままに名乗り上げる。そして、

『お前の名は聞かん!! 魔法で攻撃せず、純粋な格闘のみによりお前を叩き潰し、完膚なきまでに勝つ!!』

 意気揚々とした表情でリスティナは続ける。

『そして、お前を生かす!! 生かしてやろう!! そして、いつかまた俺を殺しに来い!! その時にお前の名を聞いてやる!! その後、俺と殺し合え!! 次は、一対一、弱みも理由もなく、ただ戦えッ!!』

 その笑みを、より少年的な無鉄砲さでリスティナは溢れさせた。

『そのあとは知らん!! 俺に黙って殺されるもよし!! 配下に降るもよし!!』

 上空を舞う竜兵は、訳が分からない、と理不尽さに戸惑いつつも、戦士の歓喜を感じさせて、

「オオオオオォォォォ!!」

 緑竜が、巨大な咆哮を上げた。その雄叫びには、死を見据えた人間と竜の覚悟と、騎士としての誇りが垣間見えた。

『掛かってこい!!』

 全員が全身全霊を込めた、命懸けの茶番が始まった。



 この数年後、竜人連合当主となったリスティナの元に、配下が一人加わることになる。

本当なら、リスティナのこの後の戦闘も書きたかったけど、いんねー、と思ったので省く。

その代わり、名前しか出てきてない敵幹部への呼びかけで埋める。これも必要かと言われると謎。

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