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魔法世界の奴隷と主人  作者: 小山 優
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第二十一章・前① 突拍子もない遭遇

「っと…。流石に長距離の転移は疲れるな」

 魔法使いはテレポート特有の酔いを感じながら、草原の真ん中へと降り立った。まだ低い太陽が、しかし熱い視線を送ってきている。

 く、とノビをした後、観光用の小さい地図を取り出す。昨日、宿屋でもらったものだ。

――一番近い村には歩いて二、三時間ってとこかな。

 自分がしっかりと鞄を背負っていることを確認し、歩き出す。

――…明後日には帰れればいいけど。

 夏休みの終盤。魔法使いはドイツ北部のド田舎を歩いていた。



 かねてから予定していた少女の出自調べ。それをするため、魔法使いは単身でドイツへ遠出していた。

 少女を連れていく、というのも考えたが、何かトラウマやショックがフラッシュバックしてしまう危険性もあり、行かない方が良い、というのが自分たち二人で相談した結果だ。また、それに加えて、

『では、留守番中に課題の内容をある程度まとめておきますね』

 少女が自力で魔法開発をある程度まで出来ており、その最終作業に一人になりたいということもあった。

――ほとんど自力で練り上げてきてたのはちょっと予想外だったな。

 自分の研究室でも、事務作業の合間を縫っては誰かしらに質問していたため、頑張りは知っていた。が、まさか完成間近とは思ってもいなかった。魔法の内容は、『発動並列化』…つまり一人の人間が発動できる魔法の数を増やす魔法陣の描き方の工夫だ。着眼点としては珍しいものではないが、ちらっと見た内容ではよく出来ている。メリット・デメリット、注意点もしっかり見据えられており、まだ学び始めて一年も経っていないということを考えれば十分『優』の範囲だ。

 ちなみに、どうしてそれを研究課題にしたのか理由を聞いてみると、

『先日のチンピラに襲われた際、一度にもっと水の弾丸を撃てればより楽に終わったと思いましたので。あとは…』

 聞いてて自分が情けなくなってきたのでそれ以上聞くのをやめた。

 そして、一人でドイツにやってきたのが三日ほど前。移動手段は主に転移だ。

 転移は方向と距離さえわかっていればどこまででも行けるが、それに比例して消費する魔力が増えていく。魔力が切れればそこで気絶するため、回数・距離を決めて何回かの転移で移動してきている。まだ人里のため、これまでは宿泊施設を利用しているが、今日明日あたりは野宿になるだろう。

――奴隷商店で聞いた話だと、ここら辺になると思うんだけど…。

 奴隷商人が仲介業者を問い質して場所を突き止め――その時に汚い金の流れがあったのは別の話――、ドイツ北部の山の中ということはわかった。

それが、現在魔法使いがいる近辺の山中だ。

――…はたして、本当にあの子の正体を見極めるのに、ここであっているんだろうか。

 少女と仲介業者の証言の食い違い。それに対して魔法使いが立てた仮説は三つ。

 一つ目、本当は食い違っているのではなく、両者の認識の違いから証言に違いが出た。つまり、少女にとっては村の中だが、他人から見たら森の中に見えるような、あまり拓けていない地域だった場合。

 二つ目、何らかの理由で、気絶した少女が村の中から森の中へと移動した。例えば、魔力暴走のような、記憶が飛んだりする現象が起き、意識がはっきりしないまま少女が移動した、あるいは、少女の近親者が気絶した彼女を助け出し、森の中へ逃げ込むが、その場を離れた隙に仲介業者に攫われた、といった場合だ。

 三つ目、村から森へ移動する間に、精神的に許容できない出来事が起こり、少女の記憶が消えた。想像されるのは、凌辱や暴行だが、ハイルディの『処女』発言でそれはないと言える。つまりこれは可能性が低い。

 二つ目と三つ目の可能性も考え、広範囲に調べていくことにしたのだが、

「…何日掛かるかな」

 来るのに三日、帰りは地の利がわかって短縮できるとしても、この土地で調査にあたれる日数はそう多くないだろう。

――あの子をあんまり長く一人にしたくないし…いや、これは建前だな。

 早く帰る理由を考えて、苦笑する。

――あの子ともっとイチャつきたいし、なるべく近くに置いておきたい。

 あんな約束しておいて、現金なものだと自分の節操のなさにまた苦笑。

――このまま、なんだかなし崩しになりそうなんだけど…。

 お互いが好きあっていて、互いの気持ちに気づいている。あと問題は自分のケジメだけ。ドラコあたりなら「くっつかない理由がない」と馬鹿にしそうだ。

 なんとなく、あの約束もなかったことになって、なんとなく一線を越えてしまって、なんとなく添い遂げてしまいそう…。

――そういうのも嫌いじゃないけどさ。

 それこそ一年以上は掛かる気がするが、急ぐような恋じゃない。寝取られる、なんてことも浮かばないわけじゃないが、周りに他人の女を寝取るような気概のある男は――すくなくとも男は――いない。しかも、過去に二股だのストーカーだので問題のある自分からなんて!

 ふぅ、とため息をついて空を仰ぐ。少し暑くなってきた。

「まあ、とりあえずは頑張ってあの子の正体を突き止めるかな」



 調査を開始してから四日目に入った。成果は、ないことはない。今まで調べたところはすべてあの子関連ではなかった、というのが成果だ。

 調査方法は、まず業者から伝えられた森に行き、その近くの『最近盗賊に襲われ、少なくない死傷者が出た村』という条件で村を探した。が、思ったよりもその数は多い。ハイルディの言う通りなら、これも盗賊の活動が活発になった影響だろう。

 その幾つかの村の生き残りに会って話してみたが、少女を知る人はいなかった。少女の話を聞く限り、彼女の家は村の管理に浅くない所で関わっていたようだし、村の規模も左程大きくない。子供ならまだしも、大人なら「ああ、村長さんの親戚の娘さんね」ぐらいのレベルで見知っているはずだ。

 そんなこんなで、十数個目の村をあたっていた時に、

「迷った…」

 魔法使いは鬱蒼とした森の中で引きつった笑みを浮かべた。



「今回、俺迷う要素あったか…?」

 ハハ、と空しく乾いた笑い声を出す。

 恐らく、空振りが続いて自暴自棄になっていたのだろう。村の情報を教えてくれた人の話をかなりいい加減に聞いた。分かれ道のどれかを曲がり間違えたらしい。

 自由奔放に繁茂した木々の間を潜り抜け、とにもかくにも前に進む。

 テレポートして脱出するというのも手だが、見知った土地じゃないここでするのはかなり危険だ。現在地がわからないため、何かを指標にするのもできない。

――今日もまた野宿かな。

 食料はもってきており、そうそう死ぬ心配はないので大丈夫だ。

 茂みを掻き分けて、ずんずん前に進んでいく。

 迷い始めて二、三時間は経っただろうか。突然、それまで前を塞いでいた木々が途切れた。

 目の前が拓け、久しぶりに強めの陽光を目にする。

――ここは…。

 その先に広がっていた光景は、廃墟というに等しかった。

 家や柵が焼け焦げたような跡がそこかしこにあり、それも風化が始まってボロボロになっている。恐らく、ここにあったのは五百人程度の規模の村。

――道、あっていたのか?

 聞いていた村の規模は百少しだったはずだ。つまり、たまたま見つけた廃棄された村、ということなのだろうか。

――もちろん、その廃棄された理由が盗賊か何かに襲われた、っていうのは当たり前だろうけど。

 世の乱れを嘆きつつも、村の中を見聞していく。

 壁の一部しか残っていない家屋のそこかしこが変色しており、恐らく血だろう。死体や肉片がないのを見ると、村の生き残りが処理をしたのだろうか。

――…生き残りか。

 ローブの内ポケットから魔力波探知測距(メイダー)を取り出す。

 仮説の一つに『あの子の村や家系が『末裔』である』というものがあった。どちらにしろ、あの子の近親者が大きな魔力量を保持しているのには変わりない。

 そうであれば、魔力波探知測距(メイダー)を使い、比較的楽に生き残りを探すことができるのだが…。

 薄淡い緑のその魔法石に魔力を流し込み、付近を魔力波探知測距(メイダー)で探索していく。

 脳内に入ってくる三次元的なイメージ、そこには…。

――…。

 ふぅ、と大きく息をついて、ローブのポケットに手を入れる。

 何気なくあたりを見回す。家の残骸に囲まれた村の中央は少し開けていて、恐らく広場か何かがあったのだろう。

 一瞬、足が震えるが、それを|気づかれないようにして《・・・・・・・・・・・》広場の真ん中へと進む。

 何もないところで立ち止まり、大きく深呼吸。

「…出てこい!」

 そう叫ぶと、観念したように廃屋の陰から一つの人影が現れる。

 若い男。体は皮でできた軽めの鎧に包まれ、顔の下半分は、埃を吸い込まないためだろう、布を巻き付けていた。歳のは自分と同じか少し上。左に流した少し長めの髪で、茶髪だ。

――あれが反応の正体か。

 魔力波探知測距(メイダー)を使った際、反応はあった。だが、その反応は、『常人より魔力量は多いが、『末裔』より格段に下。一般の魔法使いとどっこいどっこい』という反応だった。

 その反応と、今の状況から導き出される答えは…

――相手は兵士。

 魔力量的に、相手の職業は魔法使いかある程度腕のある兵士だ。そして、ここは盗賊に襲われた村。消去法的に、相手は事後処理に訪れた盗賊か、生き残りの保護をしている付近の衛兵となる。

――して、そのどちらか…。

 黙って佇んだその兵士は、廃屋の陰に手を伸ばし、そこに置いたあったらしいものを取り出す。

――槍。

 武器関係に詳しいわけではないが、柄が木造のシンプルな槍だ。それを右手に持った相手は、じ、とこちらを見据え、静かに対峙する。

 どうするか、と考えていると、相手はゆるく槍を構えた。それにつられて、自分も姿勢を低くする。もちろんポケットに手は入れたままだ。

 相手は右足を後ろに引き、走る体勢を整えた。自分はポケットの中身を握る。次の瞬間――

――ッ!

 相手が地面を蹴り、猛烈な勢いで走り出した。足元に残光があるようで、魔法による加速も加わっている。

――はやッ…!

 予想はしていたが、一瞬反応が遅れる。

 慌ててポケットの中身を空中に放り投げたのは、相手が数メートルも先に迫ってきていた時だった。

「『炸裂』!」

 まだ慣れない戦闘用の魔法のため、意味づけの短い声とともに魔法を発動する。

 声が響き渡ると同時に、放り投げたボトル――水の入った瓶が空中で破裂し、中の水が空中に撒き散らされる。

 その水の向こう側、すぐそこに肉薄し、槍を突き出そうとした相手に向かって――

「『面展開』!」

 水が一瞬のうちに集まり、半透明な壁を構成する。鈍い音をたて、その壁が槍を弾いた。

 だが、それも予想の内だと言わんばかりに相手は体を翻し、水の壁に手をついた(・・・・・)

ーーハァ!?

 迂回するとか、攻撃して砕くだろうとか考えていた自分の完全に想定の範囲外で、一瞬思考がフリーズする。

 そんな自分を尻目に、目の前の兵士は水の壁に手をついたまま、そこを基点にして自分の体を持ち上げた。

 呆然とした顔のまま見つめていた自分を嘲るように、相手は空中で一度バク転した後、水の壁の上端を飛び越えようとする。光景としては、棒高跳びをポール側から見ているような状態だ。

――ハァァァァ!? ほぼ垂直で三メートルはある壁だぞおい!?

 無論、ある程度傾斜はあるため、坂に手をついて体を移動させる要領で同じことはできる。生半可じゃない筋肉量があれば、手先の力だけで自分の体を持ち上げることも可能だろう。三メートル越えのジャンプもできないことはない。

 が、普通出来ないし、やる奴もいない。やるなよバカ。

――ハイルディといい、ドラコ先輩といい、うちの子といい、コイツといい!

「戦闘職はちょっとぐらい常識を守れよ!」

 やっと意識が追い付いて、水の壁を解除した。散らばりかけた水を、次は数センチの小さな玉へと変える。数は、数えるのも馬鹿らしいほど!

「『発射!』」

 空中浮遊の真っただ中にいた相手に向かって、数百発の水の弾丸が殺到する。外さないよう、しっかり狙うのは全て相手の心臓だ。

『――先日のチンピラに襲われた際、一度にもっと水の弾丸を撃てればより楽に終わったと思いましたので。あとは…』

――俺はこれでも努力するタイプなんだから!

 数発しか撃てなかった先日と比べ、大幅な進歩だ。思考の中の魔法式に手を加えて、ベクトル操作と物体浮遊と並列接続がうんたらかんたら…。

 無数とも言える弾丸を目の前にして、相手は…。

「…」

 一言の驚愕や失念の声もあげず、やったことはただ口元の布を解いて広げただけ。それを自分の上半身のすぐ前、水弾の進行方向を塞ぐようにして…。

――あ、やば…。

 全ての弾が布に吸い込まれるようにして命中していく。

――うわ…。

 もともと、そこまで威力のない水弾だ。布一枚であろうとも、あたればその攻撃力のほとんどを失う。また、布は水を含めば含むほど固くなる。十分に水を吸ったタオルなどは矢も防ぐことができるそうだ。

 そして、自分の攻撃は水である。撃った水が布に吸収され、より固くなった布がまた次の水弾を防ぎ、吸収し…。これでは相手に力を与えているようなものだ。

 次々と自分の攻撃が相手の布に吸い込まれていく。寝取られたような喪失感を感じながらも、どうすればいいのか、と考えを巡らせる。

――まだ発射できてない分の水だけでも…!

 自分の近くにあり、まだ発射していなかった水弾を慌てて手元に戻して一体化させる。大きさは拳大の小さなものになってしまった。

 他の水は布に吸収されるか、布に当たった際に見えない程度の大きさに四散してしまい、操れない。

 水弾を吸収した布は、キャッチボール程度の速さで相手へと迫る。もちろん、それが攻撃にならないことは明白だ。

 ビチョンという不格好な音とともに、相手は目の前の布をキャッチする。あとは重力にまかせて自由落下。

――距離を取って…!

 その相手の攻撃範囲から逃れようと、後ろに大きく跳んだ。

 遮るものもなく悠々と着地した相手は、屈んでその衝撃を和らげたあと、そのままクラウチングスタートの体勢に移行し、こちらを真っ直ぐに睨んだ。

――来る!

 どうする! どうすればいい!?

 水の壁はさっきと同じことを繰り返すだけだ。水の量も少ない。取れる手段は少ない。

 相手の槍が引かれ、すぐにでも突き出そうと臨戦態勢に入る。

――こうなったら…!

 水の玉を二つに分け、それぞれ両手の手の甲へと持っていく。そして形状を変化させ、

――間に合え!

 走る鉄の刃。それに何とか己の右手を合わせ、

――カンッ!

 手の甲。小手の形に変化させた水と相手の槍が高めの音を出した。

 魔法で操って防御するより、手や足といった体のどこかを動きの媒体として、そこに水を張り付けた方が操作はやりやすくなる。だが、

――複数撃…!

 連続で出される相手の刺突に反応できたのは完全に反射だった。

 反応はしやすいが、防御の範囲は確実に狭まった。しかもその反応も、自分の反射神経頼りだ。

――頼れねーよ俺の反射!!

 二回目、三回目と回を重ねるごとに自分の反応が遅くなり、戦いは不利なものになる。

 翻弄するように幾度となく出される相手の槍に、なんとか追い付く形で水の小手を合わせていく。

――このままじゃジリ貧…!

 だから、

――勝負を仕掛ける!

 次の瞬間、それまでただ弾くだけだった防御の中で、右手で目の前に来た相手の槍を掴んだ。

 それを受けた相手は驚いたようにほんの少し目を見開いた。

――このまま…!

 その掴んだ槍を大きく右に押しやり、離した右手を拳に握る。

――通るか!?

 それをそのまま右ストレートとしてパンチしようとして…

「…」

 避けられた。

――あ…。

 無理もない。学者のパンチなど本職にすれば馬鹿みたいにノロいだろう。

――クソッたれ!

 だが、あきらめない。

 槍が振られ、パンチを避けて、体勢の崩れた相手に向かって何度も左右の拳を突き出す。

 それを相手は間一髪で、しかし危なげなく避けていく。

――もやしを…!

「なめんなよ!」

 殴る、避けるの動作は、次第に相手の防御動作も相まって、組手のようになっていく。

 ガシガシと互いの腕がぶつかり合う音が聞こえ、汗が額を伝う。

 次に仕掛けたのは相手だった。

 それまでの組手を、こちらの手を叩きはらうことで中止させ、それまで間合いが狭くて使えなかった槍の柄の部分をこちらに突き出した。

 慌てて距離を取ると、それを絶好の好機とばかりに刺突を信じられない数・速度で放ってきた。

 さきほどのように反射頼みで弾いていき、だが疲労の蓄積と一瞬の隙が目線をぶれさせて――

「…!」

 ス、と自分の首元すぐ前に槍の切っ先が据えられた。

――決着、あり…。

 間合いは一メートル弱。自分の手は絶対に届かず、ほんの少しでも自分が動こうものなら、相手が少し勢いをつけて槍を突き出すだけで自分の命は容易く消え去る。

 つまり、決着の行方とは、

――引き分け。

 ニィ、と自分でも性悪な笑顔を浮かべた。

 こちらに槍を向けた相手の額の先。そこには、自分の手の先から伸びた水の槍が、脳天を突き刺そうと寸止めで迫っていた。

「なめるなって、言っただろ」

 判断は殆ど偶然だった。

 槍のラッシュの最終盤に、たまたま右手が自由になり、たまたまそれが相手の方を向いた。本能的に小手だった水の形状を変化させ、水の槍として突き出した。

 水を少し動かすだけならあまり考えずともできる。いかに水の槍といえど、先を極限まで尖らせれば人の頭も貫ける。

 どちらかがどちらかを殺そうとすれば、残った方が自滅覚悟で槍を突き出し、見事に相打ちだ。

 ゆえにこれは、引き分け。

 双方が何も出来ず、数十秒の沈黙が訪れる。

 次にそれを破ったのも相手だった。

 パ、といきなり持っていた槍を落とし、相手はホールドアップする。

「――失礼しました。どうやらお互い、敵対する者ではなかったようです」

 丁寧な口調で言う相手を見て、ふむ、と自分も水槍をただの水に戻し、地面に四散させる。

「自分は、この村の生き残りの捜索と、廃屋の整理に訪れた者であります」

 そちらは?、と相手が問いかけてきた。やや年若い印象を与えるが、苦労を感じさせる顔だ。

「知人の故郷の調査に来ています。職業は、『魔法学院(アカデミー)』の職員です」

 そうですか、と頷いた相手は、一瞬考えた後に槍を拾い、地面に槍を突き刺す。たしか無抵抗の証だったか。

「あなたは?」

「自分でありますか? 自分は…」

 こほん、と小さく咳をした男は、急にピシリと姿勢を良くして、真っ直ぐになった背筋のすぐ横に手をきっちりつけながら、

「自分は、トール=ディ=パルクリオン! 所属は傭兵王ヴァレンシュタインが旗下、第一衛士隊、隊長!」

 きり、とした顔を、少し和らげて、

「傭兵であります!」

一か月振り更新…(´;ω;`)


大学生活忙しい…

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