型破りな掟破り 蛇には足があるか
二日連続の更新につき、御注意をば
「…演技とはいえ、飲み過ぎたかな…」
よっこらせ、とフェルはお菓子の家のウエハースの屋根の上で立ち上がる。
酔いが回って、ややフラフラするが、それを魔法による化学変化で軽減する。アセトアルデヒドを無茶苦茶してグリコーゲンにしておく。魔法って便利。
「年甲斐もなく、テンション上がって無茶しちゃったかも」
あの流れで、あの子を泉に落とすのは少し無理があった。酒の力と演技力で出来たので問題はないが。
「…あれ、私、あの子にいろいろ説明したっけ?」
世界システムとか、救世主の真実とか、あの子の正体とか…
「ま、いっか。所詮、あの子は『繋ぎ』の人材だし、この時代に救世主が再誕するなんてことはないかな」
でも、と口の端が上がって、
「まさか、あの歌を知ってる人間がまだいたなんてね。『見下ろし山』ですら喪失してたのに」
あの歌。フェルが歌い、それに少女が合わせた歌は、幾千年も前の出来事を唄うものだ。自分が、『救世主』をやっていた時の内容も入っている。
「…みんな、元気かな」
フェルは、かつて世界を救った『救世主』達の一人であり、聖人として蘇りを果たした者である。
満月を見上げたフェルは、苛立つように溜め息をつく。
「あーもう、感慨になんか浸らせないでよね。こっちは、何とか来る人来る人に嫌われて、現世の未練をなくそうとしてるんだから」
彼女が、どうして千年もの間、生き永らえ、そして次の『救世主』たる者を選んでいるかは、ここで語るべきではない。それは、彼女の努力を興醒めたモノにすることであり、何よりお話に要らぬ語りをつけ、蛇足を生むことになるだろう。早い話が面倒臭い、要らない、なくても大丈夫。
『フェル、今ちょっといい?』
その時、フェルの頭の中に響いたのは声。テレパシーだ。
「いいわよ――あー、今は何て呼べばいいかな。『観測者』? それとも、昔みたいに…」
『『観測者』で良いよ。で、そんなことより、』
そのテレパシーの主は、『観測者』。
『今、放り込んできたユリクラスの子だけど、全然説明してないよね? こっちとしては、教えるのは越権行為だから、力を与えるだけにしたんだけど』
少しの苛立ちが、『観測者』の言動から窺える。
「うん。それでオッケー。その子、社会的な地位は高くないから」
へー、とテレパシーで納得される。
『どこのどんな子なの? 一応、直系の『救世の末裔』みたいだけど』
「それがね、なんと十年前のハイルディ達の知り合いらしいの。しかも、学者クンのところで働いてるみたい」
同じ役目を、知り合い同士で済ませているあたり、世界はなかなか狭いらしい。
『え、じゃあ、ちょっと待って…。僕、力を押し付ける対価に、あの三人の記録を教えたんだけど』
予想しない事態に、目を見開いた。
「ちょっと何してくれてるの!? あんなの見せたら、確実に頭おかしくなるわよ!?」
『だって! 他人が見たらただの魔力暴走じゃん!』
ああもう、と叫んだ『観測者』が、テレパシーを切る。事態の収拾をつけに行ったのだろう。
自分の方も、やれやれと溜め息をつく。
「…これで良いのかな」
自分達がやっているのは、世界の存続にために、人のために必要なことだ。だが、その所為で、自分を含めた何人もの人間が、背負う筈ではなかった運命と不幸を背負うこととなった。
「…どっちみち、私にはどうすることも出来ないけどさ」
自分も、結局は世界システムの一つでしかないのだ。『観測者』も、ハイルディも、あの子も、『救世主』も。
溜め息はつかず、諦めだけを胸に秘めて、満月に手をかざす。
「誰か、ぶっ壊してよこんな世界」
夢の二日連続更新。やったね妙ちゃん、アクセスが増えるよ!
小ネタ
①『賢人』ユリクラス
②『聖狼』ガルリア
③『迎地』ディコーゲン
④『白麗』イルリアレイアーノ
⑤『巨竜』シャフィーク・ターヒル
順に、エルフ、人狼、ドワーフ、オーク、竜人の聖人。伝承上、救世主の仲間として、世界を救ったとされる。①②⑤が男で、③④が女。
種族説明~
エルフ
北欧から東欧に住んでる種族。寿命は人よりちょっと長い。魔力量は人よりちょっと多い。
長耳尖り耳。別にエルフ全部が美男美女とかいうことはない。顔立ちはスラブ系民族。
人狼
バルカン半島に住んでる種族。寿命は人と同じぐらい。魔力量は人よりちょっと多い。
早い話が狼男。血の濃さによって獣度が変わってくる。人狼十割は、二足歩行でムキムキの狼みたいな見た目。強い(確信)
ドワーフ
トルコ~アジア~北アフリカに住んでる種族。寿命は人と同じぐらい。魔力量は人よりちょっと少ない。
アジアのドワーフは低身長醤油顔、ヨーロッパ寄りのドワーフは高身長ソース顔。手先が器用であることが多い。黄色人種やアラブ系な顔立ち。
オーク
シベリア~ウラルに住んでる種族。寿命は人と同じぐらい。魔力量は人よりちょっと少ない。
別に、豚鼻がついてて、『ぐへへ、エルフを襲ってやるぜ』みたいな種族じゃない。
二メートルぐらいの身長で、手足が長い。顔はスタートレックの耳の長い人を、彫りの浅い顔にした感じ。髪は、男女ともに坊主みたいな短い毛が芝生のように生えているだけ。モンゴル系な顔。
竜人
アフリカに住んでる種族。寿命は人より遥かに長い。魔力量は人より遥かに多い。
まず、素っ裸の人間を想像してください。その裸の手足先、局部や乳房を鱗で覆ってください。そして、他の部分を爬虫類チックな色で塗ってください。背中に腕に二倍ぐらいの大きさに翼を付ければ竜人です。服を着る文化はあまりありません。髪は黒が多いです。鱗・肌は、深緑色~黒系です。




