第十五章・? 遏慧C ワカオヌM ・GfサY ス^N
明るく、透明な世界に沈んでいた。
――ここは、どこ?
遠く天上には、水面にぼやけた満月が映る。
――確か、フェルさんが酔っぱらって、庭の泉に落とされて…。
少女は朦朧とする意識の中で思い出す。
――…ここは、水の中?
それ以外にないのだが、呼吸もできるし意識もはっきりしている。それに、あの泉はこんなに深くないだろう。
――じゃあ、ここは一体…?
そう思っていたとき、目の前に何かが現れる。
『ようこそ! 知識の泉へ!』
水色の人型。水が、形をもって集合したような人形が自分の真上に浮いていた。
――…何コレ?
『コレ、なんて酷いじゃないか。こんばんは、ユリクラスの子』
頭の中に、その人型から直接語りかけられるような声。いや、そもそも声か? 思念のような…そうだ、リット達とのテレパシーだ。あれに感覚が似ている。
『いやあ、僕も十年ぶりにちゃんとした人と話すから、緊張するよ。前はフェルの子で、今度はユリクラスの子か。世界を受け継ぐ者達を見るのは実に興味深い』
――世界を…受け継ぐ…? ユリク…誰? どういうこと? ここは、あなたは…誰? 何?
『あれ、フェルから何も聞いてないのかな? あいつ、いっつもこっちに丸投げなんだから。全く』
やれやれ、と溜め息が聞こえた気がする。
『それじゃあ自己紹介だ。僕の名前は『観測者』。世界のこれまでとこれからを観測し続け、繋いでいく者だよ』
言われ、しかし全くわからない。
『うん、まあそれでもいいや。やることすることは変わらないんだし』
クルリと水色の人型が水中で一回転。
『僕が何で、何をするかは重要じゃない。大事なのは、君が何で、どうしたいかだ』
人型の顔が、笑うように歪んだ。
『僕は、世界の何もかもを知り、君に教え、あらゆる力を与えることできる!』
さあ、君は何が欲しい!?
そう、『観測者』と名乗ったソレは問う。
――何がしたい…?
意識は少し混濁している。昼間は水泳の上に行軍。夕方も、本に夢中で寝ていない。その混濁した頭で、私の『欲しいこと』を考えた。
――技術…?
魔法の技術。それがあれば、彼に迷惑を掛けるのも減るだろうし、授業で良いところも見せられる。あわゆくば褒めて、頭を撫でてもらったり…何を考えてるんだ私は。
けど、違う。
――知識…?
学院に行ってから痛感した、自分の常識力のなさ。それを克服すれば、幾分か恥をかかなくて済むし、彼の役にもたてる。あわゆくば…いや、何も考えるな私。
けど、違う。
――私が知りたいのは、
『彼女を『あの子』に被せて、罪悪感か思い出で彼女を慰めにしているのか、です』
『私達、私とアイツには、大事な人がいたんだ。一蓮托生、運命共同体、みたいな』
『それを私は言いたいし、あなたも知るほうがいいと思う』
――記憶。
彼に、『あの子』に、何があったのか。それが知りたい。
――『あの子』と、あの人とハイルディさんに、何があったのかが、知りたい!
『君が望むのなら世界を滅ぼす力だって――え? なんて?』
肝心なことを聞いてなかった『観測者』に舌打ちする。
――ハイルディさんと、私の主人と、もう一人。その人たちに、過去で何があったのか、教えてください。
『いや、見知らぬ個人の事なんて僕知らない…あ、ハイルディ? あー、はいはい、フェルの子か。で、三人ってことは、あの時のことか。オッケーオッケー、行ける、見てた』
ぶつぶつと独り言のように『観測者』は思考を垂れ流す。
『んー…でも、それだと世界システム的に問題が…いや別に…だけどこの子、直系で…そうだ、うんオッケー。大丈夫』
『観測者』の思考がようやく纏まったらしい。水色の人型がこちらを向いた。
『君に、何が起こったかを教えてあげよう。だけど、その代わり、君には『力』を持ってもらう』
――…力?
『…あれぇ? それもフェルから聞いてないの? うわ、どうしよう…。まあいいや、結局、この子も中継なんだろうし…保持されればいいや』
うん、とまた人型は頷く。
『君に記憶を見せよう。そして、力を授けよう。二つはセットだ。それで良いね。返事は?』
――…はい。
よろしい、と言った人型が、ゆっくりと消える。
その代わりのように、目の前に光の玉が現れた。
その玉は、徐々に自分の方へ近づいてきて、腹へと入って…
――ッ!?
瞬間、自分の中に光景と熱が入ってきた。
熱の方は、全身に広がり、身体中を熱く活性化させる。
――これが…力!?
何の力なのかはわからない。だが、それがまさしく自分と一体化しようとしている。
そして、同時に見えたのは、一つの景色。
家がある。お菓子の家だ。その庭に立った、四人の人間。一人はフェルだ。もう二人が、十歳そこらの男女の子供で、最後の一人が自分と同じようなメイド服を着た若い女性。
子供達が、突然体から魔法光を生み出す。どちらも金色…じゃない。片方、少年の方は、暗い黄色だ。
その光を伴って、子供達はフェルに飛びかかる。だが、容易く、それぞれ腕の一本で捕まえられる。そして…ああ、金色の魔法を出していた少女が泉の中に放り込まれた。
残った少年はジタバタと暴れ、メイド服の女性は泉へと駆け寄る。
だが、そこで場面が変わった。
燃える民家が何軒も連なり、人びとが逃げ惑う。その中を縦横無尽に荒らす、みすぼらしい格好をした、剣を持った男達。
暴れまわるその男の前に、一人に子供が立ちふさがった。さっきの、暗い黄色の方の少年だ。
何かを叫んだその少年は、暗い黄色を纏って男へと突進し…
『ごめん、僕が見せられるのはここまでだ。事情が変わっちゃった』
しかし、そこで光景は中断された。
『ごめんね。本当にごめん。だけど、その『力』は悪いものじゃない、いつか君の助けになる』
朦朧とするこちらに、謝罪の言葉だけが聞こえてくる。
『ああ、フェルが呼んでる。早く行かないと』
そこで、目の前にまた人型が生まれる。だが、今度は、水色じゃない、明確な人間の姿をした人型。
『世界を引き連れていってよ、主人公さん』
異国情緒漂う黒髪で笑う男性の顔を見て、私の意識はブラックアウトした。
うーぬ、自分でも読んでて必要かどうかわからない章だ。
この物語には別にいらないけど、他の奴と相互性を取るために要るんだよな…
小ネタ
この世界の戦争システム~
国対国などの場合、兵の所属は主に三つに別れています。
①常備軍
②徴兵軍
③傭兵
です。
①は、例えば各領主の抱える騎士団や、王様の近衛兵です。作中で言うなら、バチカンの王立魔術師部隊。
練度が高く、士気も高いですが、平時でも一定の給料を払う必要があり、育成にも金と時間が掛かるため、兵士単価が高くなります。数は少ない。
②は、戦時や戦争が予測される時に臨時に雇われる兵士です。作中では、対神聖ローマでバチカンに呼び出された魔法使いもこれに当たります。
安価かつ大量、即席に集まりますが、練度が低く、魔法戦闘である程度の個人の力量が必要とされるこの世界のこの時代の戦争では、後方支援や占領地の確保に回されます。
③は、文字通り、ドラコや、名前だけ出てきたヴァレンシュタインが当たります。
史実では、蛮族チックな中世の傭兵ですが、この世界では前述の通り、戦争にはプロが必要とされるため、傭兵も高学歴化・超人化する傾向があります。ので、史実ほど略奪は酷くない(あくまで比較級)
練度は高く、常備軍ほど高価ではありませんが、士気や忠誠が低く、信用されません。
傭兵系ギルドに所属して、仕事を安定供給してもらう傭兵と、個人で交渉する傭兵がおり、ドラコは後者。ヴァレンシュタインは、傭兵団として前者を行う側です。
戦争では、まず①が前哨戦を行い、次に①と③が敵を攻略、穴が開いたところに②が送り込まれる、といったようなことが行われます。
史実では、銃器の発達によって②と①③の練度差が縮まり、また訓練期間の短縮に伴って、③がほぼ消滅。ほそぼそと残っていた①が、一次大戦、二次大戦を経た戦争のハイテク化に伴い、再び②から優位性を奪ってます。
この世界では、はたしてどうなるのでしょうかねー(細部まで練れてないとか言えねーな)




