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森羅家の生活魔法は伊達じゃない! 〜カフェの雑用と蔑まれた三姉弟、不遇魔法で世界最強へ〜  作者: いぬの名前はあとむ


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第41話:穏やかな帰還と、新たな依頼の予感

『グリーン・リーフ』に爽やかな朝の光が差し込む。


王都での激闘とDランク昇格を果たし、故郷の街へ戻ってから数日が経過した。


店の手伝いを終えた一葉、二葉、三葉の三人は、久しぶりにゆったりとした時間を過ごしていた。


「あー! やっぱりお母さんの焼いたカスタードパイと、お父さんが淹れてくれたハーブコーヒーが一番美味しいや!」


二葉がカウンター席でパイを頬張りながら、満足そうに笑みを浮かべる。


「王都の高級料理もすごかったけど、僕もこの味が一番落ち着くなぁ」


三葉が眼鏡の位置を直しつつ、温かいカップから立ち上る湯気を眺めた。


一葉は二人の様子を微笑ましく見つめながら、自分の手のひらを開く。


空中を通じて蔓を巻くように優雅に指を動かすと、淡い緑の光が店内を包み込んだ。


「【一輪の秒芽】……!」


焼き立てのパイの温かさとサクサクとした食感、そして挽きたてのコーヒーの香りが、一葉の保持魔法によって完璧に空間へ固定される。


「ふふ、王都で『魔力腐敗症』の毒素分離を固定した経験のおかげで、魔法の精度が格段に上がっているわ。魔力の消費も以前の半分以下で済むようになっているみたい」


「本当だ! ひと姉の【一輪の秒芽】、光の輪郭がすっごく澄んでるよ!」


二葉が目を輝かせる。厨房から顔を出した母の葉も、優しく微笑みかけた。


「一葉たちは、王都での困難を乗り越えたことで『生活魔法』の枠を超えた深みに達したのね。でも、どれだけ魔法が凄くなっても、こうして誰かのために美味しい状態を届ける心が一番大切よ」


「はい、お母さん!」


一葉は胸元で輝く銀色のDランクプレートと、父の一二三から授かった緑のペンダントに触れ、誇らしげに頷いた。


昼過ぎ、『グリーン・リーフ』のベルが涼やかな音を立てて鳴った。


店内に入ってきたのは、重厚な鎧を纏った大柄の男——Bランク冒険者のバルガスだった。その後ろには、ギルドマスターのヴァルターの姿もある。


「おう、三人とも! 王都から無事に帰ってきたって聞いて顔を出しに来たぜ!」


バルガスが豪快に笑いながら、三人の肩を叩く。


「ヴァルターさん、バルガスさん! おかげさまで無事にDランクに昇格できました!」


一葉が二人に向かって丁寧に頭を下げる。ヴァルターは満足そうに深く頷いた。


「王都ギルドからの報告書は読ませてもらったぞ。カルゼル子爵の陰謀を暴き、大勢の民を救ったそうだな。生活魔法の連携で百人もの騎士団を傷つけずに完封したという噂は、すでにこの街の冒険者たちの間でも持ち切りだ」


「へへっ、Fランクからあっという間にDランクだもんなぁ! 俺たちも鼻が高いぜ!」


バルガスが親指を立ててみせる。しかし、ヴァルターの表情が少しだけ引き締まった。


「……だが、一葉さん。浮かれている暇はなさそうだ。実は、君たち三人にぜひ受けてほしい『指名に近い形での相談』がギルドに届いている」


「私たちに……ですか?」


三葉が真剣な眼差しでヴァルターを見つめる。


ヴァルターはカウンターの上に一通の羊皮紙の地図を広げた。そこに描かれているのは、この街から東へ数日進んだ場所にある『静寂の鉱山都市・アルトリス』の周辺図だった。


「アルトリスは、我が国でも有数の高品質な魔導金属や鉱石を産出する重要な都市だ。だが最近、鉱山の深層部で『魔石の変質化現象』が発生し、掘り出した鉱石がすぐに脆く崩れてしまうという異常が起きている」


「魔石が脆く崩れる……?」


二葉が首をかしげる。


「鉱山ギルドの技術者や高位の錬金術師が何人も調査に入ったが、原因が特定できず、変質を止めることもできていない。このままでは王都への鉱石供給がストップし、街の経済も立ち行かなくなる」


ヴァルターが一葉たちの目をじっと見つめた。


「そこで、大森林の歪みを整え、王都で魔力毒素を精密分離した君たちの力を貸してほしいのだ。不純物を解析する三葉君の眼、異常を抑え込む二葉ちゃんの根、そして状態を固定する一葉さんの保持魔法……君たちなら、この鉱山の異変を解決できるかもしれん」


三人は顔を見合わせた。


Dランクへの昇格は、それだけ世間からの期待と責任が大きくなったことを意味している。


しかし、三人の胸にあるのは恐怖ではなく、新たな試練への挑戦心だった。


「ヴァルターさん、その依頼、私たちに任せてください」


一葉が力強く言い切る。


「私たちの生活魔法が鉱山の人々の役に立つのなら、喜んで向かいます!」


「僕も賛成です。魔導鉱石の変質機構には興味がありますし、僕たちの新しい可能性を試す絶好の機会です」


「私も! Dランクになった森羅家三姉弟の実力、もっと見せてあげるんだから!」


二葉が木剣を掲げて威勢よく叫ぶ。


ヴァルターは力強く頷き、口元を緩めた。


「頼もしい限りだ。出発の手配はこちらで整えておく。明日早朝、アルトリスへ向けて出発してくれ」


その夜。『グリーン・リーフ』の夕食時。


一二三と葉を前に、一葉たちは明日からの鉱山都市への遠征について報告していた。


「鉱山都市アルトリスか……。あそこは地中の大地の脈(龍脈)が非常に濃密な場所だ」


一二三が温かいスープのカップを置き、静かに語りかける。


「地中の魔力バランスが崩れると、鉱石だけでなく大地そのものが変質することもある。お前たちの魔法は、その崩れたバランスを元に戻す『調和の鍵』となるはずだ」


「一葉、二葉、三葉。相手が魔物でなくても、自然の力や大地の異常は油断できないわ。三人でしっかり声を掛け合って進むのよ」


葉が優しく三人の手を包み込む。


「はい、お父さん、お母さん!」


一葉は胸元のペンダントを握りしめた。


王都での激闘を乗り越え、Dランク冒険者として新たな第一歩を踏み出す三姉弟。


日常を守るために磨き上げた『生活魔法』の真価が、今度は未知の大地と鉱山の深い闇の中で、新たな光となって芽吹こうとしていた。

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