第1話:森羅家の珈琲と、便利すぎる生活魔法
本日から新作『森羅家の生活魔法は戦闘不能? 〜カフェの雑用と馬鹿にされた三姉弟、Fランクから最強へ駆け上がる〜』の連載をスタートいたしました!
前作『【神眼の支配者】~ハズレスキル【鑑定】が覚醒したので、敵のスキルを強奪してステータスを【1】に改ざんします。俺を囮にした自称Sランクパーティ、今さら後悔されてもしりません』とはまた一味違う作品となっています。
ぜひ楽しんでいただけたら幸いです!
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【更新スケジュール】
・毎日7:00更新予定です。
よろしくお願いいたします!
焼き立てのスコーンの香りと、深く香ばしい珈琲の匂い。
街外れの閑静な住宅街に佇むブックカフェ『グリーン・リーフ』の朝は、いつもこの心地よい香りで始まる。
「ひと姉、またネクタイが曲がってる。ほら、じっとしてて」
「……あら。気をつけていたつもりなんだけどな。ありがと、二葉」
長女の一葉(ひとは・25歳)は、次女の二葉(16歳)にネクタイを直されながら、淡々とした声で応じた。
一葉はこのカフェの店長代理。物静かで落ち着いた雰囲気の美人だが、どこか世俗に疎く、年の離れた妹弟から見れば少し放っておけない姉だった。
二葉は高校1年生。手際よく一葉のネクタイを整え終えると、ふうと息をつく。
「ひと姉は本を読み始めると周りが見えなくなるんだから。……ねぇ、今日帰ってきたら、ひと姉の特製チャイ淹れてほしいな」
「うん、いいよ。学校から帰ってきたら淹れてあげるね」
一葉が静かに微笑むと、隣で朝食の準備をしていた中学3年生の長男、三葉(みつば・15歳)がそっと手を差し伸ばした。
「ひと姉、ちょっと寝癖がついてる。……動かないでね」
三葉は手慣れた手つきで水をつけて一葉の跳ねた髪を整える。ぶっきらぼうだが、姉への気遣いは細やかだ。
「はい、朝ごはんだよ。3人とも仲が良いのは結構だけど、ちゃんと食べないと遅刻するよ」
カウンターの奥から、母親の葉が、出来立ての山盛りサンドイッチを運んでくる。
「わあ、お母さんのサンドイッチ! いただきます」
「僕ももらう」
「お父さん、珈琲ありがとう」
「ああ、淹れたてだよ。しっかり飲みなさい」
父親の一二三が、穏やかな笑顔で珈琲を置く。家族全員がお互いを思いやる、至って平和な朝の風景だ。
森羅家の子供たちは、自分たちの家庭をどこにでもある普通の家族だと思っている。
そして、自分たちが持っている能力についても、同じように「大したことのないちょっと便利な生活用」だと思い込んでいた。
一葉の【一輪の秒芽】は、コーヒー豆の鮮度を最高の状態に保ったり、観葉植物を元気にしたりするお掃除・仕込み用。
二葉の【二生の根張】は、足元から大地に根を下ろし、カフェの重い業務用冷蔵庫や棚を一人で軽々と動かす模様替え用。
三葉の【三途の葉落】は、庭の生い茂る雑草を一瞬で枯らし、生ゴミをサラサラの肥沃な土に変えるゴミ処理用。
「ねぇ、お父さん、お母さん。……私たち、冒険者ライセンスを取ろうと思うんだ」
一葉が珈琲を口に運んだあと、静かに切り出した。
一二三は珈琲をドリップする手を止め、葉も心配そうに少し目を丸くする。
「一葉たちが、冒険者に?」
「うん。二葉も三葉も大きくなってきたでしょ? 2人がダンジョンに行くなら、私が保護者としてついていってあげたくて。ほら、私たちの能力って、どれもカフェの雑用くらいにしか使えない地味なものだから、無理のない範囲で薬草採取とかができればいいかなって」
「そうそう! ひと姉の『お豆鮮度保持魔法』は戦い向きじゃないし、私の『力持ち魔法』も荷物持ちくらいにしかならないしね」
「僕の『生ゴミ分解魔法』も、ダンジョンを汚さないための清掃くらいには役立つかも。ふた姉の重役とも被らないし」
「……危ないことは、しないでくれよ?」
一二三は、心配そうに眉を下げながら言った。
「大丈夫だよ、お父さん。私が持ち前の力仕事でひと姉を守るから」
「僕も、足元を綺麗に掃除して転ばないようにするよ。ひと姉は後ろで見ててもらえれば十分」
二葉と三葉が頼もしく頷く。
「ふふ、頼りにしてるね、2人とも」
一葉は嬉しそうに微笑んだ。
「まあ、3人で一緒なら安心かしら。それなら、お店にあった古道具を持っていきなさい」
葉が微笑みながら、物置から古びた布包みを出してきた。
「三葉、この小剣を使いなさい。二葉には、この小さなお鍋の蓋みたいな盾ね」
「え、お父さんお母さんありがと。……雑草を切るのにちょうど良さそうな短剣だね」
「わぁ、持ちやすそうな盾! 荷物運ぶときのお皿代わりにちょうどいいかな」
さらに一二三が、一葉に向けて一本の細くしなやかな木の枝を渡した。
「一葉にはこの枝を。歩くときの杖代わりにでもしなさい」
「ありがとう、お父さん。エプロンのポケットに入れておくね」
「じゃあ、行ってきます!」
「ひと姉、行こう」
「うん」
3人は顔を見合わせて頷くと、カフェの扉を開けた。
森羅家の三姉弟による冒険者ライフが、静かに幕を開ける。
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