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第20話 フラウ

 ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュッ


 もう、五十近くは火針を打っただろうか。

 男性の髭を至近距離でまじまじと見る機会がなかったため、知らないことが多かった。


 顔に密集して生えている黒い集合体は、剃りたては青っぽく見えること。

 一本一本が太く生えていることで照射が思いの外、難しかったこと。

 意外だったのは、自分には火傷を作らず狙った『黒』を打ち抜ける技量があるのだと自覚したこと。


 でも、それ以上に未知の感覚に触れたのは……


 「っぁあ、ぐぅ……」


 照射の度に苦悶の表情を浮かべ、身体を跳ねさせるリオスを見ている時に湧き上がる感情だ。


 あぁ……もっと、もっと聞きたい……


 彼は涙を浮かべ、火針が打たれるタイミングで身体を固くする。そして、打たれた時には生物として正しい反応を如実に表明する。


 あぁ、神よ。彼は……彼は、なんて健気なのでしょうか。

 ここまで愚直な姿勢を見せてくれるなんて、目を付けておいて正解でした。


 悪徳貴族(よく知りませんが)に攫われた幼馴染を助けるために、聞いたこともないやり方で見た目を変えようなどと。


 洗礼の場で貴族を殴ろうとした時、介入したのは我ながら良い判断をしました。


 何発もの痛みと熱に耐え、普通の人が経験しないような時間に身を投じているのです。


 それを想うと……わ、わたしの身体にも、静かなのに未知のざわめきが生まれるのです。


 魔力を練り、針をイメージする時、私の内側は熱を帯びる。

 普段とは異なる形にするための影響だと考えていたのに、徐々に別の感情によるものだと確信じみていく。


 照射した後、耳に届くリオスの苦悶の声。


 視界に入ってくる痛みに耐える姿。


 それだけなのに、呼吸は乱れて自覚したことのない艶っぽい声が漏れてしまう。


 なんだか、髭が全てなくなってしまうのは勿体ないように思えてきます。

 名残惜しい気持ちが照射の合間に押し寄せる。


 それでも、妙案を思いつく。


(でも、他の毛もあるから……腕や足の毛も見ようによっては不潔ですよね? 下の毛は……どうなんでしょう? 私にとって違う意味で好みかもしれませんが……)


 この日は百の火針を打ち、お開きとなる。


 桶に溜めた水に顔を突っ込んでいる(おそらく顔を冷やしている)彼を見て想いを馳せる。


 彼の顔のしつこそうな髭や体毛はまだあるため、しばらくはこの感覚を楽しめることに胸が高鳴っていた。

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