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男装した“災厄の少女”は、秘密を知った熱血ライバルに溺愛される  作者: 矢井瀬 月


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8/8

08.ずっと傍で


 その日から、リヴェは寝込んだ。

 長い幽閉生活から解き放たれ、全身の緊張がようやくほどけたのだ。張り詰めていた糸が切れたように、体が休息を求めていた。


 時折、(うな)されるリヴェの横に座り、ディアスは時間の許す限り、魔力を静かに重ね合わせた。

 彼女の手を包み、己の力を流し込むたび、微かな温もりが返ってくる。ほんの少しずつ、春の雪解けのように、リヴェの頬に血色が戻っていった。


 やがて、数日ぶりに彼女の瞼がゆるやかに開いた。金の光を宿した瞳が、まっすぐにディアスを映す。


「……ディアス」


 その声があまりに柔らかくて、胸の奥が熱くなる。ディアスは微笑みながら、触れていた手を強く握りしめた。


「もう平気か?」

「うん。ずっと傍にいてくれたの、わかってたから」


 そう言って、リヴェは小さく笑った。

 それだけで、長い間自分の中に巣食っていた空虚がすっと消えていくようだった。


 ディアスはそっと、リヴェの頬に指を這わせた。

 じわりと交わる魔力に、彼女の生気が確かに感じられる。

 その瞬間、抑えていたものがこみ上げ、ディアスは初めてリヴェの前で泣いた。


「リヴェ……会いたかった」

「うん、オレも会いたかった。ずっと、ディアスが恋しかった」


 顔を歪めながらしゃくり上げるディアスの頬を、リヴェの掌がやさしく包み込む。

 互いの呼吸が触れ合い、距離がゆっくりと溶けていく。静かな月の光のもとで、ふたりの唇がそっと重なった。それは涙の味がする、あたたかくて、優しいキスだった。

 


 更に数日が過ぎ、都にはスタンピードなど幻だったかのように、穏やかな日常が戻っていた。


 あの日、夜空を包んだ金の光を、人々が“神意の光”と呼んでいることを知ったリヴェは、「なんかディアスが1年生の頃に名乗ってた、痛い二つ名みたいだね」と笑った。

 まさに“神意の光”の名付け親であるディアスは、「痛い」とはっきり告げられて心で泣いた。そうしてそれを、苦笑いで流した。

 

 けれど、痛い命名の甲斐はあった。ディアスたちの思惑通り、民の声に押された国はついに、女魔導士を正式に認める決定を下す。


 「これからは堂々と生きてもいいの……?」


 いまいち実感が湧かないリヴェは、隠れ家を出ることをためらった。

 もし騙されていたら。また塔へ閉じ込められたら──そんな恐怖が、心の奥で疼くのだ。

 けれど、仲間たちがもたらした朗報が、彼女を外へと連れ出した。


 リヴェの両親が釈放された。リヴェと涙を流して喜びあった彼らは、ディアスの手を握りしめて礼を述べた。


「ありがとう、君のおかげなんだな」

「リヴェを守ってくれて感謝しかないわ。匿ってもくれたとか。これからも、この子をよろしくね」

「息子のように育ててしまったから、恋人ができるなんて思ってなかった。少し寂しいが……、籍はいつ入れるんだ?」

「あなた、ふたりともまだ学生よ。でもこんなに素敵な子を逃すわけにはいかないわ。早いほうがいいわね、リヴェ」


 気の早い両親に、リヴェとディアスは顔を見合わせて笑った。リヴェは実家へ、ディアスは寮へと戻ることになり、ディアスは勝手な行動をこってりと絞られた。



 リヴェとディアスの行いは国史に記録され、次代へと語り継がれていくこととなる。


「『国歴624年。女魔導士の暴走は、愛する者の魔力と混和することで止められ、国を守る力となった』──なんて、なんだか恥ずかしいね」


「ん? 違うのか?」

「違わないけど……」


 もじもじと照れる恋人が愛しくて、ディアスは長く伸びたリヴェの髪に、指を絡めて抱き寄せた。

 1人称を“私”に変えようと努力しているリヴェに、「可愛すぎるから俺の前だけにして」と頼み込むほどには嫉妬深い。



 学院に戻る許可を得たリヴェは、3年生の後期から学び直すこととなった。

 一方、すでに1学年進級してしまったディアスは、首席のまま卒業を目前にしている。


 問題は、実習でリヴェのペアを務める相手だった。

 誰もが内心では、優秀で美しいリヴェと組みたいと願っていた。だが「ディアス先輩が怖い」せいで、ペアは押し付け合いになっていた。

 結局、授業にならないと嘆いた教師が、手本を兼ねてリヴェと組むことになった。けれど、その教師にさえディアスは抑止の視線を送りつけるので、「アイツ、なんとかならんか」とリヴェは幾度も縋られる羽目になった。



 季節が巡り、各学年を首席で卒業すると、ディアスは国家魔導士として国防を担う職に就き、リヴェは魔力自体の封印ではなく、暴走を止めるための魔導具を開発するための研究者となった。


 

 リヴェが仕事に慣れてきたある日の黄昏時。


 都の外れの小さな湖を臨む丘で、ディアスは彼女の前にひざまずいた。

 夕陽を映した瞳は、金を濃くして揺らめく。

 彼はただ一言、静かに告げた。


「リヴェ、俺と結婚して」


 返す言葉より先に、リヴェは頬に笑みを浮かべていた。そこで交わしたキスは、いつも以上に甘かった。


 やがて、ふたりは身内だけを招いた静かな式を挙げる。ゆったりと温かな愛に包まれた優しい空間で、リヴェとディアスは結ばれた。

 


 そして数年後。


 新しい命が、ふたりの元に訪れる。

 生まれたばかりの娘が初めて瞼を開いたのは、夕陽の光が部屋にやわらかく射し込んだときだった。


「……リヴェ、見て。金色だ」


 ディアスが息を呑む。

 同じ時代に、しかも同じ家系に、再び女の魔導士が生まれるなど前代未聞だった。


 リヴェも驚きに目を見開き、それから微笑んだ。


「私、きっとこの子と出会うために魔力を持って産まれたんだ」

「魔導具もいい感じで開発進んでるんだろ?」

「うん」


 頷いたリヴェは、ふと楽しげにディアスを見た。


「私のこと、“白耀(はくよう)の聖女”とか呼んでる人がいるの知ってる?」

「あ、ああ……」


 ディアスは目を逸らす。何を隠そう、原案は彼だ。リヴェを神聖視させることで、迫害から遠ざける目的も勿論あったが、男除けにもなるかと思って考えたのだ。


「じゃあこの子は……“希望の光”かな」


 そうリヴェが提案すると、ディアスはニヤリと口の端を吊り上げる。


「まだまだだな、リヴェ。“光冠(こうかん)の乙女”だ」

 

 そんな文言がスラスラと出てくる辺り、()()なのだ。──そのことにやっとリヴェは気がついて、クスクスと笑った。


「この子にも、愛する人が見つかるといいね」

「そうだな。俺たちみたいに」


 ふたりは視線を合わせ、魔力を重ねて寄り添った。

 そうして、揺らめく金の瞳を持つ小さな娘を撫で、ふたりでそっと抱きしめた。



読んでいただいてありがとうございました(*^^*)


男装女子の話考えるのがほんと楽しくて、気づけば4つ目……!

皆様にも楽しんでいただけたなら幸いです☆

リアクションやブクマなどいただけるとモチベ↑↑なので、もしよかったらポチッとよろしくおねがいします〜(๑ˊ꒳ˋ๑)


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