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ギルド長セリーヌ

「セリーヌ一体何事ですか?!うぉぉぉぉ?!」


「シュクルが暴走したわ!!ナルシスちょっと止めてよ!あなたがねちっこくイジメたから暴走したのよ!!」


部屋中大量に水を含んだ暴風竜巻がシュクルを中心に回転している。すでに部屋の物は巻き込まれて粉々びちょびちょだ。当の本人であるシュクルは俯いて立ち尽くしている。


「信じられませんね。先ほど魔道具で魔力を吸い取ったのに⋯⋯実に興味深いです」


「早く止めなさいよ!!魔力切れを起こすわよ!」


魔力切れを起こすと生命の危険まではいかないだろうが、回復に時間がかかる。シュクルは久々に家族と過ごせるのを楽しみにしていたのだ。ここでこれ以上時間を費やすのは可哀そうだとセリーヌは思う。ちなみにセリーヌは自身が無理やりシュクルを連れ回しているとは思っていない。これは獣王になる為の道だからだ。


「ですがどの様に止めますかね。水と風魔法の合体攻撃ですか。はぁ魔力がもったいない⋯⋯この魔道具にもっと吸わせたい⋯⋯」


「ナルシスちょっと!?もういい!シュクル聞こえる?!シュクル!!」


シュクルはゆっくりと顔を上げるがその顔は絶望に染まっていた。いつも飄々としているのに何事なのか。やはり考えられるのはこの男がグリフォンの討伐などとほざいたからに違いない。


「シュクルいい?魔力を放出するのを止めてね?いきなりどうしたの?」


「⋯⋯」


シュクルは何かをつぶやいたが聞き取れなかった。そして再度話し出した。


「服が⋯⋯」


「どうしたの?」


「服が着替えられていたのです⋯⋯」


「ん?」


湖畔でびしょ濡れだったのでもちろん着替えさせたが、それの何が問題なのだろうか。服のポケットに大事物でも入れていたのだろうか。


「あ、家の娘と同じですね!娘も着替えやお風呂などは恥ずかしがって自分でやりたがるのですよ。貴族なのに不思議に思っていましたが、きっとそういう年頃なのですね」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯だ」


「シュクル何?」


「暗黒の⋯⋯を見られた⋯⋯絶望だ」


「え?」


暗黒とは一体何だろう?この表情からしても、裸を見られた恥ずかしさは感じられないので何か体に見られたくない秘密があるのかもしれない。そういえば巨大うなぎ魔魚にお尻を噛まれた時、お尻に薬を塗るのすら嫌がっていた。


疑い出すと止まらない。裸にまつわる暗黒とは何だろう?珍しい闇魔法が使えるとか?でもそれは体を見られたくない理由にはならない。そもそもこの子は水魔法を使えたのだろうか。風魔法と土魔法を少し使えると言っていたはずだ。水魔法だけ隠していたのか?何のために?


「オワタ⋯⋯」


――ドカ――


「シュクル!!」




結局シュクルは魔力切れで倒れた。違う客室へ運び、大変警戒しつつシュクルを裸にして体を調べたが異常はなかった。この国の危険を排除する為にも身内に怪しい者は入れたくないのだが一体何をシュクルは秘密にしているのだろうか。


「体に異常はなかったのですよね?でしたらお年頃の娘が肌を他人に見られるのを恥ずかしがる時期に違いありませんよ。セリーヌは子供がいないから知らないだけです」


「⋯⋯あなた私がモテない行き遅れ女だと言いたいのかしら~?」


「いえ、あなたはいつでもモテモテでしたよ」


「過去形なの?」


「⋯⋯シュクルさんですが、起きたら魔獣のお肉を食べさせてみましょうか。それで魔力がすぐに回復したらシュクルさんの能力は魔獣肉から魔力を吸収出来る力と言えますね」


「⋯⋯そうね」


本当にそれだけだろうか。しかし獣人である私には魔力関係の知識があまり無い。この男は医学の中でも特に魔法医療関係に詳しいのだからきっと真実なのだろう⋯⋯でも何か引っかかる。


「じゃああなたに聞きたいのだけれど、どうしてシュクルは魔獣と会話出来るのだと思う?グリフォンと過ごした三年間で普通に会話出来る様になっていたらしいの~」


「それは事実ですよね?たまにいるのですよ動物の心が分かる人とかね」


「う~ん違うわ~そういう人達とはね。例えばあの子の使役魔獣よ。今あなたの庭にいる緑竜の幼竜と普通に会話しているのよ」


「んー?うちの庭に竜がいるのですか?初めて知りましたね」


「⋯⋯大丈夫よ。とても賢くて優しい子よ~」


美しく整えられた庭の緑を貪ってるがね。だがそれは今はまだ言わないのだ。


ニーチェは賢くて人に危害を加える子ではないが、飼い主に似たのか食に貪欲だ。


「それで魔獣との会話ですが、もし出来るのであれば家畜を荒らす竜やグリフォンに止めるように言えますか?」


「どうかしらね?試してみましょうか~?」


竜は討伐対象ではないので、できれば追い返したい。やむを得ず竜討伐になれば騎士の被害も出るし、何よりお金がかかる。グリフォンは討伐対象だが強い。無暗に戦って騎士の死者を出したくはないのだ。


「セリーヌ、絶対にシュクルさんを騎士にしましょう。魔術師にさせてはなりませんよ!」


「当たり前よ!」


騎士団と魔術師団は仲が悪い。近頃は魔術師団に予算を大幅に奪われているのが現状だ。攻撃魔法の使える魔術師が一人でこなせる討伐に対し、魔術をあまり使えない騎士では数人がかりの討伐になるのだから国が魔術師団に予算を割くのは当たり前だ。


それに魔力量は遺伝である事が多い。魔術師は高位貴族で選民意識が強く、ある一定の魔術研究バカを除いて騎士に対し上から目線で見下してくるので腹が立つ。


だからこそシュクルは我々獣人と騎士団の星となるのだ。腕っぷしも強く、魔術に長け、五感も良ければ魔術師以上ではないか!


「獣王になるべき人材よ~私が見つけたの」


「いえ、シュクルさんは第三騎士団がよろしいと思いますが?」


「嫌よ」


第一騎士団は王宮警備騎士と近衛騎士がいる。第二騎士団は王都の警備で、第三は魔獣討伐などの荒事担当、第四~は国境警備と海上警備だ。


そして私の仕事は別働班だ。主に諜報活動や騎士団の騎士を監視したりするのだが一般の騎士達は知らない。別動班はお助け班だと思われている。魔獣討伐時に人手が足りなければ参加したり、夜会や他国の要人がいる時などは警備についたりもする。この間は王宮の備品を調べたりしていたので完全に窓際騎士だとも言われているが。


ちなみに備品調査でわかったのは、王宮の備品の質が密かに落ちていて差額で儲けている阿呆文官の尻尾を掴んだり、備品をくすねて売りさばいていた掃除婦がいたことだ。⋯⋯それと可愛い掃除婦の愛用箒をペロペロしていた変態文官も捕まえた。


「あれほどの魔力ですよ?討伐に使わない手はありません」


「嫌よ。獣王になるって言ってるじゃないの~」


獣王は別働班の中でも群を抜いている能力者の呼び名だ。代々五感に優れた獣人が選ばれていたので獣王と呼ばれているが正式名称ではない。


ちなみに私はブラックタイガーの獣人で物凄く強いが見た目は普通の女性なので諜報活動がしやすい。シュクルは将来有望過ぎる見た目なので良い後継者になるだろう。


(女性のお茶会や夜会での噂話はバカに出来ないのよね。それだけじゃないわ王宮の食堂、女子トイレ、女性の井戸端会議も情報の宝庫よ)


只でさえ少ない女性騎士だ。その中から別働班になれる女性は本当に少ないのに仕事の需要があり過ぎる。後継者問題は深刻な問題なのだ。


(そう、私が婚期を逃すほどにね!!)


「まだ十歳と言うべきか、もう十歳と言うべきか⋯⋯子供の成長は早いですからねシュクルさんに諜報だけでなく高度な魔術訓練もするべきですね」


「ナルシスの娘は医療騎士になるの?」


「ええ最近なりたいと言い出しまして驚きました。体力作りや勉強を始めていますよ」


(⋯⋯あら?シュクルはいつ勉強してるのかしら?でも賢い子だから問題ないわね)


「まだ学院入学には五年もあるじゃない~大丈夫よ~」


「案外あっと言う間だと思いますよ。さて大幅に遅れてしまいましたが私は仕事に戻ります。この間の辺境伯家の件で騎士団は大忙しですよ。逆に騎士達が王都から減ったので医務室は暇ですが」


先日のヴィアンネイ辺境伯家の裏が取れたので騎士団がガサ入れをしている。一人残した捕虜がいい仕事をしてくれたのだ。


(一番偉そうな男を残して正解だったわね。他の男達だったら知らなかった情報も持っていたに違いないわ~)


ナルシスは仕事へと戻って行った。私は窓から外を眺める。この伯爵家の庭園は美しいのだ。


「はぁ~いい天気ね~シュクルは起きたかしら~⋯⋯あれ?」


⋯⋯おかしい。先ほどまであった庭園が無い。今日は総植え替えをする日か何かなのか?よく見れば何も無い庭園の端に何かいる⋯⋯


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯うん。シュクルの元へ行きましょ~」


大丈夫だ。ナルシスは出勤したばかりですぐには帰らないし、奥様と娘さんは領地にいるのだから。


「美食を堪能して帰りましょ~!」

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