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佐藤はビキニアーマーに会いたかった

 今日の午後の授業は、今さら学ぶこともない算数なので冒険者ギルドへ来た。お目当ての講習は職業ジョブの基本講座だ。この講習は超新人向けで、一月に一度しかない講習だ。


「こんにちは~職業講習受けに来ました」

「あ、君はシュクルさんだよね?そうか、君はあのトーマス毒草博士に弟子入りしたんだね」

「いえ、弟子入りしてないですけど?」

「でも同じ服装じゃないか。それにトーマス先生が言ってたよ」

「あぁ」


この布を纏って以来、私は毎日着用している。家に帰って布の中心に首を通す穴を開けて突貫着にした。横をクラリスに縫ってもらってウエストを紐で緩く縛る。もうローマ人だ。テルマエ行って石工職人にでもなって秘密結社始めるかな。


「さて職業講習だね、上の青い扉だよ。がんばってね」

「ありがとうございます」


今日は青の扉だ。


「失礼します。こんにちは」

「あ、こんにちは」「どうも」「⋯⋯⋯⋯」


三人の受講者がすでに室内にいた。全員年上の男性だ。異世界にありがちな裸同然の姉ちゃんはいなかった。穿った見方をする転生人がいつも言っているだろ?ビキニアーマーだかで山に入れるかって!蔓植物の棘で傷だらけじゃ! ってな。

アレは男共と吸血害虫を喜ばせるだけの代物だ!うん。別に私が生で見たかった訳じゃない⋯⋯⋯⋯今私は女だしー私の方が絶対可愛いしー


しばらくすると講師らしき人がやって来た。


「おお、今回は四人もいるのか。じゃあ始めるな。俺は冒険者ギルドの副所長のサムソン、元A級冒険者で剣士をしていた。みなよろしくな」


ほう~A級とか強そうだ。サムソンさんは大きい体に傷跡が沢山あるおじさんだ。

にかっと笑顔でいい人そうだが頭は緩そうだな。

シュクルは仕事中のオヤジの評価に厳しいのだ。同業者の仕事をつい厳しい目で見てしまうのと同じだ。


「みなはすでにジョブを大体決めてるのか?冒険者は剣から始めるヤツが多いが、俺は色々な得物を試して欲しいと思っている。長剣も短剣も弓も槍も戦斧も何でもだ。盾だって使えた方がいい」


うん。サムスンだかサムソンだかはいい事を言う。私のポイントにいい仕事をしてくれるな。


「でもサムソンさん、俺はこの剣でずっと戦ってきた。今更変える気はないぞ?」

「ああ、変えなくていい。ただ試してもらいたいんだ。そうすればその武器の癖や弱点が見えてくる。それを理解できれば仲間と連帯がしやすくなるだろ?」

「まぁそういう事なら⋯⋯」


何だこの異世界でよくあるやり取りっぽいのは。おじさんこんな三文芝居見たくないよ?あ、おじさんじゃない、超可愛い幼女のウサギ獣人だった。


「では外の訓練場へ行こう!」


五人で外へ出る。ギルド裏には大きな訓練場があった。表からは全く見えないので気づかなかった。


「まずは普通の剣だね。どうだい?握ってみて?」


一般的な普通の剣だな。私が父とノエルとの訓練で使っているのは子供用だから、これは長く重く感じる。だが――


「フンフンフン!!朝と夕に二千回素振りをしている私には軽い!これで将来クラリスに近づく淫行魔人共を去勢してやる!!フンフンフン」

「「「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」」」


「あー⋯⋯次は長剣だ。女の子には扱いづらいかもしれないね。まぁ一応皆手にしてみてくれ」


ほう、これは長すぎる。シュクルはまだ百三十センチくらいで剣の方がデカいくらいだ。でも私と長剣の共演、このシュールな感じがいいな。


さてこの長剣を持って豪速回転を始める。


「台風です~台風シュクルが上陸します~優しいノエルに近づく悪役メス豚令嬢を駆逐しまーす」


最近町で二人共人気なんだよな。今はまだ「キャ~可愛い~!」で済んでいるが、今後何が起こるかわからない。要経過観察だ。


「うん。君名前は?さっきから何ていうのかな、私怨が漏れてるよ?」

「シュクルです。最近不穏な風が町に吹いているので⋯⋯⋯⋯」


ヤバい。無自覚で独り言を叫んでいたようだ。心の声が漏れていたか?これじゃあもうおっさんじゃなくて初老じゃないか!


「ほう?君もか?君も不穏な風を感じるのだな?俺もだ。小さいのになかなかやるな」

「⋯⋯⋯⋯」


さっきの三文芝居剣士だ。マジもんの思春期病患者に異世界で会っちゃったよ。マンガだから笑えるんだよ?まさか腕に包帯巻いてね?これどうすんの?


「俺はクレマンだ。シュクルよろしくな。一緒にダークサイドと戦おう」

「あーどうも」


相手を刺激しない様に曖昧な返事をしながら他の三人を見つめる。当然ながら目は合わなかった。


「次は槍だな。攻撃距離が長いから結構いい武器だ。騎兵なんかは絶対使う」


これいいな。魔獣を狩る時に距離がとれる。だが森の中じゃ長くて邪魔じゃないか?

刺す感じと振り回す感じのどっちがいいんだ?


「ツンツン!フンフン――」


――サクッ――


「ヒィ⋯⋯⋯⋯」


どうしよう。クレマンだかのパンツ切っちゃった。こいつマンガ展開の天の才の持ち主だろ。断じて私のせいじゃない。こいつがいらぬ所に尻を向けたんだ。


「ぷっ」

無口そうなキャラの受講者が笑った。


「ふふっ」

始めに優しく挨拶を返してくれたお兄さんも楽しそうだ。


「ハハハ」

講師サムソンも嬉しそうだ。よかった。


「ん?ハハハー!」

尻出しクレマンも満足そうだ。なんだ尻切って正解だったな。


「俺の槍捌きでそんなに喜んでもらえるとはな!だが俺は剣で生きていくんだ。エイ!エイ!」


あぁ、そんなに足広げちゃ汚尻がより出ちゃう⋯⋯あぁどんどん裂けていく⋯⋯

誰かあの腕の包帯を汚尻に巻いてくれよ。


「あぁーそれ以上の尻の御開帳はイカンな。槍はこれくらいでいいかな。次、弓行こう!」


おお!弓かっこいい!何より鳥を射ることができる!鶏肉もいいよな~やきとり食べたいな。それに木の上にいる動物も危険な魔動物も弓をマスターしたら安全に狩れるよな。よし!


「こんな感じか?初めてだからわからんな」

「ち、ちょっと待て!シュクルだったな?君はどこを狙ってるんだ?!」

「え?あちらの的ですけど」

「いやいや、おじさん見たよ?君あの尻狙ってたよね?!」

「そうでしたか?ただあのままの姿でシャバへ出られたら、学校帰りの兄妹にダークホール?だかの汚穴を見せることになりますし、心的苦痛を与えたくないんですよね」

「おいおい~?元はと言えば君がズボン切ったよね?」

「え?」

「何、今知りました!みたいな顔してんのぉ?もう駄目だよ?武器は怖いんだよ?」

「はい!」

「何を今更よい子のお返事をしているんだ⋯⋯はぁ。 次、戦斧だ。力が強い者が使うと破壊力が高い。意外と戦闘で使えるぞ」


斧は毎日振るっているからな。だがこれは柄の部分が長いし、先端に小さい槍がついている。


「あ~これかも。これ馴染む気がする」


幼い頃から薪割りしていたし、これが相棒な気がする。


「⋯⋯⋯⋯お前もか?」


ここで無口男が話しかけて来た。


「あなたも戦斧ですか?」

「ああ。俺もこれが自分に合っている気がする。細かいのは苦手なんだ。ドカっと一発で仕留めたい」

「わかります」


こいつ脳筋だろ。


「次は戦鎚だな。これは鈍器というか鉄の鎧をも砕く。当たれば相手に相当な痛手を与える」


これは⋯⋯庭の囲いを地中に打ち込むのにいいな。日曜大工用だ。そういえば⋯⋯


「おい、シュクル!戦鎚持ってどこ行く?!」

「ギルドのゴミ箱が歪んでて釘が飛び出てるんです。押し込んで来ます」

「いやいや、それはトンカチでしょうな?戦鎚は大きすぎるだろ?」

「自分結構大きさに捕らわれないと言いますか、海洋生物からオッサンまでイケます。大きさアジャスト能力がすごいんです」

「何言ってんの?いいからここにいなさい!はぁ。もう武器は回収する。今日はここまで」


今日の職業講習はこうして終わった。だがやはり⋯⋯⋯⋯

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