見つけた
少しの隙間も許さないと私を強く抱き寄せるエタンの背中に腕を回す。
初めて触る鱗はしっとりしていて意外と気持ちがよかった。
「エタン、聞いておきたいことがあるんだけど」
「何だ」
「背中はやっぱり脱皮するの?」
「は?」
「鱗のところ。脱皮する?」
「まぁ……するな」
「それ、次私がやりたい」
「何?」
「皮、めくりたい」
「待て。リラ、自分が何言ってるかわかってるのか」
「え?だって皮ベロンって剥けたら気持ちよさそうじゃない?」
「……毛づくろいは番の仕事だ」
「うん。だから、やりたい」
「リラ」
「……エタン、このまま私のこともらってくれるんじゃなかったの?」
「もらう!」
即答したエタンは私の肩に顔を埋め、抱きしめる腕をさらに強くした。
硬い胸板にぎゅうぎゅう押し付けられながら、エタンの背中をあやすように優しく叩く。
「泣いてるの?」
「……泣いてない」
「じゃあ顔上げて」
「今は無理だ」
必死に平静を装いながらもエタンの声は震えていて、私は改めて彼の孤独を思い知った。
思えば、最初に会った日から耳も尻尾もないのはエタンだけだった。それなのに全く思い至らなかった。私がこんなに心細く思うこの世界で、彼がどんなふうに生きてきたのか。
私はこの世界に一人で落ちてきたけど、エタンもずっと一人だったのだ。
「ふふっ」
「……情けなくて呆れたか?」
「全然。エタン、大好きよ」
「リラっ」
「優しくて臆病で意外と思い切りがよくて。私のことばっかり考えて、毎日幸せそうに笑ってくれて。そんなの好きになっちゃうよ。ずっとエタンのリラでいたい」
本格的に泣きはじめたエタンの背をなでながら、私もたくさん泣いてしまった。二人してぐしゃぐしゃの顔を見合わせて、笑ってはまた涙が出た。
そんなことを繰り返すうちに泣き疲れてしまって、まだ日も高いうちから抱き合って眠る。
エタンは冷え性で体温も低くて、筋肉質な体は全然やわらかくない。
でも私はずっと、この臆病で優しいヘビの巣の中だ。
元々は「異世界に落ちたら蛇の穴」というひねりのないタイトルを考えていました。