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愛を凍らせて  作者: かなえ
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重い瞼を開けると、心配そうに見つめているカイト様の顔がすぐそばにあった。

スミレ色の瞳が懐かしくて手を伸ばして触ろうとしたが途中でカイト様につかまってしまった。

「気分は?手が冷たいな・・・一体何が・・・」


私の様子を注意深く観察をしながら握られた手に力がこめられた。

暖かい懐かしい温かみに涙があふれて止まらなくなった。

泣いている私を不思議そうに見ているカイト様。

彼は『あの時』私を殺すという辛い役目をお願いしてしまった。

そして彼は死ねずに今までずっと私を待っていてくれたのだろうと思うと申し訳なくて涙が止まらなくなる。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい」

かすれる声で謝る私に、カイト様はますます不思議そうな顔をする。

「一体・・・・アイリ?・・・」


「大丈夫よ」


また私の口から勝手にアイリーンが話し出した。

明らかに私だが私ではない誰かが話しているのが解るのだろう。

驚くカイト様と私達の様子を見ていた兵士達。


「アイリーン?」


恐る恐る呼びかけるカイト様に私の意志とは関係なく私は薄く微笑んだ。


「えぇ。そうよ」

そういって、また『私』は微笑んだ。

苦しそうな顔をするカイト様は愛おしそうに『私』の顔にゆっくりと手を伸ばして頬を撫でる。

「もう、君を殺したくないんだ」


私を通して、アイリーンを見るカイト様に胸が痛んだが、カイト様はカイであり、カイ様はずっとアイリーンを愛しているのだから仕方ない。

私は、ただアイリーンの魂を持って生まれただけなのだから彼に愛されていると錯覚してはいけないのだと思った。


「大丈夫よ、私の体を使って。あの中にすべてのクール化する原因を閉じ込めて、もう一度あの体を封じればいいのよ」

「また君を失うのは無理だ。アイリはどうなるんだ。こんなに血を吐いて・・・」

悲痛な声をあげてカイト様が私の体を抱きしめた。

彼の肩越しに少し暗くなっている空が見える。

視線をそらすと月が太陽に半分ほど重なっているのが見えた。


「はいはい、そこのお二人さん。いいトコと邪魔をして悪いけど時間がないわよ!」


エマが兵士をかき分けて私達の前へとやってきた。

倒れている私と私を抱えて座っているカイト様を見て一瞬辛そうな顔して息を吐いた。


「アイリ、いいえ、アイリーンかしら?」

そう言って懐かしそうに笑みを浮かべる。

『私』の中のアイリーンもエマを見て力なく微笑んだ。

「えぇ、そうよ。貴方には心配ばかりかけて・・・でももう大丈夫。こうして私の魂はカイにもう一度合えたんだもの。そしてまたあの時を繰り返さないように、そして世界を救えるように。またチャンスはあるわ」


エマは頷いて私達の前に跪いた。


「そうね。カイ、いいえ、カイト。あんたまた一緒に死のうなんて考えちゃダメよ。

自分で死んだ魂は輪廻の輪には入れないの。2度とこうして会えないんだからね。私はあんた達が気に入っているからずっと幸せに居てほしいから力を貸すのよ」


エマの言葉にカイト様はしばらく考えて、私の肩に額を置いて小さく呟いた。


「・・・・あぁ、なるほど」


「やっと理解できたよ」

そういって私の顔を覗き込む。

「そういうことだったんだね。アイリーン。」

「えぇ、そうよ。私達はいつの時代も、何回でも会って恋に落ちるのよ。それは運命だから。

そしてこれは試練なのよ」

私の口を使ってアイリーンが細い声でカイトに告げた。


「まぁ理解出来たなら良かったわ。それなら急いで太陽の神殿に行くわよ」

エマが声をかけるとカイト様は頷いて私を抱えて立ち上がりゆっくりと歩き出す。

兵士達も慌てて私達を囲んで守るように歩き出した。

「太陽の神殿は立ち入り禁止よ。あんた達誰も入らないように見張っているように伝えて頂戴」

歩きながらエマが兵士に指示を与え、数人の兵士が走っていった。


「報告です。太陽がかくれてからなぜかクール化した人たちが沈静化しているもようです」


兵士の報告にエマが答えた。

「そうよ。太陽と月が重なっている間はなぜか暴れているやつらは無効なのよ。でもこれが終われば、クール化する人が増えるわよ。そしてクール化している人はそれ以上に暴れるわ。そうなったらもう終わりよ」


占いエマの言葉は絶対的に当たるといわれているだけに、エマの言葉に兵士達が困惑したように顔を見合わせた。


「問題ない」


カイト様は表情一つ変えずに私を抱えて太陽の神殿へと向かって歩き続け私達に続く兵士が増えていった。

太陽の神殿へと着くと入り口には兵士達が二列に並んで立ってるのが見えた。

私を抱いたカイト様が左右に並んだ兵士達の間をゆっくりと歩き始める。

兵士達が一斉に剣を抜き自らの顔の前へと立てた。

カイト様はチラリと視線を送り軽く頷いてゆっくりと歩き続ける。

兵士達は微動だにしないが、私とカイト様への敬意の表れを感じた。

剣を捧げてている兵士達の間を抜け太陽の神殿へと入った。

神殿の中は真っ暗で、窓の外を見るとちょうど太陽と月が重なったのだろう、外も暗い。

太陽が隠れたせいか温度も少し下がったようで肌寒い。

私を抱えたカイト様は迷わず中央に置かれている、クリスタルに閉じ込められたアイリーンの元へと歩いていく。

「私が本当の私になるからお願い」

私の口を使ってアイリーンが告げるとカイト様は頷いて静かに私を降ろした。

不思議と神殿の中は暗いが、目が慣れてきたせのか少し後ろに居るエマが硬い表情を浮かべて立っているのが良く見えるようになった。

カイト様は静かにアイリーンが閉じ込められているクリスタルに手を置いて小さく呟いた。


「すまない」


そういうと剣を抜きクリスタルに突きたてた。

一瞬後、音を立ててクリスタルが砕けバラバラと床に落ちる。

崩れるように中から出てきたアイリーンの体をカイト様は抱きとめた。


「アイリ、貴方とカイの力で封じて頂戴ね。貴方は私。大丈夫よ」


私の口がまた勝手に動き『私』に語りかけた。

私がアイリーン様だともなんとなくわかるが、彼が愛していているのはアイリーン様だし私が封じられればいいのではないかしら。


『それは違うわ。』


私の中にアイリーンの声が聞こえる。


『貴方は私なのよ。大丈夫。

すぐに一緒になるのだから。』


そう聞こえ、私の中からアイリーンが抜けたのが解った。

体が自由に動くようになり起き上がろうとするが、力が入らない。

なんとか顔だけを動かしてカイト様を見ると、カイト様に抱きとめられていたアイリーンがうっすらと目を開けるところだった。

二人は見つめあい、アイリーンが微笑んだ。

胸に刺さったままの剣をカイト様が眉を潜めて見ると、アイリーンが微笑みながら自らの胸に刺さったままの剣を撫でた。

「私は死んでいるから感覚はないのよ。そんな目でみないで大丈夫だから」

「でもね、時間がないのよ。カイ。アイリ」


アイリーンはそういってカイト様見て、最後に私を見て微笑んだ。







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