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「とりあえず、クール化している人が居るところに行きましょう」
「仕方ない、アイリの言葉に従おう。でも、忘れないで僕は君が無茶をしたら止めるから」
私の言葉にカイト様はまた深いため息を付いて周りに居た騎士達に指示を出した。
結局私とアイリーン様が同じだということの意味がわからずじまいだが、今はそれどころではない。
騎士に先導されて私たちは門の前までやってきた。
もちろん不機嫌な顔をしたカイト様も私の後ろにぴったりとくっついている。
城の門の前は人が集まっていて大騒ぎになっていた。
「太陽の神官様がいらっしゃった」
「カイト様も!」
集まった人達が、手を叩いて私たちを歓迎した。
良く見ると縄で縛られたクール化した人がちらほら見え、数はそう多くは無さそうだ。
これなら何とかなるかもしれない。
門を開けてもらい、集まった人達のところに行こうとするが人が押し寄せてこようとするのを騎士達がおしもどし私達を守ってくれる。
「とりあえず、クール化した人たちを・・・黒い霧を抑えます」
「解りました」
私の言葉に騎士の人たちが集まった人たちを落ち着かせてくれる。
クール化した人たちは縄で縛られているので襲ってくることも無いので少しは安全だ。
「お願いします。息子なんです」
「父が!突然クール化して」
集まった人たちが、我先にと叫びながら縄で縛ったクール化した人を前へと押し出した。
「できるかわかりませんが、やってみます」
私がそう言うと、人々は頭を下げた。
騎士の人たちが縛られたクールを連れてきてくれる。
私はその人たちに後ろから抱きつき、黒いモヤを体に入れるのを何回か繰り返した。
クール化した人たちが元に戻るたびに、人々から歓声とお礼の言葉が湧き上がる。
5人目ぐらいから体が辛かったが、10人目にもなると、立ち上がれなくなってしまった。
それでも何とか立ち上がろうと足に力を入れるが立てない私に黙って見ていたカイト様が私を抱き上げた。
「もう十分でしょ」
「まだ、クール化した人がいます。もう少し」
ぐるぐる回る世界で呟くと、カイト様は首を振った。
「もうすぐ正午になる。いったん戻ろう」
抱き上げたままカイト様が騎士達に指示を出した。
集まった人たちからは落胆の声が聞こえてきたが大きなトラブルはなく私は解放された。
今までに無いほど体が疲労しており、体が、重く、目が回る。
一人では到底歩けないのでおとなしくカイト様の腕に抱かれた。
集まった人たちから心配そうな視線を感じ、私はなんとか笑みを作った。
「少し休んでまた来ます」
ありがたいことだと人々か頭を下げるなか、思ったよりも声が出なかった私の言葉に人々が頭を下げてくれた。
「太陽の神官様だけが頼りなのです。ありがとうございます」
「あぁ、ありがたいことだ」
カイト様に抱かれてまた城の敷地内へと入る。
瞼が重く、意識を保っているのも辛く、目を閉じていたが薄く目を開けると綺麗なカイト様のはるか上空に見える青空が少し暗いような気がした。
とうとう目がおかしくなってしまったかと、何度か瞬きを繰り返すとカイト様が歩みを止めて空を見上げた。
「あぁ、太陽と月がかさなってきているんだ。もう少ししたら真っ暗になる」
まだ体力が戻らないのに太陽と月が重なったらどうなろうんだろうか。
徐々に暗くなってくる空に周りの騎士たちも不安そうに空を仰いだ。
「カイト様。町でまたクール化した人が数人増えたとの報告です。城の中でも何名かクール化が起こっているようです」
大変だ。早くなんとかしないと。
そう思うが、体がうまく動かない。 体の中心に黒いモヤがたまっているような嫌な感覚に息が荒くなってきた。
空気を吸い込むがうまく肺に入っていかない感覚に自然と息が荒くなる。
「アイリ?」
心配そうにカイト様が私の顔を覗き込むが胸が苦しくてうまく反応が出来なかった。
黒いモヤを吐き出そうと何回か深く息を吐き出すと不快感と共に、咳が出た。
咳と共に喉の痛みを感じ嘔吐してしまったかと手を見ると紅い。
口元をぬぐい、胸元を見ると想像していたよりも大量の血を吐いていた。
ソレを見たカイト様が私よりも青い顔をして、私を抱いたまま器用に手を握ってくる。
暖かい大きな手が私の右手を包み込んだ。
なぜか懐かしい手だと思った。
「前と同じように居なくならないでくれ」
泣きそうな声で祈るように私の手を額に当てて言うカイト様。
前ってなに? わからない。
そういいたいのに口がうまく動かなかった。
「何も言わなくていいよ」
カイト様はそう言うが、話せないと思うと何か話さないとと何度か息を吸って声を出そう努力した。
ふっと体が楽になり私の意志とは関係ない言葉が勝手に話し出す。
「大丈夫よ、カイ。この子は私。私自身。もう同じ過ちは繰り返さないわ」
私の声なのに、違う人が話している。
しっかりした話し方に、私達の様子を見ていた人たちが息を呑んで身動き一つせず見守っている。
「アイリーン・・・?」
目を丸くして確かめるように呟くカイト様に私の体が勝手に微笑んだ。
「そうよ。魔を取り込みすぎてこの子の体は限界なのよ。 大丈夫、私が全部持っていくわ」
私ではない誰かが私の体を使って話している。
アイリーン様だといっているこの私の体を使って話している人は幽霊かなにかだろうか。
愛しいものを見るカイト様の瞳に、胸が痛んだ。
私を通してアイリーン様を見ている。 この愛しい人を見る瞳は私ではなく、アイリーン様に向けられたものだ。
「もっていく?・・・・・アイリはどうなるんだ・・・。また僕は、大切は人を失うのか・・・」
まるで私のことを大切に思ってくれているような言い方に胸が苦しくなった。
「大丈夫よ。そうね、この子は少し勘違いしているから思い出させてあげるわね」
そういって私の勝手に左手が動き手のひらを胸に当てた。
「思い出して、貴方は私なのよ。アイリ」
心地よい声に体の痛みが一瞬和らぎ、目の前が真っ暗になった。
頭の中で自分と同じ声のアイリーン様がもう一度大丈夫、そういった声が聞こえた。




