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愛を凍らせて  作者: かなえ
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私はあの日から2日間眠っていた。

ずっと寝ていたわけではないが、寝ていることが多かった。

心配そうなエウラが私のお世話をしてくれていたのは覚えている。

そして私と同じ声をした女の人が私に話しかけていたことも覚えている。


やっと起き上がって生活が出来るようになった3日目、ユミナとキハルさんが私に面会してたいと申し出があり私はもちろん会うことにした。

ユミナが元気になったのか見たかったし、彼女のことが気がかりだった。

あの黒いモヤはユミナから無くなっただろうか。


うららかな午後、父と会ったあの庭でテーブルとイスを用意してもらい、私特製ブレンドのハーブティを用意した。

しばらくすると、カイト様に連れられてユミナとキハルさんがやってきた。

他の騎士達も遠くのほうに配備されており、私たちの会話は聞こえない位置になるということだった。

いつもやわらかい雰囲気を出しているカイト様だが、今日はいつもと違う。

真面目な顔に、ピリッとした冷たい空気を抱いていてユミナはそんなカイト様が恐ろしいようで目を伏せている。


「このたびは申し訳ございませんでした。アイリ様お体はいかがですか?」

まず頭を下げたキハルさんに私は首をふった。

娘がしでかしたことでキハルさんは退職を願い出たということだが、長年巫女長をやってきた彼女がいなくなるのは困る。

私がキハルさんの退職は却下しなかったことにより今は保留という形でとどまってもらっている。

ユミナはこのまま辞めて実家に帰ることは決定している。


「私は大丈夫です。キハルさんも気にしないでください。あの事件のおかげで私太陽の神官として役目がわかった気がします。なんか力がつかえるようになったというか不思議ですけど・・・」


キハルさんは困ったような顔をして、頷いた。

ユミナも私の前に出てきて頭を下げた。


「ごめんなさい。アイリ様のおかげで助かりました。あの時、黒いもやみたいなのが私を渦まいて、自分でも驚くぐらい、アイリ様の事が憎くなって・・・。あそこまで言うつもりではなかったんです」


いつも強気なユミナがうなだれて私に頭を下げた。

きっと、最近イライラしていたのも黒いモヤが原因だろう。

それでも根底にはカイト様に優しくされている私のことが憎い気持ちがあったからだろうが。


「わかっているわ。大丈夫」

私がそういうと、ユミナはほっとしたように照れたように笑った。

歳相応の笑いで私もほっとする。


「それに、私あの事件のおかげでわかったんです。カイト様は綺麗だし、強いしかっこいいけど、ただの憧れだったんだなって。・・・ちょっと怖いし」


後ろに控えているカイト様に聞こえないように小声でいうユミナに私は少し笑ってしまった。

確かに今日の彼は冷たい雰囲気で近寄りがたい。

そういう彼女の顔はすっきりしていて、カイト様に憧れてた雰囲気は感じられない。


「そうなの」

頷く私にユミナは子供っぽく笑みを浮かべた。


「それに絶対に叶わないって解ったし。カイト様すっごく好きな人がいるみたいだし」


多分その相手は私だと思っているだろう、違うのよ。もう動かないアイリーン様を愛しているのよ。

そう言いたかったがなんとか堪えて意味ありげに笑みを浮かべて頷いてしまった。

まるで、私が相手なのよと言っているように見えてしまったかもしれない。

以前のユミナだったら怒っただろうが、目の前の彼女は笑みを浮かべて納得したように頷いた。


「良かったです。言いたいことは言えました。じゃ、私はこれで。巫女をやめて実家に帰ります。

アイリ様が言ったように心を強く持って、黒いものに取り込まれないようにがんばりますね」


「元気でね」

ユミナはニカッと笑って手を振って走って去っていく。

さっぱりしていて彼女らしい。

残されたキハルさんは困ったようにまた私に頭を下げる。

謝罪の言葉をまた言おうとするのでやんわりと止めた。


「やめてください。もう十分謝罪は受けました。それに、少し心が弱っているとあの黒いモヤに取り込まれて人がクール化するみたいなんです。なんででしょうね、私、急に解るようになったんです」


「やはり太陽の神官としての力がそうさせるのでしょうか」


困ったように言うキハルさんに私も解らないので首をふった。


「黒いモヤを私の中にいれることができるのも・・・この前ので気がつきました」

「それではまるで・・・」

キハルさんはそれ以上は言わなかったがきっとアイリーン様がやったことと同じではないかと。

私もそう思う。


「私には何も力なんて無いと思ってたし、何にも出来ないと思ってたけど、こうやって太陽の神官になって不思議な力が仕えるようになったのは運命なのかなって思うんです」


もしかしたら自分の命はこのためにあるのかもしれないとさえ思い始めてきたのだ。

これも太陽の神官として不思議な力が使えるようになって漠然と思えるようになってきた。

少し前までは怖いと思ってたのに。


「本当なら、太陽の神官としてのお勤めをとお勧めするべきですが・・・。昔のアイリーン様のようにはなって欲しくないです。貴方を知りすぎてしまったからですかね」


キハルさんは悲しそうに言って頭を下げた。


「今日はこれで失礼いたします。いろいろとやることがありまして」


いろんな方面に報告やら書類やらがたんまりとあるのは知っているので私も軽く頭を下げた。

「ユミナちゃんにもよろしくお伝えください。また、落ち着いたらお茶でも・・と」

「ありがとうございます」


すべて終わったらユミナとは仲良くなれそうな気がした。

仕事に戻るキハルさんの背中を見送っていると、少し離れた所に立っていたカイト様が近づいてきた。


「太陽の神官として仕事を嫌がっていたように見えたんだけど、なぜ急にやる気になってるの?」


普段は優しそうな笑みを浮かべている彼が今は無表情だ。


「やる気になっているわけでは・・・。なんでしょうね・・・急に力の使い方がわかったというか、理解したというか・・」


自分でも良くわからないので説明のしようがない。

困っていると、カイト様が少し表情をやわらかくして椅子を指した。

「座ったら?」

「はぁ・・」

エスコートされるようにイスに座らさられ、なぜかカイト様も向かいのイスに座った。

座る姿も絵になるなぁとしげしげと眺めていると、テーブルの上においてあるティーポットを凝視しているカイト様。

カイト様のために用意したんではないんだけどなぁと思いつつとりあえず聞いて見る。

「飲みますか?私がブレンドしたハーブティーなんですけど。そして冷めているかもですけど」

「そうだな・・・」

一瞬カイト様の顔が翳ったが、何を思い出したのか苦笑して頷いた。

「久しぶりだし、もらおうかな」

「じゃ、いれますね」

ポットを手にとってゆっくると入れる。

匂いはいい感じだ。

「太陽と月が交わる時間が正確に割り出されたって報告は受けた?」


何気なく言うカイト様に驚いてカップに注いでいたハーブティーが少しこぼれてしまった。

慌てて拭きながら首を振る。

「知りませんでした。いつですか?」

「あさっての、正午。何度も計算をしていたから、間違いないと思うよ」

「・・・そうですか」


カイト様にティーカップを差し出しながら頷く。

直感で、その日に私は魔を体に入れてアイリーン様のように死ぬのだろうと予感した。

不思議と恐怖は無いが、最後に父や母に会っておこうかなと漠然と考えているとカイト様の冷たい声が思考をさえぎる。


「大体考えていることはわかるけど・・・。たとえアイリが魔を体に取り込んだとしても昔の二人みたいに、月の神官が太陽の神官の体ごと魔を倒すなんて事は僕はしない。だからキミも妙な事はしないで、家に帰ったほうがいい」


カイト様は私に能力があるかどうかなどはどうでもいいことなのかもしれない。

ただ、愛するアイリーン様と良く似た私が死ぬのが見たくないだけなのだろう。

そこまでアイリーン様を愛しているのかと腹が立つが、カイト様がアイリーン様を愛することは自由なことなので私が一方的に怒っても仕方ない。別に、付き合っているわけでもないだから。


「何故か、私は解るんです。少しでも弱い心を持った人が黒い霧のようなものに取り込まれてクール化してしまうって、きっと太陽と月が交わるときにもっとクール化する人が出てきます。そのときに私が体にその黒い霧のようなものを閉じ込めれば世界は救われるかもしれないのに。」


私の言葉にカイトは眉を潜めている。


「キミのそういう所嫌いだな」

まるで好きだったかのような言い方にますます私はむっとした。

「嫌いで結構です。はじめから好きじゃないくせに。私がアイリーン様と同じ顔しているから心配しているんでしょうけど。私はアイリーン様とは違いますから」


ムッとして言うがカイト様は涼しい顔をしてハーブティーを一口飲んで何故か笑いだした。

「僕にとってはアイリーンもアイリも同じなんだけどな」

「何が同じなんですか?アイリーン様みたいに愛情深くないし、何にも出来ないし、顔が似ているだけじゃない!」

「そう?アイリーンも薬みたいな味のハーブティーしか入れられなかったし、失敗だってしていたよ」

まるで見てきたように言うカイト様にますます私は腹がたった。


「アイリーン様のことを知っているかのような言い方ですね」

「良く知っているからね」

「太陽の神殿に居るアイリーン様をですか?」


カイト様の顔が一瞬固まった。

「痛々しい姿でアイリーン様の遺体がありました。眠っているように見えましたけど300年も前に亡くなっているのにカイト様が知っているはず無いでしょ」


「困ったな・・・」

心底困ったように、呟いた。


「カイト様は私がアイリーン様にそっくりだからそうやって心配してくださっているんでしょうけど、私は決めましたから」

決意したように言うと、カイト様がため息をついた。


「そういう、わけのわからない決心も昔のままだ。自分の命で世界が救われるとか、そういうのは本当にどうでもいいんだけどな。君さえ生きていればどうでもいいんだ」


心が震えるような一言だが、私がアイリーン様と顔が似ているだけだからそういってくれているのだろう。

「そんなうれしいこと言われても、決意は変わりませんから!」


「そうやって、アイリは勝手に黒いものを体に入れて僕がキミの体ごと封印しないといけないような状況にするつもりでしょ。昔みたいに」


「昔、昔って、本当に大丈夫ですか?」

あまりにも見てきたかのように話すカイト様がだんだん心配になってきた。

アイリーン様の亡骸にすがって泣いているあたり、ヤバイ精神状態だったのかもしれないが、もしかしたら妄想があるのかもしれない。


私が考えていることがわかったのか、カイト様が面白そうに声を出して笑い出した。

本当に大丈夫かしら。

心配していると、軽く手を振ってなんでもないというようにアピールする。

「大丈夫。僕はおかしくなってないから」


「そ、そうですか?」

「とにかく、今日か明日にでもここを出て実家に帰ったほうがいいよ」

「嫌です」


「なら、無理やりにでも帰らせるけどね」


そう言いながら立ち上がりカイト様は大きくため息をついた。

「僕は忙しいから戻るけどよろしくね」


ココを出て行くことをよろしくという事なのだろうか。

去っていくカイト様を見送り私も自分の入れたハーブティーを飲む。

「うん、今日も相変わらず薬の味だわ」

「お疲れ様でした。やっぱりカイト様はいつ見てもステキですわね」


遠くで見守っていたエウラがティーポットをもって近づいてきた。

目線は去ってったカイト様に向いている。

「本当ね~。でも、なにを言っているのかさっぱりだったわ」

「アイリ様たちの話は聞こえない位置に居たんですけど、和やかな感じでしたね」

「どこが穏やかに見えたのよ・・・」

呟きながら新しいティーカップに注いでくれたエウラ特製のハーブティーを一口飲むと花の匂いがしてとても美味しい。同じ材料を使っているのに分量によってこんなに違うものになるなんて。

「なごやかでは無かったけど。あの人昔は、昔はって言ってて。まるで見てきたかのようにアイリーン様のことを言っているのよ。もしかして妄想壁でもあるんじゃないのかしら」


「まさか。アイリーン様のことを良く知っているのは月の神官としていろいろな記録などよんでいるからじゃないですか?」


「なるほどそういう考え方もあるのか・・・」


でも文献にハーブティーが薬みたいな味がするなんて書いてあるかしら。


エウラの入れてくれたおいしいハーブティーを飲んだ。

やはり彼女の入れてくれたハーブティーが一番美味しい。









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